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.政治  投稿日:2015/8/15

[西村健]【五輪エンブレム問題、炎上の前に抑えておきたい事】~東京都長期ビジョンを読み解く! その30〜


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

執筆記事プロフィール

みなさんが覚えているイベントのエンブレムはありますか?

個人的にはバルセロナ五輪とブラジルワールドカップのエンブレムしか覚えていない。なぜなら前者は部活のときに使用していたアシックス製のジャージがバルセロナ五輪仕様であったから、後者は実際見に行ったからだ。でも、それ以外はまったく覚えていない。「これはどちらのですか?」と何個か提示されたとしても答えられる自信があるかどうか。

個人的にはエンブレムは日本選手の活躍や住民参画により、人々1人1人の色に染め上げられるものだろうと思っている。それぞれがエンブレムに記憶と思い出を乗せるような。イベントが過ぎれば皆があっという間に忘れるものなのに、と恐ろしいほど醒めた自分がそこにいたりもする。

東京五輪エンブレム問題、ネットが「炎上」している。佐野研二郎氏の過去の作品がネット上での詮索、いわゆる「身体検査」を受けた。サントリーが佐野氏作品の取り下げを発表するなど、疑惑がさらに拡大しそうな雰囲気だ。収拾する気配すら見られない。これだけ反響を巻き起こしているのはなぜか。

先日、ある友人女性と話していて、彼女が本質をつく発言をした。「やっぱり、エンブレムが素敵と思う人が少ないのが今回の騒動の根源的な理由だと思う」と。そしていう、「海外のホテルのマークみたい」と。

女性の感性の鋭さには恐れ入るが、言われてみればそうなのだ。今回のロゴはかっこいい(と私は思う)が、日本らしさが感じられない。そして、外国人が日本に求めるイメージとはかけ離れている。この根本原因が違和感をうみ、人々の感情を刺激しているのではないか。

ということで、取り下げない限り、この炎上・延焼を鎮火することは困難だろう。

さて、報道関係者としての申請がおり、その後いろいろなことがわかったので紹介しよう。

大会エンブレムの役割は何か。

それは「TOKYO 2020オリンピック・パラリンピック大会の象徴」、「大会デザインの起点となり、様々な場面で使用される最重要ブランド」との位置づけだそうだ。もうすでにブランドは傷ついてしまっているわけだが。

大会エンブレム選定基本方針としては、「日本を代表するデザイナーによるフェアでオープンな条件付き公募」と「幅広い視点・クリエーティブスキルを持った審査委員会を編成」があげられている。

その審査委員会の委員が以下の方だと判明した。

永井一正さん 【肩書】日本グラフィックデザイナー協会特別顧問
浅葉克己さん 【肩書】日本グラフィックデザイナー協会会長
細谷巖さん 【肩書】東京アートディレクターズクラブ会長
高崎卓馬さん 【肩書】TOKYO 2020 クリエーティブ・ディレクター
平野敬子さん 【肩書】デザイナー/ビジョナー
片山正通さん 【肩書】インテリアデザイナー
真鍋大度さん 【肩書】メディアアーティスト/プログラマー/インタラクションデザイナー
長嶋りかこさん 【肩書】グラフィックデザイナー
※室伏広治さん 【肩書】オリンピアン・TOKYO 2020 スポーツディレクター
※成田真由美さん【肩書】パラリンピアン

前回ご紹介した方以外の審査委員を紹介しよう。西武ライオンズの総合デザインで有名な細谷巖さん。クリエーター・オブ・ザ・イヤーを何度か受賞している高崎卓馬さん。東京国立近代美術館のシンボルマークの平野敬子さん。そして2名の最終審査オブザーバー(※)を加えた総勢10名。錚々たる面々である。

この方々がエンブレムはもちろん、それ以外にも、デザインの活用アイデア、展開例、制作意図説明書、デザイン制作意図(800字以内)を審査した。

第1次審査、第2次審査で8名が決定し、権利譲渡契約を締結、その後内定に至り、IOCによる商標確認等を経て決定するというプロセスだった模様だ。8名から3名、そして1名に絞られた過程は不明である。

ちなみに、私が先日電話で組織委員会戦略広報局の担当者に確認したところ、選考プロセスの議事録や詳細を公開するつもりは「ない」そうだ。審査関係者からの説明はされないのだろう。

私は審査プロセスがオープンにされないことも今回の混乱の要因の1つだと考える。素敵ではないデザイン、オープンにされないプロセス、この2つへの不満がゆえに我々は感情をぶつけたくなる。

しかし、私が代表を務めるNPO日本公共利益研究所(JIPII)の橋本直久客員研究員はこれと反対の意見を主張する。「誰が出資者であるかが大事だと思う。51~100%が税金で事業をしている組織なら都民も国民も主張する権利はあるが・・・。出資額が少ないのなら、出資者の中でコンセンサス得られればいいのではないのか?」との指摘。確かにそこを考える必要がある。

その指摘を受けて、さっそく財務資料を調べてみた。27年度の予算書では経常収益180億円のうち、国庫等助成金は4億円、わずか2.2%にしかすぎない。26年度では経常収益のほとんどを占めるのだが、スポーツ振興くじ(TOTO)から2.7億円。

お金の出所が細かいレベルではわからなかったものの、このように偉そう発言を繰り返していた私でさえ口をつぐみたくなってしまった。委員会に限っての税金の投入は今のところ見られない。我々一般国民、一般都民には、表現の自由はあるものの、主体的に批判する権利や資格は無いのかもしれない。

しかし、公益財団法人への移行前の25年度の受取寄付金(40億円)、さらに政府や東京都の関連予算についてもまだまだ調査が必要である。次回は、混迷化するエンブレム問題から離れ、事業効果分析の専門家として東京五輪組織委員会や政府の事業コストの面から見ていきたい。

※トップ画像(キャプチャー):出典 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 YouTube公式チャンネル 

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