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.経済  投稿日:2014/10/14

[安倍宏行]【景気回復は海外旅行客頼み】~インバウンド市場に各業界熱視線 ~


 安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)「編集長の眼」

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インバウンド(INBOUND)と言う言葉をご存じだろうか?ほんの3年前位まで旅行業界の人しかしらなかった。インバウンドとは、訪日外国人旅行客のことだ。反対に海外に行く旅行客はアウトバウンド(OUTBOUND)という。

政府は観光立国を目標に、2003年に「訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」を開始した。インバウンドの数を3,000万人に引き上げることを目標に、2016年に1,800万人、2020年に2,500万人とすべく様々な施策を実施している。そのかいあってか、去年ようやく1,000万人の大台に乗り、今年は毎月前年比30%増の勢いだ。

その理由は単純で、“円安”である。その効果はてきめんで最近銀座など大型バスから大勢の中国人旅行客が降りてデパートなどに吸い込まれていくのを目の当たりにする人も多かろう。さらに政府はアジア諸国の訪日ビザ要件を大幅に緩和した。(注1)それによりタイ、ベトナム、インドネシアなどからの旅行客も急増しているのだ。しかし、なんだって政府は、そんなにインバウンドを増やそうと躍起になっているのか?と思う人もいるかもしれない。

それは、ひとえに“景気浮揚”のためだ。この春に消費税が5%から8%になったことや、夏以降の天候不順もあり、国内消費は今ひとつパッとしない。年内に10%への消費税率再引き上げの決断を迫られている政府としては、インバウンドにお金を落としてもらい、景気を下支えしてもらうことが至上命題なのだ。

では、彼らがどのくらい我が国で消費するか見てみよう。観光庁の調べ(注2)によると、平成26年4-6月期の訪日外国人全体の旅行消費額は4,874億円で、前年同期(3,675億円)比32.6%増加。訪日外国人一人当たりの旅行支出は143,942円。前年同期(136,151円)と比べると、5.7%増加。一番消費したのは中国人で、一人当たり211,784円、2位が米国で164,093円、3位が香港143,208円、以下台湾、韓国と続く。中国人観光客数が前年同期比89%も伸びたことが消費額を押し上げた。

インバウンドが好んで買うものは、日本製の化粧品、ドラッグストアにある様々なトイレタリー商品、食品などで、まとめ買いがとにかくすごい。今年10月1日から、これまで免税対象となっていなかった消耗品(食品類、飲料類、薬品類、化粧品類その他の消耗品)を含めたすべての品目が新たに免税対象となったことも追い風だ。これにより、各地の名産品などがインバウンドを引きつけるのでは、と期待されている。

筆者が取材したインバウンド関連のセミナーはどのセッションも大入り満員で、ホテル業界、飲食業界から熱い視線が注がれていた。消費税免税は関連業界にとって無論、大歓迎だが、問題はその手続きの煩雑さだ。例えば免税対象物品の包装の細かい規定や、事業者は「購入記録票(免税物品の購入の事実を記載した書類)」を作成したり、旅行客に「購入者誓約書(免税物品を購入後において輸出する旨を誓約する書類)」の提出を求めたりしなければならない。(注3)

こうした事務作業はインフラの整っているデパートなどですら1顧客当たり20分はかかるという。人手のない中小事業者はたまったものではない。売り上げ増を免税作業にかかるコストが食ってしまいかねない。セミナーでも不安の声が上がっていた。

厳格な運用を求める当局の気持ちもわかるが、それがインバウンドのスムーズな受け入れの阻害要因になっては意味がない。政府の柔軟な対応が望まれる。こうしている間にもインバウンドは増え続けている。受け入れのインフラはまだまだ未整備だ。ソフト面の整備を加速させないと、政府目標の達成は絵に描いた餅に終わりかねない。

(注1) 外務省は2014年6月25日、日・ASEAN友好協力40周年に合わせ、東南アジア5ヶ国について7月1日からの訪日ビザ免除と緩和の実施を発表。タイとマレーシアは免除。ベトナムとフィリピンは数次化、インドネシアでは数次ビザの滞在期間を延長した。

(注2) 観光庁 報道資料

「訪日外国人消費動向調査 平成26年4-6月期
~訪日外国人による旅行消費額は2期連続で過去最高!~」

http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000227.html

(注3)国税庁 「輸出物品販売場制度の改正について」

http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/pdf/yusyutuseido_kaisei.pdf

 

写真: 「東京ビジネスサミット2014」インバウンド向けビジネスセミナー

 

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