2017総選挙ファクトチェックプロジェクト
国際  投稿日:2017/10/7

巧妙化する朝鮮総連のメディア工作(上)

朝鮮総連本部
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                                                                                                                                                     朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・朝鮮半島情勢が緊迫化するなか、北朝鮮の謀略情報が日本のメディアも入り込んでいる。

・北朝鮮は日本の各メディアに映像使用料の支払いを求めてきたが、最高裁では全面棄却。

・しかし自国取材をエサに、忠誠度の高いメディアを選別、さらにコメンテーターの人選や外信部の人事にまで口を出し始めている。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=36555をお読みください。】

 

報道の公平性を名分にした露骨な圧力

朝鮮半島情勢が緊迫化するなかで、日本における情報戦も活発化。米中韓などさまざまな国の情報が飛び交うなか、北朝鮮の謀略情報も日本のメディアに入り込んでいる。

朝鮮から日本への謀略情報には、朝鮮総連を通じて発信する直接的なものと、韓国の従北左派や北朝鮮工作組織などを通じて日本メディアに流し込ませる間接的なものがある。このどちらにも朝鮮総連は大きく関わっている。

金正恩時代になってからの朝鮮総連のテレビ各社に対する情報コントロール手法の変化は、不都合な真実を圧力で捻じ曲げさせようとする「古典的手法」に加え、北朝鮮映像の使用北朝鮮への取材許可を餌にするやり方が重なることで巧妙化多様化している。

105周年パレード

写真)金日成(キム・イルソン)生誕105周年記念軍用パレード 2017年4月 出典)CSIS Comparative Connections

朝鮮総連のメディア圧力での「古典的」形は、「偏向報道」を口実にした「押しかけ抗義」と「電話攻勢」だ。これに直面したメディアは多いはずだ。最近も「金正男暗殺事件」報道に対して、誤報だとしてテレビ各局に押しかけた。

産経新聞は2017年4月15日付で「朝鮮総連が正男氏報道で日テレなどに圧力 北朝鮮犯行説を否定する報道を要請していた」との見出しで朝鮮総連のテレビメディアに対する工作の一端を暴露した。その記事内容は次の通りだ。

【在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が日本テレビとテレビ朝日に対し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏殺害事件に関して、北朝鮮当局による犯行説を否定する報道を行うよう要請していたことが14日、分かった。朝鮮総連関係者が明らかにした。事件をめぐる朝鮮総連の諜報活動が明らかになるのは初めて。国際社会が北朝鮮による核・ミサイル実験を警戒しているため、朝鮮総連は北朝鮮に有利な報道を促そうとマスコミへの圧力を強めている。

関係者によると、朝鮮総連幹部がマレーシアで発生した2月13日の事件後、日本テレビとテレビ朝日の報道局員らと接触。金正男氏殺害事件について、北朝鮮当局による犯行説を払拭する報道を行うよう求めた。

事件をめぐっては、マレーシア警察が、在マレーシア北朝鮮大使館の2等書記官らを重要参考人に位置付けたことなどから、北朝鮮当局による組織的犯行をうかがわせる報道が国内外で行われていた。このため、事件関与を否定する北朝鮮の意を酌んだ朝鮮総連が諜報活動の一環として謀略や宣伝工作を行ったとみられる。

一方、TBSは3月13日の番組「好きか嫌いか言う時間」放映時に、脱北者が北朝鮮の生活を語る韓国のテレビ番組「いま会いに行きます」の内容を紹介。番組では脱北者が正恩、正男両氏の不仲説など金一族の内実を解説していた。このため、朝鮮総連は偏向放送であるとして14~16日の3日間連続でTBSを訪問するなどして抗議した。

北朝鮮は当初、TBSに対し、北朝鮮の金日成主席誕生記念日「太陽節」(4月15日)取材のため記者らの訪朝を許可する意向を示していた。ところが、突如方針を転換して訪朝を拒否していた。

日本テレビとテレビ朝日は産経新聞の取材に対し、それぞれ「ニュース制作過程の個別質問には答えない。取材や報道において、あらゆる圧力、干渉を排除し多角的な報道に努めている」「指摘の事実はない」としている。

TBSは「通常、番組にはさまざまな意見が寄せられるが、具体的な内容は明らかにしていない」としている。朝鮮総連は「取材に応じない」としている。(産経新聞2017年4月15日、比護義則)】

朝鮮総連がテレビ各局に圧力をかけていたころ、在日朝鮮人に対しても「マレーシアで殺害されたのは金正男ではなく金チョルという人物だ」とのプロパガンダキャンペーンが展開されていた。テレビ各社への圧力はこのプロパガンダをより効果的に行うためのものだったのであろう。

(New Straits Times のTweet 2017年2月19日)

この時期に朝鮮総連がこれまでには見られないゴリ押し圧力をかけたのは、本国からの指示もあったが、朝鮮学校新入生受け入れに大きな支障がでていたからだ。それは今年度神奈川朝鮮中高級学校新入生が、中高級部合わせても28人に激減したことからも伺える。この数字は2011年に比べると40%にも満たない数字だ。

■映像使用をテコにした圧力

2002年に北朝鮮の金正日総書記が日本人拉致を認めて以降、日本のテレビメディアでは朝鮮中央テレビの映像が頻繁に放映されるようになった。しかし北朝鮮が著作物保護協定(ベルヌ条約)に加入していなかったこともあり、日本のテレビ各局は北朝鮮に対して著作権料を支払っていなかった。

しかし北朝鮮が、2003年4月に著作物保護協定(ベルヌ条約)に加入したことから事情は変わった。同年末には、朝鮮中央テレビ(KRT)在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)幹部が平壌で協議し、「映像が反共和国宣伝に悪用されている」として、朝鮮総連を通じて権利保護を求めることになったという。

この協議後、朝鮮総連は、小泉首相再訪朝直前の5月中旬、NHKなど日本の主要放送局の担当者を集め、彼らが任意に編集・放送している朝鮮中央テレビ(KRT)の映像について、使用料を徴収すると通告。 朝鮮総連国際局のムン副局長(当時)は「KRTから権限を委任され、使用料を徴収することにした」とし「世界的に使われている1分未満の報道引用画面を除いたすべての映像について、1分あたり500ドルを課金する予定で、現在各放送局と協議中だ」と話した。

これについて、TBSは6月1日付で著作権料支払いの確認書を提出。NHKとテレビ東京も著作権を尊重するという意思を明らかにした。テレビ朝日は、平壌支局への野望もあって、既に数年前から別ルートで使用料を支払っていた。

一方、フジテレビと日本テレビは、朝日間に国交がない点を理由に、否定的な立場を示していた。フジテレビと日本テレビは、文化庁が(ベルヌ条約に北朝鮮が加入したとしても)「国交がない以上、権利義務関係は発生しない」との見解を示したことから映像使用料の支払いを拒否。

これに対し、朝鮮中央テレビ作品に関する交渉窓口となっている朝鮮映画輸出入社(北朝鮮文化省傘下の行政機関)とその委託を受けたカナリオ企画は、著作権侵害に対する損害賠償支払いと無断放映差し止めを求めて、フジテレビと日本テレビを提訴した。

これに対し東京地裁は、「北朝鮮がベルヌ条約に加盟していたにせよ、日本が未承認の国家である以上、国際法上の権利義務関係が発生せず、北朝鮮の著作物は著作権法6条3項の対象とはならない」との判決を下した。

 原告(北朝鮮側)は2008年に知財高裁に控訴した。そこでは「一般不法行為の成立を肯定し、放送局(一審被告)側に12万円の支払いを命じた」部分はあったが、一審同様の理由で提訴は棄却された。2009年に原告は最高裁に上告したが2011年12月、知財高裁が認めた12万円の支払いも含めて全面棄却された(最一小判平成23年12月8日(H21(受)第602号、裁判官の意見は全員一致)。

 判決は、ベルヌ条約は普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではなく、日本が承認していない国家である北朝鮮の著作物はこれにより著作権法6条3号所定の著作物には当たらないとし、特段の事情がない限り無断放映による不法行為は発生しないと結論付けた。映像使用料は払わなくてもよいとの結論が出たのだ。

この判決後、フジテレビとNHKは放映料を支払っていない。国民の税金で運用するNHKが最高裁判決を無視できないのは当然だ。しかし北朝鮮はNHKのネームバリューを利用するために北朝鮮取材を許可し続けている。フジテレビには気に食わないコメンテーターの排除との交換で、2014年以後北朝鮮取材を許可した(フジテレビが映像料を支払うようになったかどうかは不明)。

その他のテレビ局は、払わなくてもよい著作料を判決後もせっせと払っている。

 

■北朝鮮取材をエサにしたテレビ統制

2011年12月に金正日総書記が死亡し金正恩時代に入った後、日本のテレビ各局に対する朝鮮総連を通じた統制が新たな局面を迎えることになる。金正恩政権のメディア戦略が強化され、各国メデイアに対して「見せたいところを積極的に見せる」方向に転換されたからである。

金正日時代には一時朝鮮総連を通じたメディア統制が弱まっていた。その背景には朝銀破綻や拉致問題の影響などによる朝鮮総連の影響力低下と、韓国における宥和政権誕生があった。金正日政権は宣伝面で以前ほど、朝鮮総連を重要視しなくなっていたのだ。

しかし、2012年4月に金正恩氏が第一書記になった時から事態は変化した。韓国の保守政権が宥和的でなくなり、もう一度、朝鮮総連の日本におけるプロパガンダ遂行の位置付けを重視し始めた。こうして朝鮮総連は以前にはなかった映像使用と北朝鮮取材という武器を手にしてテレビメディアへの圧力を強めていくことになる。

その第一弾が2012年4月の金日成誕生100周年行事であった。金正恩はこの行事の目玉であった光明星3号1号機発射をメデイアに公開するとした。発射失敗で所期の宣伝効果を得ることができなかったが、今後のメデイア戦略を予告するものであった。

この時に日本のテレビ各社も招待されたが、それまでにはない取材格付けがなされたのである。すなわちテレビ各社の「忠誠度(北朝鮮に都合のよい報道を行う度数)」によって差別化されることになる。

北朝鮮は長距離弾道ミサイル発射施設を、発射前にAP通信などのアメリカメディアと日本の一部のメディアに公開したのだが、日本のテレビ局で取材することができたのは、平壌に支局がある共同通信やNHKなどだった。また北京の北朝鮮大使館でのビザ発給でも差別化を図り、「忠誠度」の高いテレビ局から順番にビザが発給された。

なぜこのような変化が起こったのか? そこには日本のメデイアに対する管括権の移動が関係していたのだ。

金正恩時代以前までは北朝鮮取材の強化は北朝鮮本国と朝鮮総連の二本立てであった。そのために朝鮮総連はテレビメディアを効果的にコントロールできなかった。

そこで朝鮮総連は金正恩時代に入ってのメデイア戦略の変更に合わせて本国担当者に対し、「日本のメディアなら、なぜ、大使館業務を行う窓口である朝鮮総連を通さないのか」と訴えたのだ。そして朝鮮総連に窓口が一本化され、そこからの収入は一部本国に上納されるものの大部分が朝鮮総連の財源となった。

こうしたなかで、日本テレビメディアの北朝鮮取材は大幅に増やされた。各種記念行事の取材だけでなく、拉致問題交渉過程での取材、北朝鮮に残された遺骨収集に対する取材など北朝鮮は取材の門戸を広げ、日本のテレビ各社を競わせた。

この過程で朝鮮総連のテレビ各社に対する干渉は、強化拡大。報道の方向だけでなく、コメンテーターの人選や外信部の人事にまで口を挟むようになった。この時に使われた殺し文句は、「映像の使用許可と北朝鮮取材を止めるぞ」だった。

北朝鮮報道は情報番組などでは比較的高い視聴率を得ていたので、テレビ各社は朝鮮総連の圧力に次々と屈していった。最後まで抵抗していたフジテレビまでも北朝鮮取材から外される圧力に抗しきれずついに屈した。朝鮮総連が排除を求めるコメンテーターを排除することで北朝鮮取材にありついたのである。

 

(下に続く。全2回)

トップ画像: 朝鮮総連本部 出典)Wikipedia

 

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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)など。

朴斗鎮

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