「不謹慎狩り」と「保育園うるさい」の闇 日本の待機児童問題その5
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
熊本の震災は、ようやく復興局面に入ったと考えてよいのだろうか。
補正予算の前倒しなど、今次の政府の動きは(当然のこととは言え)、必然手はちゃんと打っていると評価してよい。
それはそれとして、ふたつのことを考えさせられた。
ひとつは、やはり震災で本当に怖いのは火災や津波なのだな、ということ。
阿蘇大橋が崩落し、名に負う熊本城の石垣が一部崩れてしまうなど、建造物の被害は甚大であったが、人的被害は100人を下回った。
もちろん、不幸中の幸いなどと言い得る数字ではない。
家はもとより生活基盤を失った被災者の救済には、国を挙げて取り組まねばならない。
ただ、そのことと関連して、ネットでの「不謹慎狩り」には怒り心頭であった。
多くの芸能人が、SNSで被災者への思いを綴るなどしたわけだが、これを売名行為と決めつけたり、ある女性アイドルの場合など、笑顔の写真を投稿しただけで「不謹慎」というコメントが多数書き込まれたという。
実際に自宅が全壊する被害にあった女性タレントに至っては、被災地の現状をブログで発信していたのだが、
「食べ物がないのに、電池使ってブログ更新ですか。余裕ですね」
などという中傷コメントが書き込まれ、とうとう更新をやめてしまった。
この騒ぎと前後して、都内と千葉県下で、相次いで保育園の開園が延期になったという報道に接することとなった。
理由は、近隣住民の反対。いわく、
「子供の声で、閑静な住宅街の環境が損なわれる」
「道が狭いのに、父兄が車で送迎に来るのが心配」
保育園側は、後者の問題については、送迎に自家用車を用いないよう父兄に伝達済み、としていたが、近隣住民への説明が不十分であったと認めざるを得なかったようだ。
このふたつの問題は、一見、まったく方向性が違うように思える。
前者すなわち「不謹慎狩り」に関しては、芸能人がなにを発信しようが、
「あなたに迷惑をかけましたか?」
で済まされてしまう話だが、後者は一応、自分の住環境の問題に関わってくるからだ。
しかしながら私は、いささか違う見方をしている。
近所に保育園が出来ると、子供の声がうるさいというのは、なんとも寛容さに欠ける話だと、私は思う。
「お宅のお子さんは、そんなに静かだったのですか?貴方自身の子供の頃はどうでしたか?」
と言いたくなるではないか。私は自分のブログで、
「みんな座禅修行でもしてるのか?」
などと、いささか揶揄を込めてこの問題に触れたが、これは真面目な話である。
前回、現役幼稚園教諭へのインタビューを軸として、本当の意味での保育士の待遇改善とは、給与面だけではなく、
「子供と遊んでるだけの、誰でも出来る仕事」
といった見下した評価が、全社会的に払拭されることではないだろうか、という問題提起をさせていただいた。
震災からの速やかな復興も、待機児童問題の速やかな解決も、わが国の将来にとって死活的重要性をもつことは言うを待たない。
ところが、芸能人の善意や保育の現場での苦労というものに対する理解をまったく欠いた、非寛容な「市民の声」こそが、実は最大の障壁となっている。
「日本人がここまで寛容さを失ったのでは、子供など産みたくないと考えるのが、むしろ正解」
などと、ネットの声に悪のりするような皮肉を書きたくもなるが、もちろん、それで済まされる話ではない。
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。