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国際  投稿日:2015/12/14

[林信吾]【排外主義の奔流にどう立ち向かうか】~ヨーロッパの移民・難民事情 その13~

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 林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

執筆記事プロフィールblog

やはり、心配された現象が顕在化してきている。

パリでのテロ事件の際、犯行グループの一人が、難民を偽装してシリアからトルコに入国していたと発表されたが、これで難民に対する世間の目が、またまた厳しくなるだろう、と私は直感した。またまた、とはどういうことか。

もともとキリスト教の土地であるヨーロッパにおいては、ムスリムの移民・難民は、ともすれば排外主義の標的にされがちであった。しかしながら今年9月、ボートが転覆して溺死した、一人の男の子の写真がメディアに公表されるや、多くの人がヒューマニズムに突き動かされ、難民の受け入れ拡大に理解を示すようになったのだった。

その矢先、今次の事件である。米国カリフォルニア州でも、イスラム過激派の思想に感化されたと見られる男女による乱射事件が発生し、直後に共和党の大統領候補を目指すドナルド・トランプ氏が、「当面ムスリムの入国を拒絶すべき」

と演説して、大きな反響を呼んだ。大部分は、ネガティブな反応ではあったが。

ヨーロッパで比較的長く暮らしてきた私は、よく知っているのだが、こういう差別的と言うか、世に言う「政治的に正しくない」発言を、あえて口にして豪傑ぶるような、しょーもない奴は結構多い。

若い連中の中には、地下鉄の中などで、これ見よがしに有色人種を威嚇するようなのもいる。私自身、一度からまれたことがあったが、酒臭いチンピラが、オックスフォード大学少林寺拳法部のコーチ(当時)にケンカをふっかけて、どういう結果を招いたかは、まあ読者のご想像に委ねよう。

私が「顕在化」という表現を用いたのは、話がここにつながってくる。遺憾なことだが、欧米において多数派を占める白人キリスト教徒の意識の底には、肌の色や宗教を異にする人間とは共存できず、したがって国境の内側には入ってきて欲しくない、という思いが、もともとあると考えざるを得ないのだ。だからと言って、米国の大統領選挙に打って出ようという、世界で最も影響力のある地位を目指すほどの政治家の口から、こんな言葉を聞くとは驚き呆れる他はない。

それだけテロのインパクトが大きかった、ということではあるのだが、わが国でも、難民受け容れ反対を唱える声が、日に日に勢いを増しているようだ。しょーもない排外主義者はどこの国にもいる、で済まされないと思うのは、「難民の中にテロリストが混じっていたら、誰が責任をとるのか」という論理に対して、有効な反論がなかなか難しいからである。

もちろん基本的には、北朝鮮の工作員が混じっている可能性が強いから、という理由で在日に対する排外主義を正当化できないのと同じことなのだが、現実問題として偽装難民がテロに走った以上、この論理で国民の大多数を説得できるかと問われると、なかなか難しいだろう。

現実的な解決策として、いわゆる難民認定に際して、身元や思想的背景をより厳格にする必要はあるだろう。そのためには、中東における情報収集能力を高めねばならないが、これはもともと、日本の外交にもっとも欠けている部分でもあるので、ここに人員と予算を振り向けることは、一石二鳥の効果を生みこそすれ、断じて税金の無駄遣いなどにはならない。

ずいぶん昔に、たしかウィスキーのCFだったと思うが、「悪魔のように細心に天使のように大胆に」というキャッチコピーがあった。日本の難民政策は、寛大な国であるという国際的プレゼンスの確立を目指しつつ、国内の治安維持には細心の注意を払わねばならないという、きわめて難しい事態に直面している。右のキャッチコピーのような精神で、難局を処理できる政治家は現れないものか。

(写真:”Refugees from Syria to Sweden 03″ by Frankie Fouganthin – Own work. Licensed under CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons )

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