[Japan In-depthチャンネル ニコ生公式放送リポート]【消費増税だけで賄えない社会保障】~将来、サービス削減も必要に~
2014年10月15日放送
安倍政権の大きな課題の一つと言えば、消費税増税だ。増税分は日本の社会保障制度のために使われることになっているが、果たして日本の社会保障は持続可能と言えるのか。欧州の医療制度を取材してきたばかりのジャーナリスト藤田正美氏と、社会保障経済研究所代表の石川和男氏を招き、日本の社会保障・医療問題について徹底討論した。
まず藤田氏は、欧州の医療制度と日本の医療制度の大きな違いは、欧州の多くの国で採用されている、国民一人一人に医療や税金に関する背番号を振って管理していくマイナンバー制度である、と指摘。イギリスでは、生まれると全員がNHS(National Health Service)という保健サービスに登録され、地域のかかりつけ医が決められるという。
医療情報はそのかかりつけ医のところに蓄積されていく。イギリスは税金で医療を賄っており、海外からの旅行者でも診療が無料である。この制度は国の経済が成長中はよいが、成長が止まると回っていかなくなるという問題がある。イギリスでは、医療制度問題が次の総選挙の争点となる、と藤田氏は述べた。
マイナンバー制の下では、国民一人一人の医療情報を管理することができるので、複数の病院で診療した際に検査料を二重に払うという無駄がなくなるなどのメリットがあるが、良い点ばかりではない。ドイツでは、個人情報管理が厳しく、なかなかこの制度は前に進めないという。
日本ではドイツ以上に個人情報管理にアレルギーがあり、国民総背番号制が提案されてから、実現までにかなりの時間を要している。医療情報は個人情報の中でも最もセンシティブな情報と言える。しかし、「個人情報保護を重視するがために、医療制度が崩壊してしまったら、元も子もない」と藤田氏は強調した。
現在日本の医療費は年間40兆円近いが、これが10年後には60兆円になるといわれている。この20兆円を税金・健康保険・窓口収入のどこから賄うのか。団塊の世代は収入がなくなり、保険料が払えなくなる。日本の医療費は大きな危機を迎えているのだ。
続いて、アンケートで視聴者の関心が高いという結果が出た年金制度について。今後の年金制度についてどのようにすれば良いかアンケートを取ったところ「高齢者の給付を遅らせる」が11%、「高収入者からの徴収を増やす」が78%、「増税して賄う」が11%という結果になった。しかし、スウェーデンでは、高収入者の所得税率を70%超に上げて、その結果テニス選手や大手企業の経営者が海外に逃げ出してしまったという例もあるという。
社会保障問題の中でも介護については、視聴者の関心は高くないようだったが、高齢化社会の日本においては今後問題が拡大していくだろう。5年間で49万人が介護離職しているという。雑誌では男性の介護特集なども増えてきている。
石川氏は、「介護はプロに任せるべき」だと主張。そのためには外国人にも門戸を開き、ヘルパーを増やすことが必要であるが、現行の日本の試験制度は難しすぎて、合格者が少ない。介護の仕事は離職率が高いというイメージもあるが実際は16%程度であり、全体の離職率13%と大きく変わらない、と石川氏は述べた。50歳を過ぎると他人事ではなくなってくる介護の問題。国が対策を急がなければ、今後人手不足はさらに深刻化するだろう。
日本の社会保障の仕組みがこのままでは回っていかなくなるという事実に、国民はまだ実感がわかないようだ。しかし、消費増税で増える収入は10兆円程度。社会保障を賄うためには到底足りない。「増税とサービスの削減を少しずつしていかないと、治まっていかないだろう」と石川氏は懸念を示した。社会保障制度を持続可能にするためには、国民皆が少しずつ痛みを分かち合うことが求められよう。
(注:この番組は2014年10月15日に放送されたものです。)
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