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スポーツ  投稿日:2018/6/10

近視眼的な応援は不要 サッカー日本代表のカルテ その5


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・日本代表の平均年齢は「過去最高」の28歳に。

日本のサッカー界が今なすべきことは、真の強豪国を目指すこと。

・日本と世界の差は大きくない。思い切って20代前半の選手を集めて欲しかった。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40370で記事をお読みください。】 

 

もうすぐワールドカップ本大会だ。我らが日本代表はすでに合宿地のオーストリアに入っている。その代表23名だが、事前に招集されていた27名の中から、淺野拓磨、井手口陽介といった20代前半の選手が落とされ、9人もいた30代の選手が全員選出された。

平均年齢28.17歳という「過去最高」の代表となったわけだが、31歳の長友佑都選手が、「年齢で物事判断する人はサッカー知らない人」などとSNSで発信し、物議を醸したりもしている。彼はまた、国内最後の練習試合(5月30日、ガーナ戦)に0−2で完敗した後も、強気の発言を続けた。

▲長友佑都選手Twitter(2018年6月1日)

これは決して悪いことではない。4年前、本田圭佑選手が「優勝を目指す」と豪語した時も、私個人としては肯定的に受け止めていた。ビッグマウスだの、根拠のない自信だとの批判も多かったが、大会に出るからには優勝を目指すというのは、アスリートとして当然の発想ではないか。

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▲写真 本田圭佑選手 出典:本田圭佑Twitter

4年前のブラジル大会では、自分たちのサッカーとやらに固執して惨敗を喫したわけだが、誰よりも深刻に反省しているのは彼ら選手たちであろうし、そのことも踏まえて、私は今次のロシア大会における日本代表は、3戦全敗での1次リーグ敗退もあり得るが、同じくらいの確率で、つまり可能性としては五分五分だが1次リーグ突破も可能であると考えている。

ちなみに1次リーグと決勝トーナメントの組み合わせという形式は、強豪国同士が最初からぶつからないようにして大会を一層盛り上げるべく、出場32カ国のうち8カ国をあらかじめシードしておき、他の参加国はAからHまでの各組に抽選で振り分け、リーグ戦戦での上位2カ国が決勝トーナメントに進出できるというもの。第1回(1930年ウルグアイ大会)から踏襲されているが、参加国は当時より増えている。

1次リーグを突破すれば自動的にベスト16とカウントされるわけで、日本代表はこれまで最高の成績が、このベスト16である(2002年、2010年)。

なにが起きるか分からないのがサッカーで、だからこそ面白いわけだから、競馬の予想屋じみた話はあまり書きたくないのだが、本田、長友ら主力選手のポテンシャルと、彼らが海外のクラブで残してきた実績を考えたなら、1次リーグで同組となったセネガルやポーランドは、決して勝てない相手ではない

緒戦のコロンビアにはおそらく勝てない、と見切っても、残りを2勝なら文句なし、1勝1引き分けでも(この場合は得失点差によるが)十分に可能性がある。

ただ、劣勢のまま残り20分ほどになったような場合に、短時間に爆発的な攻撃力を発揮して、試合の流れを変え得るジョーカーのような存在が、今次の代表には見当たらない。つまりは守備が機能しなくなったら、3戦全敗も十分に考えられる

私が言いたいのは、「どのみち、1次リーグを突破できたら万々歳、というのが今の日本代表のレベルじゃないか。みんな本当にそれで満足なのか?」ということだ。

国内最後のガーナ戦はひどい内容で、試合終了後にはサポーターから大ブーイングが起きたが、この時期の練習試合の結果など当てにならないことくらい、サッカー好きなら常識としてわきまえている。勝って天狗になるより、負けて課題が見えた方が収穫だとさえ言える。ただしこれは、ハリルホジッチ前監督についても同じ事が言えたわけだが、まあ、今さら戻せるものでもないので、ここでは置く。

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▲写真 ハリルホリッジ前監督 出典:photo by Clément Bucco-Lechat

それもこれもひっくるめて、もしも今回、首尾よく1次リーグを突破したなら、たちまち「さすがは西野監督」といった掌返しがネットからマスコミまであふれそうだが、そんなことでサッカー好きを名乗って恥ずかしくないのか。

今年は奇しくも、Jリーグの旗が揚がって30年の節目の年である。

そしてこの間に、日本サッカーはワールドカップ6大会連続出場という偉業も達成した。

しかしながら依然として「アジア以上世界未満」との評価を返上できていない。ワールドカップ出場はもはやノルマのようなものであるとして、1次リーグを突破できるかできないか、と位置に、いつまで甘んじているつもりなのか。

昨年、サッカークラブの世界一を決めるクラブ・ワールドカップで、鹿島アントラーズがあのレアルマドリードを倒す一歩手前まで行った。最終的な勝敗までは覆せなかった、つまり地力では向こうがだいぶ上だったというのが、試合を見た私の感想だが、日本と世界との差は言われているほど大きくない、とも同時に感じた。

だからこそ、日本のサッカー界が今なすべきこととは、4年先、8年先のワールドカップを見据えて、優勝候補に名を連ねる、真の強豪国を目指すことではないのか。

そのために、今次はたとえ「無謀」とのそしりを受けても、思い切って20代前半の選手を集めてロシアに乗り込んで欲しかった。そしてなにより、サポーター・サッカー好きを自認する方々に訴えたい。目先の勝敗に一喜一憂するのではなく、もっと長い目で日本サッカーを見つめ、その未来を共に切り開こうではないか。

トップ画像/FIFAワールドカップ2014 出典:Gisele Teresinha


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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