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経済  投稿日:2016/11/25

気候変動議論、進まぬ理由 COP22参戦記 その2

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竹内純子(NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員)

「竹内純子の環境・エネルギー政策原論」

会期最終日である11月18日(金)の深夜、COP22は閉幕しました。2020年以降の枠組みであるパリ協定の詳細ルールが議論される、と日本では報じられていましたが、ルールの具体的な内容は殆ど議論されず、2018年までにそうしたルールを策定するというスケジュールなどが決まっただけでした。

昨年パリ協定採択という山場を越えたばかりですから、毎年そんなに山場があるわけではありません。今回は谷間あるいはローキーな会議であったと言えるでしょう。

COPは毎年年末(今年は11月でしたが、例年は12月)に開催され、COPとCOPの間にも何度か会議が開催されます。それほど会議をしても議論は遅々として進みません。その理由はいくつかあります。

テクニカルな理由としては、会議が全会一致制を採っていることが挙げられます。

COPは「国連気候変動枠組み条約締約国会合」という名の通り、条約に参加する国の政府同士が交渉する会議です。現在197か国が加盟しているのですが、会議で何か決めるときには、何と全会一致制、すなわち197か国全てが異論の無いようにしなければなりません。世界はいま、途上国と先進国という二分論では整理できない複雑な様相を呈しており、気候変動交渉の場面でも、多様なグループに分かれて交渉が行われています(図1参照)。この中で全会の一致を得ることは大変に難しいことから、通常の世界では考えづらいほど時間がかかるのです。

 ▼図1 出典)環境省HP

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さらに言えば、この交渉には自分の国籍とは関係なくどこかの国の交渉官として雇われている「職業交渉官」が多数います。日本政府などは、関係する省庁(環境省や経済産業省、外務省など)の担当者が交渉に臨むわけですが、「職業交渉官」と言われる方たちは国を渡り歩き、その国にできるだけの「成果」をもたらすような交渉を行います。交渉で譲歩するということは、雇い主である国にもたらす成果を減らすことになるので、強気の姿勢をなかなか崩しません。

そして、より本質的な理由は、温室効果ガスは主にエネルギーの利用に伴って排出されるため、経済活動が活発になれば排出量が増えてしまうということにあります(図2参照)。世間では、排出量の抑制と経済成長を両立させる「グリーン成長」を目指す動きが活発になっていますが、歴史を見ればそれは簡単なことではありません。各国、特に先進諸国がグリーン成長を掲げる一方で、温暖化目標については「自国は十分に高い。他の国の努力が不足している」と相手の努力を求めるのは、どの国もグリーン成長が容易ではないことを理解しているからでしょう。そうでなければ争って高い目標を掲げるはずです。

 ▼図2

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さらに事態を複雑にしているのが、先進国から途上国に対する支援が義務として求められることです。気候変動の影響と思われる(科学的な因果関係は特定できませんが)自然災害などの影響に「適応」するための支援や、今後成長が見込まれる中で省エネ型の発展をしてもらう(温室効果ガス削減)ための支援など、資金面や技術面など様々な形での支援が求められています。しかしながら、先進国の経済状況も厳しい中で、責任の寄与分もはっきりしないことにどれだけ支援をできるかは、まさに政治判断です。

気候変動問題を真っ向から否定するトランプ氏は、国連の気候変動関連プログラムに対する米国の資金拠出をストップするとしています。世界第二位の温室効果ガス排出国である米国が気候変動対策に後ろ向きになることは温暖化対策そのものにも大きなダメージですが、途上国の関係者の多くは、米国の資金支援の継続性についても強く懸念をしていました。

こうした事情によって、国連の気候変動交渉は1992年に気候変動枠組み条約が採択され、既に20年以上経ちますが、議論はなかなか進まないのです。そんな中昨年パリ協定が採択されたことは画期的でした。

今年のCOPでは、パリ協定の詳細ルール策定に向けた議論がされると日本では報じられていましたが、ルールの具体的な話にはほとんど至らず、2018年までに作成を終えるといったスケジュールを共有できた程度でした。

なぜこのようなローキーな会議になったのか、その背景には、COPの役割の変化・変質があると私は考えています。その理由はこちらに書いていますので、ご関心があれば(無くてもぜひ!)ご一読ください!

パリ協定が採択されたことは歴史的な一歩でしたが、この枠組みが実際に気候変動に対して有効に働くかどうかは、今後の詳細ルールの策定にかかっています。パリ協定の下では各国が自主的な目標を掲げ、その達成に努力するわけですが、できるだけ野心的な高い目標を掲げ公平性かつ透明性ある形で目標達成への努力を継続するためには、どういった形でお互いのレビューや評価を行うべきなのか、議論はまだまだこれからです。

2020年からスタートするパリ協定の枠組みがより良いものになるよう、今後「本気の議論」が望まれます。

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COP会場から乗ったタクシー。マラケシュに二人しかいない女性運転手だそうで、「この仕事が大好き!」とのこと。かかってきた電話をスカーフに素早く挟んで、ものすごい早口で会話。スカーフ、便利なり・・。

ふと通りかかった土産物店。異国情緒たっぷり。

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この記事を書いた人
竹内純子

NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員 21世紀政策研究所研究副主幹、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会委員、アクセンチュア株式会社 シニア・アドバイザー(環境エネルギー問題)、経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会委員、等。

慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力入社。水芭蕉で有名な尾瀬の自然保護に10年以上携わり、農林水産省生物多様性戦略検討会委員等を経験。その後、地球温暖化の国際交渉や環境・エネルギー政策への提言活動等に関与し、国連の気候変動枠組条約交渉にも参加。著書に、「みんなの自然をみんなで守る20のヒント」(山と渓谷社)、「誤解だらけの電力問題」(WEDGE出版)*第35回エネルギーフォーラム賞普及啓発賞受賞、「電力システム改革の検証」(共著・白桃書房)「まるわかり電力システム改革キーワード360」(共著・日本電気協会新聞部))など。

竹内純子

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