[安倍宏行]【オランダ・リポート①】政府主催で各国のジャーナリストを集めた政策PRイベントを開催するオランダ〜世界規模の課題解決にグローバルな知恵の共有を。
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
執筆記事|プロフィール|Website|Twitter|Facebook
唐突だが、私は今、オランダはアムステルダムにいる。何故かというと、はオランダ政府に招かれたからだ。彼らは、世界中のジャーナリストを招き、自国の医療産業についてより深く知ってもらいたいと思ったようだ。参加者は、ブラジル、フィンランド、ハンガリー、ヨルダン、モロッコ、メキシコ、ポルトガル、ロシア、スリナム、ベトナム、中国と12か国に渡る。
さて、到着してすぐ、オランダの医療の現状についてプレゼンテーションが行われた。オランダ厚生労働省のシニア政策アドバイザー、ハルマン氏によると、オランダの人口は1680万人。年間医療費の総額はおよそ10兆円(1ユーロ=136円)国家予算の33%にあたるという。国家の規模を考えるとかなりの負担だ。オランダの平均寿命は女性が83.3歳、男性は78.3歳と比較的長い。更に、慢性成人病に罹る平均年齢は男性で48歳、女性で42歳と若い。糖尿病などの慢性疾患は2005年時点から見て、20年間で40%増加すると予測されている。これでは医療費の負担は重くなる一方だということで、近年、予防医学に力を入れているという。具体的には、
- 慢性疾患罹患者の増加率を下げる。
- 慢性疾患に罹る平均年齢を上げる。
- 慢性疾患の合併症を防ぐ。
- 慢性疾患罹患者の生活の質を向上させる。
・・・ということに注力しているという。
こうした目標を達成するためにオランダ政府は改善に取り組む疾患のプライオリティを、
- 鬱
- 糖尿病
- メタボリック症候群
- 喫煙
- アルコール依存症
・・・においている。
その上で、慢性疾患の予防について、ハルマン氏は、地方政府の役割と、家庭における教育などの重要性も強調した。こうした取り組みが必要なのはどこの国も同じであろう。オランダでは医療従事者の不足も深刻化しているといい、彼らの育成も大きな課題だという。
20日(月)から24日(金)までオランダ中の様々な医療機関や研究機関、企業などを視察する予定で、この後リポートする。
それにしても、私企業が行うならまだしも、政府がこうして世界中のジャーナリストを集めて自国の政策についてPRを展開するというのも珍しい。
自国の取り組みについて公にすることで、ある意味、自らの政策を国際公約にすることにもなるわけで、国家のブランディング化にも資する、という考えなのだろう。
日本的発想からすれば、なぜわざわざそんなこと海外のジャーナリストに説明しなければならないんだ、となりそうなものだ。
しかし、考えてみれば少子高齢化と膨れ上がる社会保障費の削減に真っ先に取り組んでいるのは日本である。その取組やノウハウを世界各国に知らしめることは、グローバルな観点から必要なことではあるまいか。
いずれにしても、世界共通の課題解決に、各国が単独で取り組むのは非効率だ。グローバルに知恵とスキルを共有してこそ、この困難な課題の解決に繋がるだろう。
【あわせて読みたい】
- 【滝川クリステルのオリジナル動画番組】『今、何を考え、どう動くべきか』第二回
- 認可保育所と認可外保育施設で、死亡事故の報告件数に大きな違い〜保育施設への国家的な危機管理の整備を(石川和男・NPO法人社会保障経済研究所理事長)
- 外国人でも70万円で安楽死ができる国スイス〜最先端の安楽死制度を持ち、自殺幇助が合法のスイスには安楽死ツアーもある(磯村かのん・通訳/起業家)
- ソーシャル・メディア・ビジネスの終焉を予感させる2014年〜SNS企業の象徴『mixi』はソーシャルを捨てられるか?(藤本貴之・東洋大学 准教授)
- ランソワーズは体を売らなければHIVにかからなかっただろうか?HIV感染の診断が早ければエイズの発症を防げただろうか?〜世界3300万人以上のHIV感染者の70%がサハラ以南のアフリカに(青柳有紀・米国内科専門医・米国感染症専門医)
- GDP比20%超の「年金・医療・介護」に対し「子ども・子育て」わずか1%〜「待機児童」ホントは何人??「潜在的な待機児童」は最大で198万世帯・364万人の試算(石川和男・NPO法人社会保障経済研究所理事長)