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.政治,.社会,.経済  投稿日:2016/2/7

消費税法は消費者と関係ない~消費税という迷宮 その1~


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

まず、消費税という名称からしておかしい。

……突然なにを言い出すつもりか、と思われた読者もおられるやも知れぬが、消費税の問題を理解するためには、やはりここが出発点となるべきなのだ。

いたって単純に考えてみよう。

消費税の税額は、商品の価格と一体化されて、最終消費者、ひらたく言えば商店から商品を買った人が負担する理屈になってはいる。しかし、消費者は商店=業者に対して、消費税分の値引きを求めることも、消費税を取らない商店から購入することも可能なのだ。

まったくの事実問題として、税率3%の消費税が導入された当初は、

「消費税はいただきません」

という貼り紙を出していた商店もあったし、1990年代に大ヒットした『ナニワ金融道』(青木裕二・著 講談社)という漫画にも、高級車を売りつけるシーンで、

「消費税分くらいなら負けといたれや」

といった台詞が登場したものだ。

別の言い方をすれば、消費者が力関係でもって税負担を業者だけに押しつけることも、税法上可能であり、すなわち合法的な行為なのである。

なぜか、という答えは、消費税法そのものの中にある。

 

第4条 国内において事業者が行った資産の譲渡等(売上等)には、この法律により、消費税を課す。

第28条 (略)消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価(売上)とする。

 

課税対象が事業者であることは明らかなのだ。

1987年、当時の中曽根内閣が「売上税」導入をはかったことを、ご記憶の読者もおられるだろう。結果論ではあるが、この名称の方が実態をよく反映していた。

そもそも1978年、大平内閣の当時に「大型間接税導入による財政再建」という政策が浮上した時点では「一般消費税」という名称になる予定であった。当時、赤字国債の発行残高が年々増え始めたことに、政府は危機感を深めており、翌79年には、

「今日の財政収支の状況は、自然増収によって均衡を回復することが到底できない、いわば構造的な赤字に陥っている」(当時の金子一平蔵相の演説)

と認めざるを得ないほどであった。

しかし、有権者は大型間接税導入をストレートに大増税と受け止め、この結果、同年の総選挙で自民党は大敗を喫する。

その後、1982年に中曽根内閣が誕生したが、国鉄民営化など、世に言う「民活路線」で、一般歳出を5年連続で削減したにも関わらず、1987年には赤字国債の発行残高が152兆円に達する見込みとなってしまった。これを受けて、

「大型間接税導入は行わない」

との国会答弁を繰り返してきた中曽根首相が、「中型間接税であるところの売上税導入」を目指し法案準備に着手した。もちろんこれも、有権者の受け容れるところとはならず、法案はまたしても葬られる。彼の後継者となった竹下内閣の手で、ようやく法案成立にこぎ着けたのは、1988年のことで、最初に導入議論が浮上してから、実に10年が経過していた。

これでお分かりのように、一般消費税という名称が、一度は売上税に変わりかけたのは「これは大型間接税ではなく中型間接税である」

と言いたいがためであって、具体的な税負担のあり方とは関係なかった。売上税という名称の方がよかった、という議論を、わざわざ結果論だと明言した意味も、これでお分かりだろう。いずれにせよ、ここで強調しておきたいことは、

「消費税は、消費者が公平に負担する税金である」

という政府の説明が欺瞞だということだ。消費税法をちゃんと読めば、これは「消費者とは関わりのない税法」であると知れるのである。

いやそんなことはない、と主張する方がもしいたら、試みに最寄りの税務署を訪ねてみられよ。そして、買い物の領収書を消費税部門窓口に提示し、税負担をした旨の証明書の発行を要求してみたらよい。

ただでさえ確定申告等で忙しい時期に、そんな真似をしたならば、まず確実につまみ出されるか、下手をすれば警察に通報されるだろう。

消費税、という名称自体がかくも信用しがたいものであってみれば、少子高齢化社会に備えて、福祉の財源を確保するためだという、導入、そして税率引き上げのたびに繰り返された政府の説明も、当然ながら疑ってかからねばなるまい。次回はその話を。


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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