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国際  投稿日:2017/1/6

【大予測:ASEAN】創設50周年、サバイバル戦略波高し

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千野境子(ジャーナリスト)

まるで予測不可能がウリみたいなトランプ新政権の米国と、その間隙をぬって西太平洋における覇権の意志がいよいよ露わな中国―。2017年のアジア太平洋が波乱の様相を一段と深めそうな中、東南アジア諸国連合(ASEAN)は創設50周年を迎える。果たして新たな50年へ飛躍の一歩となるか、それとも米中二強の狭間に沈んでしまうのか、2017年はASEANにとって大きな節目となるだろう。

もっともASEANが大国の狭間でサバイバルを強いられてきたのは、今に始まったことではない。発足した1967年当時も、北爆に踏み切った米国はベトナム戦争にますます深入りし、中国はと言えば毛沢東が文化大革命を発動し、内乱寸前の状態にあった。そしてこれら脅威から身を守るべく、東南アジア5カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)の外相がタイの首都バンコクに参集し、8月7日に設立されたのがASEANだった。

奇しくも前月7月には欧州連合(EU)の前身である欧州共同体(EC)も石炭鉄鋼共同体(ECSC)や欧州経済共同体(EEC)を統合し発足しているが、ASEANとEU両者に対する世界の注目度には雲泥の差があった。その後も加盟国を増やし、共通外交や単一通貨ユーロを通じて拡大・統合を進めてきたEUに対して、ASEANは東南アジア全域を含む10か国体制は実現したものの、政治はもとより経済統合の歩みも緩く遅々としたものだった。おそらくASEANの今日を予測した人は皆無に近く、その意味では良くぞ生き延びたものだし、ASEANにとってはサバイバルの知恵を蓄えた半世紀だったとも言えよう。

だが現在、両者はBrexit(英国のEUからの離脱)以後、統合に揺らぎの見えるEU、米中の角逐にさらされるASEANと状況こそ違え、等しくレーゾンデートルの問われる危機にある。しかもトランプ新大統領の米国は大国・二国間で話をつけるのを優先し、EUやASEANのような多国間協調システムは面倒臭いと厄介者扱いしかねない。

現状分析が少し長くなったが、こうした中でASEANは埋没することなく、2017年をいかに飛躍の年とするかが課題である。焦点の一つは環太平洋経済連携協定(TPP)の陰に隠れて足踏み状態にあった東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を、ASEANが自らのイニシアチブで交渉妥結に持ち込むことが出来るかどうかだ。米国主導・中国抜きのTPPと中国主体・米国抜きのRCEPの力関係は、TPP離脱を明言したトランプ登場の前と後では逆転し、当面TPPは死に体と見る他ない。

ASEANはTPPに原加盟国のシンガポールとブルネイのほかマレーシア、ベトナムの計4カ国が参加している。しかし全10か国が加盟し、自由化のレベルもTPPほど高くないRCEPの方が本来はASEAN向きだし、ハブ意識も強い。当初は2015年の妥結を目指していた。ここはASEANの存在感の見せ所だ。日本やオーストラリアもTPP推進の旗はひとまず降ろし、中国を牽制する意味でもASEANを後押ししてよいのではないだろうか。

交渉妥結はASEAN共同体(政治・安全保障、経済、社会・文化の3つの共同体)を加速させる効果もある。発足2年目に入った3共同体の中では経済共同体(AEC)がもっとも進展している。ASEANの原動力はやはり経済であり、各国の規模は小さくとも、まとまれば6億2000万人市場と国内総生産(GDP)約2兆5700億ドル規模は魅力であり、「世界の成長センター」の一翼を担ってきたのも故のない話ではない。

2017年はもう一つ、これまで限定的に留まってきた政治・安全保障共同体(APSC)が変化を迫られる可能性も高い。トランプ政権下で米国を中心とするいわゆる「ハブ・アンド・スポーク」の安全保障体制がアジア太平洋で維持継続されるのか、オバマ大統領の退任で「アジア・リバランス」も去ってしまうのか。崩れる兆候はすでにあり、米中関係は複雑さを増している。アジア太平洋は昨日のままではないだろう。

事と次第ではASEANの結束が揺らぎ、個別対応を迫られる局面が一段と増えるかもしれない。しかしそこで思い出すべきはASEANが結束を通して個々の弱さを全体の強さへと転嫁させた独自の流儀であり、この発足の原点をASEANは忘れてはならない。ASEANなしに一国では大国に呑み込まれるのが必至であり、それでは21世紀型植民地主義になる。

ASEAN研究の第一人者、山影進氏の言葉を借りれば、ASEANは「2Pから2Cへ」歩んできた。2PとはPeace (平和)と Prosperity(繁栄)、 2CはConnectivity(連結性)とCentrality(中心性)だ。

既述のように加盟国は戦争の火の粉を払い、平和の実現をASEANに期待し、また「戦場から市場へ」を掲げて繁栄の具体化に努めてきた。2Pが一応の達成を見た今日、替わって2Cが浮上したのは、加盟国間の格差是正や地域のインフラ整備などには連結性が、またASEANがアジア太平洋の安定と平和の先導役として運転席に座り続けるためには中心性が重要だからである。

しかし2017年の今、上述のようにアジア太平洋にはPeaceが再度重要性を増す状況が生まれた。ASEANは設立の原点に立ち返るとともに、「2Pから2Cへ」の時代から「2Pも2Cも」求める時代に入ったと言ってもよい。

2017年のASEAN議長国はフィリピン。議長を務めるのは、これまた暴言癖のもう一人のトランプ、ドゥテルテ大統領だ。すでに親米路線のアキノ前大統領とは明らかに異なる対米・対中外交を展開している。成否はまだ出ていないが、その動向は東南アジアの在り様に大きく影響するだろう。さらにドゥテルテ議長のASEANハンドルさばきも試される。ゆめゆめブレーキとアクセルを踏み間違えないことを願うが、関係国にもそれなりの準備と覚悟が必要だ。

 

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この記事を書いた人
千野境子ジャーナリスト

横浜市出身。早稲田大学卒業。産経新聞でマニラ特派員、ニューヨーク、シンガポール各支局長の他、外信部長と論説委員長を務めた。一連の東南アジア報道でボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『インドネシア9・30クーデターの謎を解く』(草思社)『独裁はなぜなくならないか』(国土社)など多数。

千野境子

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