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.経済  投稿日:2016/5/5

三菱自「パジェロゲート事件」5つの違和感 その6

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遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン  マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

【違和感④ 三菱自の業績 下】

 d)買取請求

 VWはディーゼル車の環境規制不正問題決着のため、米国のみ、販売した車両、約50万台の買取を決定した。これにかかる費用は発表されていないが、1台200万円なら総額約1兆円となる。三菱の場合はどうか。62.5万台の全ユーザーが買取を請求するとは思わないし、そのままガソリン代の補償をもらって乗り続ける人が大半であろうとも思うが、定かではない。

 そもそもユーザーが買取を要求した際、三菱自動車が応じるのか(応じることが体力的にできるのか)不明である。1台100万円としても、62.5万台全てを買い取れば、6,000億円を超える資金が必要で、今の三菱自動車にそれだけの資金は無い

 e) 日産への補償

 前述したが、今回の件で日産の責任範囲が不明である。仮に日産には全く責任が無くいということであれば、三菱は何らかの損害賠償を日産から請求される。a), b), c)のコストは、まず日産がデイズの顧客に対して行わなければならず、かかった費用を三菱に請求するという形か。

 これ以上のジレンマは、先週から日産はデイズの販売を停止している。つまり日産にとっては、本来何台程度売れるべき車種の販売を止めざるを得ない、ということで、機会損失が発生する。

 デイズの2015年の販売台数はや約14万台、月平均11,000台。仮に半年止まれば66,000台分、約1,000億円の売上の機会損失となる。利益では200億円程度か。少なくとも、この金額相当は日産への賠償という形となる可能性が高い。

 ただ、日産関連での最大のコスト(リスク)は、仮に日産が今回の件でNMKVを解消、今後は自前で軽自動車を開発、生産、販売すると決めたケースである。三菱は開発から全て自前で行わなければならず、水島工場での生産が大幅に減少することは目に見えている。軽自動車事業からの撤退、といったリスクも伴うほどの影響が出る。

 f)対取引先への補償

 岡山県の水島工場周辺、総社から倉敷市周辺は三菱の関連企業が非常に多い。それも大半は、中小企業である。愛知県の岡崎工場、岐阜県のパジェロ製造も合わせ、三菱自動車は国内に3工場を持つが、その調達先は5,000社とも7,000社とも言われる

 所謂、1次下請け、2次下請け、3次下請けと、裾野が広いからで、末端に行けば行くほど、その影響は深刻である。小規模になればなるほど、三菱自動車、そして水島工場への依存度が高くなるからである。

 三菱への売上が止まって最も苦しくなるのは資金繰りである。今回も、地元の中国銀行・トマト銀行・百十四銀行や、地元信用金庫などが、最大5,000万円の緊急融資を開始した模様である。また水島周辺の自動車関連の雇用は2万人とも言われる。自分自身のキャッシュポジションに不安がある三菱自動車に、こういった取引先への十分な補償を実施できるのか、できるとすればどのような手段があるのか、不透明この上ない。

 g)工場固定費

 今後どの程度、水島は止まるのか。その他国内工場の稼働率はどうか。どの工場も数千人規模の雇用をもつ。水島工場の場合、1か月完全に止まると、固定費約15億円のコスト圧迫要因となる。半年止まれば100億円近い固定費の被りとなる。

 今後どの程度の期間に渡って操業を停止するのか、これによって賃金カット、期間工の更新中止、正規従業員の削減など、も視野に入れなければならない。国内工場・生産規模の縮小均衡なども視野に入れる時期が近付いているかもしれない。

 h)国内販売の消滅

 中期的に最も影響が出る分野。三菱自動車の国内販売は、先週から殆ど業務停止状態である。相川社長は、不正発覚後の受注台数が、発覚前に比べて半減したことを明らかにした。今後、登録車にも対象車種が広がる可能性が高く、対象台数は200万台を超える規模になるであろうことは前にも述べた。

 軽自動車は三菱自動車の国内販売の約60%。国交省はeKワゴンの型式認証を抹消する可能性が高い。再度計測し不正箇所を全て直し、型式認証の再申請をし、再度販売が可能になるまでどの程度かかるのか、3か月か半年か、またこのような再申請をしなければならない車種が何車種あるのか、仮に10車種あるとそれぞれの再取得まで販売が停止することとなる。

 型式認証を再取得し販売が可能になったとしても、以前の水準まで国内販売は戻るのか、甚だ疑問であると言わざるを得ない。もし販売が戻らない、日産が自社生産に移行するというなら、水島工場の稼働率は、ほぼ永遠に戻らない、ということにもなる。

 工場の操業停止が長引くと、減損処理などの必要性も出てくる。東芝のウエスティングハウスではないが、三菱にとって、軽自動車事業そのものの今後の展望を考えるに、撤退の必要性、否、国内事業全体の見直しの必要性という、まさに企業存亡の危機を地で行くような状況にある。

 (その7に続く。全7回。その1その2その3その4その5も併せてお読みください。毎日7:00配信)

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この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券  投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー

1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。

東京出身、58歳

遠藤功治

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