[古森義久]【大成功だった安倍首相演説】~批判はホンダ議員他ごく僅か~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
安倍晋三首相が4月29日、アメリカ議会の上下両院合同会議で演説をした。その全容は日本にもリアルタイムで報じられ、日本国内では、果たしてこの演説が成功だったのか否か、論議を広げるにいたった。さてどう総括すべきなのか。結論を先に述べるならば、アメリカ議会の議員たちの反応に関する限り、安倍演説は大成功だったといえるだろう。この演説はひいてはアメリカ国民への語りかけでもあった。
演説の評価の基準は当然ながらいろいろある。しかしなんといってもその第一は議場に出席した500余人のアメリカ連邦議会の議員たちの直接の反応だろう。45分の演説に対してスタンディング・オベイションと呼ばれる起立しての熱い拍手が10回以上、激しい拍手の回数は数えきれなかった。議員たちはなにも拍手することの義務はないのだ。この目でみえる反応は重視せざるをえない。
さて演説が終わっての2日間ほどの期間にアメリカ議員やその他のVIP多数のコメントが報じられた。民主党のバイデン副大統領(上院議長)は「アジア諸国に共感を示したことに最も好感を持った」と述べた。共和党のベーナー下院議長は「演説は日米同盟の誇り高く歴史的な転機となった」と礼賛した。民主党のモンデール元副大統領(元駐日大使)は「Aプラスの最高評価の演説であり、安倍首相の訪米全体が大成功だった」と絶賛した。
共和党の重鎮のマケイン上院議員は「日米の歴史の共有による和解を知らしめる歴史的な演説だった」と評価した。共和党のローラバッカー下院議員は「首相は歴史問題を威厳ある形で語り、もう卑屈な態度を取る必要がないことを証した」とも述べた。
私自身にもアメリカの友人知人から感想が寄せられたが、みな「日米連帯の強さを実感させられた」というコメントに始まり、「日米関係にいささかでも疑点があったとすれば、それがこの演説で氷解された点でルビコンを渡る演説だったと思う」というような、きわめて好意的な評価ばかりだった。
しかしその一方、安倍首相が中国や韓国が求める「村山談話」の直接の言葉として「植民地支配」「侵略」「お詫び」という用語を口にしなかったことへの批判もアメリカ議会の一部にあった。だが私の調べた限り、そんな批判を述べた議員は3人だけだった。慰安婦問題で長年、日本を糾弾してきたホンダ下院議員、中国系米人女性で初めて下院に当選したチュー議員、韓国系の選挙民を多く抱えたロイス下院議員の3人である。以上のような全体の構図からは、安倍演説はアメリカ議会の圧倒的多数に大歓迎されたと総括してよいだろう。だから大成功という表現も的外れではない。
日本のメディアでは朝日新聞がまさに安倍首相が村山談話の言葉を直接に使わなかったことへの中国と韓国の非難を大きくプレイアップしていた。その主要記事では安倍演説に対するアメリカ議会の賛成の反応と中韓両国の反対の反応を対等に並べて、賛否両論というふうに描いていた。だが実際には安倍演説はアメリカ向け、アメリカ議会向けだったのである。安倍批判を貫く朝日新聞としては、中韓両国の反応を大きく掲げないと「安倍演説は成功」という総括になりかねないと判断したのだろうか。