NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス] http://japan-indepth.jp ニッポンの深層を各界の専門家・識者が分かりやすく解説 Sun, 23 Apr 2017 04:22:02 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.5.3 北朝鮮エサに米翻弄 高笑いの習近平 http://japan-indepth.jp/?p=34043 Sun, 23 Apr 2017 03:00:06 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=34043

田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)

「田村秀男の“経済が告げる”」

【まとめ】

・中国為替操作国指定見送ったトランプ氏、対中通商で軟化。

・背景に、中国による北朝鮮への圧力の期待。

・米は中国の膨張路線に加担させられる懸念がある。

 

■対中国為替操作国指定見送ったトランプ

トランプ米大統領は14日、中国に対する為替操作国指定を見送った。大統領選挙期間中は「われわれは中国を再建した。中国がわれわれから奪ったカネでだ」と叫び、輸入中国製品に45%の関税で報復するという公約を反古にした。理由は北朝鮮問題で習近平国家主席が協力すると約束したからで、トランプ氏はツイッターで「北朝鮮問題でわれわれに協力する中国を為替操作国とどうして呼べる?」と16日に釈明している。

習氏のほうは高笑いしているだろう。中国共産党・人民解放軍のトップが朝鮮戦争で共に血を流した盟友を見限り、おいそれと米国の言いなりになるはずはない。圧力をかけるポーズだけで済ませようとするのがオチだ。とりあえずは北からの石炭輸入船の入港を拒否したというが、石油輸出は続けているし、中国の銀行は依然として北向けの外貨送金に協力している。筆者が東京で会った旧知の人民解放軍関係者は、トランプ・習両首脳間のやりとりを引き合いに出しながら、「これで米中関係は今後50年間、大丈夫」とうそぶいていた。

 

 

■中国を通貨政策「監視対象」にとどめた米

トランプ氏のほうはフロリダでの7日の米中首脳会談で、すっかり習氏に入れ込んだようだ。トランプ氏は12日の米ウォールストリート・ジャーナル紙との会見で、「習氏とはウマが会う」とすっかり上機嫌だった。数千年間の中国、朝鮮関係の中で朝鮮半島が中国の一部だったこともあると、習氏のレクチャーを聞かされたトランプ氏は「中国は北朝鮮に対し強い影響力があるという強い印象を受けた」と述べている。そして、習氏からの「協力」に賭けたのだろう。

14日に発表した米財務省の主要貿易相手国・地域を対象にした外国為替報告書では、中国を日本、ドイツ、韓国、スイス、台湾と同列の通貨政策の「監視対象」に指定したのにとどめた。「北朝鮮問題で協力しなければ、対中通商強硬策をとる」というトランプ・カードは引っ込められ、対中通商で軟化する姿勢に転じたのだ。

 

■読まれているトランプ氏

北京のほうはとっくにトランプ氏の出方を計算済みだったようで、中国の崔天凱駐米大使は中国の国営テレビとのインタビューで、首脳会談合意の米中貿易不均衡是正のための「100日計画」は中国側の提案によるとし、「まず簡単な問題から成果を出しつつ、難問解決への努力をしていけばいい」と悠然としている。

何よりも、金正恩が挑発行動を繰り返す限り、トランプ氏は中国を頼りにするしかなさそうだ。金体制は崩壊させるよりも存続したほうが中国の利益になる。

「米国が一歩後ろに引けば、中国は二歩前に出る」とは旧知の共和党主流派の中国専門家から聞いた。その通り、中国はそう仕掛けてくる。

 

■米のAIIB参加をもくろむ中国

米中首脳会談で北朝鮮問題での協力を求めるトランプ氏に対し、習氏は中国主導の国際金融機関、アジアンフラ投資銀行(AIIB)への米国参加を懇請した。習政権は「一帯一路」を掲げ、アジア全域の陸と海のインラフを北京に直結させ、中華経済圏化しようともくろむ。

インフラは軍事転用可能で、南シナ海への海洋進出と同じく、軍事面での膨張策とも見える。北京で2016年初めに開業したAIIBはその先兵だ。AIIBは日米が参加していないために、信用力がなく、ドル資金調達に汲々としているが、トランプ氏が応じれば、AIIBの国際金融市場での地位を確立できる。

親中派の鳩山由紀夫元首相はAIIBの顧問を引き受けているが、ツイッターで「トランプと習近平の首脳会談でトランプはアジアインフラ投資銀行(AIIB)について前向きな発言をしたとのこと」と前置きしし、「日本はアメリカの後塵(こうじん)を拝してはいけません。今こそ日本はAIIBに入るべきです」と訴えた。

「米国がAIIB参加に前向き」との情報源は不明だが、中国側がかねてからそうした宣伝工作をしかけてきた。鳩山氏はそれにまんまと乗せられたのだろうが、あながち「フェイク(虚偽情報)」と笑い飛ばすわけにいかない面がある。トランプ氏の対中観は歴代の米政権と同様甘いのだ。

 

北朝鮮は餌 米から金を奪い続ける中国

冒頭で引用した「われわれは中国を再建した。中国がわれわれから奪ったカネでだ」というトランプ発言は、在来型政策を否定するスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問や、著書「米中もし戦わば」で知られるピーター・ナバロ国家通商会議委員長に影響されたのだろうが、選挙戦のレトリックで終わった。だが、データを調べるとその見方の正しさは歴然としている。

グラフは「米国のモノの貿易赤字と海外からの米国債など証券購入を合算した資金流出入」である。世界最大の債務国米国は外部からの資金流入に依存する。貿易赤字は大きくても、相手国がその分を対米証券投資で還流させれば、米金融市場は安定する。一目瞭然、日本は対米貿易黒字分を上回る資金を米証券市場につぎ込み、米経済に貢献している。対照的に、中国は米国に貿易黒字を証券投資で還流させていない。中国は昨年年間3500億ドルの黒字に加えて1300億ドルの証券を売却、合計で4800億ドル、米国からドル資金を手に入れた。2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、17年2月までの累計で、米国から30兆ドル以上の資金を「奪い」、経済超大国にのし上がってきた。

トランプ氏は北朝鮮問題を餌にする習近平政権によって、まんまとその膨張路線に協力させられそうだ。

▲データ:CEIC、米財務省  グラフ作成:田村秀男

 

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社会保障費 優先順位つけよ http://japan-indepth.jp/?p=34035 Sat, 22 Apr 2017 16:08:30 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=34035

 「細川珠生のモーニングトーク」2017年4月15日放送

細川珠生(政治ジャーナリスト)

Japan In-depth 編集部(坪井映里香)

 

【まとめ】

・「子ども国債」「子ども保険」より、「予算の組替」を。

・子育て支援はプライオリティが高い。

・医療費含め予算の「再定義」が必要

 

子どもの貧困、待機児童問題などが浮き彫りになっている中、給付型奨学金の創設や、東京都の高等学校完全無償化など、子育て世代の負担軽減の施策が議論されている。教育施策や社会保障のあり方について、自民党青年局長の鈴木馨祐衆議院議員に政治ジャーナリスト細川珠生氏が話を聞いた。

まず細川氏が、昨今取りざたされている「子ども国債」や「子ども保険」についての評価を鈴木氏に問うた。それに対し、鈴木氏は、「家庭環境など、自分のせいではない理由で教育を受ける機会が損なわれることは決してあってはならない。公教育の充実や、給付型奨学金などでチャンスの平等を保証するのは当然政府の責任だ。」と述べた。

そして鈴木氏は、財源をねん出する為に次の4つの方策を示した。

・教育国債

・子ども保険

・税

・現在の予算の組み換え

その上で鈴木氏は、4つ目の予算の組み替えが適しているとし、「現在の高齢者向けサービスを若者・子供向けにシフトしていくことが一番大事だ。」と述べた。

次に細川氏は、高齢者の増加による年金・介護・医療分野のニーズ拡大の一方、子育て支援の充実も求められている現状で、「社会保障費は膨らむ構造になっており、どのような改革が必要か」と尋ねた。

これに対し鈴木氏は、高齢者の福祉、教育、国防費、科学技術のための予算など、全ての予算には「大義」があるとしたうえで、「だからといって全てをやっていたら際限がない。次の世代への投資、すなわち子育て支援はプライオリティが高い。」と述べ、限られた予算の中で優先順位を付けることが必要との考えを強調した。

また、高齢者の医療や介護など、さまざまな社会保障が行われている中、鈴木氏は、実際に「必要なところ」をもう一回定義をし直す必要があると強調し、自民党もこの機会に「こうした議論をスタートさせなければいけない。」と述べた。

細川氏が、「医療費、教育費など、国がどこまで責任を持つのかという根本の議論が必要だ。」と述べると、鈴木氏は終末期医療を例にとり、「生活の質がきちんと守られ、幸せと感じる中で無くなる、という考えも必要になってくるが、今そういう考えに基づく仕組みになっていない。」と指摘した。

また、「薬も技術料もすべて公的なお金で面倒みられており、サービス提供者である民間企業が一番利益が上がるように予算が組まれている。こうしたところもコントロールする仕組みが必要だ。」と述べた。また、薬価の値段の決め方にも改善の余地がある、と指摘するとともに、「診療報酬は医療提供者側に立って決められており、改定されれば国民負担が増える。国民皆保険を守るためにもみんなのお金で面倒をみる疾病の範囲を制限する必要がある。」と述べた。たとえば、うがい薬や湿布など少額なものは自己負担にしたり、超高度な医療は民間保険と併用したり、とやり方はある、とした。また鈴木氏は、「長い目で見て、国民の将来の負担でやってもいいものに限定するという勇気が必要だ。」と述べた。

 

最後に細川氏は、政治家が未来に対しての責任を重んじ、30年、50年先を見据えた社会保障改革に取り組むことに期待する、と述べた。

 

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年4月15日放送の要約です)

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

ラジオ日本HP http://www.jorf.co.jp/index.php

細川珠生公式HP http://hosokawatamao.com/

細川珠生ブログ  http://tamao-hosokawa.kireiblog.excite.co.jp/

トップ画像:©Japan In-depth編集部

]]> ジャワ高速鉄道 中国から日本へ http://japan-indepth.jp/?p=34017 Sat, 22 Apr 2017 09:00:17 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=34017

大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・インドネシア政府、高速鉄道計画で日本に発注の意向。

・先に受注した中国の建設計画大幅遅れが背景に。

・政治的要因残るも日本はこのチャンスを活かせ。

 

■インドネシア政府、日本と共同調査の意向

インドネシア政府はジャワ島西部の首都ジャカルタから東部のスラバヤに至る鉄道(約730キロ)の高速鉄道計画について今年5月からその実現可能性などを環境や資源など各種要因に基づいて調べる「事業可能性調査(フィージビリティー・スタディ=FS)」を開始する方針をこのほど明らかにし、インドネシアの国鉄(KAI)、科学技術応用評価庁(BPPT)とともに日本と共同で調査を実施したい、との意向を明らかにした。

インドネシアの鉄道高速化計画に関してはジャカルタからバンドンまでの約140キロ区間に関して2015年9月に日本との激しい受注競争の結果、中国が受注に成功したものの、その後の建設計画は予算増大や土地取得の遅れなどから大幅な「計算違い」が生じている。このため「中国ではなく、今度こそは日本に発注したい」と中国への落胆と日本への期待が政府部内で強くなっていることが背景にあるといわれている。

ルフット・パンジャイタン調整大臣は「インドネシアの高速鉄道化には日本の費用と鉄道技術が必要」として、5月からのFSを11月ごろまでには終了して、日本への発注で年内には合意する方向で政府部内の調整を進める方針を示した。

日本側も1月にジャカルタを訪問した石井啓一国交相がルフット調整相、スマディ運輸相などとの会談で「高速鉄道計画への協力」の姿勢を示しており、すでに両国政府間ではある程度の協力体制ができていたことも今回のFSへの日本の参加の布石となっていたとみられている。

■一向に進まぬ中国の建設計画

ジャカルタ~バンドン間の高速鉄道計画では受注競争で新幹線による鉄道建設の実績、鉄道運航の安全性で日本の圧倒的優勢が伝えられていたが、中国側が最終段階で「日本のものと酷似した事業計画書を提出」するとともに建設に関する「インドネシア政府の費用負担をゼロ」とし、「事業が失敗した際の債務保証も求めない」という異例の案を示したことで逆転、中国が受注した経緯がある。

しかし、2016年7月に建設許可が下りて以来鉄道計画はほとんど進捗しておらず、2017年12月までに確保が必要となる約600ヘクタールの土地の収用もほとんどが手付かずの状態といわれ、2019年5月の開業を絶望視する声があちこちから出始めている。

2016年には建設予定地とするジャカルタ郊外の土地で中国人労働者が工事を開始したところ、そこがインドネシア空軍の管理地で空軍の許可もなく、さらに中国人労働者のビザに問題があったことが発覚するなど計画そのものだけでなく、建設工事の進め方でも「杜撰さ」が露呈、中国への信頼性が大きく揺らいでいた。

4月15日には建設に要する経費が当初の55億ドルから59億ドルに膨れ上がるとの見通しが示された。もっとも費用をインドネシア側は負担する訳はないが、増大した費用の負担を中国がどうするのかは不安なところ。中国の受注にジョコ・ウィドド大統領を最終決断させるのに大きな役割を果たしたとされるリニ国営企業大臣は「高速化路線に建設予定のトンネル工事で変更が生じた結果の費用増加だが、中国開発銀行が問題ないとしているので心配はない」とマスコミに説明、予定通りに建設計画が進むとの楽観的見方を表明した。

■政府部内の対立・確執が影響

日本優勢の受注競争を最後にひっくり返した」のはこのリニ大臣といわれ、その背景には日本を推していた与党「闘争民主党(PDIP)」の党首、メガワティ元大統領とリニ大臣の確執、さらにジョコ大統領とメガワティ元大統領との不仲説も影響したといわれている。

内閣改造でリニ大臣の更迭をPDIPが求めたもののジョコ大統領が拒否したとされ、「ジョコ大統領、リニ大臣」と「メガワティ元大統領、PDIP」を巡る構図は基本的に前回の受注時とは変わっていない。

しかし、鉄道関係者や経済界からは中国の「杜撰な計画と進まない建設」が浮き彫りとなる中「鉄道計画という国民生活に直結するインフラ整備に政治は介入するべきだはない」との声がでていることは、ジョコ大統領もリニ大臣も認めざるを得ないところだ。

インドネシア紙の記者は「中国が受注したジャカルタ~バンドン間は鉄道の重要も少なく、距離が短くて高速化のメリットもあまりないことが政府部内に“どうせ(インドネシアの)は費用負担しないのだから中国にやらせてみたら”という雰囲気を醸し出したことも(中国への受注に)影響した」と当時の裏事情を解説する。

いずれにしろ、純粋な技術論やコスト、安全面などが原因で日本が前回の受注競争に敗れた訳ではないことが救いで、インドネシア政府部内や世論が「中国に懲りて、日本に期待している」というアドバンテージを最大限に活かすためにも、日本は次の高速鉄道計画の受注を目指して再度綿密な計画と中国側の奇手への対策を練ることが求められている。

トップ画像:出典 Gunawan Kartapranata/インドネシア高速鉄道計画

]]> 日本解凍法案大綱 15章 社長の妻 http://japan-indepth.jp/?p=34021 Sat, 22 Apr 2017 02:00:32 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=34021 牛島信(弁護士)

「先生、私、沙織おばさんに電話して、どうしてあんなことを知っていたのか聞きました。そしたら、先生の名前を教えてくれました。私が先生にお会いすることも承知してくれました」

梶田紫乃が、大木弁護士の事務所の会議室に座っていた。高野が座っていたのと同じ椅子だ。向かい側には、大木弁護士と辻田弁護士が並んでいる。

「叔母が株主総会で言っていたこと、ぜんぶ本当だったんですね。

先生はすべてご存知なんですよね。先生のところでお調べになったことですもの。

先生のところの弁護士さん、凄いですね。

資料、全部拝見しました。徹底的に会計帳簿とかが分析されていて、キチンと整理されている。感動ものでした」

株主総会が終わった翌日、梶田紫乃は大木弁護士に電話をしたのだ。

向島運輸の株主として相談がしたい、三津田沙織と同じ立場で話を聞いてほしいということだった。

「叔母に聞いた」という表現を梶田紫乃は使った。解任の株主提案にも、株主総会での三津田沙織の株主としての発言にも、自分は叔母に賛成だ。だから三津田沙織と同じ側に立って会社の建て直しをしたい。そのための第一歩が社長の追放だと思って、大木弁護士に会いたいのだと言った。離婚はとっくに決めているとことも無げだった。

「私は会社大事で生きてました。それが亡くなった創業者の三津田作次郎の遺志にいちばん添うことだからです。私にとっては私という人間を育ててくれた三津田作次郎が最も大事な方です。

夫も同じ思いでいるんだと頭から思い込んでいました。すべて任せてきました。でもとんでもないことだったのです。夫には私の知らない別の生活があったのです。想像もしませんでした。すべて信じていたから社長を任せていたのに」

そこには、会社のオーナーは自分で、夫の梶田健助は雇われ人に過ぎないというニュアンスがあからさまにあった。しかし、妻の考えは必ずしも夫の考えではなかったのだ。大木弁護士は、目の前の梶田紫乃の姿を眺めながら、口には出さなかったが心のなかでそう自らにつぶやいていた。

「いいえ、先生、私ももう63歳です。夫に女がいたからって、そんなことくらいでびっくりしません。初めてでもありませんし。

そりゃ、最初のときは大変でした。でも、夫が平謝りに謝って、それで終わり。大昔の話です。

今度は違う。あの人には外に子どもがいるんですよ。それも8歳の女の子。

私の子どもも8歳のときがありました。そのころのこと、よーく覚えています。昼間は会社で経理の仕事で目いっぱい働いて、夕方に飛ぶように家に帰って子どもの世話。夫はなにも手伝ってくれない」

「そうですか」

「そう。

先生、男ってみんなそうなんでしょうか?」

大木弁護士はたずねるように隣の辻田弁護士の顔を見ながら、

「そんなことはないでしょう。人によるんじゃないですか」

と素知らぬふりを決め込んだ。

辻田弁護士はなにか言わないわけには行かなくなってしまった。

「もうしわけありません。存じません。私は子どもはいますが、夫というものを持ったことはありませんから。

でも、夫にしたからにはお互いに愛し合った結果ですよね、誰に強制されたわけでもなないんでしょうから」

大木弁護士は穏やかな微笑を浮かべた。その微笑に安心したように、梶田紫乃が再び口を開いた。今度はずっと落ち着いた声だった。

「8歳だった私の娘にも今は子どもがいます。私の孫です。梶田健助の孫でもあります。ちょうど8歳です。女の子です。真代といいます。

私は梶田が外に作ったという子ども、万喜絵っていう名でしたよね、その子が、どういうわけでか私の子のような気がしてなりません。いえ、私の孫のような気がするんです。

変でしょう、先生?」

こんどは大木にともなく辻田にともなく問いかけると、二人の答えを待たず、

「でも、私は夫を許せない。

私を裏切ったからではありません。会社を裏切った男を許せないのです。創業者の三津田作次郎の思いの籠もった会社の金を横領するなんて。

せめて自分の金で遊んで欲しかった」

「でも、梶田健助氏には会社の金を持ち出す以外に自分の金を作る方法はなかったのではないですか?」

辻田弁護士が冷静な調子でたずねると、紫乃はさしたる関心事でもないかのように、まるで赤の他人の話のように、

「そうですね。そのとおりです。あの男には金を作る能力なんてなかった。

変なお話。

じゃあ、先生、私が悪かったことになるのでしょうか?

亭主に浮気代をやらなかったから悪い妻?

でも、どこの世界に亭主の浮気代を作ってやる女房がいますか?」

「それはそう。そうですね」

辻田が口を開く前に、大木が引き取った。真剣な表情を崩さない。

「梶田紫乃さん、あなたは会社の株主としてご相談にお見えだ。だからお会いしました。

もしあなたが会社の取締役専務さんのお立場なら、私どもがなにかお手伝いするというわけにはいきません。

向島運輸は私どもの依頼者である三津田沙織さんという株主の相手方からですからね。

会社を、株主同士、誰からみてもフェアに経営するつもりだということでしたからお会いしました。

あくまで、会社をフェアなものにするためです」

「安心してください。そんなことは心得ているつもりです。

私は、株主として向島運輸から梶田健助社長をどうやって追い出したらいいのか、その後でどうやって建て直したらいいのかを、株主と言う立場で教えていただきたいのです。オーナーだから好き勝手にするのではなく、会社をすべての関係者、ステークホルダーというのですか、その人たちにとってフェアな存在にしたいのです」

そう言ってから、悪戯っぽい目つきと声の調子で、

「先生たちへのお支払いには会社のお金は使いません。株主である私の依頼ですから私個人のお金でお支払いします。ご安心ください」

と言い足した。

大木が、

「ところで、梶田健助氏の持株はどのくらいの割合なんですか?」

とたずねる。

「個人ではほとんどありません。私も同じことです。51%のほとんどは家族だけが株主の会社、向島不動産という名前の資産管理会社のものです。それがパート・ワン、パート・ツー、パート・スリーの3社あります。どれも夫が社長です。株主は3社とも私たち夫婦と子どもだけです。」

「ほう、その3社の株の保有割合は?」

「私が33.7%、夫が17.3%。二人で51%です。それと子ども3人がみな平等で16.3%ずつです」

「で、お子さんたちはどちらの側につくとかあるんですか?」

辻田弁護士の質問に、答えるまでもないと言わんばかりに紫乃は、

「もちろん、全員私です」

とピシャリと跳ね返した。

「ほう。なんにしても少なくとも一人の子どもがあなたにつく限り、その二人で過半数になるようになっているんですね。

その3つの会社の社長を梶田健助氏からあなたに替えてしまえば、向島運輸はあなたの思うままになる」

大木弁護士が確認した。感に堪えないといった調子の声だった。梶田健助の立場が予想したよりもずっと脆弱なことがわかったからだった。社長といっても、乗っている舟は泥でできていたのだ。確かに、自分が本当のオーナーだと柴乃が思っているはずだった。妻に頭が上がらない、うだつの上がらない亭主というだけの話ではなかったのだ。

「では、その3社の取締役会を開くことになりそうですね」

「取締役会?そんなもの」

「法は法です」

辻田がきっぱりと言う。

「そうですか。

でも先生、私はあの人を地獄へ落とす必要があります。

そうでないと、私、あの世へ行って三津田作次郎に会わせる顔がありません」

大木の胸に「どうしてそこまで」という質問とともに「そもそも人間にとって地獄とはなにか。それはあの世にあるのか、この世にあるのか」という問いが浮かんだが、大木はそう口にする代わりに、

「地獄ねえ。まあ、この世のことですから、会社と縁がなくなるようにすることはできるでしょうね。損害賠償も取れるかもしれない」

と笑いながら、

「でも、経営は大丈夫ですか。従業員の方や取引先がありますが」

「会社なら、あの人の代わりならいくらもいます。不動産を貸しているだけの会社ですから、少しもののわかった人間なら誰でもいいのです。三津田作次郎が生前いつもそう言っていました」

柴乃はこともなげにそう言い放つと、

「でも、私にとってはたった一人の夫だったのですが」

ちらと寂しそうな声音になっていた。

やはり応えているのだ。当然だと大木弁護士は思った。26歳で結婚して40年近くになるのだ。感慨がないことはあり得ない。

(それでも、この目の前の女性は会社のことばかりを気にしている。

会社か。法人、組織、人の集まり。

そこに存在する、個人を超えた何か。

それだけじゃない。どうしてなのか創業した個人への思いが溢れている。

組織を創りあげた個人、か)

大木の頭のなかで、いつもの疑問が持ち上がってきた。

組織と個人、だった。

大木の事務所の若い弁護士たちが大車輪で動き始めた。5人の弁護士が動員された。

梶田柴乃も社外取締役を入れたいと言い出した。三津田沙織の願いでもあった。もともと大木弁護士が高野と話していたことだった。

同族会社、非上場会社こそ独立した社外取締役が要る。経営者の力があまりに強すぎるのだ。経営者以外のステークホルダーの利益に配慮するためには、どうしても経営者におもねらない取締役が必要だった。

だが、現実問題として簡単なことではない。

大木もそう思わないではなかった。上場会社ですら、結局のところは社外取締役など数合わせに過ぎないと非難されている。社外取締役に適した人材が不足しているのが現実だった。

「私、これからは向島運輸も他人様が経営者になって経営してゆくのだと思います。一族が経営者になると甘えばかり。自分の会社でもないのに、自分個人だけが存在していると錯覚してしまう。他にも株主がいるなんて露ほども思わない。

株主だけじゃありません。従業員もいます。取引先も大事です。

それに、不動産賃貸といってもお客様が大事です。うちのように小さな会社は、お客様がなにを望んでいるかに敏感に察知しなくては生きていけない時代になりつつあります。

私はオーナーとして、つまり会社を支配している株主として取締役に残りますが、経営に関与はしません。これまでと同じことです。

少しでも関われば言いたいことは一杯出てきてしまいます。すると、みんな私の言うことをきくしかありません。

でも、それでは会社のためになりません。私も私の人生がこの会社にしかないとは思っていません。考えようかもしれません。こんな会社でも、それが自分の人生の果実だと思えばそれなりに嬉しい。手を離すなんて考えられない。私が一番思いを込めているし手もかけてます。一番力もあります。そんな自負があります。私は年をとっても、会社を思う心では誰にも負けない。そんな自信みたいなものがあります。

いえ、多分あり過ぎるのです。

それに、こんなちっぽけな会社ですけど、働いているみんなのそれぞれの人生が注ぎ込まれています。その人たちが自分の人生を実現できたと思える会社であってほしい。

ですから、経営から独立した取締役にいて欲しいのです。経営に当たるのは私の部下。だから、経営から独立した立場の人に取締役として監視していていただきたいのです。

私のことも、会社のことも、私以外の株主のことも、なにもかも考えてくれるような人」

梶田柴乃はそこでいったん口を閉じると、大木弁護士と辻田弁護士の顔を相互に見比べるようにしてから、

「私、無理な望みだとはわかっているんです。

でも、先生、そういう人を探してください。

今度は失敗したくありません」

さびしそうに微笑んだ。

(なにもかも持っている者ゆえの哀しさか。

人間は贅沢なものだ。欲に限りがない)

大木の心のなかで、梶田紫乃に対する微妙な、アンビヴァレントな思いが交錯する。

依頼者としての梶田紫乃個人への弁護士としての忠実義務はもとより当然の前提だった。紫乃の個人としての思い、惑いはよくわかる。だが、梶田健助のやったことにも、人間のしたことなのだ、彼なりのなにかの理屈があるに違いない。もとより、それは大木の知ったことではない。だが、その観点を失えば、依頼者は全体像を見失ってしまう。それは依頼者にとって大きな不利益になりかねない。

なんにしても、いったい梶田と言う男はどうしてあの株主総会の場から逃げ出してしまったのか。なにが隠れているのか。

合理的に理解できない現象の背後には、自分の知らない要素が隠れている。大木はいつもそう思って仕事をしてきた。では、今回の隠れたファクターは何なのか?

梶田紫乃は向島運輸という会社を所有している。会社には物がくっついているだけではなく、人がたくさんつながっている。取引先も従業員もビルや駐車場のある地域も。それに少数株主がいる。少数株主には個人もあれば会社もある。無限の鎖のつながり。向島のある墨田区には26万人の人間が住んでいるのだ。東京都ならば1400万人近い。日本全体なら1億2700万。日本の外側には世界があって、73億が生きている。

漆黒の無限の宇宙空間に漂っている無数の鎖の束、千切れてしまった鎖の一つ一つ。大木はその光景を想像するたびに軽い眩暈を感じるような気がするのだ。

梶田紫乃という個人。一人の限りある命を生きる女性と生まれた人間。その人間は、向島運輸という会社、組織が生身の身体全体を鎧のように覆いつくしている。会社を支配している人間は、決して個人にはなれない。一人の人間になって、「良い人」になることはできない。

それが人類の創りだした文明の精華である株式会社の避けられない性質なのだ。

(社外取締役の候補は高野だな)

大木は直感した。

三津田沙織に事務所に来てもらって、大木の口から梶田柴乃の話を伝えた。沙織は大木弁護士と辻田弁護士に向かって、

「先生。あの人は結婚する前に私の夫と関係があった女性。だから紫乃っていう女性、最初の結婚がうまくいかなかったのです。離婚したら直ぐに三津田作次郎のところ舞い戻ってきて、こんどは三津田の部下になったばかりの年下の梶田健助とくっついた。

ご存じでしょう。

因果は巡るってことのようですね。昔風の小説みたい。

梶田健助さんにしてみれば、三津田作次郎の影をいつも感じていたに違いないでしょうね。

だから中野光代さんに走ったのかどうかは、私にはわかりません。たぶん、違う。

梶田さんのは、血。おじいさんがそういう人だったって聞いたことがあります。根っからの女好きだったそうですから」

「男と女のことは他人にはわからないものです」

大木はそう言うと、隣の辻田弁護士の顔をそっと覗き見た。優しい、しかし戸惑いを隠しきれない顔だった。

(16章に続く。最初から読みたい方はこちら

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ジャカルタ知事選 宗教か多様性か http://japan-indepth.jp/?p=34013 Fri, 21 Apr 2017 10:00:36 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=34013

大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ジャカルタ知事選、現職破りアニス氏勝利、背景に宗教対立。

・アニス氏の住宅政策の実現性に疑問。

・宗教か世俗か、引き続き次期大統領選の争点に。

 

インドネシアの首都ジャカルタの特別州知事選の決選投票が19日に行われ、前教育文化相のアニス・バスウェダン候補が現職のバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事を抑えて初当選した。

民間調査機関複数の開票速報ではいずれもアニス候補が57%、58%台を獲得、41%、42%台にとどまったアホック知事を上回った。選挙管理委員会(KPU)による正式な得票数の確定には数日かかる見通しという。

大勢判明後に会見したアニス候補は「選挙期間は終わった、アホック候補とはお互いの違いを強調するのではなく、全州民とともに団結する時が来た」と両候補支持派の協力と和解を訴えた。

一方のアホック知事も「アニス候補当選おめでとう、選挙のことは忘れて同じジャカルタ州の住民として協力しよう。これも神の思し召しによる選択。私は残る半年の任期、課題に取り組みたい」と述べた。

両候補が同じように会見で「選挙期間から脱却して団結、協力を」と訴えた背景には、今回の選挙で示された両陣営の溝の深さ、選挙戦での傷を癒すことの重要性への認識、憂慮があった。

 

■イスラム急進派の宗教攻撃

現職知事として住宅不足問題、交通渋滞解消、洪水問題などで実績を残してきたアホック知事だが、選挙期間中の不用意な発言が「イスラム教徒を冒涜している」とイスラム急進派が噛みついたことで、圧倒的な優勢が一転した。

イスラム急進派によるインドネシアのそしてジャカルタ特別州の圧倒的多数を占めるイスラム教徒の宗教的琴線に訴える戦略が次第にアニス候補への支持を拡大する事態となった。

「宗教冒涜罪」容疑で裁判の被告となったアホック知事に対し、伝統的なイスラム教徒の衣装で政治活動が禁じられているイスラム教寺院「モスク」を中心に運動を展開したアニス候補。インドネシアでも最も成熟し、民主主義を理解しているとされるジャカルタっ子も「イスラム教の教えでは非イスラムの指導者には従えない」「非イスラム支持者への攻撃は強要される」「アホック支持者の女性への暴行は許される」などという扇情的、独善的な急進派によると思われる言説が駆け巡り、自らの宗教意識を再認識した有権者がアニス候補に票を投じたといわれている。事実、アホック知事支持を表明したイスラム教徒の葬儀が地域のモスクに拒否されるという憂慮すべき事態も発生した。

こうした事態を重視したジョコ・ウィドド大統領、ユスフ・カラ副大統領、そして首都の治安を守る治安組織のトップなどが相次いで「宗教を選挙の争点にするべきではない」「候補者の宗教、人種、出身地は選挙とは無関係」などと宗教の選挙争点化の火消しに躍起とならざるをえない事態を招いた。

 

アニス氏の夢のような公約への期待

アホック知事はキリスト教徒で地方出身の中国系インドネシア人、と首都ジャカルタの知事としては「異例のマイノリティー」で、そうした知事を選んだことがジャカルタっ子の「多様性と寛容」の意気の現れ、とされてきた。

ところがあらぬところ(イスラム急進派)からのビーンボールに近い「攻撃」に加えて、「頭金ゼロでも住宅購入が可能」という自宅を所有できない多数の人々には夢のような公約を掲げたアニス候補に票が流れた。これまでの実績や地味な洪水対策などより「自宅が持てるかもしれない」との公約に期待するという極めて現実的な選択を有権者はしたのだ。

選挙結果をみた多くのコメンテーターや新聞は「任期の5年間で公約を実現できるのか、とりあえずお手並み拝見」との姿勢を示しているが、住宅問題の公約はその実現を疑問視する声も少なくない。

住宅問題はジャカルタの人々にとっては食に次いで関心が高く、首都ゆえの地価、建設費の高さから賃貸ではない自宅を持つことが現状では難しく、アニス候補の公約はまさに「夢に手が届く魔術」に聞こえた。実際には一定額の銀行預金がある人に限り「頭金ゼロ」が適用されるのだが、選挙期間中はそうした詳細より「頭金ゼロ」が独り歩きしてしまった。それだけに今後アニス新知事の住宅問題への取り組みには大きな注目と厳しい目が注がれるだろう。

 

■大統領選の代理戦争の様相

19日夕方に記者会見したアニス候補の横にはグリンドラ党のプラボウォ党首の姿があり、アニス候補より雄弁に勝利宣言を行った。会場に詰めかけた支援者からは「いよー、プラボウォ次期大統領」との声がかかる一幕も。

プラボウォ党首は1998年に崩壊するまで実に32年間、独裁政権を維持したスハルト元大統領の元女婿で国軍出身のビジネスマン。現職のジョコ・ウィドド大統領とは前回の大統領選を争ったライバルでもある。

アホック知事はジョコ大統領が所属する与党「闘争民主党(PDIP)」の支持を受けており、今回の知事選は前回2014年の大統領選と同じ対立構図であり、さらに2019年の次回大統領選の前哨戦と早くから位置付けられていた。

プラボウォ党首は早い時期から次期大統領選への出馬を匂わせており、今回自らが支援したアニス候補が首都での知事選で勝利をおさめたことを追い風にして大統領選に向けた今後本格的な根回し、運動を展開することが予想される。

一方のジョコ大統領陣営は、PDIPの党首でもあるメガワティ前大統領を中心にジョコ大統領に今回涙を飲んだアホック知事を副大統領候補としてペアを組ませる道を模索することも十分考えられるという。

インドネシアでは過去に女性大統領は誕生しているが、非イスラム教徒の大統領はまだ就任したことがない。アホック知事は非イスラム、中国系インドネシア人の「代表格」で、地方首長から国レベルの指導者を目指すことでインドネシアが掲げる「多様性の中の統一」「寛容と団結」のシンボルとして今後も台風の目であり続けるだろう。

 

■民主主義の成熟と実際の生活感覚

今回の知事選でジャカルタの有権者が示した結果は極めて現実的、そして宗教的選択の結果といえる。この知事選では早くからアホック知事を巡って「インドネシアの民主主義の成熟度が問われている」と注目を集めてきたが、最終的には民主主義や寛容の精神、多様性などという「お題目」よりはより切実な現実問題、そして心の問題としてのイスラム教が優先された結果となった。

これを以って「インドネシアの民主主義はまだ未成熟」と判断するのか、「有権者には生活、宗教問題がなにより優先する」と評価するのか、その答えは2019年の大統領選に持ち越されたと言えるだろう。

]]> 米軍事圧力が効かぬ北朝鮮 http://japan-indepth.jp/?p=34007 Fri, 21 Apr 2017 00:00:03 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=34007

文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・米の軍事圧力に慣れ切っている北朝鮮。

・むしろ圧力は核・弾道弾開発を加速させる。

・経済援助による資本主義化が体制崩壊の近道。

 

北朝鮮の核・弾道弾開発が注目されている。核実験や発射試験の兆しを見てのことだ。

それに対し、米中ともに圧力を加えようとしている。米国は新政権が関与に舵を切った。中国も北に影響を及ぼせなくなったため、圧力でその行動を制約しようとしている。

だが、北朝鮮は圧力で言うことを聞くのだろうか?

核・弾道弾の開発に圧力は効かない。北は既に慣れており、むしろ支配体制の安定化にも利用している。その上で圧力を積みましてもむしろ核・弾道弾開発を進める結果に終わる。

北朝鮮問題を改善させるには援助しかない。資本主義の毒を入れ、金の力で心を汚すことだ。短期的な効果は見込めないが、戦争で北を滅ぼす選択肢がない以上、そうするしかない。

北は圧力に慣れている

北朝鮮の慣れのため、圧力は効かない。北朝鮮は今までも圧力をかけられ続けているが、それに慣れた結果なんとも感じていない。この状況でさらに圧力をかけても北朝鮮には効かない。

米軍事圧力は朝鮮戦争から継続している。プエブロ号事件が示すようにかつては米艦は沿岸ギリギリまで接近していた。その後も米韓軍事演習では、北からすればいつも侵攻寸前の圧力をかけられている。

また、80年代以降は国際社会からの孤立にも耐久している。83年のラングーンでのテロや、その後の民主化と経済成長により、北は第三世界から距離を置かれている。91年には国連に南北同時加盟できたものの、これはむしろ韓国の地位向上の結果であり、北朝鮮はそのおこぼれにあずかったにすぎない。そして直後にはソ連崩壊と東側ブロック解体により、ほぼ味方はない。つまり指導者、政府・党・軍部、国民は圧力に耐え慣れている。いまさらそのレベルが上っても体制が倒れるとは感じていない。

そして、その経済・社会システムや政治も圧力を織り込んでいる。経済封鎖や国境封鎖があっても耐えられる、あるいは体制は倒れない仕組みができている。

つまり、圧力をかけられても北朝鮮は痛痒と感じないのである。

■圧力は利用される

そして圧力は国内支配体制の安定化にも利用されている。これも対北強硬政策が意味を持たない理由である。

現在の支配体制・統治政策は「外敵に対抗するため」に正当化されている。米国、韓国、日本、いずれは中国による侵略から国を守るため、強力な指導力が必要とされ、強大な軍事力を維持する必要があり、経済的困難は辛抱しなければならない。現体制や政策はそのような論理により成立し、維持されている。

つまり、圧力をかけても北朝鮮支配体制を強固する効果しか産まない。準戦時体制であることを理由に、独裁体制や軍事力は強化される。その点では現体制を温存する結果となる。

当然ながら、圧力程度で対外関係の調整は図らない。最大のアキレス腱、食糧問題についても今の北朝鮮は一応なりとも解決している。かつてのように飢饉が発生する状態ではない。いま圧力を加えられても米中に腰を曲げる必要はないのである。

この点でも、圧力政策は意味がないものである。

■今まで以上に核と弾道弾を作る

最後が、むしろ核と弾道弾生産に傾倒する点だ。圧力は間逆な効果しか産まない。特に米国が圧力をかければかけるほど、北朝鮮は実戦力化を加速させ、多数を生産し配備しようとするからだ。

圧力政策は北朝鮮に「米国は核弾道弾をおそれている」といった確信を与える。北は「米国は本土への核攻撃をおそれている。だから圧力をかけ、やめさせようとしている」と認識している。そして、実際にはそれは誤りではない。

これは「核開発戦略は正しかった」ことを証明するものだ。核弾道弾を実用化し、さらに米本土を攻撃できるようにすれば米国は北朝鮮には手を出せない。また現体制も倒せなくなる。その目論見の正しさを示すものとしかならない。

結果、どうなるか? 北は核と弾道弾の開発・生産を今以上に急ぐ。核弾道の弾道弾搭載と弾道弾の米本土到達能力の証明ができれば、体制も指導者も絶対的に安泰となるからだ。

その点からすれば、圧力政策は全く適していないのである。

■資本主義の毒を飲ませるしかない

つまり、圧力では北朝鮮問題は解決しないということだ。効果が見込めないどころか体制を温存させ、核・弾道弾開発を促進させる効果しかない。

強制的に核・弾道弾開発を止めさせるなら、圧力ではなく実力行使しかない。北朝鮮核・弾道弾関連設備、さらには電力網・交通網をすべて吹き飛ばし、あるいは飢餓作戦により体制が倒れるまで餓死者をださせる。

だが、その選択肢はない。それは中韓日露は許容しない。むしろ妨害をするだろう。米国も人道上、膨大な民間被害が発生する攻撃は実施できない。

では、何ができるか? 一番確実な方法は資本主義の毒を飲ませることだ。経済援助で体制や国民士気を腐らせる。国民に贅沢な暮らしを求めさせ、あるいは一人一人にスマホを与えて体制を批判させることだ。

実際に中国はそれで俗化した。70年代末から80年代初頭は準戦時状態の締め付けが残っていた。だが80年代後半から他国同様に国民は拝金主義に走っている。反体制活動家は00年ころから公然出現しており、時期による緩和と締付のゆらぎはあるものの、特に華南ではほぼ自由報道も行われている。政府や党もその批判を無視できなくなっている。

北朝鮮も同じ効果が期待できる。経済援助は漢方薬のようなものだ。短期間的な効果は見込めないかもしれない。だが長期的にはその体質を改善させ、体制の病的部分を駆逐する。結果、北を馴致されるだろう。

ちなみに、北は東アジア最後の経済成長エンジンとなる。内容はともかく教育は充分なされており、儒教や旧日本支配の影響から勤労の精神は存在している。鉱物やエネルギーの一次資源は充分であり、海に面しているため安価な海上輸送が利用できる。この点でも援助手法は注目すべきものである。

]]> ゴルゴ13、海外安全対策を指南 http://japan-indepth.jp/?p=33997 Thu, 20 Apr 2017 13:30:25 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33997

千野境子(ジャーナリスト)

【まとめ】

・ゴルゴ13が海外安全対策の広告塔に。

・外務省の発案で、対象は中小企業。

・安全対策意識は継続して持つべき。

 

外務省の為に一肌脱いだゴルゴ

漫画家さいとうたかを氏の超ロングセラー「ゴルゴ13」が、日本人や日本企業の安全対策の指南に乗り出した。ゴルゴ13ことデューク東郷を助っ人に仰いだのは外務省で、題してゴルゴ13の中堅・中小企業向け安全対策マニュアルという。

同省ホームページから安全対策の劇画と解説のセットで毎週1回1話ずつ、すでに4話を配信、ゴルゴ13らしく13話(6月半ば)になったところでミッション完了となる。

 

■バングラデシュでのテロ事件の教訓

今やいつ、どこで起きても不思議でないのがテロ。日本人だからと言って安心出来ない。対象も中堅・中小企業に留まらず誰もが被害者になり得る。仕事であれ観光であれ海外へ行く時は、まずはゴルゴ13のアドバイスをしかと受け止めてからの方が良さそうだ。

百聞は一見に如かず。早速ホームページを覗いてもよいが、その前にゴルゴ13登場の背景から。最大のきっかけは、2016年7月1日にバングラデシュの首都ダッカで起きたレストラン襲撃事件だ。28人が死亡、うち外国人は17人で日本人も7人が犠牲となった。

これまで日本企業の海外展開を勧めて来た外務省だが、支援体制は果たして十分だったのか、また安全情報も出して終わりでなく、相手にきちんと受け止められていたのかなど担当の領事局は安全対策の再検討を迫られたのだった。

 

■日本人もテロの標的に

浮かび上がって来たのは、日本人もテロの標的になり得るという厳しい現実、またテロは世界中に拡散し、レストランや広場、交通機関などのソフトターゲットが狙われ、組織に関係ないローンウルフやホームグローンのテロリストが増えていること等々だった。どれもテロ予防を一層困難にする要素で、安全情報の発信にも工夫の要ることが痛感されたのである。

ゴルゴ13の起用は、第1に海外渡航者のいわゆるボリュームゾーンと関係がある。一般に

①留学生などの20代前後

個人旅行の20代から30代の女性

ビジネスマンなど30~50代の男性

60代以上のシニア男女

の4つに大別されるが、ダッカ事件はまさに③それも中小企業関係者たちだった。そして彼らはゴルゴ13の読者層でもあった。ゴルゴ13は読者の7割が30~50代男性といわれる。また1968年の連載開始以来、一貫して国際関係がテーマであることや、発行総部数2億8600万部(全183巻)という圧倒的知名度も後押しした。

外務省を訪れたデューク東郷に外務大臣が任務を依頼、その理由を「あなたが臆病だから」と語る外相に、東郷が「わかった、引き受けよう」と承諾して第1話「外務省からの依頼」は始まる。このセリフ、ゴルゴ13の愛読者ならピンと来るはず。第28巻『スーパースター』にある。

俺がうさぎ(ラビット)のように臆病だからだ……が……臆病のせいでこうして生きている

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■海外旅行者に登録呼びかける外務省

東郷は東京を皮切りに、企業の安全対策にアジア、中東、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカなど11カ国を飛び回る。第2話からいよいよ本題に入り、外務省が2014年から始めた海外旅行登録「たびレジ(注1)を取り上げる。

パキスタンのかつての首都カラチを舞台に、総領事館からのメール情報でハイデラバード行きを取り止め、爆弾テロの巻き添えになるのを回避した中小企業経営者一行のストーリーが展開する。ゴルゴ13がこう呟く。

「たびレジ」が完璧であるというつもりはない……しかし、これが安全対策の第一歩だと……俺はそう思う。

だが実際には、年間1700万人と言われる日本人海外旅行者で「たびレジ」登録者は160万人とまだ1割にも満たないという。これでは外務省がゴルゴ13の手腕にすがりたくなるのも無理もない。

 

■求められる安全対策意識

まだまだ「水と安全はただ」と考える日本人が少なくないということだろう。それでいて、いざ事が起きると政府の邦人保護の責任を追及してやまないのも日本人だ。もちろん国には国民の生命・財産を守る責任がある。しかし究極的には「自分の身は自分で守る」。そのために一人一人が安全対策意識と対応能力を向上させることは、結局自分のためでもある。

大企業と比べて安全対策が後手に回ったり、手薄になったりしがちな中小企業向けになっているが、対象は企業、個人を問わない。とは言え日本に存在する企業386万4000で大企業は1万1000社に過ぎない(2014年版「中小企業白書」)から、ボリュームゾーンでもあるのだ。

最近は官公庁が政策などにアニメやマンガ、映画といったソフトパワーを活用するケースが目立つ。外務省も、かつてイラクのサマーワ連絡事務所で、給水車に「キャプテン翼」の大きなシールを貼り、サッカーが大好きな子供たちに人気を博したことがある。しかし今回のように、毎回ストーリーを作り、完結の暁には単行本の刊行もするほどの取り組みは初めてだ。ゴルゴ13のおかげか、反響も上々らしい。

 

■持ち続けたい安全対策への関心

もっとも能化正樹領事局長は「面白く、話題になるのはよいのですが、それが目的ではなく、基本は安全対策です。ずっと関心を持って頂かないと」と語る。

ごもっとも。喉元過ぎれば熱さ忘れるではいけない。テロや誘拐が起きると危機管理への関心は一時的に高まるが、本当に大切なことは一貫した安全対策とその継続であろう。現地の情勢は絶えず変化することも念頭に置きたい。

第3話、第4話…面白がりながら、シッカリと最後まで読んで、自前の安全対策のマニュアル作りをお勧めしたい。

(注1)たびレジ

海外旅行や海外出張する人が、旅行日程・滞在先・連絡先などを登録すると、滞在先の最新の海外安全情報や緊急事態発生時の連絡メール、また、いざという時の緊急連絡などが受け取れるシステム。https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/

 *トップ・文中画像©さいとう・たかを

]]> 揺れるムスリム対策 http://japan-indepth.jp/?p=33926 Thu, 20 Apr 2017 09:00:53 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33926 安岡美佳(コペンハーゲンIT大学 研究員)

千尋ホッジス(コペンハーゲン北欧研究所 Japanordic.com 所属)

トランプ米大統領のイスラム教徒国からのアメリカ入国制限が物議を醸している最中、ヨーロッパでも319日にEUの司法裁判所が宗教的、政治的、あるいは哲学上の意図を持つ服装、特にムスリム女性のヘッドスカーフを職場で着用禁止にすることは法律上違法ではないとの決定を下した。つまり、事業主は従業員に対してなるべくニュートラルな服装を職場内で求めることができる、という決定である。

デンマークは一般的に「移民」に対してたいへん友好的であり、小国とはいえできる範囲でこれまでもかなりの移民を受け入れてきている。2015年の夏に起きた100万人以上の中東やアフリカからの特にシリア難民のヨーロッパへの大移動は記憶に新しいし、今現在も2年前より減ったとはいえ多くの難民申請がデンマークでも行われている。社会福祉制度が整ったドイツや北欧諸国を難民たちが最終目的地として目指すことは理解できるし、人間的な感情論で言えば多くの人々ができる限り受け入れたい、という気持ちでいるのはまちがいないと思う。ただ、ムスリムの移民たちがヨーロッパ各地で根を下ろし暮らしていくにあたって、受け入れ国の人々が望むことは「言語だけでなく、文化的にも早く打ち解けて、ホスト国である我が国の暮らし方を受け入れてほしい」ということのようだ。そしてこの「同化政策」にはムスリム女性たちのヨーロッパ文化の受け入れと意識改革が不可欠だと思われている。またなかなか進まないことに対しては少なからず「イライラ感」を持っているというのが偽りのないヨーロッパ人の「本音」でもあるようだ。

ムスリム移民の女性たちはほとんど仕事や資格を持たず、家の中で家族や子供達の世話をし過ごしていることが多い。それに比べて北欧の女性たちはほとんどが仕事を持ち、ボランティア活動もしながら家庭があり子育ても並行してやっている。社会保障は国籍にかかわらず惜しみなく与えられ、この高福祉はほとんどの国民が働いて税金を国に収めることで支えられているのである。この見地から去年物議を醸したジュエリーロー(Jewelry Law)注釈1参照 が施行されることになったのである。デンマーク人ばかりでなくスカンジナビア全土で一般的に移民の宗教や政治的立場を批判することはあまり耳にしないが、個人個人に彼らの私見として尋ねると、「ムスリムの女性たちが外に出て働き、この国に溶け込み、精神的、社会的にも自立することを望んでいる」という人たちがいかに多いかがわかってくる。そして、ムスリム女性たちに新しい国でのアイデンティティーを持ち、価値観を共有し、ひいては彼女たちが今後生み育てていくであろう新しい「デンマーク人の子供達」の手本になってほしいと結ぶのである。

「意識改革」ほど「言うは易く行なうは難し」ものはないと思う。生まれてから今まで慣れ親しんだ常識やともすれば人生の根底にある哲学を変えようというのである。時間も経済的な支援も必要なことは目に見えている。アメリカの新しい移民対策をはじめとしてヨーロッパでも吹き始めた「反移民政策」を頻繁に見聞きする中でイソップの寓話、「北風と太陽」を思い出した。トランプ大統領の移民政策がまさに「北風」であり、それを向こうにデンマークが「太陽」になって時間をかけて少しずつ自国の移民同化対策を成功させられれば、それが多くのデンマーク国民の意図するところではないか、と考えている。

注釈1:難民申請者が 1 万デンマーク・クローネ(1デンマーク・クローネは約15 )を超える現金や所持品(ただし結婚指輪などの特別な貴重品は除外される)を持っていた場合、警察が没収できるというものだ。没収品は、難民の住居や食料の費用に充てられることになる。

※トップ写真:デンマークのイスラム系移民 ©北欧研究所

筆者プロフィール:千尋ホッジス

上智大学文学部新聞学科卒、法律関連の通訳、翻訳を中心にオーストラリア、英国、米国で暮らし、子育て終了後は米国人夫とデンマークに在住中。現在はコペンハーゲンで北欧研究所 Japanordic.com に所属し、ヨーロッパ各地を見聞しながらその動向に興味を持っている。

無題

 

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揺るがぬ米の対中国強硬姿勢 http://japan-indepth.jp/?p=33932 Thu, 20 Apr 2017 03:00:48 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33932

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・北朝鮮問題で中国に譲歩したトランプ氏。

・首脳会談でトランプ氏、習近平主席に強硬姿勢示す。

・米の対中強硬姿勢は基本的に揺るがない。

 

米中関係はいまどうなったのか。アメリカと中国はいまや北朝鮮問題をめぐり協調姿勢をもみせ始めた。トランプ政権が中国に対してみせていた厳しい対決姿勢はどうなったのか。

■米中首脳会談、最大の課題は北朝鮮問題

トランプ大統領と習近平国家主席は4月6日と7日、フロリダ州の同大統領の別邸で会談した。この会談では最大の課題は北朝鮮となった。北朝鮮の核兵器とICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を阻むため、トランプ大統領が習主席に北朝鮮への経済制裁を徹底してほしいと強く要請したのだ。習主席もその要請に応じるかのような態度をみせた。その局面をみれば、アメリカと中国は急に協調路線を歩むかのように映る。

トランプ大統領がそれまで中国に対してぶつけてきた不満の数々はどうなったのか。中国の軍事的な膨張には断固として反対するという基本政策はどうなったのか。

私は4月中旬にトランプ政権の対中政策を中心とする緊急報告として『トランプは中国の膨張を許さない!』~「緊急発刊!ワシントン報告」「『強いアメリカ』と上手につき合う日本」「マスコミが報じないアメリカ国民のホンネ!」~(PHP研究所)という本を出した。

内容は単にトランプ大統領の対中政策にかかわらず、対日政策、国内政策、メディアとの戦いなど、トランプ政権の全体像だった。その構成は以下のようである。

第一章 東アジアに安定をもたらす「安倍・トランプ関係」

第二章 中国、北朝鮮と対決するトランプ政権

第三章 反オバマ——アメリカ国民はなぜトランプを選んだか

第四章 トランプの戦い——抵抗勢力メディアと民主党の抗戦

さてこの書の内容を踏まえて、今回のフロリダ州での米中首脳会談の意味を解説すると、次のようになる。

■中国に全面協力頼まざるを得なかったわけ

トランプ大統領は日本の安倍首相ら同盟国首脳との一連の会談をすませた後の2月後半から3月以降も、習主席との会談にはまったく関心がないようにみえた。アメリカ新政権としてのそのための動きの気配さえなかった。

だが水面下ではこの期間、中国側が必死でトランプ政権へのアプローチを試みていたのだ。中国政府の外交担当国務委員の楊潔篪氏や駐米大使の崔天凱氏がキッシンジャー氏のコネなどを利用し、トランプ氏の女婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問に接触した。そしてトランプ大統領が「一つの中国」の原則を守るという言明したうえでの米中首脳会談に応じることを懇願したという。

トランプ大統領側にも習主席に会うことの意外な必要性が生まれてきた。北朝鮮の金正恩委員長のアメリカへの挑戦的な宣言やあいつぐミサイル発射実験の危険な動きだった。トランプ大統領としては金委員長の「アメリカ本土にICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃ちこむ準備を着々と進めている」という言辞にすぐに対応せざるをえなくなったのだ。

北朝鮮の核武装やICBM開発を阻むためには軍事攻撃も含めて多岐な手段があるが、当面は北朝鮮のエネルギーや食糧の供給で死活的な権限を持つ中国に圧力をかけて北朝鮮を動かすことがベストの方策とされた。

だからトランプ大統領自身が「いまの米中関係では北朝鮮への対処が最大の共通の課題だ」と言明するようになったのだ。そして中国に強い圧力をかけることを内外に宣言したのだった。

ICBMこのためフロリダでの米中首脳会談はその土台から通常とは異なっていたのである。トランプ大統領からすれば、本来は中国側に一連の抗議や非難をぶつけることだけが必須の目的だった。中国側の不公正貿易慣行、為替レートの操作、対米貿易黒字の巨額の累積、南シナ海での無法な領土拡張、アメリカ官民へのサイバー攻撃などだった。アメリカは攻める側だったのだ。

ところがアメリカ側は中国に対北制裁の徹底強化を要請することとなった。中国に全面協力を迫ることが必要となったのだ。そうなると、他の対立案件がどうしても後ろに引くことになる。だがトランプ政権が今後中国への関与や協調だけの姿勢をとるわけでは決してない。トランプ大統領が就任前からの強固策を構成する要因はなお厳存するのである。いまの北朝鮮にからむアメリカの対中要請というのが臨時の事態なのだ。

■強硬姿勢崩さなかったトランプ

実は米中首脳会談ではトランプ大統領の本来の強固な対中姿勢ははっきりと示されていた。習近平主席はトランプ大統領からの会談への招きを受けながらも、同大統領の別荘「マール・ア・ラーゴ」での宿泊は認められなかった。滞在先はホテルだった。この点は安倍晋三首相へのもてなしとは決定的に異なる点だった。

しかもこの会談の途中でトランプ大統領は突然に習主席にシリアの空軍基地への爆撃の通知を事後連絡の形で伝えた。外交慣例からはまったくの非礼な対応だった。しかも中国が本来、反対するアメリカの軍事力行使であることも明白だった。

だが習主席はその場であえて反対を表明することもなく、暗黙に受け入れたような対応をとったのだ。トランプ大統領の強圧的な攻勢にすっかり押し切られた格好だった。

■米の対中国強硬策は揺らいでいない

トランプ大統領は肝心の北朝鮮問題については「中国に協力を要請し、もし中国が応じないならばアメリカ一国で対応する」と脅すような発言をした。北朝鮮への予防的な目的での先制軍事攻撃の可能性をも示唆する言葉だった。

このように米中関係の目前の様相は北朝鮮問題という臨時かつ意外な緊急課題の登場によって本来の姿からずれてみえる形となったのである。

だがトランプ政権としては中国側の無法な膨張や利己的な経済、貿易政策への本来の不満をなくしてしまったわけでは決してない。中国の国際規範に反する行動は必ず強固な方法で抑えていくという基本姿勢は揺らいでいないのである。そのあたりの解説を私は自著『トランプは中国の膨張を許さない!』で十分に述べたつもりである。

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トランプは中国の膨張を許さない! 「強いアメリカ」と上手につき合う日本 古森 義久 (著)

]]> 変われるかギンザ 試される集合知 http://japan-indepth.jp/?p=33955 Thu, 20 Apr 2017 02:47:11 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33955

安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト

「編集長の眼」

【まとめ】

・銀座地区でエリア最大の商業施設「GINZA SIX」開業。

・脱百貨店を標ぼう、不動産事業に注力。

・周辺地区との連携や情報発信機能強化が課題。

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■圧倒的な規模と「脱百貨店」

20日、銀座にエリア最大の商業施設が誕生する。その名も「GINZA SIX(ギンザシックス)」。もともと老舗デパート松坂屋(注1)があったところだ。銀座中央通りに面する銀座6丁目が名前の由来だ。J.フロントリテイリング、森ビル、L キャタルトン リアルエステート、住友商事の4社が出資したGINZA SIX リテールマネジメントが運営する。

目玉は、このエリア最大規模約47,000㎡の再開発であること、老舗デパート「松坂屋」の名前が消えたことであろう。確かに道路をまたいだ2つの街区約1.4haを一体的に再開発、訪日外国人旅行者を想定した観光バス乗降所も設置され、規模感は誰の目にも明らかだ。

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さて2つ目だが、敢えて「GINZA SIX」という名前に変えたことについて、J.フロント リテイリング株式会社の山本良一社長はかつて、「松坂屋跡地の再開発にあたり、百貨店をやらない、という決断を致しました。時代と共に変革を遂げてきた銀座の地において必要なのは、今の百貨店を進化させるのではなく、誰もが見たこともない、新しい商業施設を作ることだと確信しております。」と述べている

「新百貨店モデル」、「脱百貨店」などと言われるが、241の世界ブランドが出店していることや、6つのラグジュアリーブランドのフラッグシップ店が2~5層の大型メゾネット店舗を構えていることなどを見る限り、従来のデパートと何が違うのかよくわからないというのが正直なところだ。

■森ビルが参画している意味

ただ、本プロジェクトに森ビルが参画していることで、幾つか脱百貨店的な特徴は垣間見ることができる。建物内の巨大な吹き抜けの天井から吊り下げられた前衛芸術家草間彌生氏作の巨大アートは否が応でも目を引くし、日本の伝統文化を発信する文化・交流施設として「観世能楽堂」が地下に設置されたことなどがそれだ。アートを中心とした情報・文化発信機能が都市の魅力につながることを理解し、実践してきた森ビルならではの提案だ。また、非常用発電設備や帰宅困難者3,000名の受け入れに備えた防災備蓄倉庫の整備などにも六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズで磨いた森ビルの防災ノウハウが活きている。

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■求められる情報発信機能

三越伊勢丹ホールディングスの苦境などを見るにつけ、確かに従来の百貨店モデルの限界は明白だ。だからこその「脱百貨店モデル」だろうが、大艦巨砲主義でどうにかなるものでもあるまい。「GINZA SIX」施設内には都内最大級の1フロア貸室面積(約6,140㎡)を有する大規模オフィスが入る。不動産業に重点を置いたビジネスモデルと言え、確かに収益性は改善するだろう。しかし、入居した各テナントの売り上げが伸びることが大前提であることには変わりはない。

通りを隔てて反対側にはユニクロやGU、新橋寄りには家電以外に時計やジュエリーなども扱う、ラオックス銀座本店もある。もはや銀座はかつての銀座ではなくなっている。“ラグジュアリー”だけで客を引きつけるのは年々難しくなっている。訪日外国人旅行客の数は増え続けているが、一人当たり消費客単価は下がっており、売り上げ確保は簡単ではない。

だからこそ六本木地区で気を吐く森ビルは、芸術・文化などを核に情報発信機能を長年かけて磨いてきた。多くの若者や家族連れが多数詰めかける「六本木アートナイト」などはその最たるものであろう。人を集めるには「モノ」だけでは不十分で、「コト」消費が重要なのだ。まるで引き寄せられるように人々が集い、楽しみ、消費する。そうした街作りが今求められているのだが、銀座地区に欠けているのはそのために鍵となる“情報発信機能”である。

具体的に見ると、デパートが集中する銀座中央通り沿いと、有楽町マリオンや有楽町イトシア、東急プラザ銀座などがあるJR東日本有楽町駅・数寄屋橋交差点周辺は連携しているとはいいがたい。さらに言えば、日本橋地区、丸の内周辺などとの面連携も不十分だ。虎ノ門から新橋方面に整備中の通称“東京のシャンゼリゼ”「新虎通り」なども今後整備が進むが、銀座地区とどう繋げるか、具体的なアイデアはまだ見えてこない。こうした他地区と銀座地区を世代を問わず、人々が自由に回遊できるようになったら大きな経済効果が生まれるだろう。

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おりしも、3年後の2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、会場が近い銀座には今以上の訪日外国人観光客が詰めかけるだろう。世界中の人々を今以上に“GINZA”に引き付けるため、「GINZA SIX」の果たすべき役割は大きい。しかし、単独でそれを成し遂げることは不可能だろう。銀座地区全体がどうコラボレーションして街全体の魅力を高めていくか、各プレーヤーの集合知が試されている。

(注1)2007年に(株)大丸と(株)松坂屋ホールディングスが共同持株会社「J.フロントリテイリング(株)」を設立し、経営統合した。2010年には(株)大丸と(株)松坂屋が合併し、(株)大丸松坂屋百貨店が誕生している。

TOP画像:GINZA SIX4月20日開業(外観)GINZA SIX オフィシャル画像

文中画像:上から、行列の様子 GINZA SIX オフィシャル画像

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