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国際  投稿日:2016/10/30

奇妙なNHK“トップニュース”

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 古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

東京滞在中の10月26日、NHKの正午のニュースをみていて、おやっと思った。なぜこんなニュースが正午のトップ報道となるのか、という疑問だった。
 
そのニュースの見出しは以下のようだった。
 
「核兵器禁止条約締結の決議案 米が反対文書をNATOに」そしてアナウンサーはことさら緊張したような表情で以下のようなことを告げていた。
 
「国連総会の軍縮問題を扱う委員会に核兵器禁止条約の締結に向けた交渉を始めるべきだとする決議案が提出されていることについて、アメリカ政府が、同盟国の核抑止力を否定するものだとして、決議案への反対を求める文書をNATO=北大西洋条約機構の加盟国向けに配付していたことがわかり、27日に行われる採決の結果が注目されます」
 
なぜこの時点でのこの報道を私が奇妙だと思ったのか。それはもうすでにとっくに広く知られた話だったからだ。もう周知の事実であるはずの事柄がいまこの時点でなぜこんな大ニュースの扱いを受けるのか、という疑問だった。
 
ニューヨークの国連本部の軍縮問題を扱う国連総会の第1委員会が今月から開かれて、核兵器禁止条約の決議案が大きな話題となった。その条約の締結に向けた交渉を来年2017年から始めるべきだとする決議案だった。アメリカは当初からこの決議案に反対していた。アメリカの核抑止力の恩恵を受ける欧州の同盟諸国にもその条約への反対を訴えていた。
 
この決議案は、オーストリアなど核兵器を保有しない50近くの国が共同で提案していた。核保有国のアメリカやイギリスは反対したのは核兵器自体を禁じれば、すでに米英両国や日本を含むその同盟諸国の最終の安全を防衛する核抑止力をも否定することにつながりかねない、という理由からだった。つまりは最悪の最悪の場合に国家の安全を保障する核兵器の抑止力がこの核兵器禁止条約により侵食されてしまうのは危険だというわけだった。
 
このへんの現状はすでに日本でも朝日新聞はじめ各紙により10月中旬までには報道されていた。しかもその内容もとても細かかった。であるのに、NHKはなぜそれから10日以上が過ぎたいま、そのアメリカの反対を大ニュースであるかのように報じるのか。その日の正午のニュースは他に内外の大きな話題が多数、ならんでいた。それらの重要ニュースを後回しにして、日本の他のメディアが10日も前に詳しく報じた内容を正午のニュース番組で第一番に報道するのだ。なぜなのか。
 
その理由は簡単だった。アナウンサーが語った以下の部分がその説明だった。
 
「アメリカは、さらに決議案への反対を求める文書をNATOの事務局経由で加盟各国に配付していたことがわかりました。NHKが入手した今月17日付けの文書は『核兵器禁止条約による防衛上の影響』というタイトルで、『決議案に反対することを強く促す』としたうえで、その理由について『アメリカの同盟国と友好国が依存している核抑止力の考え方を否定するものだからだ』と主張しています」
 
NHKが文書を入手したからニュースだというのだ。だがその文書の内容はすでに10日前に朝日新聞などが詳しく報じていたのである。すでに広く知られた情報を単に自分たちが文書を入手したからという理由でその日の他のニュースをすべて押しのけ、トップにすえて大々的に重大ニュースであるかのように報じる。なんとも子供じみた心理ではないか。視聴者を愚弄するという感じさえふんぷんである。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。

古森義久

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