.国際  投稿日:2017/12/24

ノーベル賞と日本のモノ作り ノーベル賞の都市伝説4

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林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

 

【まとめ】

・日本は非白人国家として最も多くノーベル賞受賞者を出しているが、候補に挙げられながら受賞しない人も多い。

・日本の研究機関の基礎研究に十分な予算が回らず、ノーベル賞受賞者が出ない国になるのではないか。

基礎研究や品質管理などの基本的な部分に目配りがなされていない現状は問題。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=37543でお読みください。】

 

 わが国は、非白人国家としてはもっとも多くのノーベル賞受賞者を輩出している。そして同時に、候補に挙げられながら受賞に至らない人が多い国としても知られている。最近では村上春樹氏がよく知られるが、医学・生理学賞の分野では、北里芝三郎や野口英世が受賞に至っていない。

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写真)村上春樹氏

出典)photo by wakarimasita

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写真)北里芝三郎氏

出典)WIKIPEDIACOMMONS

hideyo写真)野口英世氏

出典)WIKIPEDIACOMMONS

 

 1930年代には、東京帝国大学の医学者で、脊髄副交感神経を発見するなど、脊髄機能や心臓機能研究の第一人者とされていた呉建(くれ・けん)が6度も候補になりながら、受賞に至らなかった。

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写真)呉健氏

出典)

 

 これについては、日本がナチスと同盟した枢軸国だったから、と見る向きもあるようだが、日独伊三国同盟が締結されたのは1940年9月のことで、呉は同年6月に心筋梗塞で急逝している。つまり、候補になった時点では「枢軸国」など存在していなかったので、明らかな事実誤認である。

 その一方、1930年代においては、ノーベル賞そのものについて「ヨーロッパの学術振興に寄与すべきもの」とする考え方が根強く残っており、「東洋人の受賞はまだ早い」

との発言が実際に選考委員の口からなされた記録がある、などという話もある。

 私自身は、その記録を見ていないので、文字通り話半分くらいにしか聞く気になれないが、かと言って、まったくあり得ない話でもなさそうで、ビミョーなところだ。このビミョーな真実性が、都市伝説の特徴なのだろう。

 そうかと思えば、日本人の受賞率は、各分野における日本の研究水準に比して実は低い、という話も聞く。どういうことかと言うと、ノーベル財団が各国の研究機関や過去の受賞者に「推薦状」を配布しており、これに基づいて第一次選考が行われるのだが、日本人研究者は、この推薦状の返信率が、他国に比べて非常に低いのだとか。

 この話が本当なら、もったいないことをしている、としか言いようがないが、私見ながら、実はもっと深刻な問題が存在するのではないか。

 冒頭で述べたように、わが国のノーベル賞受賞者は、物理学賞9人を筆頭に、経済学賞以外の5部門すべてにわたって計23人にのぼるが、これは正確に言うと「日本国籍の受賞者」である。

 本シリーズ第一回で取り上げたカズオ・イシグロ氏は、親の仕事の都合で子供時代に日本を離れた、いわば特殊な例だが、他に、物理学賞を受賞した時点で日本国籍でなかった人が2人いる。

 素粒子の研究で2008年に受賞した南部陽一郎氏と、青色発光ダイオードの発明で2014年に受賞した中村修二氏である。いずれも、よりよい環境で研究を続けるべく、米国籍を取得した。

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写真)南部陽一郎氏

photo by Betsy Devine

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写真)中村修二氏

photo by Ladislav Markus

 これもシリーズ第一回で触れたが、わが国は二重国籍を認めていないので、米国籍を取得するということは、自動的に日本国籍を喪失することを意味する。

 しかしそれが、問題の本質ではない。ここ数年、日本の研究機関において、基礎研究に十分な予算が回らず、このままでは将来的に、ノーベル賞受賞者など出ない国になるのではないか、と心配する声が聞かれるのだ。前述のふたりの研究者が日本国籍を捨ててまで米国での研究生活を選んだのは、そのひとつの現れだと考えられる。

 昨今こういう問題提起をすると、「大学の研究予算より、待機児童問題を先になんとかしないと」といった反論を受けたりするが、教育や研究への投資というのは、そういう問題ではあるまい。

 問題視せざるを得ない事柄は、他にもある。数年前、STAP細胞なるものを発見したとして、マスコミの寵児となった女性研究者がいた。その当時、TVの情報番組がどのような報道をしていたかと言うと、彼女の研究内容を冷静に検証する態度とはほど遠く、研究所で白衣でなくおばあちゃんからもらった割烹着を愛用しているとか、髪型やアクセサリーの好みを取り上げて、「女子力高い!」だったのである。

 

その後の騒ぎは、今も記憶に新しいところだが、たまたま私の親類に理系の研究者がいて、意見を聞くことができた。

iPS細胞(2012年に山中伸弥氏が発見し、ノーベル医学・生理学賞を受賞)は、びっくり仰天だったけど、有無を言わさぬデータがどんと出されたので、なるほどこれはノーベル賞だ、と拍手喝采だった。

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写真)山中伸弥氏

出典) National Institutes of Health

 

その点STAP細胞というのは、最初の論文が出た時点で、うちの子供の背中に羽が生えて空を飛ぶのを見ました、というくらい、ぶっ飛んだ話だったわけですよ。でも、レシピが添えられてるから、出来るのかなあ、と思ったけど、世界中の研究者がチャレンジして、できないじゃないかよ、となったわけで」だそうである。

 昨今、家電や自動車メーカーといった、日本経済と「ものづくり」の屋台骨を支えてきた企業で不祥事が続いているが、これと、STAP細胞をめぐる騒ぎの根底にあるものは共通していないだろうか。

 ノーベル賞に象徴される、研究の華々しい成果や、メーカーの売り上げといったことばかりに目を奪われ、アカデミズムにおいては基礎研究や検証システム、メーカーにおいては品質管理という、地味だが非常に大切な、基本的な部分に目配りがなされていないのである。

 これはまさしく亡国への道で、ノーベル賞受賞者が少しばかり増えたり減ったりどころの問題ではない、と思えるのだが、どうだろうか。  

トップ画像:ノーベル賞授賞式での山中伸弥氏
出典)京都大学

 

 

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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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