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.政治  投稿日:2014/12/9

[安倍宏行]【無念!失われた老人票】~施設に入っている人は投票出来る?出来ない?~


安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)「編集長の眼」

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うちの母親は97歳である。95歳までマンションに一人暮らしでピンピンしていたが、腕の骨を折ってから要介護2になり、ヘルパーさんの世話が必要になった。その後1年半前に東京都世田谷区内の老人ホームに入ることを決意した。

高齢者がいつこうした施設に入るのか、実はタイミングが実に難しい。誰しも健康で自立している時は、施設には入りたくないものだ。イメージとして、老人ばっかりで気が滅入る、と思うのだろう。

しかし、寝たきりになってからでは手遅れだ。受け入れてくれるところも限られてくる。では自宅で看れるのか、という問題に子供は直面する。かといって、本人に入る気がないのだから、これまた簡単にはいかないのだ。政府は、「介護は家庭で」、という方向らしいが、ことはそう簡単ではない。親の介護の為に離職したり、下手をしたら老老介護に疲れ果て無理心中などということになったらこんな悲劇はない。

さて、話は今回の選挙である。結論から言うと、母親は投票をあきらめざるを得ない。なぜか?当然、母が現在居るのは老人ばかりの施設である。普通、老人ホームの中で投票できるのかと思うのが自然だろう。実際、病院や老人ホーム等に入院・入所している有権者が、投票日当日に投票所へ行けない場合、その施設内で不在者投票をすることが出来る制度がある。

しかし、実態は違う。まず、その老人ホームが東京都選挙管理委員会の指定がいる。世田谷区内のすべてのこうした施設が指定を受けているわけではないのだ。理由は様々あろう。施設が出来たばかりで申請していなかった、だとか、申請はしたが認可が下りる前に総選挙になってしまった、とか。

筆者が区の選管に聞いたところ、身体障害者手帳を持っている人と、要介護5の人は、在宅投票が例外的に出来るという。うちの母は要介護3である。健康な人にはわからないだろうが、要介護3だと一人で期日前投票所に行くことは容易ではない。自動車と車いすで行けばいいではないか、と思う人がいるかもしれない。しかし、この冬空に気温の変化が激しい室内と外の行き来など、考えられない。頭はしっかりしていてどの候補者か、どの政党か選ぶ能力がある母の選挙権がこんなにたやすく奪われてしまうことに驚いた。

母親は今も投票できると思いこんでいる。施設からの説明もなかったし、区の選挙公報にもそんなことは何も書いてない。還暦目前の自分を含め、団塊の世代諸氏もそう遠くない将来、施設入りだろう。自分たちの投票の権利を確保する為にもこうした実態に目を向けるべきだ。

注)世田谷区の選管は、こうした選挙に関する制度は絶えず変わるので将来的にどうなるかはわからない、と説明した。

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