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.国際  投稿日:2017/5/31

日本に防衛はないのか 北朝鮮またミサイル発射


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・又北朝鮮のミサイル、排他的経済水域(EEZ)の内側に着弾。

・北朝鮮の挑発に対し、日本の政治家で自主的防衛措置語る人おらず。

・北朝鮮の軍事行動を止めるのには我が国の軍事的措置がなければならない。

 

 「断じて許すことができない」――

なんとむなしい言葉なのか。安倍晋三首相の北朝鮮による弾道ミサイル発射への抗議の言葉である。「断じて許さない」というならば、本当に許さないという意思、そして許さなくする能力があるのが普通だろう。だがわが日本国にも、安倍首相にも、そのための意思も能力も実際にはないのである。

だからこそ北朝鮮は日本側のこの「断じて許さない」という宣言の後に平然とまたまたミサイルを発射する。しかも前回と同じように日本に向けての発射である。そのいくつかは日本の領海にも等しい排他的経済水域(EEZ)の内側に着弾する。

では北朝鮮が意図的でも、事故でも、ミサイルの航続距離をもっと伸ばして、日本の領土にまで撃ちこんできた場合どうなのか。そんな攻撃に対しても、わが日本国はただただ「断じて許さない」と、空疎な言葉を発するだけなのだ。日本国には自国を守るという意識はないのだろうか。

日本にはミサイル防衛網が存在することになっている。アメリカと一緒の日米共同のミサイル防衛網だという。だが一隻や二隻の艦艇に積んだ迎撃ミサイルや日本全土でも数か所に置いただけの防衛網で北朝鮮の100基を越える日本攻撃用のミサイルを防げるはずがない。

それよりももっと気になるのは、北朝鮮がいかに実験とはいえ、日本に向けてミサイルを発射し、日本の首相が「断じて許さない」と言明しても、北朝鮮はまたすぐに平然と同じようにミサイルを撃ってきて、しかもその行動に対して、日本はなにもしない、なにもできないという現状である。

日本の国家の防衛という概念も能力も意思もそこには感じられない。だからこそ北朝鮮は平然として日本の首相の言葉を無視するのだろう。

しかも日本の政治リーダーたちの言明をみると、日本独自の対応、日本の自主的な防衛措置を語る人はだれもいない。

「北朝鮮を抑止するため米国とともに具体的な行動をとる」(安倍晋三首相)

「中国を含めた関係国に働きかけをしなければならない」(野田佳彦民進党幹事長)

「サミット首脳宣言に基づき、断固たる態度でのぞむ」(二階俊博自民党幹事長)

その他、日本側の指導者たちが口にする対応策はみな国連や韓国との連携、あるいはアメリカへの依存ばかりなのだ。日本として日本の国家や国民や領土を防衛するために北朝鮮に対してなにをするのかは語らない。たとえ語ってもみな外交的、経済的、あるいは政治的な措置である。

だがいま日本が直面しているのは北朝鮮の軍事行動による軍事的危機なのだ。戦争行為に近いミサイルの一方的な発射なのである。しかも何回も何回も繰り返される。その軍事行動を止めるのはまず軍事的な措置がなければならない。アメリカでも韓国でもそのための軍事的手段は持っているし、いざという場合にはそれを使う意思も能力も制度も保たれている。

しかしわが日本は軍事的な手段はなにもない。それどころか軍事的な対応は語らない、考えない、備えない、という「ないない」の状態なのである。危険に対しても備えはないのだ。いやむしろ「平和」の名の下にすべての軍事関連事項を否定してきた戦後の日本は「備えなければ憂いなし」という発想が国の政策なのだともいえる。倒錯した一国鎖国的平和主義に安住してきたわけである。

いまの憲法を絶対に変えるなと叫び、改憲は軍国主義につながると訴える人たちにも問いたい。「憲法9条によって北朝鮮のミサイル発射をぜひとも止めてもらいたい」と。

こんな状態で日本という国家は国家として存続できるのだろうか。北朝鮮の再三のミサイル発射と日本側の対応をみての私自身の心配である。


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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