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スポーツ  投稿日:2018/7/3

「今さら人に聞けない基礎知識(下)」 超入門サッカー観戦法 その5


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・運動量とベテランの経験値がカギ。若手招集せずは失敗。

・FIFAランキングは参考程度。強さだけが基準じゃない。

・本田圭佑が中心的存在でいられる理由。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40810でお読み下さい。】

 

野球は8−7でひいきチームの勝ちになる試合が、一番面白いそうである。これを言い出したのが米国32代大統領フランクリン・ルーズヴェルトだとの説があり、そこから「ルーズヴェルト・ゲーム」と呼ばれる。

サッカーの場合、3点以上入るような試合は決して高く評価されない。また、3点差がつけば相手を「粉砕した」とか「された」と表現する。

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▲写真 フランクリン・ルーズヴェルト元大統領 出典:Elias Goldensky

幾度も述べるように、サッカー好きにとって本当の面白さは守備を見ることにあるので、立て続けに点が入るのは、守備が機能していない証拠と映るのである。

メッシの5人抜きを、バルセロナのカンプ・ノウで見たわけだが、あの日あの場所にいた、というのは一生自慢できるものの、試合そのものは5−3でバルサの勝ち、という大味なものであった。

逆に、結果は引き分けでも、日本とセネガルとの試合は面白かった。アフリカの強豪を相手に、フィジカルでもけっこう互角に渡り合っていたし、2度リードを許しながら2度追いつくメンタルの強さは、過去の代表には見られなかったものである。

とりわけ左サイドの長友、乾の疲れを知らないかのような走りっぷりは見事で、現に1点目はこの2人の見事な連携がもたらした。

サッカーが野球のように毎日試合ができないのは、運動量が段違いだからである。

なにしろ平均して1試合に10キロ近く走る。サッカー選手が一般に小柄なのも(最近は少し違ってきているが)、瞬時に爆発的な体力を発揮するより、前後半あわせて90分間走り続ける持久力が求められるため、心肺の負担を考慮すると、体があまり大きくない方が有利なのだと言われるほどだ。

平均して1試合に10キロ近く走るとした場合、10人のフィールドプレイヤー全員が1キロずつ多く走ったとすれば、1人増えたのと同じことになる、などと言う人までいる。そのくらい運動量は大事なのだ。

運動量が多いということは、ボールを持って攻めている時間が長い(守備は、どちらかと言うと、相手を待ち構える時間が長い)ということでもあるわけだが、実際に、ポゼッションとかボール支配率という数値でもって試合展開が語られることも多い。

バルサがその典型で、

「ポゼッションが7割なら勝率は8割」

と称しているほどだ。前回、メッシはバルサにいたからこそ世界的なスター選手になれたのだと述べたが、それもこのポゼッションの問題と無関係ではない。

もうひとつ、今次の日本代表が1次リーグを突破できた理由のひとつとして、ベテラン選手の経験値、ということを言う人も多い。

1998年フランス大会での話だが、初めてワールドカップ本大会出場を果たした日本代表は、初戦でアルゼンチン代表とぶつかった。後日、岡田武史監督がこんなことを述べている。

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▲写真 岡田武史監督 出典:FC.IMABARI

「明らかに実力差のあるアルゼンチンが、日本相手に、守りを固めて手堅く勝とう、というサッカーを仕掛けてきた。ワールドカップとはそういう大会なのだな、とあらためて思わされた」

これがすなわち経験値と呼ばれるもので、岡田監督の場合、この経験値があったからこそ、2010年南アフリカ大会で再び日本代表の指揮を執った際、超守備的な布陣からのカウンター狙いという、日本にとっては斬新な戦術を採用し、1次リーグを突破できたのではないだろうか。

今次の大会で、西野監督はベテラン選手を集める代表チームを作った。

「おっさんジャパン」などと揶揄されていたが、彼らの経験値は、初戦のコロンビア戦で見事に生かされた。

開始3分で相手選手が一発退場となり、こちらが1人多くなったわけだが、2014年ブラジル大会では、やはり10人になったギリシャを攻めきれず、スコアレス・ドロー(0−0)に終わっている。

今次のコロンビア戦でも、前半は地力に勝る相手にむしろ押され気味で、同点ゴールまで奪われたわけだが、

「最悪1−1の引き分けでもいい」

と割り切って後半を迎えた選手たちは、真綿で首を絞めるような攻撃を繰り返し、大迫のヘディングで勝ち越し点を奪った後は、疲れを隠しようもなくなった相手から、再度の同点を狙う気力までも奪い去った。

かくして、明らかに格上とされるコロンビアに勝ったわけだが、格上とか格下とかいう表現は、FIFAランキングを基準にしたものである。

この言葉自体は、どこかで耳にされたこともある方が多いと思われるが、あくまで参考程度のものだということが、サッカー好きの間では常識になっている。

と言うのは、サッカーの普及に対する貢献度も評価基準のひとつで、具体的には、国際Aマッチを主催すれば、自動的にポイントが積み上がるのだ。もちろん、勝てばさらに上がる。

2010年には、アフリカ・ネーションズ・カップで優勝したエジプトが、このランキングで9位になったことがある。ご案内の通りワールドカップ南アフリカ大会の年で、大陸全体でサッカー熱が高まっており、各国が代表チームの強化に腐心していた。

その中での優勝だから価値がある、という判断だったのかも知れないが、エジプトが9位というランキングに納得したサッカー好きなどいない。

ところで、運動量の大切さは理解していただいたとして、それでは運動量が決して豊富とは言えない本田圭佑が、どうして日本代表の中心的存在であり続けられたのか、という問題を、少し考えてみよう。

これは、常に走ってチャンスを作り出すタイプではないものの、ここ一番という場面で得点に絡むことができる、特異な嗅覚のようなものを備えた選手だということだろう。

ハリルホジッチ監督は、その点をあまり高く評価せず、あのままでは代表に招集しなかった公算も大きかった。私は、本田の経験値は代表に必要だと言い続けていたが。

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▲写真 ハリルホジッチ監督 出典:Clément Bucco-Lechat

しかし、いや、だからこそ私は、西野監督が10代とか20代前半の選手を代表に呼ばなかったのは大いなる誤りだという意見を、撤回するつもりはない。

主力は海外のリーグで経験値を積んできたベテランを重用するとしても、同時に、若手にワールドカップのなんたるかを知らしめて経験値を積ませることなしに、日本サッカーはいつまで経っても世界一を狙える地位など目指せないから

である。

、下 おわり)

トップ画像/スタジアムで応援するロシアサポーター 出典:ウェブサイト モスクワ公式 Facebook


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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