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国際  投稿日:2017/12/15

ロヒンギャ難民の窮状 最新報告

ロヒンギャ難民の窮状 最新報告
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Japan In-depth 編集部

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=37374でお読み下さい。】 

 

11月末、AARJapan(特定非営利活動法人難民を助ける会)の「緊急報告会~ミャンマー避難民支援の現場から~」が都内で開かれ、現地調査を終えた、古川千晶氏(緊急支援チームリーダー)と中坪暁央氏が報告した。

写真)報告を行う古川氏と、家財道具をほとんど持たず、着の身着のまま逃げてきた、避難民の写真
©Japan Indepth編集部

AAR Japan(難民を助ける会)は1979年、インドシナ難民を支援するために、 政治・思想・宗教に偏らない市民団体として設立され、 国連に公認・登録された国際NGOだ。今まで世界60以上の国と地域で支援活動を行っている。

まず、同団体が緊急ミャンマー避難民支援を行うことになった背景を確認しよう。

ミャンマー北部で今年8月末に発生した武装勢力とミャンマー軍との衝突により、わずか3ヵ月間に93万人もの「ロヒンギャ族」の難民がミャンマーから隣国バングラデシュに避難する事態となっている。

 

ラカイン(Rakhine)州に暮らすミャンマーの少数派イスラム教徒民族「ロヒンギャ」。ロヒンギャはミャンマーでは「ベンガル人」と呼ばれ、国籍も与えられておらず、民族としても認められていない。1982年に施行されたミャンマーの国籍法は、国籍が取得できる対象者を「19世紀初頭からミャンマーに居住する135の民族」に限定している。このため135の民族から除外されたロヒンギャの大半が無国籍の状態となり、参政権や国内移動の自由が認められていない。ビルマ政府によるロヒンギャに対する劣悪な処遇と、数十年に及ぶ人権侵害が、大量難民を生んだのだ。

現場で3週間の現地調査を終えた古川氏が、現状を語った。

氏によると現在バングラデシュでは、避難民が滞在できるキャンプを大幅に拡大してはいるが、健康な人で3日、高齢者や乳児を抱えた人は7日、足が不自由で松葉杖をついていた人は20日もかけないと避難キャンプにたどり着けないという。

到着後、支援を受けるための登録をする必要があるのだが、登録が完了するまでには長いと2週間もかかる。その間は配給も受け取ることはできない。現場ではバングラデシュ政府の統率がとれているが、世界中のNGO団体は勝手な支援を許されていない。配給や医療支援などもすべてバングラデシュ政府の許可が必要で、それに従って支援活動がおこなわれているため、支援までのスピード感が遅くなるのが課題。

また、現金支給や労働に対する賃金の支払いも8月から禁止されていたことなどを明らかにした。

帰国したばかりの中坪氏からは、現場の写真をもとに人々の様子が伝えられた。

キャンプでは、切り開かれた丘に、隙間なく木とビニールで作られた簡素な住居が建てられ人々が暮らしているという。雨を凌ぐのがやっとという印象でキャンプの人々は電気を使用することを認められていないので、屋根の上で小枝を乾かし、それで火を起こして炊事をしている状態。物は何もないので、食料以外の衣服や鍋などの日用品もすべて配給で賄われているという。

また、30センチしか掘られていないトイレの横に井戸があり、衛生面が心配される。女性の水浴びはテントの一角をビニールで仕切っただけの狭い空間で行われている。宗教上、日常でさえ肌の露出をしない彼女たちが、その仕切りの中だけで水浴びをするというのがどれほどのストレスか女性であれば容易に想像できる、とキャンプの暮らしの困難さを紹介した。

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写真)隙間なく並ぶ避難キャンプの住居

©Japan In-depth編集部

 また、キャンプでインタビューし印象的だった何人かについて中坪氏は、「12人家族だった少年に話を聞いた。11人のほかの家族は目の前で軍に銃殺された。彼は物陰に隠れていて無事だったが、家族を失い、親戚とともに避難してきたと話してくれた。また、20代の前半の若いお母さんに出会った。脳性麻痺の幼い子供を抱え、妹とともに必死に逃げてきたと目に涙を浮かべていた。1歳の子供を目の前で殺された夫婦、奥さんは切り付けられた傷が今も喉に残っていた。」と壮絶な避難民の状況を語った。

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写真)報告をする中坪氏と避難民の親子の写真
©Japan In-depth編集部

 

調査を終え、今後AARとしては、下記の4点の支援を行っていくと報告した。

・トイレの設置

 現在のトイレは便槽が30センチ程度しかなく、すぐにいっぱいになり使い物にならなくなっていることが分かった。現在、キャンプ全体のトイレのうち50%が満足に使用できない状態だという。理想は3メートルの深さまで掘ることだが、それはキャンプでは難しいため、1.5メートルの深さの便槽を設置する。

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写真)現在のトイレ
©Japan Indepth編集

 

・女性用水浴び室の設置

 女性が安心、安全に水浴びができる場所が存在しないことが分かったため。

・井戸の掘削

 現在は水も配給制のため、清潔な水を十分に使用できないキャンプが存在している。

・毛布、上着の支給

 バングラデシュは冬場は10度前後になるという。寒さをしのぐための毛布などが不足すると予想されるため。

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写真)視察の際に毛布と上着を支給した様子。
毛布と上着を受け取り喜ぶ子供たち
©Japan In-depth編集部

具体的な支援キャンプ場所は、バングラデシュ政府の指示で行っていくことになるだろうと付け加えた。

これを受け会場から、質問が寄せられた。

「これからの時期は、寒くなり乾燥もする。これだけ密集した場所で、火事が起こればあっという間に燃え移り、大規模な被害になるのではないか。対策はどのように行っていくのか」という質問に対し、

「現在、キャンプでは電気を使うことが許されていないため、火は生活になくてはならないもの。バングラデシュ政府も火事は懸念しており、薪の使用を控え、燃え移りにくい代替えの燃料を配給し推奨していた。」と答えた。

次に、

ミャンマー、バングラデシュ両政府は23日にロヒンギャの帰還にむけた覚書に署名した。帰還は、避難民にとって有益なのか。」という質問し対して、中坪氏は「帰還の正当性は、避難民の彼ら自身が“帰りたい”と望んでいるから。それだけ。しかし、この覚書には、具体的に終わりの期日も示されておらず、長期戦になると予想される。彼らが以前住んでいた場所は、ミャンマー政府により焼かれてしまった場所も多い。帰還したとしても住む場所もなくなっている。この覚書に署名しただけでは解決になるとは思えない。」と答えた。

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©Japan In-depth編集部

中坪氏は「私たちから見ると、大変苦しい生活だと感じたが、子供たちは皆、人懐っこく、明るく笑顔で生活しており元気づけられた。避難民の方にインタビューをしたら、『戻っても虐待される。本当に何もされないなら、ミャンマーに戻りたい。』という言葉があり、強く心に刺さっている。これこそが本音だと思う。」

と締めくくった。

こうした中、1日、アウン・サン・スーチー国家顧問兼外相が、北京を訪問した。ロヒンギャの難民問題を巡り、ミャンマーの立場に一定の理解を示す中国側と協議した。

ミャンマー政府は11月23日に「近隣国の間に起きた問題は、2国間で解決されるべきだ」と言及しており、国連や米国、欧州連合などからの“民族浄化に値する人権侵害”だという国際社会の干渉に反発している。このタイミングでの訪中は欧米をけん制する狙いがあるとみられる。また、この問題に関心を持つローマ法王が、30日バングラデシュを訪れ難民と面会した。

この問題は、決してミャンマーとバングラデシュの二国間だけの問題ではなく、一刻も早い帰還と解決に向け、日本製府はもとより、国際社会全体で取り組んでいく必要がある。今後のミャンマー政府の動向が世界中から注視されている。

【訂正】本記事(初掲載日2017年12月15日)中、以下の部分を修正致しました。

正:避難民の方にインタビューをした時に、ほとんどの方は『自分たちのアイデンティティはロヒンギャだ』、と言っていた。本音を話してくれたと思った方の話に『戻っても虐待される。本当に何もされないなら、ミャンマーに戻りたい。』という言葉があり、強く心に刺さっている。これこそが、ロヒンギャ難民の本音だと思う。」と締めくくった。

誤:避難民の方にインタビューをしたら、『戻っても虐待される。本当に何もされないなら、ミャンマーに戻りたい。』という言葉があり、強く心に刺さっている。これこそが本音だと思う。」と締めくくった。

トップ写真)ミャンマー軍に首を切りつけられたロヒンギャ避難民
©Japan In-depth 編集部

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