NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス] http://japan-indepth.jp ニッポンの深層を各界の専門家・識者が分かりやすく解説 Tue, 24 Jan 2017 02:03:50 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.5.3 トランプvsメディア 国民が犠牲に http://japan-indepth.jp/?p=32676 Tue, 24 Jan 2017 02:00:04 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32676

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー#04(2017年1月23-29日)」

今週からトランプ政権、というかトランプ氏による「ワンマン劇場」が始まる。TPPは仮死状態、「バイ・アメリカン」、「エンプロイ・アメリカン」もスローガンとしてなら良い。だが、米国の企業が外国に出れば関税をかけるとか、日本では米国車が売れないのは不公平などと言われても、全く話にならない。WTO協定との関係はどうなるのか。

トランプ氏はCIAに出かけていって、先週の就任式の一般参加者数について米国のメディアを批判していた。やはり恐れた通り、トランプ氏は「統治モード」にギアを切り替える気はなく、今後も徹頭徹尾、「選挙」、「キャンペーン」モードを続けるのだろう。どうやら、それだけは間違いなさそうだ。

〇欧州・ロシア

23日にフィロン仏共和党大統領候補がドイツのメルケル首相と会談する。24日にはイタリアの最高裁が新選挙法の合憲性について、英国の最高裁が英国のEU離脱の合法性について、それぞれ判断を下すという。26-27日にはユーロ加盟国がギリシャ問題について議論する。欧州では、なぜ時間がかくもゆっくり進むのだろうか。

〇東アジア・大洋州

27日から旧正月が始まる。韓国は30日まで、中国では2月2日までが休みになるらしい。という訳で今週、東アジアは静かだが、23日から27日まで東京で自衛隊が中台軍事衝突を想定した図上演習を行い、在日米軍がオブザーバーとなるという。今回は単なる可能性ではなく、現実となり得るから怖い。

〇中東・アフリカ

23日にカザフスタンのアスタナでロシア、トルコ、イランの三国がシリア和平問題を議論する。シリア問題はジュネーブで議論している筈なのに、なぜ今アスタナなのか。この背景には、ロシアとトルコの両大統領の合意がある。このアスタナ会合はジュネーブ協議を補完するものだというが、実態はロシア・イランにトルコが加わったのだろう。

いずれにせよ、ロシアがシリア問題を本気で解決するとは思えない。ロシアの目的はシリアを未解決にし続けることで、米国に対するロシアの協力の価値を高め、最終的には、ウクライナ、クリミア問題で始まった経済制裁の解除を米国に認めさせることだ。その意味でもトランプ氏はプーチン大統領にとって「鴨が葱」である。

〇南北アメリカ

トランプ氏と米国メディアの戦争が深刻化している。このままガチンコを続ければ、犠牲者が出る。誰が犠牲になるかは現時点ではわからないが、最終的に被害を被るのは米国民だろう。しかし、トランプ氏は気にしていないらしい。彼は「大統領」であり、確信犯的に政策を実行し始めている。当面は誰もこれを止めることは出来ないだろう。

〇インド亜大陸

26日にUAEアブダビの皇太子がインドを訪問する。アブダビとインドが意外に近いことはあまり知られていない。そういえば、アブダビに限らず、湾岸諸国では多くのインド人が中間管理職として働いていたことを思い出した。

 

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

]]> トランプ氏、イスラムテロ根絶宣言 http://japan-indepth.jp/?p=32669 Sun, 22 Jan 2017 14:05:00 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32669

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

アメリカのドナルド・トランプ新大統領の登場が全世界にものすごい波紋を広げ始めた。日本でも衝撃、困惑、懸念、批判などなど、歓迎ではなく混乱の反応が主要メディアを中心にどっとあふれた。その理由の一つは肝心のトランプ大統領の政策にはまだわからない部分が多いことだろう。

だがスタート点でのトランプ氏の言明できわめて明確なのは「イスラム・テロリズムの根絶」の方針だった。しかも国際テロに対して「イスラム」という言葉をはっきり使ったことがオバマ前政権とは対照的だった。さらにそのために他の諸国との「同盟」を強め、広げるとも宣言した。国際的に孤立ではなく連帯の姿勢の言明だった。この点はトランプ政策の読み方では欠かせない枢要部分だともいえよう。

トランプ大統領は1月20日の就任演説でテロ対策として以下のように語った。

「私たちは過激なイスラムのテロリズムに対して古い同盟を強化し、新しい同盟を結成して文明社会を団結させて、その過激イスラム・テロリズムを全世界から完全に根絶する」

この言明で最も顕著なのは「イスラム」という言葉を正面に打ち出した点だった。

一方、オバマ大統領はイスラム過激派のテロと戦いながらも、「イスラム」という言葉を使うことを徹底して避けてきた。その相手が「イスラム国」と自称するイスラム原理主義テロ組織であっても、「イスラム」とは呼ばなかったわけだ。

オバマ大統領はその理由を「アメリカだけでなく全世界に存在する数十億もの平和なイスラム教徒と一部の殺人者たちを混同させてしまう」と説明していた。トランプ氏が勝利を飾った大統領選挙戦では民主党のヒラリー・クリントン候補も「イスラム」という言葉を使わずにテロ問題を論じていた。「この言葉を使えば、アメリカがイスラム教全体と戦っているように状況を描こうとする好戦主義者たちの手中の落ちてしまう」と解説していた。

しかしアメリカ国内では一般には「イスラムの教えがなんらかの形で影響していることが明白なテロ行為に対してイスラムという要素にあえて触れないことは現実をみないことになる」という批判も広まった。トランプ氏はオバマ、クリントン両氏がイスラムへの言及を避けることは偽善だとか偏向だと非難した。そのためか、選挙戦の終盤ではクリントン候補はイスラムという用語をテロ対策に関連しても使うようになった。

トランプ大統領はこうした経緯を踏まえて、選挙戦の主要公約でもある「イスラム・テロリズムとの闘争と撲滅」を新政権の実際の政策として実行に移すことを誓約したわけだ。しかもその方法としてアメリカにとっての従来の同盟の相手国だけでなく、新たな連携を結ぶ相手国の協力をも求めることを宣言した。この点はアメリカ第一を強調するトランプ政権もテロ根絶に関しては国際的な協力を不可欠とする姿勢を明らかにしたのだといえる。

]]> トランプ式経済運営に限界あり http://japan-indepth.jp/?p=32660 Sun, 22 Jan 2017 11:35:38 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32660

「細川珠生のモーニングトーク」2017年1月21日放送

細川珠生(政治ジャーナリスト)

Japan In-depth 編集部(坪井映里香)

2017年1月20日(現地時間)の就任式を経て、正式にドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ大統領に就任した。就任演説では「アメリカ・ファースト」を掲げ、特にTPP(=環太平洋パートナーシップ協定)から離脱する意向を正式に表明。今回のモーニングトークは、TPP担当大臣であった甘利明衆議院議員をゲストに迎え、アメリカと日本の今後の経済協力について話を聞いた。

甘利氏はトランプ氏は「破天荒な大統領」と述べ、「周辺の国々は振り回される一年になると思う。」との見方を示した。同時に、「問題意識を共有して正しいアプローチを共有することが大事。」と述べた。

トランプ氏の「アメリカ・ファースト」の姿勢については、トランプ氏は即戦力として、アメリカ国内のアメリカ国民の雇用確保という具体的な実績をあげたいという使命感を持っていて、それは「政治家として悪いことではない。」と甘利氏は述べた。しかし、企業に対しアメリカに立地をしろ、と強硬な態度を示すのではなく、企業の立地選択の条件についてトランプ氏は考えなければならない、とも指摘した。そうでなければ「きわめて短期的には正しい選択かもしれないが、中長期的には逆にアメリカの足を引っ張る結果となりうる。」とトランプ氏の産業政策には限界があるとの考えを示した。

第一に、そもそも企業がどこに立地するかという選択は、甘利氏によると「競争力が高まるか否か」であるという。メキシコに立地するのはメキシコの方が低コストであり、より競争力が上がるからで、例えばアメリカだと、メキシコほど労働者の賃金が低くなく、高い法人税の存在があるため、結果アメリカで作った車は価格が上がり、競争力がなくなる。輸出をしようとしても、高い車は買ってもらえないので輸出力も低下する。そういう理由で企業はアメリカに立地をしない、と甘利氏は解説した。

企業が立地を考える条件として甘利氏は「法人税を国際水準に合わせる」、「研究開発に恩典を与える」、「規制を緩和して手続きを簡素化する」といった具体的な解決策を上げ、「企業が立地をしたくなるような環境を整える」ことに重きをおくことの重要性を指摘した。

また、(アメリカ車の)輸出の際、関税や通関手続きが障害となるが、甘利氏は、「例えば通関手続きを何時間以内にやる、というルールを作り、日米のような自動車産業先進国共通のルールを途上国などに共通化していく方が中長期的に見てアメリカの自動車産業を進展させる。」と述べた。

第二に、農業をはじめとする第一次産業、製造業など第二次産業、そして情報化革命、と時代とともに産業は発展してきている中で、現在は第四次産業革命が起きている、と指摘。第四次産業とは、ビッグデータやAI等、「コンテンツをどう集めてどう分析するか」という産業である。「アメリカはその先頭をいっているから、常に(国内立地は)付加価値の高い産業へと変わりつつある。」(甘利氏)。新しい産業を担う企業が、国内に立地することで競争力が落ちると判断すれば海外に立地するため、「そういった、産業が変革していくということも指導者としてしっかり見ていて、より付加価値の高い産業が立地できるようなアメリカにしていくという発想も大事。」と述べた。

甘利氏は具体的にGoogle、Facebook、Amazon、AppleなどのIT企業の名をあげ、こういった企業がアメリカに本社を置けるようにすることで法人税をアメリカに支払う、という体制をつくれるようにするということだ。

「旧態依然としたままの産業がアメリカに立地すれば稼げるという考えは間違い、そういう産業はどうやってブラッシュアップできるかということに環境整備していく」ことと、「時代を担う産業はアメリカが先導して、アメリカに本拠地をおいて活躍するというような、全体を俯瞰する能力が必要」と述べた。

細川氏は甘利氏の話を受け、トランプ氏がTPP離脱の表明をしていることに対し、日米関係とTPPの重要性の発信を、もっと日本がしていくべきだと思う、と述べた。TPP交渉を行った甘利氏はそれに同意し、トランプ氏の二国間交渉を重視する姿勢に懸念を示した。トランプ氏は、二国間の交渉であればアメリカが相手を押し倒せるからアメリカに有利、と考えていると甘利氏は述べる。しかし、「通商交渉で大事なのはゼロサムゲームではない。」と指摘。つまり、片方が得をして片方が損をする(=ゼロサム関係)ではなく、「通商交渉はウィンウィンゲーム」であると述べ、多国間の交渉が重要だとの考えを強調した。

そのために「大事なことはルールの共通化。」と述べた。「できるだけ多くの国が集まって、これを共通ルールにしていこう、共通にしたものを世界展開していこうというもの。」と述べた。TPPの重要性は、「WTOが動かない中でルールを共通にしていく」こと、と甘利氏は認識している。日米が主体で作ったルールをアジア太平洋標準にし、さらにアジア全体、中東、アフリカ、そしてヨーロッパへという順に、「日米で作ったものが世界標準になる」という点が最も重要なTPPの意義であると述べた。

細川氏は、「日米関係の継続の中でトランプ氏がいい国を作ってほしい。」とトランプ大統領の今後の政権運営に期待を示した。

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年1月21日放送の要約です。ラジオ放送ネット視聴サービスRadikoにて放送後1週間は録音を聞くことが出来ます。)

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

ラジオ日本HP http://www.jorf.co.jp/index.php
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]]> 「慰安婦像問題」自制と冷静さが必要 http://japan-indepth.jp/?p=32650 Sat, 21 Jan 2017 22:00:23 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32650

「細川珠生のモーニングトーク」2017年1月14日放送

細川珠生(政治ジャーナリスト)

Japan In-depth 編集部(井上紗希)

今回の「細川珠生のモーニングトーク」は、コリア国際研究所所長の朴斗鎮さんをゲストに迎え、釜山の慰安婦像問題を中心に、日韓関係について伺った。

昨年12月末、韓国・釜山の日本領事館前に設置された、慰安婦像。菅官房長官は長嶺安政駐韓大使、森本康敬釜山総領事を一時帰国させた。

日韓合意で慰安婦像の撤去の努力をする、慰安婦問題そのものを不可逆的に解決していくということで、(今回の慰安婦像問題は)日韓合意違反という解釈も出ている。今回の日本の対応について(大使の召喚等)、朴氏は「これは朴槿恵大統領に対してというより、次の政権に対して我々日本は、あなた方のいうようにそれ(日韓合意)を破棄したり、再交渉したり、というようには応じませんよというシグナル。そういう意味では、私はやはりある種の警告として、(日本政府の対応は)当然なことではないか。」との見解を示した。

さらに「外交的合意というのは、どちらかだけに有利にはならない。最大公約数をまとめたのが日韓合意。そういう意味で、これ(日韓合意)を守っていくことが、日韓の親善のためにもなるし、お互いの発展のためにもなるという、日韓合意の中に込められた精神を、尊重するべき。」と主張した。

韓国の政権が変わるという状況の中、日韓合意自体を見直すべきだ、という意見も出ているが、今の韓国に対処する能力があるのかと細川氏が問うと、朴氏は、「はっきりいって韓国側は対処する能力はない。大統領が職務停止ですから。」とし、「お互いに自制して冷静にならなければならない。お金の問題は出さない方が良いのではないか。」との見解を示した。

また、「堂々と外交的手続きを踏んで、一旦、日本の態度は表明したわけだから、次の政権につながるようにきちんと今は蓋をしておく。これ以上広がらないように処置をする。」ということが大切だとした。

さらに朴氏は「その方法として、政治的にはもう決着したが人間の心は政治だけで全部決着するわけじゃない。その歴史認識や慰安婦に対する色々な考えとか。それは人権人道の問題として日韓両国の国民が、これからどんどん交流していく中で、お互いの誤解をもっとほぐしていけば、また後の世代であの時の合意を一歩進めてこういう風にしましょう、文章にしたためましょうとかなるかもしれない。人権人道の問題を、韓国側の団体があまりにも政治問題化して、日韓が協調できない状況にもっていくというのは何らかの邪(よこしま)な政治的意図が働いている可能性もあるのではないかと思う。」と述べた。

日韓関係は北朝鮮との関係の中でも非常に重要だ、と細川氏が指摘すると朴氏は「日韓関係は、日朝、日韓、南北、この3つのトライアングルの中で起こっていること。日韓の中だけで問題を見ていれば、この正しい内容はよく分からないし、本質が出てこない。」と述べた。

20日にトランプ新大統領が誕生する。このことについて朴氏は、「トランプ氏というのは、以前のアメリカの大統領と比べると、理念を強調するのではなくて、経済的損益に中心がある。理念が間違っていても、儲かるのであればやろうじゃないかという風に出られると、日米韓で今まで固まっていた外交安全保障の連帯が崩れる可能性がある。」との懸念を示した。

さらに、「日本がトランプ氏を上手くコントロールして、日米同盟を盤石にしておく。それが日韓関係を良好に持っていくキーポイントだと思う。日韓の間でも、慰安婦像だとか、目先の問題に囚われて大騒ぎするのではなくて、急がば回れで、そういう時こそ何が根本か、日米関係を良好にして、日米同盟を強固にする。そう言った中で、日韓問題を解決していくというアプローチがいいのではないか。」と日米関係の重要性を強調した。

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年1月14日放送の要約です。ラジオ放送ネット視聴サービスRadikoにて放送後1週間は録音を聞くことが出来ます。)

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

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]]> EUを生んだカトリック左派 しぶとい欧州の左翼 その2 http://japan-indepth.jp/?p=32639 Sat, 21 Jan 2017 14:00:33 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32639

林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

EU(欧州連合)の初代委員長で、共通通貨ユーロの導入はじめ現在の「統合されたヨーロッパ」の実現に大きな功績を残したジャック・ドロールは、1925年パリ生まれ。14歳の時に第二次世界大戦が勃発し、パリもナチス・ドイツ軍に占領された。年上の友人の多くは、対独レジスタンスに参加して命を落としたという。

実は農民だった彼の父親も、第一次世界大戦に動員され、ドイツ帝国軍の砲撃で瀕死の重傷を負わされた。その戦傷が直接の原因だったのかどうかまでは明確な記録や証言がないが、戦後すぐ離農して、パリの労働者街に移住している。このため、終生ドイツ人を憎んでいたそうだ。

ジャック・ドロール(以下ドロール)自身も、思春期に上記のような体験をしていることを思えば、大のドイツ嫌いになっても不思議ではなかった。しかし、そうはならなかった。

シャルル・ドゴール将軍率いるフランス亡命政府は、戦争に勝った後も、復讐からはなにも生まれないとし、ソ連の脅威に対抗する意味もあったとは言え、「ドイツとの歴史的和解に基づくヨーロッパの平和的連帯」を模索するようになったからで、ドロールはこの思想に共鳴したのである。

その一方、熱心なカトリック信者であった両親の影響で、13歳の時にCFTC(フランス・キリスト教労働者同盟)に加入している。

いわゆるカトリック左派の全国組織だ。カトリック左派と言われても、一般の日本人にはいささかイメージしにくいであろうが、キリスト教の教義に照らせば、貧富の差は悪に他ならないので、これを正してゆくべきである、とする思想は、結構古くからあるらしい。

中南米のカトリック教会の中からは「解放の神学」と呼ばれる思想が台頭し、ニカラグアでは左翼政権誕生に寄与するなど、国際的な注目を集めた。フランスのカトリック左派もまた、労働者や零細農民を貧困から解放するためには、教会を中心とした慈善活動だけでは限界があるとして、政治活動に力を入れ、この結果「第二の左翼」の別名を授けられるまでになっていた。

ドロール自身、自分の政治的な立ち位置が左翼であると自認しながらも、「マルクス主義に心惹かれたことは一度もない。フランスの左翼でこういうことを公言するのは、私くらいなものだろう」

と語っている。そんなドロールだったが、社会党(第一の左翼?)の方では彼を放っておかなかった。

1974年の大統領選挙で、左翼統一候補となったものの、中道右派のジスカールデスタンに敗れたミッテラン社会党主は、CFTCの中心的存在となっていたドロールを、社会党ナンバー2として迎え入れたのである。

ドロール自身、いつかフランスの首相になりたい、という野心を抱くようになっており、ミッテランの勝利を見越して、勝ち馬に乗る決心をしたものと衆目が一致している。ドゴール派にも近い左翼という特異な人脈を持っていたのも、これで説明が付く。

1970年代後半から、ヨーロッパで左翼勢力が大きく伸び、相次いで政権を奪取した背景については次回に述べるが、ミッテランも1981年の大統領選挙に勝利し、左翼連合政権を誕生させた(その後、共産党は離脱)。しかしながら、ドロールは首相の座にはつけなかった。彼は生粋の左翼とは見なされず、したがって左翼政権支持者の間で人気がなかったので、ミッテランとしても指名を躊躇せざるを得なかったのだ。そこでドロールは、「首相が無理ならEC(当時)の委員長に」という交換条件を持ちかけ、ミッテランも受け容れた。

その後フランスは、1986年の議会選挙で社会党が大敗したのをきっかけに、保革共同(保守派のシラク首相が就任)を経て保守政権へと変遷するのだが、ECの機能を強化してEUへと発展させる上で、ミッテランとドロールが果たした役割は非常に大きい。

とりわけ1989年に冷戦が終結すると、フランス社会党は、党是をそれまでの社会主義国家建設からヨーロッパ統合へと大きく舵を切ることになるのだが、この原動力となったのも、ドロールを筆頭に「第二の左翼」から社会党政権に合流してきた面々であった。

EUについては、その拙速な拡大主義とともに、社会主義的政策の数々も、しばしば批判の対象と成ってきたのだが、その当否はひとまず置いて、成り立ちと思想的背景から見たならば、さほど奇異なことではないとご理解いただけるであろう。

]]> 目指せ!第二の創業時代 http://japan-indepth.jp/?p=32643 Sat, 21 Jan 2017 09:00:45 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32643 嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

中小・零細企業群の中で「2017年問題」が大きな注目点となっている。団塊世代(1947~1950年生まれ)の経営者が70歳を迎え始め廃業が急増するとみられているからだ。日本の企業数は約382万社(2014年現在、中小企業庁発表)。そのうち99.7%が中小・零細企業で成り立っている。

いま中小企業の経営者年齢で最も多いのは2015年時点で66歳、20年前は47歳の働き盛りの世代が社長として最も多かった。数字的にみると、結局20年前の社長がそのまま経営してきたものの、ここへ来て高齢化となり後継者不在で悩める状況にあるというのが2017年問題の核心といえる。

しかも後継者不在は売り上げ規模が小さいほど高い。帝国データバンクの調べだと7割にのぼり、1~10億円未満で約7割、10~100億円未満で約6割となっている。また2015年の企業の休廃業、解散件数は2万6700件で、2009年以降は毎年2万5000件を超す高水準(東京商工リサーチ調べ)で推移しているのだ。後継者がいなければ廃業に追い込まれるしかないわけである。

■後継者不足を乗り越えよう

後継者難の解決で最も望まれているのは、①自分の身内・家族か親類が継ぐ、②企業ごと第三者に売却――で、これがうまくいかないと従業員の中から選ぶか、廃業ということになる。日本の中小・零細企業は戦後の焼け跡から起業したところが多く、従業員数が数人からせいぜい数十人といった規模で、従業員10人未満が4割以上とされる。

多くは大企業の下請けとして生き残ってきたが、自ら技術開発を行ない独自の製品、部品を作って競争力をつけてきた企業もある。幸い日本経済は1950年代後半から成長軌道に乗り、60~90年は高度成長を謳歌した。その間の70年代に2回の石油危機に見舞われてマイナス成長のいっときもあったが、日本人の勤勉さや忍耐強さなどで乗り越えてきた。

バブル時代以降の構想力を

本当に苦しかったのは、バブルが崩壊した90年代以降だろう。金融の大再編をはじめとして鉄鋼、家電、流通などのあらゆる業界で倒産や統廃合が行なわれ、特に東京への一極集中で地方の衰退が目立った。産業界で大きな倒産や合併などがほとんどなかったのは自動車業界ぐらいだったのではないか。

その他の産業で生き残ってきた企業はリストラをしたり、海外に市場と安い労働力を求めて何とか息をついてきたというのが実情だろう。中小・零細企業は、大企業とともにリスクを賭けて海外に進出し、何とか生き延びてきたのだ。

ただ、世界を見渡すと日本は安定した部類に入るとみられ、差し迫った危機感はない。たぶん、高度成長時代に蓄積したストックを取り崩したり、約20年にわたって実質賃金が上昇せず社員がガマンしてきたことによって何とか持ち応えてきたといえる。その結果、消費はちっとも拡大せず大きな設備投資もないまま今日に至っている。

そのためかつてのような大家族は見当たらず少子化が進む一方で、このことが人口減少となって表面化している。今の出生率で進むと2050年には日本の人口は1億人を割ってしまう。対策を打たないと2100年には4959万人まで減少する(内閣府調べ)という見通しもあるほどだ。

戦後の創業、起業家精神を取り戻そう

この流れを打開するには、やはり経済、とくに中小・零細企業が活性化するしかないだろう。戦後の日本は敗戦の廃墟の中から企業が立ち上がって今日の礎を築いたのだ。ソニー、パナソニック(松下電器)、シャープといった家電メーカーやトヨタ、ホンダ、日産などの自動車産業も僅かの人数でソケットや電球、オートバイなどの製作からスタートしてきたのだ。その家電や自動車、機械業界などが輸出で日本経済を引っ張り、60年代後半から一億総中流時代となって家電製品や車、住宅などの消費ブームを起こし高度成長に繋げてきたといえる。

その間、日本企業はアメリカ、ヨーロッパなどの企業を次々と追いつめ、日米経済摩擦、日欧摩擦などを引き起こし、金融や産業のルールを変えられてきた。当時はまだ新興国が育っていなかったから日本の一人舞台といってもよく、“働き方”ならぬ日本人の働き過ぎも摩擦問題のテーマになったほどだ。

戦争直後の日本が、多くの企業の創業時代だとすれば、いま日本に求められているのは第二の創業だろう。アメリカは古い産業に代わってITやバイオ、宇宙、医薬などの産業が次々と立ち上がり、アップル、グーグル等々の世界企業を生んできている。日本の技術水準、人材、感性、工夫と発想などを起業化に結び付け、売り方を工夫すれば日本の第二の創業時代を呼び込むことも夢ではないはずだ。

リストラやM&A(買収)などで企業規模を大きくすることより、中堅でもピカリと光る企業群を数多く輩出すれば、若い人々の夢にもつながろう。実は日本にもそうした企業は数多くあるのに、なぜかあまり注目されていないのは残念なことだ。

経済産業省では、日本のはばたく中小・零細企業の名前や実例を特集することがあるが、2016年5月に「はばたく中小企業・小規模事業者300社」と「はばたく商店街30選」を選定しているのでこちらも参考になるだろう。

 

参考)「はばたく中小企業・小規模事業者300社」「はばたく商店街30選」

http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/monozukuri300sha/index2016.htm

(中小企業庁HPより)

]]> 『日本解凍法案大綱』6章 社団法人 http://japan-indepth.jp/?p=32632 Sat, 21 Jan 2017 02:03:05 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32632 牛島信(弁護士)

高野から大木に電話がかかってきた。固定電話だから先ず秘書がでる。高野なりのこだわりなのだ。携帯に、あるいはスマホに電話することは簡単だ。大木とはそうしても当然の仲だ。しかし、相手がなにをしているか分からないのに傍若無人に邪魔立てするのは紳士のすることではないと思っている。だから、昼間の時間には秘書の出る固定電話にかけてくる。そして用件を言う。できるだけ急いで会いたいというのがその用件だった。確かに、本人をむりやり呼びださなければならないという話ではない。それに、大木はそのとき自分の部屋にはいなかった。

高野という男は、いつでも自分の言葉をきちんと整理している男だ。火急のときは火急と、急ぎだがそれほどではないときには、できるだけ急いでと言う。そうでないときには?そもそも電話などしてこない。

(できるだけ急いで、か。そもそもこの世の中でできないことは誰にもできないことなのだから、そんな表現はどれだけ中身のある言葉なのか)

大木は独り心のなかで思いながら、秘書の手書きのメモを机の上において電話を返す。

「わかった。

今日は輿水信一郎先生の励ます会があってな。6時半から東京プリンスだ。7時には事務所に戻っているようにはできる。それでいいか?」

「ああ、輿水信介の息子さんだろう。俺も行かなきゃいかんのだが、今日は止めとく」

「俺のほうは彼の親父さんの代からの付き合いだからな。行かんわけにはいかん」

「輿水信介も惜しかったな。あの人は世の中を変える力のある人だった」

「息子の輿水信一郎もいいよ。売り出し中のイケメン議員だ。なにより飲み込みが早い。決断力がある。実行に手間ひまかけない。

俺は総理大臣になる器の男だと期待している。

その先生の顔を拝んだらすぐに事務所に戻って来る。あの世界では、顔を見せているかどうか、つまり、身体を動かしたかどうかが重要なんだ。それで誠意は測られる。参加者は1000人近い。金屏風の前の本人にあいさつすれば、それでその日は会場で話をするチャンスはない。だから、すぐにいなくなっても構わない」

「わかった。7時だな」

(できるだけ急いで。でも、できないことはどうにもできません、と)

大木はスマホを切ると、独り呟いた。

高野の母親が墨田のおばちゃんに、息子が買取りを承知したと告げると、あっという間に同じような非上場の少数株主からの依頼が高野のもとに次々と舞いこんできた。墨田のおばちゃんが、高野が買ってくれるという返事を聞いたとたん、嬉しさと安心のあまり自分の手元にあった古い紙切れが500万円で売れることになったと年寄り友だちにしゃべらずにはおれなかったのだ。

「川野純代さんて子どものころからそういう人なのよ」

なかば言い訳のように高野の母親は息子に言った。

友は類をもって集まる。

川野純代なる老女の周囲にいた女性の多くが、同族会社の株主になっていた。中小企業を創業し、成功して死んでしまった男の妻だった老女たち。相続したのだ。戦後の復興とともに会社を興し、その後にやってきた日本の高度成長を支えた中小企業のオヤジさんたちが、妻や子どもを残して死んでしまった。1910年代に生まれ、多くは1980年から90年にかけて死んでいった男たち。鉄工所を創った男もいた。その鉄工所の荷物を運ぶ運送会社を創った男もいた。そんな男たちが運転するオート三輪が、部品に加工された鉄を載せて忙しくバタバタと音を立てながら狭い路地を走り回っていた。

路地は子どもたちの遊び場でもある。子どもたちが紙芝居に夢中になっていて、オート三輪が来るとそのときだけ道の端に寄る。かつて存在したそうした街が、時の経過とともに、土がむき出しで雨が降ると決まってぬかるみになったのが舗装道路に替わり、子供たちはそんな道路から追い出されて塾にかようようになり、誰もいない乾いた道路を大型の車両が我が物顔に走るようになっていった。そのうち、いつのまにか街全体が年老いてすっかりしぼんでしまった。

相続があればその度に会社の株は分散していく。そうやって同族会社の少数株主になった人たちが墨田のおばちゃんの話を聞いて我がことと高揚したのだ。

それだけではない。創業者の下には、いっしょに会社を支え、株を分けてもらった男がいた。いわば番頭格の、創業者にとって右腕とも称すべき男たちだ。その男が死んで、遺族にはなにがなんだか事情がよくわからないままに、とにかく株が財産のなかに紛れ込んでいたというケースもあったのだ。

おばあさんには子どもがいる、孫がいる。なんのことはない、そうした人々を相手に墨田のおばちゃんは、高野のきわめて効果絶大かつ無料の広告塔になっていた。ネットでもSNSでも、情報は伝わる。しかし、決め手になるのはいつも口コミだった。その口が現代では電波に乗っている。それだけではない。年寄り同士、ことに女の年寄りは顔を合わせて、とりとめのないおしゃべりに熱中する。その機会に、ねえ聞いて聞いて、こんなことがあったのよ、といった調子で話す。年寄り同士と言ったが、少女たちの集まりだったころと心は少しも変わらない。小学校の同級生だった女の子たちは80年経ってもお友だちでいる。男にはないことだが、女では珍しくもない。下町の少女たちは生まれた同じ場所に住み続け、そのうちに下町の幼女が下町の老女になっていくのだ。

その数が10社を超えていると聞いて、高野は驚いた。高野は、改めて大木に相談に行かねばならないぞと自分に言い聞かせた。その自分の心のなかに、なぜか驚きだけではなく同時に安ど感のようなものが存在していることに高野が気づいていたからだ。

高野は説明しがたいなにかを感じて安どしたのだった。我ながら不思議な気がした。

外の力にわけもわからないままに突然に掴まれ、抵抗することのできない強い力で一方的に引きずられる。運命が有無を言わせない力で高野の体を締めつけて自由を奪い、高野の体を道具のように使ってその意志を遮二無二実現していく。運命に人生を支配されている者の倒錯した快感に似たものが高野にあった。思えば、高野はこれまでの人生をいつもそうやって、外部のなにかに拘束されて生きてきたのではなかったか。

今の妻の英子に出逢ったときがそうだった。ちゃんとした妻がいて、一生かかっても使いきれない金の100倍どころではない金をわずか数年で稼いでしまっていた。妻とそれなりに楽しく安穏に暮らしていたのに、英子の顔を見た瞬間に心がからめとられてしまった。だから、1000億を超える資産を投げ捨てるように何もかも叩き売ってしまったのだ。

もちろん、高野はそのときなりに己の意志で自分が選び取ったものだといつも思ってきた。だから、高野にはこんどの安ど感の正体がわからない。

大木の事務所の同じ部屋に、前のときと同じような形で高野と大木が向かい合って座っていた。

高野は、かいつまんで状況の説明をした。

「どうやら、俺は古びたおかしな壷を拾って、うっかりそいつの蓋を開けてしまったらしい。

海の底を網でさらっていたら、網の底のほうにゴミといっしょになって古めかしいアラビアの小ぶりな壺が入っていた。そいつを右手の親指と人差し指の先で摘みあげてみた。目の前にかざして蓋をひょいと開けたら、煙とともにとんでもない大男が現れたって図だ」

「オマエ、アラジンと魔法のランプの話のつもりか?

それとも墨田のおばちゃんの続きか?

なんのつもりで言ってるのか知らんが、あれはもっと時間がかかる」

「わかっているさ。あれはもうオマエの手のなかにある。俺は少しも心配していない。

今日は別の話だ」

「別の話?」

「ああ、そうだ。墨田のおばちゃんの件、そいつがとんでもないところに俺を引きずってゆくらしいっていう話だ。

俺だけじゃない。オマエも俺といっしょに行くことになる」

「らしいって、いったいなんだい。いくらオマエと俺の仲でも地獄までいっしょってわけには行かんぞ」

「この世の話だ、心配するな」

「墨田のおばちゃんの株を買い取る話だろう?

あれは会社からは予想どおり断りが来て、もう裁判になっている。この間も話したとおりだ。ま、予定どおりってとこだがな。

オマエはどちらでもいいと言ったが、できるだけ高い値段にしたいんだ。裁判所に経緯と筋を理解してもらえば、かならずオマエもびっくりする金額にしてもらえる。裁判所は常にフェアだ。少なくともフェアであろうと努めている。つまり、果報は寝て待てってことだよ」

「違う、違うんだ、大木。

それはそれでいい。

その話で来たんじゃない。墨田のおばちゃんがくれたアラビアの壺の中から煙とともに出現した巨人のことだ。

俺は思うところがあってな。だから、オマエにきちんと話してしておきたいんだ。相談ごともある。オマエにとっても大事なことだ。それで来たんだ。

壷から出てきた巨人が俺に向かって、ヤレ、ヤレってけしかける」

高野はまなじりを決しているように見えた。その迫力に大木は思わず座り直した。

「墨田のおばちゃんに株を買うと伝えたら、私の株も買ってくれという人がたくさん現れた。

初め、俺は少し慌てたんだ。

芥川の『蜘蛛の糸』って読んだことあるだろう。カンダタという人殺しや盗みといった悪事を尽くした男が地獄に落ちてもがいている。お釈迦さまがふっと、そのカンダタも生前に蜘蛛を踏み殺しそうになって慈悲心を起こして助けてやったことをおもいだす。それで自分のいる極楽から蜘蛛の糸を一筋、地獄のカンダタに向かって垂らしてやるのさ。カンダタは喜んでその糸に飛びつく。せっせと登る。どうやら地獄を抜けだせそうだというはるかな高みまで昇って来て、ほっとして下を見ると、その蜘蛛のか細い糸に無数の人間がうじゃうじゃとしがみついていて、カンダタとおなじように必死に昇ってきているじゃないか。そこでカンダタは「この糸はおれだけのものだ。お前らなんかは地獄に戻れ!」と叫ぶのさ。その瞬間、プッツリと糸が切れて、それでお終い、だ。むごい話だ。

俺もカンダタじゃないが、「この細い糸が切れちまうじゃないか」と叫びだしそうだった。だってそうじゃないか、俺の財布をあてにしてあっという間に5つ10もの会社の株主がすがりついてきたんだ。きっと20や30では済まないことになる。20社でも、1社500万で1億からの金が要る。もし何億にもなったらどうしようかって、正直なところ、さすがの俺も怖くなったんだ」

「正直なところ、か。自分の顧問弁護士には正直に頼むぜ。弁護士に見栄を張るとオマエの損になる」

「まあ黙って聞け。

そのうちに俺は、これは天命だなと感じたんだ。天が俺に命じた、と。

だから、今日ここにこうやって座っている。

俺は、その人たちの株を買い取って、株主になって会社に働きかけたい。値段じゃない。買わなくってもいい。いっしょにやるというのなら、それでもいい。俺は、会社ってのはフェアに株主に接しなきゃいかんと思っている。過半数の株を持っていれば、後は知らん顔ってのは、どう考えてもおかしい。

そのためには、まず情報が要る。値段なんてのは、その後の可能性に過ぎない」

「ああ。そのとおりだ。コーポレートガバナンス・コードにもそう書いてある。初めに開示ありき、だ」

「だろう!そこだよ」

高野は満足そうに声に力を込めた。

「俺は、世の中の非上場会社がフェアな経営をするようになってほしいんだ。

少数株主がフェアな扱いを受けるようにしたいんだ」

「しかし言ったろう。現実問題としてオマエは非上場会社の株主にはなれない。

所詮当て馬にしかなれないんだよ。

そんなことを百も承知でやる奴がいたら、世間は薄汚い金儲け目当て野郎だと悪口を言うぞ。人は金が儲かることでないと動かないと世間は信じている。己の心に潜む嫉妬には気づかないままに、な」

と大木が言うと、

「それは違う。俺には買って儲けるつもりはない。買ったあとで他に転売するつもりなんか少しもない。

俺は、自分の利益は要らない。義を見てせざるは勇なきなり、なんだ」

「そんなこと、誰が本気にするかな。いや、オマエが本気だと見てくれるかな」

「問題は会社にある。経営者、社長だよ。最大限の経営をしていれば誰も文句は言わない。だから、上場会社ではコーポレート・ガバナンスが言われ始めた。

だがな、大木。

上場会社の少数株主はマーケットがあるから売ればいい。

しかし、非上場会社、同族会社の少数株主はどうしたらいいんだ?

非上場会社のコーポレート・ガバナンスなんて誰か言ってるのか。

俺はそれをやる。

買った株を売るのはどうでもいい。だから、買った後の売値なんかには興味がない。そもそも転売するつもりが俺にはない。

根本の一番大事なことを抜きにして、売買するために受け皿になるってのは良くない。転売して金を儲けてやろうってために決まっている。薄汚い、やつだ」

 

(第6章その2に続く。最初から読みたい方はこちら

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デンマークの最新シェアリング経済 http://japan-indepth.jp/?p=32619 Tue, 17 Jan 2017 11:49:52 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32619 鈴木優美(北欧研究所シニア研究員)

資本主義や新自由主義に代わる新しい経済の形として、シェアリング経済が注目されている。デンマークではもともと19世紀末の農業協同組合運動の伝統から、組合や協会を作り、仲間でシェアすることが広範に行われてきた。サマーハウスやボートを親しい仲間と共同で所有したり、住宅の建物を居住者が共同所有したりする居住形態もごく一般的である。

一般にはシェアリング経済というと、Airbnb、Uberがまず想起され、これらは当然デンマークでも広く利用されている。しかしデンマークのシェアリングエコノミーの範囲は、ホテル代わりの民泊や一時的なカーレンタルといった程度にとどまらず、日常的な通勤のアレンジから、工具の貸し借り、不用品の交換まで実に多岐にわたる。なかでもとくに人気があるのは、GoMore(ゴー・モア)というカーシェアリングサービスである。

GoMoreは、マティアス・ムル・ダルスゴーとソーアン・リースという二人のデンマーク人が、2005年にドイツで哲学を勉強していたころに発案したもので、乗り合いのためのポータルとして多く利用されるようになった。長いこと趣味ベースで行われていたが、2011年にパートナーを得て、2013年にはフルタイムベースで事業化された若い企業である。現在は、デンマークのほか、スウェーデン、ノルウェー、スペイン、フランスでサービスを実施している。提供サービスは、乗り合い、車のレンタル、車のリースの三つである。

自家用車を運転してどこかに行く時に、せっかく移動するのだから、残りの空席を誰かと乗り合いをすることで、そのガソリン代等のコストを部分的にカバーすることを考える。これが乗り合いサービスである。運転手の側からも乗客の側からも、出発地と目的地、時間などの条件から検索することができるようになっており、合意が成立すれば詳細な約束を取り付けられる。乗客は無料で構わないという人もいれば、バスや電車などの他の手段よりも安価な額を請求する人もいる。車内という小さな空間の中で、偶然巡り合った旅の道連れとのおしゃべりを楽しむことが目的で、お金は二の次という人も少なくない。デンマークの地方都市では、今でもヒッチハイクする若者も少なくないため、こうしたサービスが広がる土壌は十分にあった。

加えて、自分の車を使わないときに他の人に貸し出すカーシェアリングをアレンジするサービスがある。例えば、夏休みに3週間外国に行くときに、どうせ使わない車を人に貸し出せば、休暇中の小遣いの足しになる。(加えてAirbnbで住居も貸し出せば、休暇中にかかるお金さえカバーできてしまうかもしれない。)貸し出しにおける保険の対応なども、既定の手続きを踏むことで、万が一、貸し出し中に事故が発生した際の対応にも同社が仲介に入ることで大きな問題に拡大するのを防ぐ。友人同士で単に貸し借りする場合には、こうはいかない。

また、リースのサービスについては、協働関係にあるリース会社からGoMoreのマークを付けた新車を月定額でリースすると同時に、そのリースした車を自分が使わない数日間を別の人に貸し出すことで、次の支払いを割引してもらえるサービスである。これによりかなりの低額で、常に必要な時に安定して同じ新車に乗ることができるうえ、12カ月ごとに新車を替えることができる。

重要なことの一つは、同社のこうしたサービスが会員制となっており、相互信頼に基づいて行われていることだろう。車種、ナンバープレートの登録とともに、これまでの乗客の口コミなどが見られ、知らない人の車であっても安心して乗ることができるように配慮されている。仲介者としてGoMoreが入り、お金のやり取りを仲介する(例えば乗り合いの場合、手数料は運転手の受け取る額の10%)ことで、乗客が約束の料金を払わなかったとか、待っていたのに約束の場所に現れなかったといった事態が起きた時への対応ができる。

また、成功の基盤となっているのは、協働パートナーの存在である。自動車リースに関しては、世界32か国にオフィスを構え、140万台を擁するリース会社のLeasePlanがバックアップにつく。個人の自家用車貸し出しに関する保険については、2004年に設立されたノルウェーのProtectorが賃貸自動車保険サービスを保障する。全国各地にあるガソリンスタンドのQ8社との協働では、GoMoreの乗客全員にガソリンスタンドで無料のコーヒーがもらえるサービス、GoMoreを使って車を貸し出す人には貸し出し前に車を半額で洗浄するサービスが提供されている。

そのほかにも、GoMoreの乗客が雨などの時に、協働するフェリー会社の入り口で濡れずに車にピックアップしてもらうのを待つことができるサービスや、警察や交通安全評議会との協力によるアドバイスなどがパートナーシップで行われている。こうした利用者にとって必要とされたり、あると嬉しいサービスが完備されたりしていることが多くの利用者に支持されている理由であろう。

TNSGallupがNordeaの依頼で行った新しい調査によると、こうしたサービスの利用者のインセンティブは、半分以上のケースでお金を稼ぐ、あるいは節約するためであり、環境に配慮してという回答は25%程度に過ぎなかった。GoMoreのアイディアはもともとそこに行く予定のある人が、環境に余分な負荷をかけることもなく、ほかの乗客と乗り合いするというものである。それに比してUberは、いわば一般の人がお金を稼ぐためにタクシーの代替をするものであり、タクシー会社の「競合相手」として市場に受け止められ、向かい風に遭っている。GoMoreによる平均移動距離は230㎞であり、金稼ぎの目的でするような走行ではありえないと同社の社長はいう。このベースがシェアリング経済の要である。若いチームで形成されたGoMoreの柔軟なアイディアが、今後も各地で普及していく見込みは十分である。

 

参考リンク 

GoMoreホームページ 

https://gomore.dk/

BT紙 2017年12月7日

http://www.bt.dk/krimi/gomore-direktoer-uber-har-aldrig-vaeret-samkoersel

Søndagsavisen 2015年10月2日

http://www.sondagsavisen.dk/bolig/boligogpenge/2015-10-02-derfor-vaelger-danskerne-deleokonomi/

]]> 誤報大賞「毎日新聞 憲法のある風景」 http://japan-indepth.jp/?p=32605 Tue, 17 Jan 2017 09:00:06 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32605

Japan In-depth 編集部(井上紗希)

Japan In-depthと日本報道検証機構 GoHoo とのコラボ企画。楊井人文代表をゲストに迎え、2016年誤報ワースト5について聞いた。

 

ワースト5 「安倍首相、初の真珠湾訪問」

去年12月6日に〝28日、安倍首相が真珠湾を訪問〝と報じられた。現職の総理大臣としては初の真珠湾訪問と各メディアが揃って報じた。しかし実際、現職として初めて真珠湾に訪れたのは、1951年の吉田茂首相である。読売新聞の記事のみ、この事実が書かれていたと楊井氏は述べた。

51年に吉田首相が真珠湾訪問した当時、このことを記事化したのは、読売新聞とAP通信のみ。さらに外務省も記録に残していなかったという。訂正記事を出したのは朝日のみで、その他各社は、政府の追認があってから、続報記事という形で、吉田茂首相訪問の事実を報じた。

現職の総理大臣が真珠湾訪問という重大なことにもかかわらず、このような誤報がされたことについて、楊井氏は「65年前とはいえ、歴史的事実を忘れてしまうのは良くないこと」と批判し、さらに安倍編集長は「世紀の誤報」と述べ、メディア各社に反省を求めた。

 

ワースト4「中日新聞 新貧乏物語ねつ造事件」

中日新聞が2016年のキャンペーンとして力を入れていた連載、「新貧乏物語」。5月19日付で「病夫 絵の具800円重く」という記事が出た。記事の内容は、“貧しい家族の父が、病で倒れ仕事を失い、母がアルバイトで家計をやりくりしているものの、中学生の娘に800円の絵の具すら買ってあげることができない。”というものであった。

しかしこれらのエピソードは記者のねつ造であったことが判明した。記者は取材で得たエピソードに、事実とは異なったエピソードを付け加えたそうだ。同年10月、ねつ造記事が出た約5ヶ月後に中日新聞は訂正記事を出した。記者は「原稿をよくするために、想像して書いてしまった。」と謝罪。後日、見開き2面の検証記事も出された。

 

ワースト3「ダム底 高濃度セシウム」

毎日新聞が9月25日、福島第一原子力発電所周辺のダムの底にセシウムが流れ、溜まっていると報じた。以前からセシウムが溜まっていたのは周知の事実だが、それをさもスクープのように報じた。記事の中には複数の誤報があった。10月4日、訂正記事が出たが非常に小さく、よく読まないと見逃してしまいそうなほどであった。翌2日後、詳しく訂正記事が出た。記事の中で濃縮と書かれていたが、蓄積と濃縮は全く違うものである、と楊井氏は指摘した。この記事は毎日新聞の地方部によって書かれた記事で、しっかりと科学環境部からのチェックを受けていなかった。

 

ワースト2「参院選 改憲勢力 3分の2」

以前この番組でも取り上げたこの問題。2016年の7月に行われた参院選で、各社メディアは、「今回の参院選の結果、『改憲勢力』が初めて衆参とも3分の2を超え、改憲発議が可能になった」と報じた。「改憲勢力」という言葉でくくっているが、改憲への立場はそれぞれ異なっていると楊井氏は指摘。

さらに、3分の2を超えたのは今回の参院選が初めてではない。3年前、2013年の参院選の結果、自民党、公明党、日本維新の会、みんなの党は改憲勢力と言われていて、既に参議院の3分の2に達していた。今年の参院選では、自民党、公明党、日本維新の会、日本のこころを大切にする党の4党、それに無所属の数名を足して162議席を獲得した。楊井氏は「3年前もすでに達している話。だから今年が初めてではない。」と指摘した。

社民党、共産党以外、広い意味での改憲勢力といえば既に9割を越している。「調べた限り、広い意味での改憲勢力は2001年からずっと8割を越している。ただ、皆がバラバラで話し合いをしようとしない。常に党派争いをしている。だから、いつまで経っても何も具体化していないだけのことで、その状況は3年前でも6年前であろうが今年(2016年)であろうが同じこと。状況は変わらない。だから今年の7月に改憲勢力が3分の2獲ったとみんな大騒ぎしたけれども、何も進んでないということは、別に3年前と変わらないということ。」と楊井氏は主張した。

日本報道検証機構の指摘により朝日、読売は11月に訂正を出しているが、テレビは訂正していない。「改憲勢力とは、何をもってどこを改憲勢力というのか、メディアがその都度、勝手に、ここまでが改憲勢力で、あとは護憲勢力というように、恣意的にやっているだけであって、客観的に見ればそんなに変わっていない。」と楊井氏は述べた。続けて、「なぜ、具体的に進んでいないのかと、物事の本質に立ち返らないと意味がない。さもなければメディアは毎度の選挙で、改憲勢力が3分の2を超えたかどうかで騒ぐことになる」と懸念を示した。

 

ワースト1「毎日新聞 憲法のある風景」

毎日新聞の連載の中での誤報。以前この番組でも取り上げたこの記事は、年始に出された。「信じる私 拒まないで」というタイトルで出された記事は、イスラム教に改宗した女性二人のインタビュー記事である。イスラム教に改宗したことによって、受けた差別や辛い経験のライフストーリーを記している。この記事には、事実誤認や事実無根のものまで含まれているという。「信じる私 拒まないで」という趣旨のタイトルは、1人の女性のコメントが引用されている。しかし女性はこのコメントを言っておらず、このような主張は、思ってもいないことだという。彼女たちは、イスラム教に改宗したことにより辛い思いをしているわけではないそうだ。女性のうち1人は事前に記事を見て、“記事を出さないで”、とまで言っているのにもかかわらず、世間に記事が出てしまった。

安倍編集長は「これもねつ造ですね。」と誤報というよりはねつ造だと述べた。楊井氏も「そういう意味では、先ほどの新貧乏物語と非常に構造的に似通っている問題。何が似ているかというと、1つはまず連載記事で、社会部の目玉キャンペーンでやっているということ。それと、もう一つが、この記事を担当した記者が地方からの応援記者であるということ。先ほどの、中日新聞の新貧乏物語も実は若手の応援記者が書いている。ストーリーをきちんと作るために、色々(ストーリーを)盛ってしまっているというパターンが非常に似通っている。」とワースト4の中日新聞との類似性を指摘した。

また楊井氏は「キャンペーンの連載記事だけれども、ストーリーを盛らないことを日頃からきちんと言って、無理にストーリーをでっち上げないように、そういう雰囲気を作らなくてはいけないと思うけれど、それができてなかったのでしょうね。」と社内の普段からの指導が大切であると主張した。この記事は第三者による有識者委員会で審査となったが、同委員会は取材された2人の女性にヒアリングをすることはなかった。さらに委員から問題視されたにもかからず明確な訂正も出されなかった。

 

伝統メディアか新興メディアか

先日問題になった、ネットメディアのWELQ。この問題を指摘したのは、BuzzFeed というネットメディアだ。新興メディアが伝統メディアよりも先に問題を指摘していた。テレビはこうした状況にもかかわらず、ネットメディアを一括りにし、「ネットにはこういう問題がある、という論調」を展開した。楊井氏は、「ネットメディアという表現は良くないと思っていて、なぜなら、マスメディアもネット使っている。(ネットを)使っていないメディアはない。」と述べた。

さらに「伝統メディアもきちんと(新興メディア)を公平に評価しなければいけない。きちんと(WELQなどの)問題点を暴き出している新興メディアもあるということを全く言及していない。」と批判した。安倍編集長は「新聞、テレビなどの中の人たちは、あまり新興メディアを見ていない。」と述べ、「伝統メディアだろうが新興メディアだろうが、ねつ造もあるし誤報もあるということを我々は理解しなければならない。」と読み手の意識も大切だと述べた。

楊井氏は「メディアの質というのは、伝統メディアであろうが、新興メディアであろうが、公平にチェックされる時代に入りつつある。伝統メディアだから大目に見られるということもない。ネットだから許されるという話でもない。」と述べた。

 

ファクトチェック

ファクトチェックとは、事実に関する公的言説を偏りなく公平に検証し、さらに根拠を明確に示して、真偽の判定結果を発表する活動である。グーグル(米国)はファクトチェックタグを導入、Facebook(米国)もファクトチェック機能を導入している。

具体的には、誤報の疑いがある記事を、ファクトチェック団体が指摘する記事を添付して、読者に注意喚起するということをグーグルがやろうとしている。Facebookは、読者が記事を怪しいと感じたら、通報できるという機能である。

アメリカのデューク大学で、世界のファクトチェック機関を調査しているが、日本で登録されているのは、日本報道検証機構のみである。日本もファクトチェック機関がより増えることを期待したい。最後に安倍編集長は「報道の中身」を絶えず自分も検証するということがすごく大事。」と締めくくった。

 

(この記事は、ニコ生【Japan In-depthチャンネル】2016年12月21日放送の要約です)

トップ画像:ⓒJapan In-depth 編集部

 

【訂正 2017年1月20日】

本記事掲載時(2017年1月17日)、タイトルを

誤報大賞 「安倍首相、初の真珠湾訪問」

としましたが、正しくは

誤報大賞 「毎日新聞 憲法のある風景」

でした。誤ってワースト5を見出しに取ったもので、ワースト1の「毎日新聞 憲法のある風景」を取るべきでした。お詫びして訂正いたします。(Japan In-depth編集部)

 

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メディアと対立トランプ政権最悪の船出 http://japan-indepth.jp/?p=32600 Tue, 17 Jan 2017 02:00:28 +0000 http://japan-indepth.jp/?p=32600 宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー#02(2017年1月16-22日)」

今週のハイライトは何といっても1月20日の米大統領就任式だ。トランプ氏はそこで一体何を語るのか。過去10回の大統領選挙を見てきた筆者も、今回ほど後味の悪い結果はちょっと思いつかない。こんな不思議な気持ちは2000年の大統領選挙以来ではなかろうか。皆様には申し訳ないが、今回は昔話から始めたい。

2000年の選挙は史上最も接戦となった大統領選の1つだった。当時も一般投票で敗北し、選挙人投票で勝利した候補が大統領となった。こんな結果となったのはB・ハリソン大統領が当選した1888年の選挙以来。2000年の際はフロリダ州の結果判明が遅れ、法廷闘争にまでもつれ込んで大混乱となったので、覚えている方も多いだろう。

個人的には、友人がアル・ゴア候補の側近だったので、すごく損した気分だった。ゴアが勝っていれば、友人は間違いなくNSC担当大統領補佐官になっていたからだ。ついでに言えば、ゴアが勝っていれば、あのような形でアフガン戦争やイラク戦争が起きることは絶対なかったと断言できる。勿論、歴史に「IF」を言っても仕方ないが。

今年はどうだろう。まず言えることは通常ならある「ハネムーン」期間がないことだ。特に、新政権とメディアの関係は酷い。結婚する前から別居が始まったようなもの。米国の新政権発足には、大なり小なり、混乱がつきものなのだが、このトランプ政権だからこそ、無駄な動きをせず、適切な政策立案・実行に努めて欲しいものだ。

 

〇欧州・ロシア

先週末14日、米軍部隊4000人がポーランドで駐留を開始した。歓迎式典でポーランド首相は米軍を「世界一の軍隊」と讃え、「素晴らしい日」だと述べたそうだ。日本の一部には「米軍出ていけ」などという声もあるが、同国首相のこの発言は本音だろう。一方、17日からダボス会議が開かれる。およそ同じ欧州とは思えないのだが。

〇東アジア・大洋州

先週から日本の首相がフィリピン、豪、インドネシア、ベトナムを訪問している。いずれも日本にとっては重要な国ばかり。体力的にも、精神的にもタフでなければできない仕事だが。これほど外交に精を出す日本の首相がこれまでいただろうか。 お世辞抜きでHats Off(脱帽)である。

〇中東・アフリカ

18日に国連がいわゆる「イラク核合意」とイランの経済制裁違反事例に関する報告書を発表する。トランプ大統領はこの核合意に反対しているが、閣僚レベルでも意見の相違があるので、議論の行方が気になる。個人的には筆者も合意には反対だったが、今更合意自体を破棄すれば、状況は更に悪化するだけだと思う。

〇南北アメリカ

先週BuzzFeed.comという無責任なサイトが公表(注1)した、トランプ陣営とロシア情報機関との関係に関する35頁の極秘調査報告の内容には非常に驚いた。

中身は未確認だから詳しい論評はしない。ご関心があれば、原文を読んでみて欲しいが、トランプ陣営はメディアや議会からの照会に対し誠意をもって対応すべきだ。今のようなメディアに対する喧嘩腰の対応では疑惑は解消しないだろう。

問題はトランプ氏の醜聞の真偽ではなく、米国の民主的選挙が外国の情報機関の介入を許すことによって、その正統性自体が傷付くか否かである。そうでなくとも、欧州諸国の内政に対しロシアが干渉しているのではといった噂は絶えない。トランプ氏が本問題の重要性を過小評価すれば、政権運営は増々難しくなるだろう。

〇インド亜大陸

特記事項なし。

 

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

(注1)https://www.documentcloud.org/documents/3259984-Trump-Intelligence-Allegations.html

 

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