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.国際  投稿日:2017/6/28

「正義の人」バヌアツ大統領、逝く


相川梨絵(フリーアナウンサー・バヌアツ共和国親善大使)

「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」

6月17日未明、バヌアツ共和国 バルドウィン・ウォンテロ・ロンスデール大統領(享年68歳)が急逝しました。

前日には、パーティーに参加されていたそうで、突然の訃報にバヌアツ全土が悲しみに包まれました。

教師や牧師などのキャリアを経て、2014年第8代バヌアツ共和国大統領就任。以降、特に若い世代の育成や女性の人権擁護などに力を注いでいました。

2015年にサウスパシフィック大学の学長に就任し、道徳的思想、強いリーダーシップをもつ若者の育成がバヌアツのみなならず、太平洋諸国に必要と訴え続けました。

また、歴代大統領で始めて、女性擁護団体とのミーティングもされています。

記憶にも新しい2015年3月、巨大サイクロンPAM襲来の際には、日本で開催されていた世界防災会議に出席中で、日本から世界にバヌアツ救済を呼びかけました。

そして、彼を「正義の人」と人々に言わしめた出来事が、同じく2015年10月に起きたバヌアツ史上最大の汚職事件でした。この事件で、現役大臣を含む15人が贈収賄で逮捕、有罪が決定しました。

この時、大統領は、会議に出席の為、バヌアツ不在。それに目を付けたペペテ大統領代理が、自分も有罪判決を受けいているにもかかわらず、自分を含めた全員の恩赦の手続きをとってしまったのです。

これを知ったロンスデール大統領は、すぐさま、帰国。国民に謝罪し、適切な法的手段をもって、ペペテ氏と他の有罪者、まだペペテと一緒に恩赦を実行したブレインたちを起訴したのでした。

そんな偉大な大統領の死。現役の大統領が亡くなるのは、バヌアツ史上初めての事です。彼がなくなった17日から26日までの10日間は国として喪に服す期間となりました。

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また、ご遺体が首都ポートビラから故郷のトルバ島へ帰る21日はパブリックデイとし、大統領に哀悼の意を込めて、すべての機関、学校、商店などがお休みとなりました。御遺体が、ポートビラにある20日までは、企業団体ごとに一般の弔問も許可されました。私も最後の御挨拶をしてきました。

建物の中に入ると、大統領の大きな写真が2枚。そして、祭壇には、なんと安らかなお顔でロンスデール氏が横たわっています。お体は白いシーツでくるまれていますが、お顔はみんなに見えるようになっています。その下にはたくさんのお花が供えられていました。

バヌアツという国は、偉い方も、有名な方もとても身近で、皆が大統領のもとへお別れの挨拶をしに行き(ご遺体に触れることも許されます)、最後にご家族一人ひとりにお悔やみの抱擁をしました。

そして、故郷のトルバ島へ帰る21日。

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御遺体がある国会議事堂から飛行場までの道のりは、たくさんのバヌアツ人が沿道にあつまりお花や布、平和の象徴のナメレリーフで花道を作りました。大統領を乗せた車は、バヌアツの国旗で飾られその周りを機動隊が囲んでいました。車が通ると、人々は敬意と悲しみと感謝をこめて、お花を投げました。そのあとを、家族を乗せた車、各国の外交官(日本からは管轄の在フィジー日本大使館の方が出席)などの車も列をなし、それはそれは、立派で美しいお別れの儀式でした。

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彼が、どれだけ、バヌアツの人々に尊敬され、愛されていたのかを感じました。

特に印象的だったのが、弔問時も、花道でも、たくさんの子供達、学生の姿があったことです。彼が力を注いだ若い子の育成は着実に伝わっていると思います。誰もが、ロンスデール大統領を「素晴らしい大統領だ」といいます。

今、彼は生まれ故郷で、今度は一人の夫として、父として、息子として、家族との時間を過ごしていることでしょう。

ロンスデール大統領の御冥福を心よりお祈りいたします。

トップ画像:ロンスデール大統領 ©相川梨絵

文中画像一番上:御遺族、2・3番目:大統領を乗せた車、一番下:各国の外交官の車 すべて©相川梨絵


この記事を書いた人
相川梨絵フリーアナウンサー・バヌアツ親善大使

1977年6月10日生まれ。茨城県出身。2000年、共同テレビに入社し、フジテレビアナウンス室へ出向。フジテレビアナウンサーとして、主に情報番組、バラエティ番組などで活躍。2006年、フリーに。2012年、結婚を機にバヌアツへ移住、バヌアツ親善大使に任命される。

相川梨絵

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