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.社会  投稿日:2014/11/14

[Japan In-depth 編集部]【課題は信頼性とマネタイズ】~『ウェブメディアの未来』Japan In-depth創刊1周年記念シンポジウム~


Japan In-depth 編集部

(JID編集部:木曽)

さる11月11日、「Japan In-depth」の創刊一周年シンポジウムが、日本記者クラブで行われた。

シンポジウムは、ソニーのトップを10年に渡り務めたクオンタムリープ株式会社代表取締役•ファウンダー&CEO出井伸之氏の登場で幕が明けた。出井氏は、「企業の寿命よりも個人の人生の方が長い時代になった。これから個人は、人生におけるプランBそしてCを考える時代である。それも、プランAを生きている時に既にプランBを考えておかねばならない。」と述べ、終身雇用に代表される日本的経営はもはや時代遅れで、これからは人生で複数の仕事を経験していくのが当たり前になるとの認識を示した。

20141111JIDシンポ出井さん
<クオンタムリープ株式会社代表取締役 ファウンダー&CEO出井伸之氏>

又、第2次大戦から現代までの時代を、「大本営発表に乗せられた“国家の時代”、高度経済成長を支えた“大企業の時代”、PCの登場した“家族の時代”を経て、現在は“個の時代”である。」と分析、「どんな大きな企業に入っても企業はあなたを守ってくれない。個人が力をつけていく時代だ。またこれからは放送と通信の完全融合が絶対起きる。そしてDAT革命(Data Analysis Technology)が起こる。安倍編集長には脱・“大本営発表”、本質に迫るメディアを作って欲しい。」と、エールを送った。

続いて登壇したフライシュマン・ヒラード・ジャパン代表取締役の田中慎一氏は、「猫も杓子も情報発信する時代になり、メディアは情報提供だけでは役割を果たせなくなった。これからは世論がメディアを動かす時代だ」と指摘した上で、「メディアは信頼性の担保と、視点力を提供することが必要だ。」と強調した。

基調講演後のパネルディスカッションには、講談社現代ビジネス編集長の瀬尾傑氏、ハフィントンポスト日本版編集長の高橋浩祐氏、株式会社ユーザベース執行役員、NewsPicks編集長の佐々木紀彦氏、ジャパンタイムズ執行役員・編集担当の大門小百合氏と安倍編集長が参加。フライシュマン・ヒラード・ジャパンのエグゼクティブ・コンサルタント七尾藍佳氏がモデレーターを務めた。

20141111JIDシンポパネル01
<フライシュマン・ヒラード・ジャパン エグゼクティブ・コンサルタント七尾藍佳氏
/ 下写真:基調講演後のパネルディスカッション>
20141111JIDシンポパネル

テーマは、「メディアの現状と課題、Webメディアの可能性」。

冒頭、瀬尾傑氏はメディアの危機的状況を指摘し、「メディアは大きく二つの危機を迎えている。一つは、既存のメディアにおける従来のビジネスモデルの崩壊。二つ目はネットにチェックされるようになったために起きた、信頼性の危機である。」と危機感を露わにした。

一方、佐々木紀彦氏はむしろこの現状を“大転換期”だと指摘した上で 「『デジタル化、モバイル化、ソーシャル化」』という大きく三つのテクノロジーの波が同時に来ている」と指摘し、新しいメディアを創るのに絶好期だと述べた。また佐々木氏は 「メディアがテクノロジー企業となる。全社員の約四割をエンジニアで構成し、一流のコンテンツ職人と一流のエンジニアの両輪で勝負をかける」との戦略を示した。

そうした中、高橋浩祐氏は、今後一層成長が期待されるWebメディアのコンテンツは、「スマートフォン」であるとし、「モバイル革命を制するものはニュースを制する。」と断言した。一方で、スマホの広告単価はPCよりはるかに低いことを指摘、マネタイズしていない現状に懸念を示した。

こうした現状に、既存のメディアはどう見ているのだろう。株式会社ジャパンタイムズ執行役員の大門小百合氏は、既存のメディアがネットメディアへ変革することの難しさを指摘した。ニューヨークタイムスとの提携や課金制度の導入を開始し、記事をまずWebに載せ、その後に新聞の記事へ編集するようにする、「Webファースト」を行うなど、新たな戦略に着手していることを明らかにした。

一方、瀬尾氏は、「既存メディアの記事の8割はいらない。政治経済中心のメディアを作りたいと思って現代ビジネスを立ち上げた。」と述べ、ネットメディアが既存メディアが失った信頼性を回復できるとの考えを示した。

又高橋氏も「日本のメディアは権力ベタ張り取材。記者は権力の近くで情報を貰うのみで、多角的な分析力を欠いており、周りが見えていない。」と指摘する共に、市民からの視点や、「人」にスポットライトを当てたストーリー性のある報道の必要性を強調した。

次にWebメディアが直面している一番の課題、マネタイズの問題について議論した。

高橋氏は、「課金制はない。」と断言。代わりに“ネイティブ広告”に力を入れていると述べた。具体的には”Sponsored by TOYOTA”とクレジットを入れたトヨタカローラの記事の例を上げ、収益性が高いことを強調した。また、モバイル動画も広告収益が高いことを指摘した。

瀬尾氏は所帯が4、5人のスモールメディアは成立するだろうとの考えを示すと共に、100人規模の週刊誌や1000人規模の記者を抱える新聞社などは、食わせる仕組みが難しい、と指摘した。今後は、小さなメディアがブドウや蜂の巣のように存在する形になるのではないかとの見通しを示した。

一方、大門氏は、youtuberなどの台頭を上げ、「ターゲティングングが出来るし、仲介がいないので宣伝効果は高い」と述べ、プラットフォームの変化を指摘した。

佐々木氏は、NewsPicksは月間1500円で課金しており、課金しないとだめと主張すると共に、(ウェブメディアは)最初はベンチャーキャピタルから資金調達することが向いていると指摘した。

最後に今後のウェブメディアの未来について、高橋氏は、デジタルオンリー、モバイル、ビジュアルエレメンツに注力する考えを明らかにした。また、若者に強いメディアを目指す、とした。

佐々木氏は、3年後100人の体制にし、世界一の経済メディアを目指す、と述べ、スマホメディアはこの1年が勝負と決意を新たにした。

大門氏は、ジャーナリストの育成に力を入れると述べた。

瀬尾氏は、マスを狙うビジネスモデルではなく、専門的な記事やコラムに注力し、ダイレクトマーケティングを目指しながら、読者の質を高めると述べた。

最後に編集長安倍は、「日本人は情報はタダだと思っている。しかし、メディアは読者が育てていくもの。今後は我々のような新興ウェブメディアを、企業を含め、ユーザーが支えていき、持続可能なものになるようにしていかねばならない。」と締めくくった。

学生を含め、100名近い人が集まり、その後の懇親会でも様々な分野のビジネスマンが交流した。日本のウェブメディアの歴史はまだ始まったばかりだが、その未来に多くの人が期待を寄せていることが明らかになったイベントであった。

 

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