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.社会  投稿日:2019/3/15

緊急避妊薬を手に入れやすく


Japan In-depth編集部(石田桃子)

【まとめ】

・緊急避妊薬へのアクセスに関して、日本は現在転換期にある。

・緊急避妊薬は、意図しない妊娠を防ぐための「最後の砦」。必要とするすべての人に届けたい。

・アクセス改善のみならず、性教育の充実等、適切・安全な使用のための環境づくりが必要。

 

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3月12日、「緊急避妊薬アクセスの諸課題を考える緊急院内勉強会」が開催され、緊急避妊薬の問題と性の健康について議論された。

緊急避妊薬とは、性交後遅くとも72時間以内に服用することで高い確率で妊娠を防ぐことのできる薬で、意図しない妊娠を防ぐための「最後の砦」である。日本では2011年に緊急避妊専用薬が承認・発売されたが、使用は低い水準にとどまっている。

緊急避妊薬の使用率が低い原因は、医師の処方箋が必要で、産婦人科などの医療機関を受診しなければならない点、価格が1錠あたり1万5千円から2万円と高額な点である。

最も望まれる「緊急避妊薬のOTC(市販)化」は、2017年に見送りが決定されたものの、現在は厚生労働省でオンライン診療化が議論されており、さらに今年3月には緊急避妊薬ジェネリック医薬品「レボノルゲストレル錠」の発売が予定されている。このような転換期に開かれた同勉強会は、緊急避妊薬をめぐる現状や課題を学び、今後の取り組みについて考える良い機会となった。

 

■ 「性の健康」を推進する活動家、専門家が登壇

遠見才希子氏(産婦人科医)

数々の中学校・高校などで性教育の講演活動を行ってきた「えんみちゃん」こと遠見氏は、講演でも重視している、「セクシュアル・コンセント(性的同意)」(注1)を理解することの大切さを強調した。「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)」を引用し、「真の同意とは、対等な関係性のもと、相手を尊重したうえで、自分で選んで決められること」と述べた。

その上で、日本には避妊に関する選択肢が少ないことを、問題として指摘した。

1.日本の避妊法が、女性が主体的ではない、不確実な避妊法に偏っていること。

現状では、女性主体の避妊法のうち避妊効果が比較的高いものは、「低用量ピル」、「子宮内避妊システム(IUS)」のみである。

2.避妊目的の場合、保険診療が適用されない。

保険診療が適用されるのは治療目的のときのみであり、そのため、入手価格が高額となる。

OTC化の議論がなかなか進まないことについて、「OTC化」が様々な形態を取りうることが要因だと指摘した。いわゆる「OTC医薬品」は、処方箋医薬品などの医療用医薬品以外の医薬品を指し、薬剤師のみが販売する「要指導医薬品」、通販が可能な「第一類医薬品」、さらに登録販売者による販売が可能な「第二・三医薬品」がある。

OTC化へ向けた第一段階として、オンライン診療化が議論されていることについては、「産婦人科に風が吹く」として、既得権益を守ることよりも、他の科やベンチャーとの連携が促進されることへの期待を述べた。

▲写真 遠見才希子氏(産婦人科医)©Japan In-depth編集部

また、緊急避妊薬へのアクセス改善に反対する意見の中に、「自業自得」という声があることについて、「医療には人を罰したり、律したり、ジャッジする役割はない。健康を守るため安全に平等に提供されるものであるべき」と述べた。

 

福田和子氏(#なんでないのプロジェクト代表)

「福田さんに出会って、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツという視点を思い出させられた」と遠見氏より紹介された福田氏。海外にあって日本にはない、緊急避妊薬へのアクセスの容易さを紹介した。

1.緊急避妊薬は、世界19か国でOTC、147か国でBTC(薬剤師による販売)として認可されている。つまり、いずれも処方箋は不要

2.海外で緊急避妊薬を入手可能な場所は、病院、薬局、その他の医療機関、学校、コミュニティヘルスケアセンター、オンライン公式サイトと、多岐にわたる。

3.海外での緊急避妊薬の販売価格は、日本より安価。無料の地域もある。

日常の避妊法についても、WHOの必須医薬品リストにあるものを含む、効果が高く長続きする避妊具が日本で全く流通していないということも、問題として指摘した。

▲写真 福田和子氏(#なんでないのプロジェクト代表)©Japan In-depth編集部

福田氏は、「性の健康が守られていない状態を当たり前だと思わないでほしい」と語った。

 

染矢明日香氏(NPO法人ピルコン理事長)

望まない妊娠・中絶への問題意識から、性の健康啓発に取り組んできた染矢氏は、性教育の重要性を訴えた。

▲写真 染矢明日香氏(NPO法人ピルコン理事長)©Japan In-depth編集部

中学校・高校への講演活動の事前アンケートで、避妊についての問題の正答率が4割にとどまったことに衝撃を受けたという。「心と体を守る情報を大人が与えることが大切」と述べた。中学校の保健体育の教科書には性行為について、高校の保健体育の教科書にはコンドームの適切な使用方法や緊急避妊についての記載がないことを問題として指摘し、「十分に情報を与えないことは、当事者に責任を押し付けている」と述べた。

望まない妊娠・中絶の問題は、貧困や虐待、いじめ、性非行と密接に関わって、連鎖的な構造を持っていると説明した。一方で、性教育によって、性行動を慎重化するという調査結果を示した。

1.ユネスコ調査で、性教育が性行動を早めたとする研究は0%であり、37%では、性教育が性行動を遅らせるという結果が出た。

2.秋田県で、中高生向けの性教育の取り組みを始めた後、10代の中絶率が大幅に低下した。

さらに、緊急避妊薬を使用した当事者の声を紹介し、「様々な立場の人がそれぞれに意見を発信しているのはもったいない。意図しない妊娠に悩まない、その人らしい人生を守る方法を一緒に考えたい」と、この勉強会の目的を改めて述べた。

 

中野宏美氏(NPO法人しあわせなみだ代表理事)

しあわせなみだは、性暴力撲滅のため啓発活動を行うNPO法人。性暴力の観点から、緊急避妊薬のアクセス改善の必要性を訴えた。

「性暴力を受けたら警察や医療関係者に相談する」というのは理想論に過ぎず、性暴力被害の警察への届け出は全体の3.7%、医療関係者への相談は1.8%にとどまっているという。早期の服薬、親や友達に知られずに購入することを可能にする仕組みが必要と主張した。

ただし、OTC化が進んだ場合に考えられる問題として以下の点を挙げ、

・性感染症の検査、治療ができない

・心のケアまで行き届かない

性教育により正しい知識を広めること、相談先の提供を進めることを、解決策として提案した。

▲写真 中野宏美氏(NPO法人しあわせなみだ代表理事)©Japan In-depth編集部

 

田中雅子氏(上智大学総合グローバル学部教授)

国際協力とジェンダー論を専門とする田中氏は、「外国人女性」の視点から、緊急避妊薬のアクセスにおける課題について語った。活動の背景には、自身が外国人女性として海外で暮らした経験や、その間日本の性をめぐる環境が進歩していなかったこと、日本に住む外国人女性と関わってきた経験があるという。

田中氏は、「移住女性は、使い慣れたサービスにアクセスできず、望まない妊娠のリスクを抱えている」と説明した。妊娠を理由に、職を失ったり、帰国させられたりする例もあるという。さらに田中氏は、避妊のための選択肢を増やすことは、移住女性だけでなく、日本で生まれ育った女性にとっても必要であり、災害時の支援などの観点からも、緊急避妊薬へのアクセス向上は急務だと述べた。

▲写真 田中雅子氏(上智大学総合グローバル学部教授)©Japan In-depth編集部

 

木村やよい氏(衆議院議員)

木村氏は同じ時刻に開かれていた自民党政務調査会との掛け持ちで、同勉強会に参加した。自民党政務調査会・厚生労働部会・虐待等に関する特命委員会合同会議で、児童虐待防止対策の強化を図る、児童福祉法改正法案の審議を行っていた。

児童虐待問題をはじめ、様々な問題が避妊の問題と関わっており、負のスパイラルを形成していることを指摘。その上で、「緊急避妊薬へのアクセスを改善することは、負のスパイラルにくさびを打ち込むチャンスだ」と述べた。

▲写真 木村やよい氏(衆議院議員)©Japan In-depth編集部

同勉強会には、木村やよい氏をはじめ、多数の国会議員が出席した。

また、産婦人科医の宋美玄氏、エンパワメント神奈川代表理事でデートDV防止全国ネットワーク事務局長の阿部真紀氏、株式会社アメニモ代表取締役白須真鶴枝氏、日本女性薬剤師会副会長櫛方絢子氏など、関係各界の代表者も多数参加した。

エッセイスト・タレントの小島慶子氏、フォトジャーナリストの安田菜津紀氏、薬剤師の高橋秀和氏、医療法人社団ウィミンズウェルネス理事長・産婦人科医の対馬ルリ子氏からは、賛同・応援のメッセージが寄せられた。

▲写真 宋美玄氏(産婦人科医・丸の内森レディースクリニック)©Japan In-depth編集部

宗美玄氏は、「OTC化は必要だが、オンライン診療が診療と呼べるものになるのか懸念がある。避妊法の普及率が低い問題は、緊急避妊法のアクセス改善だけでは解決されない」と語った。

▲写真 小縣悦子氏(日本女性薬剤師会副会長)©Japan In-depth編集部

小縣悦子氏は、「薬局薬剤師が、意図しない妊娠への不安を抱えた人の、相談相手になり得るような教育が必要」と語った。

染矢氏らは、最後に以下の項目からなる「緊急避妊薬へのアクセス改善に向けた緊急提言」を読みあげ、同勉強会を締めくくった。

▲写真 「緊急避妊薬へのアクセス改善に向けた緊急提言」を読み上げる染矢氏 ©Japan In-depth編集部

1.緊急避妊薬へのアクセス改善

 (1)オンライン診療科を認めること

 (2)薬局で薬剤師による対面での販売を認めること

2.緊急避妊薬の価格を下げること

3.その他、緊急避妊薬が適切、安全に使用されるための環境づくり

 (1)女性の安全を重視した環境づくり

 (2)新たな緊急避妊薬の承認・販売

 (3)性教育の充実

 (4)女性主体の確実な避妊法へのアクセス改善

 

注1)「人々は、他の人の権利を尊重しつつ、安全で満足できる性生活を送り、子どもを産むかどうか、産むとすれば、いつ、何人産むかを決定する自由を持つ。適切な情報とサービスを受ける権利を有する」(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)、1994年、国際人口開発会議)

トップ写真:「緊急避妊薬アクセスの諸課題を考える緊急院内勉強会」 ©Japan In-depth編集部

 

【訂正 2019年3月17日】

本記事(初掲載日2019年3月15日)の本文中に誤りがありました。

 

誤:「田中雅子氏(上智大学走法グローバル学部教授)」

正:「田中雅子氏(上智大学総合グローバル学部教授)」

 

誤:「櫛方絢子氏(日本女性薬剤師会副会長)」

正:「小縣悦子氏(日本女性薬剤師会副会長)」

 

大変失礼致しました。お詫びして訂正いたします。


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