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.経済,ビジネス  投稿日:2015/7/28

[遠藤功治]【グローバル化への脱皮と広報戦略構築が課題】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 福井県編「セーレン」3~


 遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

ここまでセーレンの歴史とビジネスの変遷、主力製品群の推移を見てきたが、今後の展望を考えてみたい。この数年で種蒔きをした海外の新工場群、インドネシア・インド・メキシコが、今後2-3年で収穫期に入ると予想される。世界の自動車需要も、基本は米国の底堅さに加え、中国・インド・インドネシアなどの新興国での更なる販売増で、堅調な伸びを予想する。現在の顧客はその大半が日系自動車メーカーだが、米国BIG3向けや、欧州の高級車向けなどの開拓を進めており、シェアを20%程度まで引き上げたいとしている。

付加価値の高い高級車向け製品の寄与も高まると見られ、当社収益の根幹を担う自動車関連製品は、順当に成長を続けるものと推測する。これにファッション・エレクトロニクス・メディカルなど、非常に多岐に渡る商品群が育っている。これら製品を支える基盤技術のビスコテックスが、当社オリジナルの技術であり、当面、他社の追随を許さない技術であるとすれば、当社の技術優位性は揺るがないと考える。東尋坊近くの三国に所在する研究開発センター、米国のそれを思わせる素晴らしい環境に、研究員が約200人、新製品の開発に力を入れている。

こういったユニークな企業ではあるが、仮に問題点があるとすれば何か、ここでは主に5点を挙げておきたい。第1は、繰り返しになるが、福井県以外での知名度の低さである。社員の90%以上が福井県出身。これ自体は、郷土愛を軸に社員が纏まる強みではあるが、また弱みともなり得る。人材の獲得競争は激しく、特に首都圏での優秀な人材を引き寄せる必要がある。自動車・電機・医療・ファッションと、多岐に渡る製品群の拡大、海外進出が益々進む中、優秀な人材の確保は至上命題だが、これを加速させるためにも、福井県以外での知名度を挙げる必要がある。

第2の懸念は小売での営業力の弱さである。当社の製品で個人に販売するものはまだ少ない。衣料の一部、及び化粧品がようやく立ち上がった程度である。自動車部品と同様、末端のユーザー層での知名度が低いことで、第1のポイント同様、会社の知名度向上・人材獲得も不利になる。経営陣は十分この点を認識しており、まさにこの個人向け営業強化が今後の課題と、今後ファッションや化粧品を中心に強化する方向だが、資金も時間も相当かかる長期戦となる。

そして第3は、真のグローバル化への脱皮であろうか。脱皮という言葉を何度か前述した。また当社は北米・南米から中国・東南アジアに至るまで、海外に工場も多い。しかし、その顧客リストに名を連ねるのは、大概、日本企業である。日本企業の海外進出に合わせ、日系企業の現地工場に製品を納めるのが基本である。惜しむらくは、欧州メーカ―や米BIG3への販路の拡大、また、メディカル関連やファッション業界では、圧倒的に欧米企業の存在が大きい。日本企業の海外進出だけで手いっぱいであった、という側面はあるにせよ、今後は非日系企業、特に当社が得意とする製品群なら、大手の欧州・北米企業への売り込み拡大を是非実現して欲しい。

つい最近、海外出張の手続きも国内出張並みに簡素化した、との話があったが、元々国内と海外の出張手続に差があったこと自体がおかしい。小松からなら、鹿児島に行くよりソウルの方が近いであろう。懸案があれば明日の今頃はニューヨークだというスピード感が、特に現在の環境では必要となる。

第4の懸念は株主対策の充実であろうか。必ずしも株価対策に過度に傾注する必要はないが、ある程度、ステークホールダ―である投資家への配慮は必要であろう。多種多様なステークホールダ―のうち、顧客・従業員・調達先・地域社会への還元は、それぞれ非常に十分な会社だと推測出来るが、投資家へのそれはまだまだ不十分だと感じる。

ROEの低さ(昨年度実績8%)、配当性向の低さ(同24%)、投資家への情報提供(面談・説明会など)など、全般的なIR政策が十分な水準とは言えない。6%台の営業利益率はまだまだ改善の余地があり、一方で自己資本比率が60%を超え、現金をやや会社内に貯め過ぎている印象もある。声高の株主が増えて行く中、それを排除するのではなく、うまく取り込むこと、内外にファンを作っていくことが肝要であろう。

最後の点は、そしてこれは、第1から第4までの懸念全般に通じるのだが、鳥瞰図的な広報戦略の導入であろう。これほどユニーク、かつ強力な経営陣を配しながら、この会社は企業広報が下手である。否、殆ど考慮に入れていないとも映る。日本の企業は全般的に広報が下手であり、また広報をただの広告宣伝の一貫などと思っている会社も多いが、大きな間違いである。

広報とは企業のファンを作るプロセスであり、各種ステークホールダ―との相互意思疎通を行うツールであり、何より、有事に対する備えである(別に集団的自衛権の話をしているのではない)。仮にそうならば、広報には戦略が必要であり、それを統括するのは、企業を鳥瞰図のように見渡せるトップである。そういった経営者を有している会社が、必ずしも広報戦略を重要視していないのは残念である。北陸新幹線が福井・敦賀に延伸となるより先に、この広報戦略の確立を、前倒しで推進して頂きたいと、川田会長にはお願いする次第である。

(終わり。本シリーズ3回。
【カネボウを買収した経営者の英断】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 福井県編「セーレン」1~
【驚異の微細精密印刷技術、車のシート世界シェア16%】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業”福井県編「セーレン」2~
も合わせてお読みください。)

トップ画像:出典 セーレンfacebook

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