NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス] http://japan-indepth.jp ニッポンの深層を各界の専門家・識者が分かりやすく解説 Tue, 28 Feb 2017 14:00:35 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.5.3 米国民、メディアよりトランプ氏支持 http://japan-indepth.jp/?p=33223 Tue, 28 Feb 2017 14:00:35 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33223

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

アメリカのトランプ大統領と主要ニュースメディアとの対決はさらに険悪となっているが、最新の世論調査ではアメリカ国民のより多くが大統領の側を支持しているという結果が出た。大手メディアも政府に非難され、国民からも不支持となると、存立の基盤までを揺さぶられる深刻な状態へと追い込まれかねないようだ。

共和党のトランプ大統領と民主党支持のニューヨーク・タイムズやCNNニュースなどの主要メディアとの正面対決はさらにエスカレートの様相をみせている。では肝心のアメリカ国民はこの対決をどうみるのか。意外な結果を示す世論調査が明らかとなった。

2月28日に明らかとなったウォールストリート・ジャーナルとNBCニュースの共同世論調査によると、51%のアメリカ国民が「メディアはトランプ大統領に対して批判的すぎる」とみなしているという結果が出た。同時に53%が「ニュースメディアやその他のエリートたちはワシントンでの変化を恐れて、政府が抱えた問題を誇張している」という見解への賛意を表明したという。

同じ世論調査によると、41%は「メディアはだいたいは公正で客観的だ」と判断し、45%が「メディアが実態を誇張しているという見方には反対」だと答えた。一方、6%は「メディアはトランプ大統領に対して十分に厳しくない」と答えたという。

さらに26日に報じられたエマーソン大学が実施した全米世論調査では、現在の大統領対メディアの対立で「トランプ政権の方が正直だと思う」答えた人が全体の49%に達した。「トランプ政権は不正直だと思う」という回答が全体の48%となったという。

同じ調査によると、「メディアは正直だと思う」という回答が全米有権者の39%、「メディアは不正直だと思う」が53%にまで達した。

こうした最新の世論調査を総合すると、アメリカの一般国民の間では主要メディアへの信頼はトランプ大統領に対する信頼よりも全体としてかなり低いことが判明した。

これからまだまだ続くトランプ大統領対主要メディアとの対決だが、いまのところ一般のアメリカ国民のより多くはトランプ大統領側に軍配をあげているという感じだといえる。この点も日本の主要メディアがどう報じているのか。日本もアメリカも主要メディアへの風当たりが一段と厳しくなったことは確実なようだ。

]]> 北朝鮮テロ支援国家指定に拉致問題明記を http://japan-indepth.jp/?p=33216 Tue, 28 Feb 2017 10:00:23 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33216

岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

 

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(33)の指令で、友好国マレーシアのクアラルンプール空港において2月13日の白昼堂々、化学兵器禁止条約で製造・保有・使用が禁じられた猛毒の神経剤VXが、異母兄の金正男氏(享年45)の暗殺に使われたとされる事件は、米国をも震撼させた。

 北朝鮮は同条約に未署名とはいえ、世界中で禁止された猛毒を、外国の領土で、丸腰の自国民の殺害に使ったことで、2月12日の新型の中長距離戦略弾道ミサイル「北極星2型」発射という国連安保理事会の制裁違反の件も合わせ、米政府の態度は後戻りできないほど硬化している。

 

 すでに、トランプ政権発足後で初となるはずだった3月1~2日の北朝鮮高官と米政府の元当局者による接触は中止された。さらにトランプ政権は、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定する検討を始めたと報じられている。

 米国は1988年から2008年の20年間にわたり、北朝鮮を「テロ支援国家」に指定し、貿易や金融面で制裁を加えてきた。

 

 ところが、ブッシュ(息子)政権が指定を解除してしまい、さらに北朝鮮側も制裁をすり抜ける対応策を講じたことで、「もはや北朝鮮を『テロ支援国家』に再指定する意味はない」との声が支配的になっていたのだ。

 しかし、米政府が、「北朝鮮が金正男氏暗殺に、化学兵器禁止条約で禁じられた猛毒を使った」証拠をつかめば、「テロ支援国家」指定は現実のものとなる。具体的要件は、「大量破壊兵器拡散の援助、テロの計画・訓練・輸送・殺人の物質的幇助、それらに対する間接的・直接的な資金援助」だ。

 そもそも米国が1988年に北朝鮮を「テロ支援国家」に指定した要因は、金正日朝鮮労働党中央委員会書記(当時)が同年のソウル五輪開催妨害を狙って引き起こした1987年の大韓航空858便爆破事件(乗客乗員115人全員死亡)であり、その後、同じく金正日による日本人拉致も、指定の理由に加えられている。

 マレーシア警察による金正男氏暗殺の捜査が進み、北朝鮮による国家ぐるみの犯行が認定され、米国政府がその結果を追認すれば、レックス・ティラーソン国務長官(64)が北朝鮮を「テロ支援国家」に指定しない理由は、見当たらない。経済制裁の実効性に難があるものの、象徴的な意味は大きい。

 友好国マレーシアなどからも断交を突き付けられる可能性が高く、北朝鮮ナンバー2で中国との太いパイプだった叔父の張成沢を処刑して以来、中国からも見捨てられつつある金正恩は、世界的に完全な孤立をする。

 ただでさえ周りの者すべてに対して疑心暗鬼に陥っている金正恩が暴走を始め、朝鮮半島における局地戦を開始したり、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を米西海岸とハワイの間に射ち込んで、トランプ政権の報復を招く事態もあり得る。

 

 そうしたなか、忘れてはならないのが、金王朝の機密保持のため、未だ北朝鮮に抑留される横田めぐみさん(52)をはじめとする日本人拉致被害者たちだ。日本人拉致被害者たちに万が一のことがあれば、金正恩本人を含め、容喙(ようかい)しないとの強い態度を、改めて日本政府が打ち出す必要がある。

 その強い態度を裏付けるため、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定する検討を始めた「友人」のドナルド・トランプ大統領(70)に対し、安倍晋三首相(62)は、「再指定の理由に、日本人拉致と抑留を再び明記せよ」と迫るべきだ。

 つまり、北朝鮮が国際社会に復帰するには、テロを放棄するだけでなく、日本人拉致被害者を彼らの老親や家族の元に還さなければならないという条件を、米国に突き付けさせるのだ。米国による承認と安全保障が人生の目的と化した金正恩にとり、日本人拉致被害者に手を出させない抑止力になる。

 また、金正恩の暴走を防ぐため、将来の「テロ支援国家」指定解除という地政学的どんでん返しの可能性を残すことも大切だ。米・朝・日が手を結び、中国と対峙するシナリオにおいて、金正恩に経済協力という「エサ」を与えると示唆しておくのだ。そのような米国と日本からの安全保障を取り付けるには、日本人拉致被害者の即時全員帰国が必須だと、金正恩に教えておく必要がある。

 こうした展開をにらみ、日本人拉致被害者を「テロ支援国家」再指定理由に加えるよう、トランプ政権へ働きかけることこそ、官邸の最優先の課題である。

]]> 金正男暗殺、「アイシャ」とは何者? http://japan-indepth.jp/?p=33205 Mon, 27 Feb 2017 14:00:08 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33205

大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・アイシャ容疑者「同情論一辺倒」報道に変化

・マレーシアはインドネシア、ベトナム大使館の容疑者面会許可

・インドネシアはマレーシアと対北朝鮮で共同歩調へ

 

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄にあたる金正男氏が2月13日にマレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺された事件に関するインドネシア国内の報道に変化の兆しが見えてきた。

実行犯の一人としてマレーシア警察に逮捕されているインドネシア国籍の女性、シティ・アイシャ容疑者(25)を巡るインドネシア国内の報道は、事件発生直後の「事実関係の報道」からアイシャ容疑者の存在が明らかになったことによる「国際的な陰謀の犠牲者、アイシャを救え」という同情論が大勢をしめていた。

ところがその後捜査の進展に伴う様々な報道、情報が加味されるに従い「アイシャとは何者なのか」「アイシャは犠牲者か工作員か」「アイシャと司法」などというタイトルの報道特別番組がインドネシアの民放テレビ局で相次いで放送され、当初の「同情論一辺倒」から冷静に事態を分析しようとする姿勢に変化してきた。

■大使館員との面会が実現

インドネシアのアンドレアノ・アーウィン駐マレーシア大使館副大使は25日、マレーシア警察施設内でアイシャ容疑者と約30分間にわたって面会した。事件後アイシャ容疑者が捜査関係者以外と会うのは初めてだった。大使館職員によるとアイシャ容疑者はこの面会で

①400マレーシアリンギット(約1万円)を受け取り、いたずら番組への出演だと思っていた

②金正男氏の顔に直接塗り付けた液体はベビーオイルだと思っていた

③テレビ出演を依頼されたのは日本人か韓国人だった

④ベトナム人のドアン・ティ・フォン容疑者(29)のことはあまり知らない

⑤健康状態は良好である

などと話したという。

同じ25日にベトナム大使館関係者もフォン容疑者と直接面会。パスポート名義の本人であることを確認したうえで、ベトナム北部ナムディン省にすむ父親にその旨を伝えた。現地からの報道によると父親は「ベトナム外務省から連絡があり娘であることはわかったが、何があったのか今は事情が全く分からない。娘の健康には問題がないことだけはわかった」と話しているという。父親が最後にフォン容疑者にあったのは今年1月の帰省時で、その時は金に困っているようだったとしている。

ベトナム大使館関係者との面会でフォン容疑者もアイシャ容疑者と同じように「コメディのようなビデオ出演だと思っていた」と殺害の意図がなく騙された結果であることを強調したという。

■対北朝鮮の今後を見据えるマレーシア

マレーシア政府は当初、2人の女性実行犯容疑者とインドネシア、ベトナム大使館関係者の面会を強く拒否していた。フィリピンで開催中の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相による会議に出席していたインドネシア、ベトナムの両外相がマレーシアのアニファ外相に対して国際法上の権利として認められている「容疑者への領事の面接」を要請した。しかしアニファ外相は「国内法では捜査中の容疑者には捜査関係者しか面会できない」として拒絶していたのだ。

それが2月25日になって急に両容疑者と両国大使館関係者の面会がマレーシア当局によって許可された。こうしたマレーシア政府の姿勢変化の背景には、今後予想される北朝鮮との間で

①北朝鮮に帰国したとされる容疑者の身柄引き渡し交渉

②事件への北朝鮮大使館員の関与

③暗殺に使用されたとされるVXガスに関する捜査

④金正男氏の検視、遺体引き渡し

などの駆け引きの場面で北朝鮮に対し「国際法の順守、優先」を求める場合を考慮に入れた結果とみられている。

■インドネシア大統領も支援を表明

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2月23日、アイシャ容疑者について「私たちは常に(アイシャ容疑者に)寄り添っている」と述べてインドネシア国民として可能な限りの支援を惜しまない姿勢を示した。

2月17日にユスフ・カラ副大統領が「アイシャ容疑者はある意味国際的陰謀の犠牲者だ」と発言し、国民のアイシャ容疑者への同情論を一気に高めたような不用意な発言はジョコ大統領のコメントには一切なく、弁護士や通訳の派遣、大使館員の面会などを通じて行うあくまで「可能な限りの自国民の保護」を表明するに止まった。こうしたジョコ大統領の発言は、カラ副大統領の同情論に一定の歯止めをかける役割を果たし、国民に冷静さを呼びかける狙いもあったとみられている。

 ■対北朝鮮で共同歩調目指す

インドネシアの民放「ブリタ・サトゥ」は2月23日朝の特別番組「アイシャは犠牲者か工作員か」の中でこれまでの事実関係、情報を専門家の分析を交えながら伝えた。そして番組後半では視聴者からの「犠牲者である」「結果として工作員の役割を果たした」「知らなかったとはいえ、人を殺害したことは事実」などのアイシャ容疑者に対する様々な意見を放映した。

このようにインドネシア現地での報道姿勢が微妙に変化してきた背景には、今回の暗殺事件を通して北朝鮮という国の「極めて恐ろしい実態」をマレーシア政府、捜査当局が改めて浮き彫りにし、その犯罪行為を白日の下に晒そうとしている努力への配慮があるという。

「インドネシアとしてもマレーシアと対北朝鮮で共同歩調をとる狙いがあるのではないか。それにはアイシャ容疑者を犠牲者だ、救えと一方的に同情するより、捜査、司法の判断の行方を見極めることが懸命と判断したのだろう」(インドネシア現地紙記者)との見方が有力だ。

果たしてアイシャ容疑者とは「一体何者なのか」その答えはまだ見つかっていない。

]]> 逆効果だった「カエサル暗殺」 暗殺の世界史入門その2 http://japan-indepth.jp/?p=33199 Mon, 27 Feb 2017 09:00:22 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33199

林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

ユリウス・カエサルの名は、今や日本でも知らぬ人がないほどである。

厳密には、かつてはジュリアス・シーザーという英語読みでもっぱら知られていたが(教科書にまでそう表記されていた)、塩野七生さんの『ローマ人の物語』(新潮社)など、良質な書籍が売れるようになったおかげで、ラテン語原音に近い表記が定着してきた。

歴史上の「超有名人」なので、多くを語る必要もないが、紀元前100年頃にローマの貴族の子として生まれたが、幼少期については信頼すべき資料がなく、生年月日も正確には分かっていない。

長じてローマの政界において頭角を表すようになるが、とりわけ顕著だったのは軍事面での功績で、現在のフランスを制圧したガリア戦争で挙げた武勲により、民衆の圧倒的な支持を集めたが、その一方では、独裁的な権力への野心を隠そうともしない彼を警戒した元老院との対立が深まっていった。

ついには元老院との間で内戦を引き起こすが(紀元前49~45年)、軍団を率いてルビコン川を押し渡り、ローマに向けての進撃を開始する際に、兵士に対して「賽は投げられた」と檄を飛ばした。成否はもはや神のみぞ知る、という意味で、今も人口に膾炙している。文筆家としても歴史に名をとどめている彼は、こうした印象的な言葉を数多く後世に残しているのだ。

この内戦に勝利を収めたことで、終身独裁官という地位を得るのだが、元老院派は収まらず、紀元前44年、暗殺されてしまう。その際も、刺客の中に腹心の部下であったブルータス(こちらは、原音はブルトに近いらしい)が含まれていたのを見るや、「ブルータス、お前もか」と言い残して絶命したと伝えられており、部下に裏切られた権力者の心境を象徴する言葉として、やはり人口に膾炙している。いずれにせよ、世界史をひもとけば数多く見られる政治的暗殺の中で、もっとも有名なもののひとつであろう。

余談ながら、カエサルはガリアでの戦功によって大衆的人気を得たと述べたが、その背景をもう少し説明しておきたい。実はこの時期、カエサルはローマ市内の随所に、元老院との論争の内容をリークする貼り紙をして、世論を味方につけることに成功した。この貼り紙こそが新聞の起源であるとされている。異説もあるようだが、横浜市の新聞博物館の展示でもこの説が採用されており、もっとも有力な説であることは間違いない。

さらに、暗殺の後日談を。ユリウス・カエサルにはアウグストゥスという養子がいた。暗殺の後、彼を中心として、カエサルを神格化して一段と強力な中央集権体制を作ろう、とする勢力が台頭し、元老院の権威を復活させようと考える一派との間で、再び内戦が勃発する。この内戦もまた、アウグストゥスらの勝利に終わり、ここに帝政が始まる。やがてカエサルという名は皇帝の称号そのものとなった。独裁者を除こうと決行した暗殺が、結果的には帝政ローマへの道を開いたとも言えるわけで、歴史は本当に皮肉に満ちている。

ただ、初代皇帝となったアウグストゥスは、カエサルの時代に頂点に達した対外膨脹政策をあらため、平穏な支配を意味する「パクス・ロマーナ=ローマに拠る平和」を実現させたわけだから、このあたりの評価も難しいところだ。

もうひとつ、余談を。このアウグストゥスだが、カエサルの時代までに膨脹したローマの版図、北はゲルマニア(現在のドイツ)からブリタニア(現在のイングランド)、南は中近東一帯までを守るために「常備軍」を編成し、かつ金銭で動く傭兵を多数採用した。

その財源を確保するため、すべての商人に対して「100分の1税」を課した。売り上げの100分の1を納税させるものであるが、これだと税率わずか1パーセントでも、全体では莫大な税収が得られる。

読者ご賢察の通り、これが現代日本の消費税に至る、大型間接税の起源なのだ。

「新聞も消費税もローマに通ず」という言葉は、教科書に載ることはないにしても、知っておいて損はない。

]]> 移民の「聖域」ワシントンDC動揺  http://japan-indepth.jp/?p=33192 Mon, 27 Feb 2017 00:06:26 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33192

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

ここ数日、一気に春らしくなったアメリカの首都ワシントンの私の自宅に女性市長のミュリエル・バウザー氏からの一通の手紙が届いた。「この地域のコミュニティーのみなさんへ」と記された書簡はトランプ政権下での移民政策の変更に対してワシントンDC.つまり首都のコロンビア特別区当局は従来の外国出身の居住者保護の政策を続けるから心配しないように、と書かれていた。

アメリカには年来、移民難民に関して「聖域都市」(Sanctuary Cities)という制度がある。各地の市や郡などの地方自治体がその域内では外国からの違法滞在者に対する法的な取り締まりはせず、地域の住民として公的な福祉を供することを宣言する制度である。つまり外国からの違法な入国者、違法な居住者に対しても摘発や送還など法的措置を執行しないという宣言なのだ。違法の難民や移民にとっての治外法権の地域だともいえる。

ワシントンDCもその「聖域都市」のひとつなのだ。日本ではちょっと想像できない制度だろう。なにしろアメリカに違法に入ってきて、違法な居住を続けても、その「聖域都市」内で暮らす限り、少なくともその都市当局の取り締まりは受けないというのだ。移民の国のアメリカならでは措置だといえよう。ニューヨークの港に建つ「自由の女神」の碑文がうたう「戻る祖国なく、動乱に弄ばれた人々を私のもとに送りたまえ」という理念の発露だろう。

しかしアメリカの違法居住者が合計1100万人にも達し、治安や経済や雇用などでの一般のアメリカ人や合法居住の外国出身者たちにも深刻な悪影響が起きてきたいま、この理念も大きく変わってきたわけだ。トランプ大統領が違法滞在者に対して厳格な措置をとることもそんな移民難民の潮流の変化が原因である。トランプ政権はこの「聖域都市」宣言にも反対を表明し、連邦政府資金を供与しないと述べている。

そんな状況下で私のマンションにも届いた市長からの手紙はこれまでの「聖域都市」の基本は揺るがせにしないという方針の通達だった。具体的には

(1)DC当局は居住者すべてに対して入国の違法合法の地位にかかわらず、従来のサービスを提供する

(2)どの居住者もDC当局の緊急救急サービスや犯罪通報サービスをこれまでどおりに利用できる

(3)居住の状態について市当局の管轄下にある警察など法執行機関が調査や取り締まりをすることを阻む

――ことを明記していた。要するに違法居住者もその違法を摘発することはDC市内ではないのだ、という確認の知らせだった。

ワシントンDCの人口は約70万人、そのうち10万人もが外国生まれだという。その外国出身者のなかには当然、違法滞在者もかなりの数、存在することだろう。

このバウザー市長の手紙はもちろんトランプ政権の最近の移民対策などへの対応だといえよう。バウザー市長は民主党の政治家である。またワシントンDCの住民も全体として民主党支持者が圧倒的に多い。だからこの手紙のような動きには共和党のトランプ政権への党派的な反発がからんでいることは自明である。トランプ大統領という異端の指導者の登場は首都ワシントンをもさまざまな形で揺れ動かすのだ。

]]> 女性政治参加、次は「クオータ制」 http://japan-indepth.jp/?p=33186 Sun, 26 Feb 2017 09:00:35 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33186 「細川珠生のモーニングトーク」2017年2月25日放送

細川珠生(政治ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(坪井映里香)

安倍政権が女性活躍を推進している中、現在女性の衆議院議員の割合は全体の10%にも満たない。そういった現状を打破しようと考える超党派の「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」会長の中川正春衆議院議員に話を聞いた。

議員選挙の候補者数を男女で「出来る限り均等」にするよう政党に促す「政治分野における男女共同参画推進法案」が今国会で成立する見通しとなっているが、あくまで「理念法」。議員連盟としては、ゆくゆくは「もう一つペアとなる法律があって、それを通すことによってクォータ(割り当て)という形」をとっていきたいとした。今回の法案を提出したきっかけは2つあるという。

まず政治ジャーナリストの細川珠生氏が議連の活動の原点を訪ねると、中川氏は、「もともと日本は女性の(すべての分野での)社会参画がなんでこんなに遅れているんだろうという問題意識があった。」と答えた。政治分野以外のそれぞれの分野では、「今の政権だけでなく10何年か前から目標を作ってやってきた」現状があり、それを踏まえて「政治分野でも新たな法律で目標を作ってやっていこう」ということになったという。

もう1つは、「このままなんの制度改革あるいは基本的な枠組みを作らなくても行けるかどうかということになると、どうも今の日本の遅れ方からいくとだめだろう。」との認識があったことを明らかにした。海外では、特別に女性の枠(全体の○○%は女性にしなければならない、など)を作って女性が入っていきやすいように制度化する、いわゆる「クオータ制」を導入してきた国が多い、と中川氏は指摘した。

そうした国々では、「クオータ制」を作った後、全体に及ぼす女性の影響力が出てきて自立し、制度がなくても自然と女性が入ってくるようになってきた歴史があるという。中川氏は、「そういう形が世界の流れの中でわかったものだから、じゃあ日本でもやっていこう。」と法案提出の経緯を述べた。また、中川氏は、市民団体の働きかけも大きかったと指摘した。

それに対し細川氏は、「そもそも女性はそこまでは望んでいなかったり、望んでいない理由として、家事や育児あるいは介護と仕事をうまく両立させていくためにはそこまでの責任は負えないこと。両立できる範囲内で社会とかかわる、あるいは社会で自分の能力を発揮できる場があればいいのに、というのが、政府が進めてきたことに対する女性の本音として多いというのがある。」と指摘した。

まずそもそも女性に家事や育児、介護などの負担が行きがちな社会に問題があり、「社会そのものが変わらない限り女性が男性と同じように働きあるいは責任を負い活躍するというのは難しいと思う。」と述べた。

中川氏はそれに対し、「その意識がないと変わらない。それが女性の視点なのでそれを国会の中に反映させることが必要。」と述べた。その上で、「この法律は理念法で、女性が頑張る環境作らなきゃいけませんよ、という理念だけの話。具体的にやろうと思うとペアになっている法案を通すことにより「クオータ」という形で、例えば政党が意識を決めたら、衆議院の比例代表を男・女、男・女、と半分くらいずつに持っていくことができますよ、というところまで私たちは行きたい。まだそこまでは行っていない。」と述べ、次の段階として「クオータ制導入関連法案」の成立が必要との考えを強調した。

中川氏は、現在女性議員が40%を超えているという北欧の国々も「30年40年前まではそういう状況ではなかった。」と述べた。それが、「福祉国家という形で国を運営していくことを国民のコンセンサスとして決めた時点で状況が変わって、やっぱり女性が必要だということになって施策の中で女性議員が増えた。」という。

その過程で、例えば男性も育休を取りやすくなったり、生まれたときから保育などのケアを受けられる子供たちの環境が変化したりした。同時に、男性も子供の送り迎えを会社で段取りしながらできるなど、家庭の中でいろいろなことを担いやすくなったという。「最初は女性のためにとやってきたが、今振り返って考えてみたらこれは女性のためにやってきたというよりも同じ条件で男性もそれにのっている。結果的に人間性を取り戻すことができた。」と中川氏は北欧の人々が感じていることを紹介した。

また中川氏は、「働くことがすべてではなくて、いかに時間配分の中で家庭を楽しんでいくか、仕事だけじゃなくて自分の世界をそこから見出していくような成熟社会」が女性の参画によって実現できる、と述べた。

細川氏も中川氏の話を聞き、女性活躍推進の風潮を「女性のための法律、女性のために男性が手伝うという意識だった」としたが、「そうではなくてそれぞれ男性でも女性でも個人の生活や家族との時間を大切にできる社会を目指して、女性の視点が入ることによって社会が変わっていくきっかけととらえる。」と考えるべきだとした。

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年2月25日放送の要約です)

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

ラジオ日本HP http://www.jorf.co.jp/index.php
細川珠生公式HP http://www.cheering.net/tamao/#
細川珠生ブログ  http://tamao-hosokawa.kireiblog.excite.co.jp/

トップ画像:©Japan In-depth 編集部

]]> 王家の家督争い 金正男氏暗殺 暗殺の世界史入門その1 http://japan-indepth.jp/?p=33180 Sat, 25 Feb 2017 22:00:00 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33180

林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

2月13日、金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害されたとの速報が飛び込んで来た。マレーシアの首都クアラルンプールの国際空港で、搭乗手続き中に毒針もしくは毒物をしみこませた布で襲われたらしい。北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)委員長の異母兄である。

2001年に、中米ドミニカ共和国のものに似せた偽造パスポートで日本入国を図って摘発され、国外退去処分を受けたことで知られる。本人曰く、東京ディズニーランドに行ってみたかった、とか。

2011年暮れに他界した先代の指導者、金正日(キム・ジョンイル)氏の長男であることから、有力な後継者候補との呼び声もあったが、本人はどちらかと言うと、権力を世襲することに、あまり前向きでなかったらしい。

そうした情報もあったせいなのか、事件から数日の間、日本のマスコミでは「北朝鮮が本当に関与しているのかどうか、現時点では不明」

という慎重な報道姿勢が見られた。直接実行犯とされたグループが所持していたパスポートが、ベトナムやマレーシアなどであったことも、報道が混乱させられた理由のひとつだろう。

いずれにせよ、東アジアの将来を考える上で無視できない人物が殺害されたわけだから、やたらセンセーショナルに取り上げるのでなく慎重な報道をするのは、悪いことではない。ただ、そのことを重々理解してもなお、失笑せざるを得ないようなコメントがあった。たとえば、「闇から闇へ葬ることもできたはずなのに、白昼堂々の犯行には違和感を感じる」などと述べたコメンテイターがいた。

ジョン・F・ケネディ米大統領など、パレードの途中、文字通り衆人環視の中で狙撃され、その映像まで世界に配信されたではないか。

これは決して、揚げ足取りのようなことではない。暗殺か否かを考察する場合、手口などはさほど重要ではなく、動機こそが問題であると、私は言いたいのだ。

今この時点で、金正男氏を殺害する動機を持つ者は誰かと言えば、第一に思い浮かぶのが、異母弟である金正恩委員長である。本人の意志がどうであれ、長兄である正男氏を担いで自分の権力を奪取しようとする勢力が現れるのではないかーーそうした猜疑心に正恩委員長が取りつかれていた、という推測を妨げる材料は見当たらない。

19日夜になって、マレーシアの捜査当局は、この殺害事件で指導的な役割を果たしたと思われる北朝鮮国籍の男4人を特定したものの、すでに平壌に脱出されてしまった可能性があることを認めた。

とどのつまり、身柄を拘束された「多国籍軍」は、最初から当局の目を引きつけるためのオトリだった、と考えて間違いないだろう。拘束された女が、「100ドルもらってイタズラ動画の撮影を持ちかけられただけで、殺意など無かった」と供述していることによっても、それは裏付けられよう。

ここまでのところで、私にとって「驚くべき情報」はなにもなかったが、第一報に接した時から感じていた疑念は、未だぬぐわれていない。

(中国が彼を保護している、という話ではなかったのか?)

というのが私の疑念で、いま少し具体的に述べると、正恩体制になってから、ますますコントロールが難しくなった北朝鮮に対し、中国側が、「いざとなれば、正男を担ぐ勢力を密かに支援することもできる」

などと(もちろん露骨にそこまでは言うまいが)圧力をかける、特異な外交カードとして手元に置いている、という話を幾度も聞かされていたのである。

この話が本当なら、ボディガードもつけていなかった、というのは不自然きわまりない。現時点で考えられる可能性としては、

① 前述の話自体、まことしやかに語られた虚偽の情報であった。

② 中国は、北朝鮮の体制がひとまず安定したと考え、正男氏の出番などないと見た。

③ 逆に、今のような独裁体制など遠からず崩壊する、と見切った。

……といったところだが、真相はそれこそ「闇から闇へ葬られる」であろう。

それにしても、「家督争いで暗殺」などとは、本当に21世紀の話か、と言いたくなる。それこそ、朝鮮王朝時代を舞台とした韓流ドラマの世界で、北朝鮮の支配体制を「金王朝」とは言い得て妙、とも思うが、かの国の人々にとっても、我々日本人にとっても、これはまったく笑い事ではない。

今回から、歴史に大きな影響を及ぼした暗殺事件の数々を紹介させていただく。

]]> 仏、黒人男性に性的暴行で暴動 http://japan-indepth.jp/?p=33169 Sat, 25 Feb 2017 14:00:06 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33169

Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

フランス大統領選がまさにヒートアップしている。今まで、エマニュエル・マクロン前経済相が大統領選で勝利すると予想されてきたが、ここで一気にその予想の行方がわからなくなってきた。

オピニオンウェイが毎日集計する2月20日の世論調査によると、第1回投票における極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首の支持率が27%で上昇がとまらない。マクロン氏とフィヨン元首相はいずれも20%で変わらず、左派は6日の集会でメランション氏がアモン前国民教育相と協力して仕事をしたいと近寄りを見せていたが決裂し、支持率浮上要素とはなっていない。

この結果でもまだ現時点ではルペン氏を除いた他の候補者が当選すると予想されているが、気になるのは16日にアルジェリアを訪れた後のマクロン氏の支持率の低下だ。

アルジェリアでのマクロン氏の発言が波紋を呼んでいる。

「植民地化はフランスの歴史に属し、これは人類に対する犯罪である」

という発言を受け、共和党や国民戦線の議員達の激しい怒りを引き起こし、特にフィヨン氏は彼の言葉は共和国大統領に立候補する資格がないとまで言って攻撃。マクロン氏は、アルジェリアから撤退したフランス人に対して謝罪をしたものの、発言の撤回はしていない。ルペン氏率いるFNはこの発言に「マクロン氏は、フランスを中傷している」ときっぱりと否定。

ルペン氏は21日、訪問先のレバノンでイスラム教の女性が頭を覆うスカーフの着用を拒否し、予定されていた大ムフティ(イスラム法最高権威者)との会談を中止するなど、対イスラムに対する態度が明確だ。こういった点で、ルペン氏への支持がさらに上昇している。

ルペン氏への追い風はそれだけではない。先日起こった、警察による黒人男性への性的を含む暴行がフランス社会に大きな影響を与えている。アフリカ系のフランス人男性は今月2日に、パリ郊外のオルネー・スー・ボアで警官らに拘束された際、性的を含む激しい暴行を受けた。被害者は手術が必要なほど激しい傷を肛門に受け、全治60日と診断されて現在入院中だ。

事件現場に近いボビニーの裁判所前では11日、およそ2000人が被害男性のために正当な裁きを求め、デモを行っていたが、一部が警察と衝突し暴徒化。車や店舗、公共物などを破壊した。その後も、警察との衝突が毎夜起きており、抗議開始から約50人が逮捕された。また抗議行動はマルセイユやナントなどフランス各地でも行われ、連日ニュースで伝えられた。

フランスではパリ郊外の移民が多く住む地域では、強引な職務質問や行き過ぎた取り締まりなど警察への不満が常に存在しており、今回の事件でそうした怒りが爆発したとも言える。しかしながら、各地で移民が起こす暴動に国の治安に不安を抱く人も急増し、ルペン氏の支持率を上げる一要因ともなったのだ。

そんな状況の中、また新たな動きがあった。22日、現在ポー市長のフランソワ・バイルー氏が、マクロン氏と協力することを表明。教育相を務めるなど政治生活も長く、バイルー氏は3回連続で大統領選に立候補したこともある有力経験者だ。このことによりまだ若く経験も少ないマクロン氏に大きな後ろ盾ができたことになり、公約がいまだにはっきりしないなどの問題点も一気に解消するだろう。マクロン氏の人気度と信頼できる経験値を持つバイルー氏が協力関係を結ぶことは、今後の流れに大きく影響してくると期待される。

続々とフランスの中でくすぶっていた問題点が噴き出し揺れているフランス。それ以上に予想外のことが次々と飛び出す大統領選だが、バイルー氏が出馬しないことを受けてようやく候補者が固まったとも言える。これからが本格的大統領選の始まりであり、フランス国民の真の価値観が試される期間の始まりでもあるのだ。

]]> トランプ氏トイレ政策撤回の波紋 http://japan-indepth.jp/?p=33156 Sat, 25 Feb 2017 09:00:40 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33156

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

トランプ大統領がまた一つ、オバマ前大統領の超リベラル政策を取り消す措置をとった。

オバマ大統領は昨年5月、全米の学校に対して、トランスジェンダー(性同一性障害)の男女が校内のトイレやロッカーを男女の区別なく自由に使えることを義務づける大統領令を出して、かなり広範な反発を受けていたが、トランプ大統領は2月22日、そのオバマ令を破棄する大統領令を出した。

たかが便所や更衣所の使い方でなぜ2人の大統領が激突するのか、といぶかる向きも多いだろう。だがこの一件はアメリカ社会での人間関係を律する習慣や伝統の核心にも触れる重要ケースなのだ。アメリカの保守とリベラルの考え方の違いを映し出すシンボリックな論争の主題でもある。

トランスジェンダーとは、「生物学的な本来の性別と自分で認識する性別が異なる人」というふうに説明される。肉体的には男なのに自分としては女だという自己認識を持つ人を想像すればよい。日本では性同一性障害と訳されることが多いが、厳密には同障害とも異なる部分があるとも指摘される。

だから外見だけでいえば、本来は男なのに女性のようにふるまう、あるいは女性のようにみえる人、あるいはその逆に本来は女性なのに男性として生活している人たちともいえよう。日本でも論じられることが多くなった「LGBT」(性的少数者、つまりレズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の範囲内にも含まれる。

さてアメリカでのトランスジェンダーをめぐる論議は高校生や大学生のそうした人たちが学校での便所や更衣所をどうするか、でも広がった。学校でもどこでも公共の場所では便所は普通は男女の別が厳格である。トランスジェンダーでも生物学的な性別に従って、当初は男女のトイレを使うのが一般慣習に沿うとされた。だが本人たちは外見が本来の性別と異なるのだから、異性用のトイレを使いたいという場合がほとんどだった。

こうした背景のなかでオバマ大統領は2016年5月、全米の学校に対して、「トランスジェンダーの人たちがトイレとロッカーの使用は自由に選べるようにする」措置をとるよう命令を出した。厳密には「大統領覚書」という指令だが、連邦政府の指示と同様の効力を持つとされる。全米の学校はそれに従い、ジェンダーフリーのトイレやロッカーを新設したり、トイレに男女いずれも自由に使えることを明記するなどの措置をとった。

本来は連邦議会に法案を出して、新たな法律を作っての新措置とすべきという指摘も多かった。だがオバマ大統領にとって連邦議会は上下両院とも野党の共和党に多数を握られているため、大統領令による以外になかったのだろう。

ところがこの大統領令は性的少数者側から大歓迎される一方、一般からの反発が強かった。とくに保守的、伝統的な価値観を重視する学生や生徒の親たちから激しい反対運動が起きた。全米の20近い州でこの措置を無効だと主張する訴訟が起きた。そもそも全米各地の学校の運営は地元の地方自治体が責任を持つ場合が多いため、連邦政府の長である大統領の指令だけでこうした措置がとられることへの批判も少なくなかった。

トランプ氏は選挙キャンペーン中からこのオバマ大統領の措置に強い反対を表明して、大統領になれば、それを破棄すると公約していた。だから大統領就任からほぼ1ヶ月後にその公約を果たしたわけだ。この問題こそまさにアメリカ社会のリベラル、中道、保守という思考の相違の集約なのである。日本でも起きてもふしぎはない動きだともいえようか。

 

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『日本解凍法案大綱』8章 成功報酬 http://japan-indepth.jp/?p=33161 Sat, 25 Feb 2017 08:20:19 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=33161 牛島信(弁護士)

「大木。さっきも言ったけど、株を買ってくれという話が次々と舞い込んでいる。もっと来る。いっぱい来る。

買う金は俺が出す。

最高でも配当還元、つまり配当額の10年分で買うつもりだから、それは俺の資産でも十分だ。

その後で裁判になる。もっと高くなるだろう。そしたら差額は売主に戻す。

なんにしても弁護士の世話になる。しかし、弁護士を雇う金まではない」

大木の目が光った。高野は気づかない。

「そこで、オマエの事務所でやって欲しい。ただとはいわん。しかし、上手くいったときまで待ってほしいんだ」

「成功報酬で働けってことか」

「以前もあったじゃないか。あれだ。うまく行ったじゃないか」

何十年も前、大木がまだ若かったころ、大木はある破産会社の元オーナーに頼まれて散逸した財産の回収をしたことがあった。もちろん、破産会社の財産はすべて破産管財人という名の裁判所が選んだ弁護士の支配下にあった。その追求をすり抜けた財産が海外にあるので、それを回収したいという依頼だったのだ。そのときのことだった。その元オーナーは初めに費用分程度の金は出すが、原則、すべて成功報酬でやってくれと泣きついてきた。

そう頼まれた大木は、元オーナーがなぜそうしたいのか、その理由を知る必要があった。

弁護士として依頼者のためというだけではない。

そう約束すれば元オーナーのプロジェクトは大木のプロジェクトにもなるからだった。

大木の事務所では、ふだん時間制で報酬を請求する。弁護士が働けば、その時間に時間当たりの単価をかけるのだ。もちろん、経験や知識、なによりもどれだけ依頼者の役に立つかによって、弁護士の時間当たり単価はさまざまだ。

ビジネスの依頼者は金のために弁護士を頼む。会社の取り合いであれ、損害賠償の請求であれ金に直結している。勝てば金になる。負ければならない。しかし、訴訟が続いている間じゅう弁護士を時間制で雇っておける依頼者は限られている。どんな結果が予測されようと、毎月請求があるごとに払う。それが時間制なのだ。

そうではない依頼者のために働くにはどうすれば良いか。

その答えの一つが成功報酬なのだ。

アメリカでは、個人が企業を訴えるときには、初めには弁護士に1ドルも払わないで済むことがある。貧しい人々にとっては闇夜の光明だ。だが、勝てば3分の1から半分は成功報酬という名のもとに、弁護士が持って行ってしまう。和解をすれば手間をかけずにある程度の金になるとなれば、弁護士の側には和解をする誘惑が大きくなる。それどころか、初めから和解を狙って、原告となる人々を弁護士が探して回るという現象も起きてくる。

大木はそういう種類の弁護士ではない。時間制で払ってもらえるなら、それが一番事務所の経営としては良いのだ。精神衛生にもいい。

大木の事務所には弁護士だけでも80人を超える人数がいる。補助スタッフを加えると200人近い。もし依頼者が時間制で毎月きっちりとはらってくれるなら、大木の事務所の収入は月に5億を超えるだろう。だが、弁護士が時間をつかったらその分をすべて払うという依頼者は一部でしかない。

事務所の銀行口座からは毎月、個人ではとても賄えないほどの金額のお金が出て行く。ときどき大木はパートナーと呼ばれる共同経営者に冗談を言うことがあった。

「家賃は待ってくれない。従業員は決まった日におカネが入らないと生活できない。だから、エクイティ・パートナーは自分の取り分は最後になるのさ。ゼロもある。マイナスもある」

エクイティ・パートナーというのは、パートナーという共同経営者のなかでも出資をしているパートナーを指す。27人のパートナーのうち8人でしかない。株式会社の株主に似ている。出資をした幹部もいれば出資していない幹部もいるのだ。出資をしていれば、事務所の帳尻が黒字になれば、それを分け合う。利益の配分ということだ。あらかじめ決めた割合による。大きな報酬を事務所が得れば、パートナーの分け合う利益も多額になる。

実は、一度もマイナスはもちろんゼロになったこともない。大木の事務所のエクイティ・パートナーには年収1億を超す者もいる。それなりにみな潤っている。それでも、アントレプレナーとしての緊張感は強い。1年後の収入など、どこにも保証はない。未来についてなんの当てもない立場なのだ。

大木は依頼者にとってフェアだと思えば、時間制以外の報酬を躊躇しない。着手金と成功報酬というのがふつうだ。場合によっては着手金はゼロにして成功報酬だけにするしかない依頼者もある。金に換えることのできるはずの大きな権利があると言ってみたところで、手元に現金があるとは限らないからだ。大木の事務所は大きなリスクを抱えこむことになる。弁護士やフタッフには事務所から毎月の金を払い続けなくてはならない。しかし、依頼事件が終了するまで金は入ってこない。それどころか、解決しても成功でなければ金にはならないのだ。

その代わり、成功すれば大きな成功報酬を得る。着手金もなしなのだ。依頼者にとっても願ったり叶ったりということになる。

だが、大木が成功報酬の約束を依頼者と結ぶ理由はほかにもあった。

大木は成功報酬に向かって自分を駆り立てる、その緊張感がたまらなく好きのだ。負ければ、ゼロになる。いや、負担した若い弁護士の報酬やスタッフへの給料がすべてコストとして圧し掛かってくる。

だが、成功報酬であればどれだけコストを費やすかは大木の自由だった。依頼者には迷惑をかけない。なにもかも大木とエクイティ・パートナーたちの負担なのだ。良い結果につながれば?依頼者は大いに喜ぶ。大木らも高い報酬を受け取る。

大木は、徹底的に調べて、とことん内部で議論し、鉄壁のような論理を組み立て、そこへ人情を加味し、必勝の布陣を敷く。そうした仕事のしかたがたまらなく好きなのだ。時間は気にしない。コストも気にしない。仕事の質だけが問われる。

だから、若い弁護士に口癖のように言う。

「目の前の仕事は、人類の歴史の流れが君の目の前で一つになって焦点を結んでいるんだ。

原始、人の世に不動産というものはなかった。あったのは地面だ。いや、地面という意識も、言葉もなかったのが始まりだ。聖書に、初めに言葉ありきと書いてあるとおりだ。

それが、1万年前に農業が始まって、すべてが変わった。ここは自分のものだと標をつける奴が出てきて不動産という法的概念が生まれる。やがてその権利を売買し、貸し借りし、そのうち証券化までするようになった。だから、紛争が起きたら弁護士に頼るほかなくなる。すると、紛争予防のための契約書まで弁護士に頼んでつくらなくてはならないことになる。紛争もその予防も、どちらも同じことだ。

弁護士にしか見えない世の中の切り取り方がある。反対に、そこが子どものころ幼い恋の舞台だった場所だったこと、だから或る人間にとって無限の価値がある場所だということなど、弁護士には認識できはしない。

地質学者にとっての土地と弁護士にとっての不動産は違う。同じ地面なのに、まったく別物だ。

しかし、弁護士は場合によっては地質学者の意見も聞かねばならない事件も扱うのさ。

法律は言葉と同じ。なんにでも絡みつく。

そいつが、今、君の体の正面に横たわって、君の手で触れてもらうのを待っている。勉強する奴には見えるものが、勉強しない奴には見えない。見えない弁護士は、極楽トンボの生活を送る。酔生夢死だな。おっと、最近の若い者は漢文には縁遠いのかな」

あのとき、破産した元オーナーの提案にはそれなりの理由があった。金は持っていたのだが、会社を追い出されてみれば溜まり水を抱えて、そこから汲み出す一方の生活でしかないのだ。大きな会社のトップとして一方で売り上げが立ち、他方で経費が出てゆく生活には慣れている。しかし、破産してみれば金が出てゆく一方の生活になってしまったのだった。どんなに大きな池でも、毎日汲み出せばいずれ尽きてしまうものだ。その過程が人間には辛い、耐えられない。想像するだけで不安でいてもたってもいられなくなる。管財人も狙っている。悪い結果ばかりを想像する。悲しいことに、人間は想像に縛られて行動する生き物なのだ。

だからあのとき、成功報酬にして欲しいといわれて、大木は承知した。旨くいけば、時価総額500億円の資産の会社の支配権を取り戻すのだ。どれも管財人の支配の外側にある。元オーナーと大木の間で、成功したときに取り返した会社の資産の20%を報酬として払うという約束をするのに時間はかからなかった。うまくいって会社の支配権を取り戻してしまえば、個人ではなくその取り戻した会社に大木への成功報酬を支払わせることができる思惑もあった。

大木の腹のなかには、3億はかけて徹底的にやってやろうという意気込みがあった。

3億を時間単価が3万円の弁護士で逆算すれば、約1万時間になる。5人のチームで年に一人が2000時間費やすとすれば、ちょうど1年分だった。事件は1年では終わらない。しかし、最初にコストがかかっても、その後は巡航速度に落ち着くものだということも、経験で知っていた。

そうしたやり方が、大木に並の弁護士を遥かに上回る収入を与えてくれた。大木の事務所にいる弁護士もそれにあずかってきた。しかし、あくまで事件の見通しをつけるのは大木なのだ。

世間並みの弁護士では負ける、しかし大木がチームで取り組めば勝てる事件。そうした勝つことの困難な事件が大木の心を揺さぶるのだ。依頼者にしてみれば、頼みたくても時間制では到底不可能な事件。そうした依頼者との出逢いが大木の魂を磨き上げる。勝率を誇る弁護士などは軽蔑している。難しい事件をやらなければ、勝てる事件だけをやれば、勝率は上がるものだ。18歳になって中学校の入試問題だけを解いているような奴らだ。

勝てば、大きなお金になった。勝てなければ?報酬はない。だが、勉強は無駄にならない。事務所の弁護士にとってみれば、法律を学ぶ者としては途方もなく高い給料をもらいながら、毎日勉強し続けることができるというわけだ。その果実は、それぞれの頭や体に蓄積されずにはおかない。必ず次が来る。そのときに高い発射台から飛び立つことができるのだ。

客観的に言えば、成功報酬にするということは大木が訴訟のフィナンシャルなリスクを引き受けるということだった。ただの弁護士はそんなことをしない。自分はリスクを引き受けない。だから自由で中立の立場から公正な助言ができる。世の多くの弁護士はそう考えている。大木もその考えは分かる。そうかもしれないとも思う。

それでも、大木は自分のプロジェクトが欲しくなることがあったのだ。

破産会社のオーナーを紹介してくれたのが高野だった。だから高野は、結局その事件で大木が成功し、大きな収入を得たことを知っていた。具体的な金額は知らなくとも、大木が、金を稼ぐことができたことを喜んでいる以上に、自分の事件についての見通しが正しかったことが証明されたことや、その証明が他のなによりも大木の事務所の弁護士たちやスタッフの努力によって達成されたことを喜んでいることを高野は理解していた。大木はそういう人間なのだ。

仕事では破天荒でいて、趣味は自宅マンションのテラスでの園芸。司法修習生時代に弁護士事務所の先生に盆栽を見に連れていかれたのがきっかけだという。弁護士になるころには斑入りの万(お)年(も)青(と)を好む青年に育っていた。

「あの事件でオマエは歴史を創った。

だから、今度は俺といっしょにそいつをやってくれ。」

高野はテーブルに両手をそろえて、その間に丁寧に頭を埋めた。ゆっくりとした動作だった。

「高野、こんどは俺独りで決めるわけには行かない。事務所はそれほどに大きい。組織は組織としての意志がある。会社と同じだ。

エクイティ・パートナーに話をしてみる。説得できると思うが、決めるのは俺じゃない」

大木の自制した、しかし自信に満ちた声だった。

(9章「価格決定のための非訟事件」に続く。最初から読みたい方はこちら

 

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