"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

RWS搭載海自護衛艦に疑問

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・海自護衛艦に遠隔操作銃架搭載へ。人減らし目的はむしろ危険。

・初めから低性能・高価格の国産ありきで実戦に役立つかは疑問。

・仕様を開示しない防衛装備庁。高速ボートテロへの弱点を暴露。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45105でお読みください。】

 

海上自衛隊は昨年度発注した新型護衛艦、30FFM及び、現在建造中の「あさひ」級の二番艦である「しらぬい」には日本製鋼所が開発した国産のRWS(リモート・ウェポン・ステーション)が搭載される。

海自はこのRWSの採用したのは「省人化、省力化及び隊員の安全確保の観点から導入した」としている。また「機関銃を自動化したものであり、従来と同等の運用を行う」としている。海上自衛隊ではこのRWSを「水上艦艇用機関銃架(遠隔操作型)」と呼称している。

このRWSの調達コストは30FFM用が2隻分、4基、152,150,400円、調達単価約3,800万円で、護衛艦で、「しらぬい」用には2基が各2,160万円で調達されている。同型艦の「あさひ」にも搭載されるかは明らかにされていない。いずれも機銃は官給品として支給され、この価格には含まれていない。

RWSとは元来装甲車用に開発された機材で、機銃などの小火器にビデオカメラ、レーザー測距儀などを統合したもので、車内にいながら周囲を監視し、射撃できるシステムだ。戦車や装甲車は外部の様子がわかりにくい。このため車長がハッチから頭を出して周囲を観察することが多いが狙撃されたり、砲弾の破片にあたって死傷したりすることが多い。このため車長の死傷率が極めて高い。このような被害を低減するために開発され、90年代ぐらいから各国の陸軍で普及しだした。

現在のRWSは暗視装置や安定化装置、自動追尾装置などが装備されることが多く、夜間や走行中で安定して動く目標を射撃することが可能である。またビデオカメラでは肉眼よりも遥かに遠方の目標を確認できる。

▲写真 重量物運搬船「ブルー・マーリン」に運搬されるUSSコール。小型ボートを使った自爆テロにより艦体に破孔が生じた。(2000年10月)出典:Pubic Domain(Wikimedia Commons)

海軍用のRWSは2000年にUSSコールが自爆ボートに襲撃された事件をきっかけに各国海軍が近接防御用として急速に採用してきた。手動式の機銃座に比べて、遥かに正確にターゲットを捕捉、追尾して攻撃することが可能である。またビデオ画像によって交戦の一部始終を録画できるため、後に交戦の正当性を証明することができる。

▲写真 自爆テロに攻撃されたUSS Coleの船腹 出典:US Navy

我が国では2001年に北朝鮮の不審船と海保の交戦があった。このとき巡視船は搭載されていたRWSの一種である20ミリ機銃を装備した無人砲塔を使用し、その模様はニュースなどでも繰り返し報道されたが、海上自衛隊はRWSの採用にこれまで消極的で、全く装備してこなかった。

▲写真 防衛省技術研究本部が発表した車輛搭載用RWS 画像提供:清谷信一

海自が採用したこのRWSは平成21~23年度までに技術研究本部(現防衛装備庁)が陸上自衛隊の車輌搭載用として12億円を掛けて研究試作されたものをベースにしている。主契約者は日本製鋼所である。このRWSはサーマル・イメージャー、ビデオカメラ、レーザー測距儀、自動追尾装置、安定化装置などが組み込まれたもので、火器としては5.56mm、7.62mm、12.7mm機銃及び、40mmグレネードランチャーが装着して評価された。

その後陸自では採用がなく、コマツが開発した8輪の装輪装甲車(改)に搭載されるはずだったが、このプロジェクト自体がキャンセルされたため、陸自がこのRWSを採用する計画は現時点では存在しない。

▲写真 技本が発表した車輛搭載用RWSとコントロールパネル。海自用はこれをベースに開発された 画像提供:清谷信一

海自ではこのRWSの搭載火器は住友重機製の12.7mmM2機銃と、日本製鋼所が独自に開発した動力付きの20mm機関砲が評価されたが、12.7mm機銃型が選択された。なおこの20mm機関砲の反動はM2よりも小さいという。日本製鋼所はこの20mm機関砲搭載型の試作品は平成29年に87,544,800円で日本製鋼所が防衛装備庁から受注している。

なお海自によるとこのRWSはノルウェー、コングスバーク社製のシー・プロテクターと比較を実施し、国内品は輸入品に比べ、維持整備が容易であること、海自の所要に合致した陸自要求の研究試作品があったこと等を考慮し、国産品を選択したのとのことである。だが実態は単に書類審査をしただけのようだ。

このRWSは30FFMの艦橋のルーフのセンサーマストの付け根左右に装備される。仰俯角や旋回半径、サーマル・イメージャーのスペックなど仕様の詳細は公開されていない。このRWSには陸自型では装備されていたレーザー測距儀や自動追尾装置などが装備されていない。同様にビデオ映像を保存する録画機能も付加されていない。

これは海自がRWSを主として見張り用であり、また単に遠隔で射撃ができればいい、見張りと機銃の要員を兼ねさせればクルーの数を減らせるという考え方のためだろう。射手と補弾手、監視要員の3名を1名でこなせるので省力化になるというわけだ。

また見張り要員が艦橋横の見張り用の張り出しにでて雨風に耐える必要がなく、ブリッジ内で見張りができるので負担が軽減できるということだろう。このためか30FFMにはその他の機銃の銃架は設けられない。

だが、これはRWSの導入としては極めて歪んだ考え方だ。本来RWSは水上艦艇の近接防御のためのシステムである。口減らしのためのものではない。左右2基のRWSでは360度の近接防御は不可能である。これまで海自の護衛艦は近接防御用として20ミリガトリング機関砲を装備したCIWSClose In Weapon Systemを搭載していたならば、RWSの死角をカバーできたが、FFMが採用したSea RAM(Rolling Airframe Missile)は短距離用ミサイルしか搭載していないので向いていない。このため後部はほぼ死角となる

▲写真 CIWS(Close In Weapon System)画像提供:米海軍

このRWSはコスト削減のため本来必要なレーザー測距儀と自動追尾装置を外したので、高速で接近するボート、特に自爆ボートには無力である。RWSを導入する理由をわかっていない。僅か1~2千万円程度の費用をケチって本来必要な機能を外して、1隻5百億円近いFFMと乗員の命を危険に晒す必要があろうか。

海幕と装備庁は30FFMについて、コスト削減と省力化という手段を目的化しているのではないか。コスト削減というのであれば何ゆえ、12.7ミリ機銃は高い国産を採用したのだろうか。平成30年度に海自は調達単価660万円で2丁の12.7ミリ機銃を調達している。(参照:『自滅する国産機関銃 輸入へ切り替え』

だが米軍調達単価は約1400ドルである。国産品の単価はその4.4倍以上である。輸入コストがかかっても160万円程度、悪くても半額以下程度だろう。そうであれば、輸入に切り替えれば2丁で700万円以上の節約が可能ある。まとめ買いをすればコストは更に下がるはずであり、1丁あたり450万円、実に6割程度のコスト削減が可能になるはずだ。なぜそれをやらないのだろうか。

しかもそのくせ型式の古いコンピューターを高い値段で調達しており、その予算があるならばまともなRWSと、合わせて数丁の機銃を導入し、死角をなくすことができたはずだ。

▲画像 海保巡視船による不審船(北朝鮮工作船)船体への威嚇射撃(2001年12月22日)出典:海上保安庁ホームページ

以前から北朝鮮不審船と海保の巡視船との交戦やソマリア沖での海賊対処に対する艦隊の派遣などRWSが必要な事態が存在するのに先述のように海自はRWSの導入に無関心だった。筆者の聞くところでは16DDH「いせ」の火器担当の艤装委員はRWSという単語すら知らなかったというお寒いレベルだ。あまりにも浮世離れしていないか。

海自はRWSの運用経験がない。メーカーである日本製鋼所もこれまでに陸上用にしろ海軍用にしろ、製品化されたRWSはなく、当然ユーザーからのフィードバックもない。そうであれば、海外製あるいは国産試作品を実際に艦艇に搭載して運用の方法やノウハウを獲得することが必要で、これを元に必要な要求仕様を作る必要があったはずだ。だがそれもおこなっていない。つまり机上の空論で運用構想を作って調達を行った

▲写真 25ミリ機関砲を採用したタイフーンRWS 画像提供:ラファール社

例えば他のシステム、例えばラファエルのタイフーンアセルサンのATAMPなど他国の海軍用のRWS等を実地に調査比較検討すべきだったがしていない。初めから国産ありきの結論でプロジェクトが進められた。コンバーグのRWSもカタログを比べただけだ。

そして実際に日本製鋼所か開発したRWSにしても実際に艦艇に搭載して試験も研究も行っていない。にもかかわらず海自はそれをやらずに要求仕様を作り、国産に決定して経験のないメーカーに丸投げして開発させ、それを採用したことになるのではないか。これは極めて無責任であり、果たして実戦で役に立つのかは甚だ疑問である。

搭載機銃にしても12.7mm機銃ならば発射速度の遅いM2よりもより発射速度が高いM3や7.62mmガトリングガンも考慮すべきだっただろう。また機関砲や対戦車ミサイルなどを搭載している可能性がある海賊船や不審船対策であれば、威力と射程の長い25~40mm機関砲を搭載したRWSも必要だろう。

▲写真 発射速度が高い12.7ミリM3機銃 画像提供:FN社

実際に諸外国では機銃と中口径機関砲を搭載したRWSを併用するケースも少なくない。特に自衛隊は諸外国よりも火力により攻撃を避ける傾向がある、そうであれば相手の射撃を困難にする音響兵器やストロボ機能がついたサーチライトなどのノンリーサルウエポンの搭載も検討すべきだったのではないだろうか。

光学サイトにしてもサーマル・イメージャーよりも三菱重工が既に実用化している、熱源がなくても探知できるレーザーレーダーの採用も検討すべきだろう。

▲写真 三菱重工が開発したレーザーレーダーシステム 出典:三菱重工ホームページ

昨今ではドローンの脅威が高まっている。せっかく自国で開発するのであればドローンに対応するためにより仰角を大きくすべきだろう。その場合20ミリ以上の電子信管装備の炸裂弾を使用する方が有利であり、その採用も検討すべきだっただろう。RWSは導入後に運用の経験を活かして、必要とあらば仕様変更や、追加を検討すべきだ。

筆者はこのRWSについて装備庁に取材したが、基本的なスペックすら非公開だといわれた。あまりにナイーブだ。装備庁に外国では普通に公開している情報を何故隠すかと尋ねたら、「このRWSは外国に輸出するわけでもなく、諸外国に手の内を秘匿するためだ」と説明された。

そうであれば護衛艦の排水量など含めた基本的な仕様なども秘匿しているはずではないか。率直にいってRWSは多くの国で開発、装備されており、仕様はそれほど大きな差はない。隠さなくてもいい基本的な仕様を隠すというのは、何が重要で、何が重要でないかをわかっていないと宣伝しているようなものだ。中国のメーカーだって搭載火器の仰俯角や電源などの情報はカタログに書いてある。

輸出しないにしても納税者に対して説明責任はあるはずだ。諸外国のものと比較して、導入したものがふさわしいか納税者にも判断する権利がある。それはないのだ、民間人は黙っていろというのであればかつての帝国海軍と同じである。その帝国海軍は健全な民間からの批判もなかったので自らを顧みることも反省することもなく、無謀な戦争に突き進んでいった。民主国家の「軍隊」であれば可能な限り納税者に情報を開示すべきである。「我々は自衛隊であるからその必要はない」というのであれば、自衛隊は非常に危険な組織ということになる。

▲写真 防衛装備庁が入る防衛省庁舎正門。 出典:本屋 (Wikimedia Commons)

他国が普通に公開している情報を隠蔽することは、自衛隊の装備を他国の装備と比較することを難しくする。このような過度の秘密主義は納税者に対する説明責任を果たさないということになる。何故国内製を選んだのか、諸外国の製品と比較して判断できる材料の提供を拒むことになる。それは、劣った日本製を導入したいがために外国製と比較されたくないのだ、という疑念を招く。

しかも筆者の取材に対して、防衛装備庁は、普通はRWSに搭載されて当たり前のレーザー測距儀や、自動追尾装置は搭載されてないと説明した。だがこれは実は「極めて重要な情報」ある。先述のように、これらがないためにFFMRWSは近接する高速ボートを正確に射撃できずに、自爆テロに弱い。このような通常のRWSを搭載した水上戦闘艦にはあり得ない「弱点」を有している。これを自ら暴露してしまったのだ。これを「重要」な情報と理解していない。

今後導入されたRWSの運用を通じて、以後に調達されるFFMではRWSの見直しがされることを切に願うものである。また装備調達のあり方、装備情報の扱い方を各幕僚監部、装備庁ともに抜本的に見直すべきである。率直に申し上げてこれではプロと言えないレベルである。

日本製の兵器の性能が低いのは確かにメーカーサイドの能力によるところもあるが、それ以上に装備庁や自衛隊の要求側の能力の低さ、当事者能力の欠如に起因することころが多く、これは構造的な欠陥となっている。これを是正しない限り、有事に役に立たない欠陥兵器を高い値段で調達し、税金を浪費する悪癖が続くことになる。

トップ写真:RWSが搭載される護衛艦「しらぬい」の進水式(2017年10月12日)出典:海上自衛隊ホームページ