NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス] http://japan-indepth.jp ニッポンの深層を各界の専門家・識者が分かりやすく解説 Wed, 22 Mar 2017 22:00:59 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.5.3 安倍首相は「スケベ」と評する朝日新聞 http://japan-indepth.jp/?p=33566 Wed, 22 Mar 2017 22:00:59 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33566

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・朝日新聞、コラムで安倍首相と森友学園籠池泰典理事長を「スケベ」と表現

・「スケベ」は卑語・俗語で新聞用語とはいえない。

・昨年の「だまってトイレはつまらせろ」というコラムの筆者が執筆。

 

「スケベ」という言葉が堂々と見出しになっているのに、驚いた。朝日新聞3月19日(国際版)の政治面のコラム記事だった。その内容を読んで、さらにびっくりした。スケベという語をごくふつうの表現にように使用して、しかも安倍晋三首相をスケベと決めつけていたからだ。

スケベとは辞書によると、「助平、異性に対して異常に好奇心を示すこと、及びそうした人、つまり異性を異常なほど好きな好色、好色漢」を指す。しかも言葉自体が下品であり、卑俗である。公式の場で使う人はまずいない。このへんは主観の違いがあるだろうが、なにか汚らしい、いやらしい言葉でもある。他者を「彼はスケベだ」と呼べば、ののしりやからかいに近いだろう。

だからだろう、私は長い新聞記者生活で「スケベ(助平)」が大手新聞の記事中にふつうの記述として出てきたことや、まして見出しになっていたのをみた記憶がない。ふつうの社会の礼儀にのっとれば、卑語、俗語の範疇だから、新聞で避けられても、ふしぎはない。

だが朝日新聞のこのコラム記事では以下のような記述があった。

 ≪人間は基本、スケベだ。私の人生、内なるスケベ心との闘いだったと言ってもよい。小さな拍手をもらったら、もっと大きな拍手が欲しくなる。≫

この文脈で読めば、スケベという語は「いい思いをしたいという気持ち」というような間接の意味で使われているとも受け取れる。ところがそんな説明はないから、本来の「好色」という意味で使われているととられてもしかたないだろう。

そしてこのコラム記事は安倍晋三首相と森友学園の籠池泰典氏の批判へと移っていく。

安倍首相は最高権力者で、褒められることを喜び、籠池氏も権力者を喜ばすことに夢中になると述べていく。安倍、籠池両氏の間には緊密なつながりがあったという前提での記述なのだ。安倍氏はそれを否定するが。

そのうえでこのコラム記事は≪スケベはスケベを呼ぶ≫と断じ、安倍、籠池両氏をスケベだと断定していた。このへんは論理不明、意味不明の記述も多いのだが、安倍首相を「スケベ」とののしっていることは明確である。

朝日新聞記者たちがあらゆる表現で安倍首相をけなし、叩くこと自体はふしぎではない。反安倍の政治的スタンスは朝日新聞の社論のような基調だからだ。

だがその手法に一般ではまず使わない汚い言葉の「スケベ」を、べちゃりとしたレッテルとしてあえて首相に貼りつけるところは、異様、いや病的ななにかまで感じさせられる。スケベという言葉はふつうの意味での常識的な新聞用語の外にあるからだ。

このコラム記事の筆者は「政治部次長の高橋純子」とされていた。この名前、どこかでかつてみたと思い、調べてみた。

やはりそうだった。2016年2月28日朝日新聞に載った「だまってトイレはつまらせろ」という見出しのコラム記事の筆者だった。安倍政権に抵抗するためには公共のトイレで尻を拭く際に新聞紙をわざと使って、そのトイレをつまらせろ、という趣旨の記事だった。この記事は今回よりも、もっとびっくり仰天だった。朝日新聞、ご乱心?といぶかったものだった。

それからちょうど一年ほど後のまた春間近、へんに、なるほど、なるほど、とも感じるのだった。

]]> バリ島に溢れる中国人観光客の不評 http://japan-indepth.jp/?p=33554 Wed, 22 Mar 2017 14:14:49 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33554

大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・バリ島、中国人観光客年率4割増

・日本人観光客は減少傾向

・地元に金落とさぬ中国人観光客、「熱烈歓迎」されず。

インドネシアの世界的観光地バリ島で“異変”が起きている。至るところに出現した中国語の看板、中国レストラン、そして団体行動する中国人観光客たちと今バリ島では空前の勢いで中国ブームが起きている。

世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアだが、バリ島はヒンズー教徒が多数を占める島で、イスラム教徒が禁忌とする豚肉料理が堂々と供され、未明から街中に流れるイスラム寺院(モスク)による祈りの声の“喧騒”に悩まされることもない外国人旅行者にとっては「楽園」のような島。日本人観光客も多く訪れているバリ島の「観光地図」が近年塗り替えられているという。

◾️減少傾向の日本人観光客

在デンパサール日本総領事館などによると、バリ島を訪れる日本人観光客は2008年の約35万人をピークに年々減少傾向にあり、2016年は約23万4千人だった。日本航空(JAL)が2010年にバリ直行便から撤退したことに加え、インドネシア各地でのイスラム過激派によるテロの影響などが要因として考えられている。

これに対し中国人観光客は、バリ州観光局統計の「バリ島を訪れた国別外国人観光客数」によれば2015年に68万8,469人だったのが2016年には98万6,926人に増加している。これは43.35という驚くべき伸び率で、この1年間の急激な増加を裏付けている。

3月8日にバリ州観光局が発表した今年2017年1月の月間統計で、ついに中国人観光客がオーストラリア人を抜いて初めて月間トップとなった。1月にバリ島を訪れた中国人は14万7,928人で外国人観光客総合計の46万824人の実に32.1を占めて月間1位となったという。昨年1月の来訪中国人観光客76,919人に比べても2という伸びになり、急速な増加傾向が裏付けられている。

ちなみに2015年、2016年ともに最も多かったのはオーストラリア人で2016年には約113万人となっているほか、2015年から2016年で最も伸び率の高いのはインド人で11万8,678人から18万6,638人と57.26%の伸びとなっている。

一時日本で見られた中国人観光客による爆買いは最近鳴りを潜めており、その要因として中国政府による抑制策と人民元と円の為替の影響と言われている。

バリ島を訪れる中国人の大半が中国の内陸部からの観光客で「南国の海、海岸という風物とともに内陸部ではなかなか食べられない新鮮な海鮮料理が観光の主な目的」(バリ島の日系旅行代理店)という。

◾️満員御礼の「巴里漁港」レストラン

バリ島のングラライ国際空港から湾上に建設された高速道路で約15分、高級リゾートホテルが集中するヌサドゥア地区はランチタイムから中国人観光客を乗せた大型バスで混雑していた。これが夜ともなると、ほとんどのシーフードレストラン(海鮮料理店)は満員御礼状態となる。

幹線道路沿いにひときわ目立つネオンが輝く香港海鮮料理を掲げる大型料理店のひとつ「巴里漁港(バリ漁港)」の店頭には生け簀が並び、水槽の中にはエビ、貝、カニ、シャコ、スズキなどの魚類が泳いでいる。これは「新鮮さ」を売りにしていることをアピールするためだという。夜ともなれば大型観光バスが5台以上乗りつけ、約30の円卓テーブルは満席状態となり中国語が飛び交う大賑わいとなる。

バリ島観光局では「中国からの直行便が増便されており、インドネシアのガルーダ航空も新たな中国路線を開設準備中で当分は中国人観光客ラッシュが続くだろう」と期待を示している。

◾️中国人観光客に地元は冷めた目も

こうした中国ブームの到来にしかし地元のバリ人、既存の旅行代理店、高級リゾートホテルなどは必ずしも「熱烈歓迎」を示しているわけではない。日系大手旅行代理店の幹部は「中国の旅客機で来て、中国人が新たに始めた旅行代理店を通して観光を手配。宿泊も最高級ではない中級ホテルを格安で1部屋2人あるいは3人で利用。お土産物屋も中国人が好む原色の衣服やサンゴなどが並ぶこれも中国人経営の店で済ます」とあまりにも地元にお金を落とさないのが現状と訴える。

日本のように秋葉原で電化製品、大手量販店で衣服や化粧品、健康器具・健康食品などを「爆買い」したような光景はバリ島ではみられない。「爆買い」の対象になる品物がないことが現実だが、高価な赤サンゴの宝飾品や美術品などは売れ筋という。さらにバリ島の不動産購入に積極的な中国人も多いというが、「現状の盛況をみてレストランや土産物屋あるいはホテルで一儲けしようと考えているのではないか」(在バリ島日本人)といわれている。

増え続ける中国人の一方で、日本人観光客は年々減少傾向にあり、現地スタッフを縮小した日系旅行代理店もある

バリ在留邦人の中には通学などでバイクに便乗する児童がノーヘルメットであることから、「事故の確率の高いバイク、ぜひ安全確保を」と児童用ヘルメットを特注して地域に贈呈するなどバリ島の社会と地域住民に溶け込む努力を続けている人もいる。

こうした日本人を見ているバリ人からは「団体バスで来て一切バリ人と交流することもなく中国語で一方的にしゃべり、買い物をして食事をしていく。嵐のように来て去っていくのが中国人観光客」と評する冷ややかな声が聞こえてくる島の人々が心から中国人観光客を熱烈歓迎、歓迎光臨とする日は来るのだろうか。

]]> 蘭総選挙・与党右派阻止に疑問符 http://japan-indepth.jp/?p=33544 Tue, 21 Mar 2017 15:07:50 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33544

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#12(2017年3月20-26日)

今週は安倍晋三首相の欧州歴訪が予定されている。今回ほど欧州諸国首脳が、「日本の首相は何を言うか」に強い関心を持つことはなかったのではないか。混乱する米トランプ外交の中で、対アジア、対日外交だけが大きなサプライズもなく、まともに動き出しているように見えるからだ。

だが、個人的には先週15日のオランダ総選挙の結果の方に関心がある。日本の有力紙は蘭現与党が下院第一党を維持したことで、「オランダ『寛容』守る」、「右派阻止、EUから賛辞」などと手放しで評価していた。本当にそうなのか。先週指摘したように、オランダ与党はトルコとの軋轢を政治的に利用した。

あれだけの「劇場政治」をやったにもかかわらず、ルッテ首相率いる自由民主党は議席数を7も失った。逆に言えば、先週トルコが騒がなければ、もっと極右が台頭していたかもしれないのだ。政権与党は辛うじて主導権を維持した、と言えないこともない。事態はより複雑かつ深刻なのではないのか。

選挙といえば、26日に香港行政長官選挙が投開票される。中国指導部のお気に入り「本命」の前政務長官キャリー・ラム女史に反対する人が学生を中心に増えつつあると報じられた。気持ちは判るが、今の香港で真の民主的選挙が行われる可能性は限りなく低い。恐らく状況は今後更に悪化するのではないか。

〇欧州・ロシア

20日に日露2+2会合が開かれた。この数週間で米国の国防長官、国務長官が相次いで訪日し、今度はロシアだ。これで日露関係が進展するとは思えないが、こんな会合が開かれること自体、時代の流れを大いに感じる。領土問題とは別に、こうした日露対話を積み重ねることは、やはり重要だろう。

〇東アジア・大洋州

今週はアジアの域内外交が活発だ。19-22日にフィリピン大統領がミャンマーとタイを訪れ、イスラエル首相と5閣僚からなる代表団が訪中する。21-24日にはシンガポール首相がベトナムを訪問し、22-29日には中国の国務院総理がオーストラリアとNZを訪問、23日からは中国海南省でボーアオ会議が開かれる。 

〇中東・アフリカ

25-26日にOPEC諸国が会合を開く。前回の会合で決めた減産を継続するか否かを議論するというが、シェール革命後の原油グラットの中で価格を高値安定させるのは難しい。このことは1980年代の経験で分かっている筈なのだが、大丈夫なのだろうか。

一方、22日には米国務長官がイスラム国打倒のため関係国との会合を主催するそうだ。それにしても、国務省職員は可哀想だと思う。副長官も次官も決まらず、国務省予算は大幅減。報道によれば、一部外国は国務長官をバイパスして、トランプ氏の娘婿に会おうとしているそうだ。国務省は未だ正常ではない。

〇南北アメリカ

今週はCNNを見ながらこの原稿を書いている。間もなくFBI長官が議会下院の情報委員会で証言し、その後、次期最高裁判事候補の議会承認手続きも動き始めるからだ。トランプ氏が「オバマ大統領がトランプタワーの盗聴を命じた」とツイートしてから2週間経った。米国内政の混乱はまだまだ続きそうだ。

〇インド亜大陸

中国国防部長がネパールとバングラデシュを訪問するが、一体何が目的なのだろう。ちょっと気になるところだ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

]]> 「森友」国会、在米邦人も懸念 http://japan-indepth.jp/?p=33531 Mon, 20 Mar 2017 11:00:58 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33531

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・国会は「森友」と「日報」問題一色。

・迫りくる北朝鮮・中国の脅威。

・在米邦人も今の国会に懸念。

 

■「森友学園」問題に終始する国会

日本の国会はなぜあんな微細な問題しか論じないのか。日本という国家の根幹を揺さぶる目前の危機をなぜ語らないのか。いま日本を外からみていて痛感する日本の国政の異様なあり方を嘆くのは自分だけではないことがわかった。日本の政治家たちよ、どうしたのか。そんな問いかけである。

私はこのところアメリカの首都ワシントンにいる。トランプ政権の動向を現地で追って、少しでも皮膚感覚で理解し、その考察を日本に向けての記事で伝える作業のためである。もっともワシントンには通算すれば、20数年、滞在してきた。

そんな私でも日本でのニュースは細かく入ってくる。日本の新聞の国際版が毎日、配達される。NHKのニュースが有線テレビで受信できる。インターネットでの日本のメディア検索はいうまでもない。そうした環境下で最近、最も気がかりなのは、日本の国会の活動である。

衆議院でも参議院でも審議するテーマといえば、学校法人「森友学園」と、自衛隊の「日報」ばかりなのだ。しかもどうみても、手続き上のミスを追及する次元の、国家の枠組みとか運命とは、無縁の課題である。

迫りくる北朝鮮の脅威

一方、ワシントンからみた現在の日本はどうだろう。北朝鮮の核兵器の危機が迫る。北朝鮮の弾道ミサイルが実際に日本に向けて飛んでくる。カルト的な独裁者は日本国内の米軍基地を狙うのだと豪語する。これは日本国の危機である。

中国の日本領海侵入も重大である。尖閣諸島を奪取しようと、毎週のように武装艦艇が日本の領海に入ってくる。日本側の中国への態度がよくないと、中国の傲慢な外務大臣が言い放ち、日本人は「心が病んでいる」とまで断言する。

同盟国のアメリカからも新たな期待はひしひしと伝わってくる。トランプ政権は日米同盟の堅持こそ強調するが、いまの日米安全保障関係に不満があることは明白である。日米の貿易の現状にも抗議している。日米二国間の自由貿易協定を結ぼうと圧力をかけてくる。

日本の対外関係では最も大切な対アメリカ関係の基本をどうするのか。

こうした北朝鮮、中国、アメリカと、少なくとも三つの国からの衝撃波のような新潮流に日本がどう応じるべきか。その以前にいま日本がどんな危機やうねりにさらされているのか。

こんな現状なのに、日本の国会論議は「森友学園」と「日報」にあけくれするのだ。こうしたゆがんだ状況がおかしいと思う日本人は私だけでないことをいやというほど実感した。それは奇妙な安堵にも似た感情だった。

在米邦人も国会論議に懸念

ロサンゼルスをこのほど訪れ、アメリカ在住の長い日本人の人たちと話す機会を得たとき、じつに多くの人たちが私とまったく感想を述べたのだ。地元の日本人、日系米人の組織「日系と友人たち」だった。

日本の政治や歴史を勉強しながら相互の友好を深める団体である。2年ほど前に結成され、ハワイやカリフォルニア在住が半世紀という実業家の片山隆夫氏が代表となっている。私はその団体から講演を頼まれて、出かけていったのだ。

この団体ではロサンゼルス近郊のグレンデール市の慰安婦像設置の動きに反対してきた経営コンサルタントの今森貞夫氏らも中核となっていた。同市では2013年7月に地元の日本人、日系人の反対を押し切って旧日本軍の従軍慰安婦像が建てられた。

今回の私の講演はその慰安婦問題とは直接に関連なく、依頼されたタイトルは「どうなる激動の世界」とされていた。トランプ新政権のアメリカが今後どんな対日政策をとり、とくに慰安婦問題のような歴史問題は今後どうなっていくのかをも語った。

講演には100人ほどが集まった。講演での質疑応答だけでなく、その前後の懇談でも多くの人たちと意見を交換した。半田俊夫、鈴木敦子、清水好といった人たちの発言がとくに印象に残った。日本の政治家の関心や論議の対象があまりに矮小で、日本国の重要な課題をとりあげていない、とくに今の国会の論議が嘆かわしい、という批判が続出したのだった。

]]> 英国王室にささやかれる疑惑 暗殺の世界史入門その5 http://japan-indepth.jp/?p=33524 Mon, 20 Mar 2017 02:00:53 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33524

林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・英国に過去暗殺された国王いない。

・王室が暗殺に関与の噂はある。

・19世紀の首相射殺事件とダイアナ妃事故死がそれ。

 

4年前に『女王とプリンセスの英国王室史』(ベスト新書)という本を出していただいたが、執筆のためにそのさらに1年近く前から、英国史をおさらいした。

そして、意外にも(などと書くと不敬の誹りを免れ得ないであろうが)英国王室の歴史上、暗殺された国王がいないことについて、あらためて考えさせられた。

と言うのは、同書の冒頭近くで、日本の皇室との対比に言及し、英国王室は「萬世一系を称していない」と述べたのだが、たしかに幾度も王権の交代を経験している。それも、フランス系であったりスコットランド系であったり、現在のウィンザー家はドイツ系だといった具合に、基本的に「征服王朝」の歴史なので、血生臭い王位争いもあったのでは、と考えられがちなのだ。

事実は、前述の通り国王の暗殺という事態を英国は経験していない。15世紀には、王位を巡る内戦(有名な薔薇戦争)があったが、これは暗殺とは問題の質が異なる。それを言うなら日本にも南北朝の時代があった。ただし、王室が下手人ではないかと疑われた事件が二つある。今回はその話を。

暗殺された英国王は存在しないが、暗殺された英国首相は一人だけいる。スペンサー・パーシバル(1762~1812)という人物だが、日本の歴史教科書などには、まず登場しない。アイルランド貴族の家系だが、ケンブリッジ大学で学び、弁護士を経て議員になった。

時の英国王はジョージ3世であったが、1811年に認知症を患い、嫡子のジョージ皇太子=後のジョージ4世が摂政に立った。このジョージ皇太子が、王室費の増額を内閣に再三要求したが、パーシバル首相は、その都度つっぱねていたのである。当時の英国は、アメリカ独立戦争、ナポレオン戦争といった外患に見舞われ、財政的余裕などなかった。

ちなみに、ジョージ3世は認知症で隠遁したと述べたが、本当はそれ以前から、植民地への課税強化がアメリカ独立戦争を誘発し、新大陸の領土を失ったことを悔いて、鬱状態にあったと衆目が一致している。

いずれにせよ、摂政ジョージはパーシバル首相の罷免を画策したが、父王ジョージ3世の側近達に押しとどめられた。そして1812年5月11日、首相は議事堂のロビーにて至近距離から銃弾を浴び絶命する。犯人については、「首相の経済政策に不満を持つ、精神障害のある男性」と発表されたが、この発表自体、ケネディ元大統領の暗殺事件を連想させるではないか。

念のためお断りしておくが、この暗殺事件に王室が関与したのではないか、というのは、あくまでも噂の域を出ない話である。王室と対立関係にあったことや、後継の首相に王室に近い上級貴族(リヴァプール伯ジェンキンソン)が就任したことなどが、噂の根拠となった。

もうひとつは、日本の読者にも未だ記憶に新しいであろう、ダイアナ元皇太子妃の事故死である。1997年8月31日、当時すでに婚約していた(と死後に公表された)エジプト人の富豪ドディ・ファイド氏とともに、パリのリッツホテルを出たダイアナ元妃が、市内のトンネルで事故死した。

スキャンダル写真を狙って車を追尾してきた、パパラッチを振り切ろうとした運転手がハンドル操作を誤ったものと見られるが、これも当初から暗殺説が囁かれた。

当時すでにイスラム過激派が脅威となっており、ドディ・ファイドなる人物の子供をダイアナ元妃が産んだような場合、英国の王位継承権者である二人の王子に「ムスリムの血を引く異父兄弟姉妹」ができる。

そもそもドディとはムハンマドの愛称であるし、結婚する場合にはダイアナ元妃自身がムスリムに改宗することも充分に考えられた。

そんなことが認められるか、というのが「王室による暗殺説」の根拠だが、私は、それはあり得ない、と断じた。そもそも離婚して王室を去った女性を暗殺する動機など、王室にも英国政府にもない。詳しくは冒頭で紹介した拙著をご参照いただきたい。

ひとつだけ、ここで付け加えるとすれば、そういった噂が絶えない背景には、ダイアナ妃が悲劇的な最期を遂げたのは、チャールズ皇太子はじめ王室の責任だ、と考える英国人が、決して少なくない、という事実がある。

彼女の早すぎる死を悼む気持ちは、私も共有しているが、だからと言って無責任な噂を振りまくのはよくない。事故当日、現場に駆けつけた救急隊員の証言によれば、ダイアナ元妃の最期の言葉は、「Leave me alone (放っておいて)」だったそうである。

]]> 「行政見える化」で自治体大わらわ http://japan-indepth.jp/?p=33513 Sun, 19 Mar 2017 22:00:24 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33513

ひうち優子(世田谷区議会議員)

【まとめ】

・「新公会計制度」来年度から自治体に導入。

・「行政の見える化」が可能になる。

・会計知識もった職員育成が必要。

新公会計制度が平成30年度から導入される。

一言でいえば、行政の見える化が可能となり、これは行政にとって、画期的なことである。具体的には、全国の地方自治体は、総務省の要請により、「単式簿記」による現金主義会計に加えて、企業会計に近い「複式簿記・発生主義」による財務諸表を作成し、提出することが求められている。

今更、と思うが、行政の会計制度は、本当に遅れている。今までは、現金出納帳ベースのキャッシュ・イン、キャッシュ・アウトを基本にしたフローの把握しかしてこなかったのだ。新公会計制度導入により、建物等の「資産」や借入金・公債等の「負債」、そして正味財産である「純資産」も把握できるようになり、「減価償却費」などの現金支出を伴わないコストを正確に把握することが可能となる。

この新公会計制度により、ようやく行政も企業並みの会計に、近づいたと言える。

世田谷区でも、平成30年度から制度を導入することとして検討を進めている。世田谷区では、総務省が定めた「統一基準方式」ではなく、「東京都方式」を採用している。「統一基準方式」と「東京都方式」の違いは、税収を「純資産の増加」とみているか、「収益」とみているか、の違いである。

「東京都方式」は税収を「純資産の増加」ではなく、企業会計の「損益計算書」に相当する「行政コスト計算書」に計上し、仕訳は毎日計上するなど、より企業会計に近く、明晰性の高い優れたものになっている。よって、今後、他の地方自治体も、より企業会計に近い、東京都方式の採用をすべきと考える。

現在、新公会計制度導入に向けた検討や準備を進められているが、導入にあたり3つの視点が重要と、私は考える。

①複式簿記導入のスタートにあたって、まずは平成30年度末時点での「貸借対照表」を作成する必要があるが、開始時の貸借対照表は、最新データとする必要があり、実務上は財産目録の整備をはじめ、かなり労力が必要となる作業である。

例えば、建物の経過年数や減価償却の方法、減価償却累計額、退職給付債務など、かなり複雑な計算があり、かつ、台帳の整備・資料の調査収集等に時間の掛かる作業があるので、今から計画立てて準備することが必要である。

②行政活動の透明性の確保、及び、区民に対する説明責任の観点から、外郭団体の見える化も必要だ。

「東京都方式」では、企業会計同様、外郭団体を含めた連結財務諸表を作成し、行政活動全体を見渡すことを求められている。連結財務諸表は、区とその関連団体を連結してひとつの組織体とみなし、資産や負債、正味資産の財政状態や行政サービスに要したコストを総合的に明らかにするものである。

特に「出資割合は過半数に満たないが、一定割合の出資をしている団体」の場合について、企業会計では「関連会社」として「持分法適用会社」となるが、このような団体の扱いはどうなるのか、など、連結財務諸表の対象範囲もきちんとしなければならない。

また、企業会計の場合は、投資先の企業の当期純利益及び包括利益を連結財務諸表に取り込む、持分法が使われるが、公会計においては、利益という概念がないため、比例連結という、特殊な方法が使われるので、特に注意が必要だ。

③職員の研修や人材育成も不可欠である。

特に、「消費税」、「減価償却」、「連結会計全般」、退職給付引当金などの「退職給付債務」の4点について、注意喚起が必要であり、そのためには、会計知識に関する教育・啓発及び有資格者の確保、資格取得の奨励の計画など、担当職員のスキル向上とともに、区役所全体としての会計知識のボトム・アップが必要である。

]]> 「日本解凍法案大綱」10章 株主総会 社長の首を挿げ替える その2 http://japan-indepth.jp/?p=33507 Sun, 19 Mar 2017 09:00:26 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33507 牛島信(弁護士)

沙織は目の前が真っ暗になって、世田谷区の上町に住んでいた姉に相談した。沙織としてみれば、3億4000万円なら土地の一部を売ればなんとかなるのではないかと思って、そう税理士に相談してみたのだ。ところが税理士は、いやそれでは売った土地にまた税金がかかりますと恐ろしいことを言った。沙織にはなにがなんだかわからなかった。

姉の夫は梶田修一という名で、地方の国立大学を出てから渋谷区役所に勤めていた。

相続税で税理士に会って以来、すっかり動転してしまった沙織は、梶田夫妻を訪ね、梶田修一に会社の社長を引き受けてくれるように頼んだのだ。しかし梶田修一はテーブルの向こうで茶をすするばかりで、黙ったままなんの返事もしてくれなかった。帰り際、鉄のドアの手前の玄関先で二人きりになったとき、姉の初代が「さっちゃん、もう一回私から亭主に話してみるから。あの人ももう年金が入る歳になってるんだし、次男坊の健助が会社のお世話になってるんだし。大丈夫。あの人だって、健助が会社を切り回せるようになるまでは誰かがやるっきゃないってわかってるから」

そう言ってくれた。

もともと沙織ら夫婦には子どもがいなかったことから、沙織と姉の初代の間では、沙織の夫が亡くなる前から、初代と修一の次男である梶田健助が向島運輸の将来を引き継いでくれたらいいという思いがあったのだ。だから、司法試験を目指しているという健助が大学を出てずるずると向島運輸に入社するのも、誰もが当たり前のように受け入れたのだ。

結局、梶田修一が区役所を定年前に辞めて向島運輸の社長をやってくれることになった。

妻のねばり勝ちだった。

夫は、晩酌を済ませて疲れた体を布団のなかで伸ばすたびに、隣の布団にから「ねえ、あなた、だめえ?ねええ」と毎晩、妻の言葉に攻め立てられたのだ。陥落するまでに1週間とかからなかった。

「そうだな。ま、俺も役所の年金も入ってくる年になっているからな。食いっぱぐれることはないか」と夫が言葉を漏らすと、妻は、

「そうよ、それがいい。今度は定年もない、気楽な仕事だし。そのうち健助がなにもかもやってくれるし」

と言って、夫の手を握った。

こうして、沙織から頼むようにして社長になってもらったのだった。

向島運輸という会社にはそれほどの資産があるということだった。梶田修一は社長になったあと、バブルの時代、「ウチの資産は50億は超えているからね。銀行がうるさくってたまらん」と口癖のように言っていた。そう愚痴ってみせてから最後には「とにかく財産を減らさないのが俺の仕事だ」と付け加えるあたりは、区役所に勤めていたときと少しも変わらない調子だった。

梶田修一が社長になってくれて、向島運輸のことからすっかり解放されてしまった沙織は、周囲からメリー・ウィドウだという評判がたつような元気な暮らしぶりだった。贅沢はしないことに決めていた。もうお金の苦労は相続税だけでこりごりだったのだ。それに、悲しんだところで夫が帰ってくるわけでもないと割り切ってもいた。身分相応に生きている間は生きていよう、と心がけ、日々亡くなった夫のお蔭で今の暮らしがあると感謝していた。

梶田修一は平成7年、1995年に75歳で亡くなった。

修一が亡くなったときには梶田修一と初代の次男である梶田健助が向島運輸に入っていて、もう20年近くが経っていた。当然のように健助が社長を継ぎ、沙織は相変わらず会社のことなどすっかり忘れて暮らしていた。毎年100万円の金が会社から入ってくる。それが配当なのか取締役報酬なのかも沙織は気にしたことがなかった。税金のことなど考えたくもなかったし、実際、考えたこともなかった。

三津田沙織という女性は、56歳のとき夫が亡くなって以来、生活の心配をすることがないままに年老いてしまったのだった。

梶田健助は父親が亡くなったときには40歳だった。健助が向島運輸に入ってしばらくして創業者の三津田作次郎が亡くなって、父親の修一が地方公務員から不動産会社の社長に転身したのだ。そのときには、健助は、義理の叔父である三津田作次郎から一種奨学金でももらうような格好で、向島運輸の形ばかりの従業員になって司法試験の勉強を続けていたところだった。

2つ違いの兄は大学で化学を学んで大きな会社に入り、技術屋として研究所で亀の甲を相手に浮世離れした人生を送っていた。健助は、一応私立の法学部に入って司法試験を目指すと称して、遊んでばかりいた。友人たちが就職に走り回っているのを、自分は司法試験を受けるのだから違うのだと冷ややかに眺めているうちに、どうやら司法試験に合格などとんでもない夢だと気づかされてしまったのだ。

「じゃあ、会社に入って司法試験の勉強を続けるか」

義理の叔父である三津田作次郎にそう言われて、健助には一も二もなかった。

司法試験の勉強をしているといえば、両親も叔母夫妻もそれだけで上機嫌だった。だから、それを口実に家を空け、会社から当然のように銀行に振り込まれる給料をすべて競馬につぎこんでいた。受験予備校に行くと言って家を出ると競馬場に出かけた。

24歳で、向島運輸にいた出戻りの会計係と深い仲になり、結婚した。三津田作次郎が亡くなってからは司法試験は放り出してますます競馬に熱を上げるようになっていた。

質素と倹約だけを生きがいに平穏無事に社長業を営んで暮らしてきた父親が亡くなってからは、40歳の健助はもはや誰はばかるところのない気ままな人生を送ることができる身分になっていた。父親のおかげで向島運輸の資産は100億を超えるまでに増えており、家賃だけで年に3億からの収入があったのだ。柴乃と子ども2人の家庭の出費の他には、三津田沙織と梶田初世の二人に生活資金を送ってしまうと、税金の他にはなにも出費がない会社なのだ。

そのうちに梶田健助は大っぴらに遊び暮らすようになっていった。沙織の耳にまで女性関係の噂がひんぴんと入ってくるほどだった。

沙織は配当を年に400万もらうほか、姉といっしょに取締役として名を連ねていることで、向島運輸から年に1500万円の報酬を貰っていた。手取りで月100万になること以外、沙織には関係のないことばかりだった。

姉が2006年に亡くなった。それを潮に、取締役ではなくなってしまい、したがって取締役としての報酬はなくなってしまった。

それでも、その年から年に400万だった配当が年に1400万円に上がったから差し引きはゼロということで、沙織の生活にはなんの変化もなかった。

ところが、2014年になってその配当が減らされてしまったのだ。

年1400万円の配当が700万円に減らされてしまった。なんの挨拶もなく、突然にそうなったと紙切れで伝えられた。否も応もなかった。株主総会もなにもなく、ただこう決まったと書類が送られてきたのだ。確かに銀行口座に入っている額が減額のあった事実を無不愛想に示していた。

沙織は不安の塊になってしまった。亡き夫が創った会社なのに、今では甥が独りでなにもかも決めていて、他の株主たちは何一つ文句を言わない。従業員といっても不動産の管理をしているだけの会社なのだ。10人ほどだった。甥の梶田健助はなにか困ったことがあると夫も使っていた顧問税理士の中川庄太に相談している風だった。

沙織は安泰なはずの、亡くなった夫が沙織のために残してくれた生活のたつきがいったいどうなっているのか、自分がなにも知らないでいることに恐れおののいた。なにも事情が分からないままに、つぎつぎと岩のように固かったはずのものが急に溶けだしてしまったような、際限のない恐怖だった。毎月の銀行口座への入金では足りないのだ。いったいどうしたらいいのか。

自分はなにを頼りに生きていたのか。夫の残してくれたものは何だったのか。

向島運輸という会社だった。正確には向島運輸という会社の株だった。

しかし、その会社は甥の個人会社になってしまったようで、700万の配当だっていつなくなってしまうのかわかりはしない。

思い切って甥の梶田健助を訪ねて、手持ちの株の買い取りを頼んでみた。

「え、株の買い取り?

そんな金、どこにもありませんよ」

とすげなかった。

しかたがなく、沙織は梶田健助の妻の梶田柴乃に頼んでみるしかなくなってしまった。

柴乃は、まだ大津柴乃といったころ、生前の夫が採用した会計係だったから、向島運輸の会社についての数字にも明るいだろうと思ったのだ。

沙織にしてみると、柴乃に頼み事をすることには大きな抵抗感があった。夫の生前、柴乃は夫と男女関係があるという噂が社内であったのだ。

柴乃は夫の健助よりも2つ年上だった。18で群馬の高校を出ると未だ運輸の仕事が盛んだった向島運輸に入った。2年ほどで結婚して退職したのが、直ぐに別れてしまって、また向島運輸に戻ってきた。離婚の原因も、社長の作次郎との関係が夫にばれたからだと社内では噂されていた。それどころか口さがない連中のなかには、結婚してからも作次郎と柴乃の関係は続いて、それが離婚の原因だったなどと見たように触れ回る者もあった。

健助が大学を出て、もうそのころには運輸業を廃止して不動産業の会社になっていた向島運輸に入社したことからして沙織には不思議な感じがしたものだった。よほどの理由がなければ、不動産の賃貸が主な事業に替わってしまった向島運輸などという小さな会社に大学を出てまで入ったりはしないのではないかと思ったのだ。自分の甥は司法試験という難しい国家試験を受けているからなのだ、夫がそれを自分のことのようによろこんでいるからなのだと、子どものころからの健助を知っていた沙織は考えるしかなかった。

未だ夫が生きていたころ、沙織は夫にたずねたことがあった。

「健助って子、あなたの会社を継ぐ器量がある子なの?」

夫は、

「うちみたいな不動産を貸してるだけの会社、女でも子どもでもやっていけるさ。あいつは司法試験を受けるって言っているからな。立派なものだ」

とぶっきらぼうに答えた。何か変、と感じたが、そのままにしていた。

その健助が会社に入ってから直ぐに年上の柴乃と付き合いを始め、夫も健助の父親の梶田健一も上機嫌で健助と紫乃の話をするのを聞きながら、沙織は改めて不思議な気がしてならなかった。夫と紫乃の噂は本当ではないのか。本当なら、いったい夫の心のなかにはなにが隠れているのか。沙織には想像もつかなかった。

(10章その3に続く。最初から読みたい方はこちら

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防衛省に「文民統制」はない http://japan-indepth.jp/?p=33491 Sun, 19 Mar 2017 02:00:11 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33491

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・南スーダンPKO陸自の日報、廃棄されたはずが保管されていた。

・背景に自衛隊の隠ぺい体質。

・当局となれ合うメディアに責任あり。

 

■見つかった陸自の日報、「戦闘」の記述

我が国に文民統制は存在しない。防衛省や自衛隊は納税者、その代表である国会を騙して問題と思っていない。これは民主国家の「軍隊」としてはあり得ないことだ。

南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊部隊の日報が、廃棄したとしていた陸自内に保管されていた。日報には「戦闘」があったと記されていた。「戦闘」があるとPKO派遣の原則が崩れるので、防衛省と自衛隊は組織ぐるみで保存されていた書類の隠蔽を図った。

日報の保管の事実は陸上自衛隊のトップである岡部俊哉陸上幕僚長、さらに3自衛隊制服組のトップである河野克俊統合幕僚長に報告されたが、PKOを統括する統合幕僚監部の内局職員が、これを伏せるよう指示していた。その後、先月になって陸上自衛隊の上層部から担当部署に対し、日報の電子データを消去するよう指示が出された。

つまりは、防衛省内局、自衛隊は組織的に書類を抹殺し、また国会に対して書類は既に破棄されていると報告した。これは「軍隊」と「官僚」が納税者と、その代表である国会議員を騙したことになる。到底文民統制が敷かれている民主国家ではあり得ない話である。

仮に内局官僚からそのような指示があっても、唯々諾々と従うのではなく、防衛大臣に報告する、あるいは国会を騙すことは文民統制上問題がありますと抗議するのが幕僚長はじめ「軍人」の仕事である。

それをしなかったのは組織防衛のためには国民を騙してもかまわないと思っていたからだろう。河野克俊統合幕僚長、岡部俊哉陸上幕僚長は将官の器ではない。だが両幕僚長だけでなく、情報隠蔽という体質は防衛省、自衛隊という組織に染みついた宿痾であるといってもよい。

本来このような日報は今後のPKO活動おいても参考にすべき部内の大切な一次資料である。安易に破棄してよい書類ではない。それを破棄したと、国会を騙したのは自分たちがまともな文書管理を普段からやっていないから、違和感がなかったからだろう。

そしてどの資料が重要で、重要でないとの判別がつかないからだ。過去のPKOの書類は全部廃棄しているのであれば、将来のPKO派遣にまともな検討資料が全く存在しないことになる。他国の軍隊では当然保管すべき書類である。であれば議会で「破棄しました」などという言い訳は思いつかない。この点でも軍隊ではない自衛隊の異常さがうかがえるだろう。

■自衛隊の隠ぺい体質

自衛隊が最も大事にしているのは国家防衛ではなく、組織防衛、自己保身である。このため自分たちに不都合となる可能性がある書類は国防上、必要があっても破棄する、あるいは隠蔽する体質が染みついている。諸外国では普通に公開している情報も自衛隊はひた隠しにする。

例えば用途廃止で破棄された旧式の74式戦車が製造元である三菱重工に払い下げられ、工場の正面に展示されていたが、これに内局官僚が「機密上問題がある」とあげつらったので、同社はこの74式を返納した。この話を外国の軍人や防衛産業の人間にすると一様に信じられない、という顔をする。

対して極めて重要な書類である、これまでのPKOに参加した隊員のカルテは5年を過ぎると全部破棄されている。これは個人情報の保護のためという名目になっているだが、派遣後にPTSDなどになって訴訟を起こされた場合に備えての証拠隠滅のためだろう。諸外国の軍隊では将兵のカルテは原則廃棄されない。例えば英軍にしても第一次世界大戦の頃のカルテも保存している。これは戦傷医療の研究などに必要な一次資料だからである。ただこのカルテも万が一に備えて、こっそりと保存されている可能性も否定はできない。

同様に軍事アナリストである小川和久氏が87年に発刊したその著書「戦艦ミズーリの長い影」で指摘しているが、防衛庁(当時)は兵器開発において不都合な実験や研究結果はサニタイズ、すなわち廃棄して、無かったことにしていると指摘している。このため失敗の教訓が後の開発者に共有されていない。この隠蔽体質が防衛省には未だに根強い。

更に1994年に行われた自衛隊のルワンダ難民救援派遣では現地において、宿営地が銃撃され、医療関係者は30分ほど伏せていたということがあった。ところが後から押っ取り刀でやってきた本部要員は自分だけヘルメットと防弾ベストを身につけており、この件は口外しないようにと口止めした。このためこの件は報告書にも書かれず、当時メディアも知ることがなかった。更に申せば高機動車2両も現地で盗まれているが、これも公にされていない。この話は筆者が当時現場にいた人間から直接聞いた話である。これまた自衛隊の隠蔽体質を示す格好の例であろう。

■情報開示姿勢にも問題

筆者は2010年に「防衛破綻」(中公新書)という防衛省の装備調達の問題を指摘した本を書いたが、これに対して陸幕装備部は部内資料としてその正誤表を作成した(記事末参照)。筆者はその内容の一部を入手したのだが、同文書によると51カ所もの誤りがあるという。だが入手した部分をみても「正誤表」の誤りを正した「正」の方が誤っている、または使っている軍事用語が自衛隊用語ではないと理由で誤りとしていた。

筆者が書いたのが防衛省の内部資料ならばそうかもしれないが、一般向けの書籍でありそのような指摘は当たらない。また筆者がパリの航空ショーで米空軍及び、メーカーの担当者に確認した内容を「誤り」と決めつけていた。だが担当者が参照にしたのはウィキペディア、あるいは2ちゃんねる、自衛隊を批判する筆者に反感を持つアマチュアの軍事オタクのブログと思われる。せめて諸外国の軍事あるいは航空専門誌を購読している人間であれば犯さない間違いであった。さらには著者の主張には同意できないから誤り、という項目もあった。正誤表の意味すら作成者は理解していなかったのだろう。

諸外国の軍隊のように軍事のプロが使うリファレンス、例えば軍事専門出版社のIHSジェーンズ社のデータベースでも参照していれば、こういう胡乱なことにはならないはずだ。防衛省ではまともな公開情報のリファレンスさえ使用しないで書類を作っていることになる。

言うまでもないがウィキペディアはあやふやで誤りも多く、大学の論文でさえも、出典として使用が認められていない。この正誤表を作成した自衛官の軍事知識と教養のレベルは大学生以下の程度の低い軍オタレベルということになる。

筆者はこの件を陸幕広報室に質した。そのとき筆者は正誤表の全文を見せること、また作成した本人にどのようにこの文書を作成し、何を参照したのか尋ねたいと要求した。だが、当時の広報室は担当者を呼ぶこともなく、全文を見せることも拒否した。ただ51カ所の誤りの指摘は3カ所に減り、それがどこかだけは述べられた。

しなしながら、その3カ所の内2カ所は筆者が国交省の担当者に取材した部分であり、単に防衛省と国交省の見解の違いでしかなかった。つまり誤りは1カ所であった。更に申せば筆者が気にしていた数字の誤りが一カ所あったが、それは見落としていた。つまりは極めていい加減な書類であった。とてもプロの仕事ではない。

筆者はこのような胡乱な書類によって防衛省内部で専門家としての評判を著しく傷つけられたわけで、書いた本人から謝罪、釈明があっても然るべきだと思うのは普通だろう。またこの書類は部外秘でもない。にもかかわらず、書類の作成者の官姓名すら知らされず、全文の開示もされなかった。自衛隊は誤りを認めて、それを謝罪することを極めて嫌がる。これが自衛隊の情報開示の隠蔽の基本姿勢である。

筆者はこの件に関して2013年に小野寺五典防衛大臣(当時)に記者会見でなぜ該当文書を公開しないのか質した。それは当時防衛省の特定機密保護法の制定が話題になっていたからだ。上記のような機密文書でも無いものでさえも公開しない隠蔽体質の防衛省、自衛隊が、特定機密保護法が制定されば更に悪化するだろうと思ったからだ。

この件に関しては後日報道官から該当書類は内部文書であり、情報公開の対象になっていない。故に公開しないというものであった。当然ながら正誤表を作成した担当者も、その監督責任がある上司も処罰はされなかった。このようなだんまりを決め込めば許される、逃げれば勝ちで、情報公開を忌避する体質が故に、その時々で、反省もしないし、外部からの監視が届かなくなるのでモラルハザードを起こし易くなっている。そして自衛隊という組織では隠蔽が文化となっているのだ。

この件が問題化されなかったために、現在でも防衛省、自衛隊では極めていい加減な情報を元に政策が策定され、予算が要求され、また政治家に対する「ご説明」(政治家に対するレクチャーはこう呼ばれている)がなされている可能性が高い。これでまともな国防が全うできようか。

■文民統制の自己放棄

どこの組織でも組織防衛をしようという本能は持っている。できれば不都合な情報は闇から闇に葬りたい。これを防ぐのは情報公開しかない。国防上の機密以外の情報は積極的に開示すべきである。機密書類も他の民主国家同様に原則、期間を決めてそれを過ぎれば公開すべきである。防衛省、自衛隊にはその姿勢が全くない。

これは防衛省、自衛隊だけの責任ではない。政治とメディアにも大きな責任がある。彼らが適正な情報公開を要求してこなかったからだ。例えば防衛装備にしても政治家は基本的な情報を与えられていない。現在調達されている10式戦車が一体何輌がいつまでに調達されるのか、国会は知らされていない。にも関わらず、国会は予算を通してしまう。全く知らないこと予算内容を了承するのだ。他の民主国家でありえない。

予算と人事は文民統制の根幹であるが、予算に対するまともな情報が与えなれなくとも予算を通すのは無責任であり、文民統制の自己放棄である。

特に与党自民党は文民統制のなんたるかを理解していない。2010年、民主党政権当時の仙石官房長官が自衛隊を「暴力装置」と発言したために、当時の野党だった自民党がこれを攻撃、仙石氏および民主党は脊髄反射的にこれを陳謝するも、自民党は執拗に攻撃を続けた。この時、自民党の有力議員である世耕弘成、佐藤正久、丸川珠代の諸議員らは国防に献身している自衛隊を疑うとは何事かと追求し、自衛隊を盲信することこそ、文民統制と主張して仙谷氏を攻撃した。

「仙谷官房長官から我が国の自衛隊に対して、暴力装置というとんでもない表現が出てきました。国の根幹である国防に命を懸けて取り組み、また日本の国際貢献に汗をかいているこの自衛隊の方々にとって大変失礼極まりない、とんでもない発言であると思います」(丸川珠代議員)

「暴力は暴れる力と書きます。コントロールが利かない力のことを暴力と言いますが、もし自衛隊に暴力装置という言葉を使うのであれば、自衛隊はコントロールが利かない力だということになります。

シビリアンコントロールが利いていないということを指してもし暴力装置ということにつながるのであれば、つまりシビリアンコントロールをしているあなたたちがコントロールできていないということになるわけですよ」(丸川珠代議員)

だが自衛隊は我が国最大の破壊力を持った組織であり、使い方を間違えれば大変なことになる。それを「暴力装置」と呼ぼうが「実力組織」と呼ぼうが変わりはない。だが与党自民党の議員たちは自衛隊を信じること、疑わないことが文民統制と主張したのだ。その結果が昨今の情報ねつ造問題を起こした遠因であるともいえよう。

強大な武力組織である自衛隊を国民の代表である国会、国会議員がきちんと監視・監督することこそが文民統制である。その意味では我が国は、文民統制は機能していない。

■記者クラブと当局のなれ合い

もう一つの問題はマスメディア、防衛省の記者会見や、取材機会を独占して、我々専門記者を含めて、記者クラブ会員以外のジャーナリストを排除していることだ。記者クラブは韓国も既に廃止し、いまあるのは我が国とジンバブエやガボンぐらいという。まともな民主国家ではこのような民間の一任意団体が当局の取材を独占することありえない。

2015年、北京での「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の記念行事について、産経新聞の記者に取材証が発行されていないことについて、菅義偉官房長官は「記者の扱いは平等に行うことは民主国家として当然だ」と中国を非難したが、それは我が国も同じである。

この記者クラブ制度が当局とのなれ合いを生み、我々専門記者を排除することによって、実質的に当局のへの知る権利の防波堤になっている。

先の正誤表の問題でも筆者の質問に対して防衛省記者クラブのNHKのキャップが筆者にそのような質問をするなと圧力を掛けた。(注1)

そのキャップは大臣が不快に思うような突っ込んだ質問をすると防衛省と記者クラブの関係が悪化するのを防ごうと思ったのではないだろうか。筆者は当時外国メディアの代表の資格で記者会見に出席していたが、記者クラブ会員の記者が大臣や幕僚を追い詰めるような質問を聞いたことは一度も無かった。

普段から防衛記者クラブが執拗に情報公開を迫り、また常に緊張感ある質問や取材をしていれば今回のような、防衛省や自衛隊が世間を舐めきったような嘘をつくことも無かったかもしれない。

いずれにしても、文民統制を無視する自衛隊、そしてそれを管理する能力が無い防衛省に対しては政治や、メディアは徹底した監視を行うべきである。そのためにも記者クラブという当局とのなれ合い組織は廃止すべきだろう。

■参考:

『記者クラブ』というシステム〜防衛省大臣記者会見後で非記者クラブ会員に圧力をかけるNHK記者の存在 

『記者クラブ』というシステム〜防衛省大臣記者会見後で非記者クラブ会員に圧力をかけるNHK記者の存在 

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「トランプ氏税金不払い」は誤報 http://japan-indepth.jp/?p=33487 Sat, 18 Mar 2017 22:00:03 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33487

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・去年10月「トランプ氏税金逃れ」の見出し踊る。

・3月17日MSNBCがトランプ氏、合計3800万ドルの所

得税払ったと報道。

・朝日新聞は訂正報道するか?

 「アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏は税金を払っていなかった」――こんなニュースを読んだ人も多いだろう。

日本ではたとえば2016年10月2日の朝日新聞に載った「トランプ氏、18年間税金逃れか NYTが納税記録入手」という見出しの記事など、それだった。

この記事はニューヨーク・タイムズからの転電だった。【ニューヨーク=中井大助】という発信記事だった。その冒頭は以下のとおりだった。

≪米大統領選の共和党候補のトランプ氏(70)が1995年の所得税申告で、約9億1600万ドル(約928億円)の損失を計上していたことが1日、明らかになった。トランプ氏の納税記録の一部を入手した米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が報じた。同紙によると、巨額の損失を計上したことで、18年間にわたって連邦所得税の納付を逃れられた可能性もあるという≫

要するにトランプ氏は税金を払っていないという報道だった。「可能性」とされているが、記事の後のほうに進むと、もうトランプ氏の税金不払いは事実として扱われていた。昨年の10月はじめといえば、アメリカ大統領選挙の盛り上がった時期である。

そのキャンペーンでもニューヨーク・タイムズの報道を基に民主党側のヒラリー・クリントン候補がテレビ討論会のときにまで、「トランプ氏は税金を払っていない」という非難を打ち上げた。日本でも識者たちが「所得税を払わない大富豪のトランプ候補」という批判の矢を放った。

ところがトランプ氏は実は所得税をきちんと払っていたということが3月17日、明らかとなった。MSNBCというテレビ局がトランプ氏の納税記録を入手したとして報じたところでは、同氏は2005年だけでも合計3800万ドルの所得税を税務当局に支払ったというのだ。同テレビの報道番組ではその証拠となる書類のコピーまでが提示された。その結果、他のメディアも「トランプ氏は実は所得税を多額に払っていた」と報じたのだった。

MSNBCというのは民主党寄りのテレビで、昨年の選挙中もトランプ氏に批判的な論調が多かった。そんなテレビ局がトランプ氏の納税の実態を報道したのだから、その情報の信憑性は高かった。

トランプ氏が2005年の税金を納めていたのならば、ニューヨーク・タイムズや朝日新聞の「18年にわたって連邦所得税を逃れられた可能性」というのはまちがいということになる。誤報とみなされても、しかたないだろう。

さてトランプ氏の税金不払いを一斉に報じた日本のメディアは、いや実はトランプ氏は税金を払っていたのだ、ということをどこまで報道するか。一風変わったジャーナリズム研究としてでも、観察してみたい。

]]> 阻止せよ、トランプドル安政策 http://japan-indepth.jp/?p=33477 Fri, 17 Mar 2017 22:00:07 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33477

田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)

「田村秀男の“経済が告げる”」

【まとめ】

・トランプ政権はドル安を志向。

・ドル安で米貿易赤字は逆に拡大。

・ドル安は一時しのぎでしかなく、長期化は危険。

 

「新プラザ合意」目指すトランプ政権

米国では、トランプ米大統領が中国、ドイツ、日本などの通貨の対ドル安に反発を強める中、「新プラザ合意」の必要性を提起する考え方が浮上している。1985年9月、ドル安誘導を目標に各国が政策協調を取り決めたのがプラザ合意で、結局はドル安に歯止めがかからなくなって世界の金融市場を大混乱に陥れた。その尻拭いをさせられたのは日銀で、超金融緩和を続けて資産バブルを膨張させた。その揚げ句にバブル崩壊し、日本経済は20年以上もの間の空白期に突入した。

4月からは先の日米首脳会談で合意した、麻生太郎副総理・財務相とマイク・ペンス米副大統領を代表とする日米経済対話が始まるが、プラザもどきの為替合意は絶対に避けるべきだ。

どう論じれば、トランプ政権にそれを思いとどまらせられるか。

トランプ政権の通商チームを率いる商務長官のスタンレー・ロス氏やホワイトハウス直属の国家通商会議委員長のピーター・ナバロ氏は貿易赤字を経済悪化の元凶とみなしている。赤字の主因が各国通貨の対ドル安だというわけで、トランプ氏は各国の通貨安誘導を非難する。

裏返すと、各国通貨に対するドル安を志向していることになる。だが、「ドル安=米貿易赤字減少」というのは思い違いも甚だしい。ドル安と米貿易赤字は無関係である。

■ドル安と米貿易赤字は無関係

グラフ(トップ画像参照)は主要国通貨に対するドルの実効相場と米貿易赤字、米の対外資産の変動ぶりを追っている。一目瞭然、ドル安局面(2002年から2008年)の大半の期間で貿易赤字は減るどころか逆に拡大しているし、ドル高(2012年から現在)局面でも貿易赤字は増えるとは限らない。貿易不均衡是正のために為替相場を動かしても無駄だと、これまでの実績が教えてくれる。

確かに、経済学教科書では自国通貨が安くなれば、自国製品の輸出競争力が向上し、輸入品の競争力が低下するので貿易赤字が減ることになる。また貿易赤字だと、赤字分のドル資金が相手国に流出するのでドルは過剰、つまりドル安になるはずだ。ところが、現代の金融市場経済ではそうならない。

外国為替市場取引の大半は貿易関連ではなく、証券投資など資本移動によるからだ。海外からの米国の株式や不動産投資が増えると、ドル需要が高まるのでドル高になる。中国の場合、巨額の対米貿易黒字を稼いでも、その黒字分の多くを米国債購入に充当して人民元の対ドル相場の上昇を防いでいる。

企業のほうはグローバルに展開しているので、ドル相場の変動で部品や製品の輸出入システムを変えるわけではない。ドル安で輸入コストがかさんでも、おいそれと国産化できない。

それでも、政治家や経営者の多く、さらにエコノミストの一部がトランプ政権と同じく、ドル安で貿易不均衡を是正できると信じているのは、摩訶不思議と言わざるをえないのだが、ドル安が絶対的な効力を発揮する面がある。それが米企業などの海外資産である。

■ドル安で膨らむ企業の海外資産

グラフをもう一度、みていただこう。ドル安にぴったりと連動しているのは海外資産の増加幅である。多国籍化している企業は、ドル安になれば、現地の工場資産や金融資産のドル建て換算値がかさ上げされる。ドルは基軸通貨なので、海外資産は絶えずドルで表示される。海外法人を含めた連結財務が示す収益はドル安のたびに膨らむ。企業経営者や投資家は高収益になるので、ドル安を歓迎するはずだ。

インフラ投資や法人税減税の財源確保が懸案のトランプ政権は、米企業の海外法人からの本国への利益送金を促し、税収を増やそうとしている。その場合、税制面で優遇するわけだが、ドル安になればなるほど、還流資金は膨れ、低税率でも税収が大きく増える。

それでも、ドル安による利益かさ上げもしょせんは一過性だ。肝心の貿易赤字是正とは無縁なのに、ドル安に依存しようとするのは、一時的な幸福感を忘れなくなってしまう麻薬中毒患者のようである。

■ドル安は災厄を招く

ドル安が長期化する結果はどうなるか。1987年10月には史上最大規模のニューヨーク株価の大暴落「ブラックマンデー(暗黒の月曜日)」が起きた。2008年9月の「リーマンショック」も6年間にも及ぶドル安の帰結とも言える。

前述した日銀の超金融緩和の長期化はブラックマンデーに衝撃を受けた米財務・金融当局と日本の大蔵省(現在の財務省)が日銀に圧力をかけて、金融引き締めをやめさせた結果だ。日銀は株式や不動産のバブル膨張を放置する羽目になった。

リーマンショックのあとは、米連邦準備制度理事会(FRB)がドルを大量発行する量的緩和政策に踏み切り、大恐慌を回避できたが、中国はドル資金増量相当額の人民元を発行して不動産開発や生産に投入し、不動産バブルと設備過剰を招いた。打開を迫られた中国は経済、軍事両面で対外膨張政策をとり、アジア周辺国の脅威になっている。

ドル安政策をとれば、米国にとっても、日本や世界にとってもろくなことにならないのだ。

トップ画像:ⓒ田村秀男

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