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.社会  投稿日:2014/10/31

[安倍宏行]【会津エネルギー地産地消への挑戦】~地域金融と市民が支える再エネ発電所竣工~


<上写真:会津電力雄国太陽光発電所>

 安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)「編集長の眼」

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“エネルギ―の地産池消”という見出しが新聞などで目につく。

「言うは易く行うは難し」の典型だろう。27日付の日本経済新聞は朝刊1面で、「いくつかの自治体が、エネルギー企業設立の検討に入った」と報じた。(注1)しかし、既に稼働している企業がある。その企業のことは一切この記事では触れられていなかったが。

その企業の名前は、会津電力(注2)という。2013年8月に福島県喜多方市で産声を上げた。設立趣旨を、HPから引用する:

“ 原発の暴走を許してしまったこの責任を次世代負担としないようにする為に、 福島県内の電力エネルギー需要を再生可能なエネルギーのみでまかなうことを可能にする体制を作り上げることを理念とし、 私達自身が原発の危険性を見過ごして来た責任をもって会津電力株式会社を設立する”

その会津電力は29日、喜多方市雄国(おぐに)太陽光発電所の竣工式を行った。総発電量1メガワット、300世帯分の電力を供給する。既に28日には東北電力と系統連携接続を完了、売電が始まった。“森に沈む発電所”の異名を持つこの発電所は近くでは威容を誇るが、山の中腹に建設されているため、平地から見上げるとその姿はほとんど見えない。
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   <竣工式>

雪国で太陽光?と訝る向きもあろうが、地上から2.5メートルの高さにパネルを設置、表面に特殊コーティングを施し、更に角度を30度としたことで、雪が積もりにくく、十分な発電効率を確保することに成功した。

特筆すべきは、この会津のエネルギー地産地消の動きは“二つの地域”が支えているということだ。一つは地域金融。一つは地域住民だ。会津電力には地元の東邦銀行が2億5千万融資している。実は被災地の金融機関は震災後預金量が大幅に増えた。国からの復興交付金や、賠償金を得た個人預金などが積みあがった結果だが、その余剰資金が効率よく地元企業に融資されていないことが問題となってきた。しかし、会津電力のケースは、地元の金融機関がその将来性を買い、融資に踏み切ったという点で画期的であり、意義深い。

もう一つは、市民がファンドという形で会津電力に出資している点だ。1口20万円で市民から出資を募り、およそ1億円を集めた。出資した市民には事業収益から元本が返還及び利益分配される仕組みですぐに目標額を達成した。(注3)

福島県は東京電力福島第一発電所の事故で空前の被害を受けた。16万人の県民が避難生活を余儀なくされているだけでなく、未だ風評被害に悩まされている。会津電力社長の佐藤彌右衛門氏は原発に頼らないエネルギー自立への決意を語る。
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        <会津電力佐藤彌右衛門社長>

「会津には。福島県内全域の使用電力も賄えるほどの、豊富な水資源、森林資源、地熱などの資源がある。地域主導の再生可能エネルギーのフラッグシップになる。」佐藤氏は、今後、小水力、地熱、風力など他の再エネによる発電も視野に入れているとの見通しを示した。

そうした中、こうしたエネルギー地産地消の動きに水を差すニュースが飛び込んできた。電力会社が、太陽光発電など、再生可能エネルギーの新規買取りを保留するというのだ。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で、大規模太陽光発電所(メガソーラー)事業者が急増したのが一因だ。

もし電力会社の買取り保留が長引くと、会津電力など再エネ事業者は事業計画を大幅に見直さねばならなくなる。20か所の太陽光発電所建設を予定している同社にとって寝耳に水の話だ。佐藤氏は「国は(再エネの)計画を作り進めていくべきだ。どれだけ(再エネを)受け入れていくのかはっきりしないと、全国の再エネ会社は止まってしまう。」と憤る。

原発に依存しないために、必死にエネルギー自立に向け努力している被災県のこうした事業者の悲痛な声に国はどうこたえるのか?経済産業大臣の顔がコロコロ変わっている中央政治の姿に、危機感を募らせているのは筆者ばかりではあるまい。

 

注1)日経 電力「地産地消」広がる 風力など14自治体が事業化

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF27H18_X21C14A0MM8000/

注2)

会津電力ホームページ

http://aipower.co.jp/

注3)

会津ソーラー市民ファンド(株式会社自然エネルギー市民ファンド)ホームページ

http://www.greenfund.jp/fund/aizu/

 

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