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.国際  投稿日:2015/5/17

[安岡美佳]【オンライン・ディベート全盛の北欧】~メディアのデジタル革命でプロとアマの境界も消える〜


安岡美佳(コペンハーゲンIT大学 研究員)

執筆記事プロフィール

北欧諸国は、各種国際指標において高いデジタル化指数を誇っているのをご存知だろうか。行政(電子政府)や教育(デジタルリテラシ、IT活用)などが注目されているが、メディアも例外ではなく、新聞・雑誌・テレビなどの従来メディアのデジタル化・双方向性が急速に進展し、毎日の生活に根付いてきている。

すでに10年ほど前から、デンマーク放送局(DR*)、ニュース・ドキュメンタリなど各種テレビ放送プログラムのオンライン閲覧を可能にしているが、近年の傾向として、従来の新聞や雑誌などとリンクするオンラインメディアで、ニュースや記事に関連したディベートなどが盛んに行われるようになっている。現在オンラインディベートを活用する利用者は、たとえば、ノルウェーでは人口の10%程度と言われ、数としては決して多くはない。しかしながら、インターネットの双方向性という特徴は認知されつつも進展が見られなかったがゆえに、オンランディベートが、近年ようやく市民権を得始めたということは非常に興味深い。

北欧では、特に社会問題の発生をきっかけに、匿名性を保ちつつトレースも可能なメディアとして、オンラインディベートが多くの人たちの関心をひいた。たとえばノルウェーでは、2011年にウトヤで発生した連続テロ事件が、デンマークではムハンマド風刺画問題が引き金となり、オンラインディベートが盛んになり、社会的に注目された。その後、民主主義におけるオンラインディベートの役割などが積極的に議論されるようになり現在に至る。

このような社会背景において、北欧のテレビや新聞などの大手メディアは、大きく変容している。変化せざるを得ない状況に置かれているという方が正しいかもしれない。要因としては、まず、今までメディアがコントロールできていた何時、何の記事をどのように出すかといった発売時期、流通経路などのコントロールが効かなくなっていることが挙げられる。デンマークでは、フェイスブック(2人に1人が利用**)やスナップチャットなどのソーシャルメディアを介して携帯電話で記事がランダムに読まれ、ランダムに流通する傾向が近年強く見られている。また、ウェブにより情報入手がより簡単になったことからアマチュア・ジャーナリストも増え、プロとアマの差が縮まっている。北欧メディア大手EGMONTの調査によると、アマチュアが執筆、構築するメディアサイトが大手メディアサイトを上回る閲覧者を集める例が、2012年頃より頻繁に見られるようになってきているそうだ。

2012年は、デンマークでネット新聞の購読者数が従来の紙新聞の購読者数を上回り(デンマーク統計局)、大手メディアのソーシャルメディア活用が盛んになるなど、北欧のデジタルメディアが変容した時期と言われる。同時に、従来手法の維持、既得権益の保護という戦略ではなく、イノベーションを起こすという方向性が明確になった時期でもある。

近年、前述のEGMONTやAller(デンマークメディア大手)は、共に、ネット重視、北欧に閉じないグローバル戦略、世界中に溢れるプロレベルのアマチュアの活用、より読者に近づき、主観的コメントを活用するなどの戦略を積極的に採用するようになってきた。社内インキュベーションとして2012年に立ち上げられたAllerのスタートアップ組織Aller Innovationなども注目される。このプログラムからはじまったものに、世界の皇室のニュースを集めたソーシャルメディアRoyalistaや日本をターゲットとしたThe Nordic Courierなどのデジタル雑誌がある。Royalistaは、世界各国からのアクセスが見られ、欧州外では、タイやアラブ諸国からのアクセスがトップを占める。

今後オンラインディベートなどにみられる双方向性の活用がより盛んになると、さらにコントロールが難しくなり、プロとアマの境が曖昧になっていくだろう。そのような社会で、メディアがジャーナリズムの役割を果たすには、どうしたらいいのか。北欧メディアの試みからは、国際的な視野を持ち、今までのやり方に固執しないことが不可欠であるという一つの視点が示されているようだ。

*国営放送局で、88年までデンマーク唯一のテレビ局だった。

**人口5,6万人の国の3万人にあたる。日本は、人口1億2千万のうちの28万人であるので、約国民の1/4が利用している計算になる。

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