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.政治  投稿日:2020/4/8

「軽装甲機動車」後継選定の面妖


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・軽装甲機動車後継の入札は公平性担保に疑問。本命ありきか。

・使用目的も不明。陸自の戦力を低下させる可能性もある。

・米国のご機嫌取りで調達なら、有事で隊員と国民が犠牲に。

防衛省は昨年陸上自衛隊の現用の軽装甲機動車の後継である「小型装甲車」に対する入札概要を決定した。だがこれは極めて問題が多く、陸自の戦力を自ら低下させることになるだろう。率直に申せばそもそも陸上幕僚監部も防衛装備庁も自分たちに何が必要で、何が欲しいのか分かっていない。このため企業に対する情報提供も曖昧だ。

「小型装甲車」は陸上自衛隊の軽装甲機動車の後継として導入する2軸4輪装甲車とされている。輸入品の場合、自衛隊の有する装備品の搭載、また国内法に適応するための改修が可能とされている。 装備化時期(量産初号機を契約する年度)は令和7年とするが、努めて早期とされており、参考品を契約する時期は令和3年とされている。

試作・参考品は4輛が調達され、量産品の調達数は1800~2200輛が見込まれている。これは現用の軽装甲機動車の調達数にほぼ匹敵する数だ。この調達数だけを見れば軽装甲機動車同様の車輌が調達されると思われる。調達は17年間で均等に取得するとされている。だが諸外国の例を見れば調達に17年は長過ぎる。その間に近代化が必要になるだろうし、調達が終了に向かう頃には初期生産品が用途廃止になって必要数が揃わないか、著しく稼働率が落ちているだろう。

最低必要な機能・性能は以下の通りとされている。

1)4名以上が乗車できるとともに、火器、弾薬、所要の補給品などを積載できる構造を有すること。

2)車体幅は2.6m未満であること。車体高は2.5m未満であること。車体長は6.5m未満であること。

3)車体質量は8t未満であること。最高速度は時速100km以上であること。その他輸送に関しては陸自のCH-47ヘリコプターによる懸吊輸送、空自のC130、C-1、C-2輸送機によって空輸可能で、海自のおおすみ級輸送艦及びLCAC、鉄道での輸送が可能であること。

等とされている。8tというのはC-1輸送機輸送の搭載量の上限だが、これから退役していく機体に合わせる必要があるのだろうか。

▲写真 CH-47Jに懸吊される軽装甲機動車。(2009年1月11日 習志野演習場。第一空挺団降下訓練始めにて)

出典: Lost688(Public domain)

機能、性能、コストに関してはNATO規格であるSTANAGのレベルによる防御力を明記するとあるが、装備庁は防御性能に関しては車体前面・上面・側面・後面において、人員・装備の防護及び、車輛の機動機能の発揮に係る部位については耐弾性を有するとともに、車体底部については耐爆性を有すること、と有るだけで具体的な防御レベルの要求がない。

またNBC防御システム、乗員用クーラーなどは要求されておらず、また維持費や廃棄費用の提出も求められていない。

仕様を見る限りかなり抽象的で、何のために、どのような目的に使用するのかも不明である。APCなのか、ウエポンキャリアーなのか、どのような派生型が必要かも示されていない。現在進められている8輪装甲車プログラム「共通戦術装甲車系列」及び、「次期装輪装甲車系列」はともにファミリー化を前提としており、必要な派生型が明示されているが、これとは対象的だ。

要求が曖昧模糊としており、メーカーも何を提案していいか困るだろう。乗員にしても4名以上では何名が必要なのかわからない。また防御レベルも分からないので、例えば4名でレベル4の装甲がいいのか、8名でレベル1の装甲の装甲車を提案していいのかわからない。

また防御力に関しても必要なのは装甲だけではない。被害を減らすためにスポールライナーの有無や消火システムも必須だがこれに関する記述もない。

さらに武装に関しても何の記述もない。非武装なのか、武装を搭載するのかもわからない。例えばルーフに有人の銃座を設けるのか、RWS(リモート・ウエポン・ステーション)を採用するのか、対戦車ミサイルなどその他の武装を搭載するかも分からない。

またCBRN(化学・生物・核兵器・放射能)防御もエアコンも必要とされてはいない。東京でも最高気温35度を超える日が多いなか、鉄の塊の装甲車にエアコンを入れないのは時代に即していない。また仮にCBRNシステムをいれてもエアコンがなければ夏場は使い物にならない。

この件に関して筆者は陸幕と装備庁に取材したが、担当者も要求を絞り込めていないことは認めている。だがそれは税金を使う立場としてあまりにも当事者意識が欠けている。

怪しいことは他にもある。国内外の候補を調査するとしているが、外国製品に関しては「アメリカ、オーストラリア、トルコ、スイス、イスラエルの調査を必須としている。その他は任意とする。またこの際1カ国以上(イスラエルは必須)を訪問すること」

と、されている。

トルコをいれたことは評価をしよう。トルコの軍事産業はこの四半世紀で長足の進歩を遂げている。装甲車両にしても多くの実戦のノウハウをつぎ込み、先進国に匹敵するものを開発している。率直に申し上げて国内の装甲車両メーカーより技術力も勝っている。輸出の実績も多い。

▲写真 Armored wheeled personnel carrier Cobra II of Otokar at the IDEF 2019 in Istanbul, Turkey.(2019年5月2日)

出典:CeeGee

だが候補に挙がっているスイスには該当する装甲車は存在せず、本来多数の候補があるスイス以外のドイツ、フランス、イタリア、英国などの欧州諸国が除外されており、公平性が担保されていない可能性がある。

またイスラエルだけは絶対に調査せよ、というもの奇妙だ。無論イスラエルにも優れた装甲車はあるが、外国のユーザーは少ない。車輛メーカーとして実績があり、多くの国で採用されている欧州、シンガポール、UAE(アラブ首長国連邦)等のメーカーを外すのは極めて面妖としかいいようがない。全く装甲車輌についての知識がない人物が作ったリストとしか思えない。

技術検討においては国産開発による習得性、外国製品の場合はライセンス国産の可能性も含めて調査するとされている。だがライセンス国産にした場合の部品などの生産移転の可否、メンテナンスや部品の供給に対するサービス期間、整備技術などの提供の可否、具体的な維持整備基盤の提案は必須項目とはされていない。

つまり、輸入したらその後の整備もパーツ供給の保証も全く要求されていない。下手をすれば整備が全くできずに、すぐにクズ鉄と化す恐れがある。

そもそも4人乗りでペイロードも殆ど無い軽装甲機動車を主力APCとして採用したのは異常である。このようなことをやっている軍隊は筆者の知る限り存在しない。世界の軍隊では主力兵員輸送車は、1個分隊が乗車可能である。つまり操縦手、車長(歩兵戦闘車ならばこれに射手)以外の下車歩兵が8人程度搭乗できる。軽装甲機動車のような軽4輪装甲車は通常、パトロールや偵察、対戦車、連絡、護衛などの使われるのが普通である。陸自のような胡乱な運用をしている軍隊はない。

軽装甲機動車を装備する普通化小隊は7両編成となるが、車輛固有の武装はなく、隊長車以外固有の無線機もない。下車戦闘に際しては車輛に鍵をかけて全員が下車して戦うというまるでコントのような戦い方をする(実際は小隊で一人だけ留守番に残すことが多いい)。

当然ながら下車隊員と車輛の連携は取れない。車輛から火力も支援も、弾薬や食糧なども得られない。また急いで移動が必要になっても徒歩で車輛まで戻る必要がある。軽装甲機動車のAPCとしての採用は機械化歩兵の利点を全部捨て去る行為だ。陸自は機械化歩兵の概念を知らないと思われても仕方がない。

しかも防衛省は明らかにしていないが、軽装甲機動車の装甲レベルは7.62x39mmカラシニコフ弾に耐えられるレベルでしか無く、7.62x51mmNATO弾、あるいは7.62×54ロシアン弾を使用する小銃や機銃の銃撃では蜂の巣となる。そのうえ当初は左右の扉のガラス窓は防弾ガラスでも無かった。また車体下部の防御にしてもせいぜい手榴弾の破片に耐えられる程度だ。

現在の装甲車両は跳弾や剥離した装甲による被害を抑えるためのスポールライナーを装備しているが軽装甲機動車ではコストが高くなるからとオミットされた。そのくせ値段だけは他国の同程度の装甲車の3倍以上はする。更に申せば路上での運用しか要求されていないので、不整地での装甲能力は極めて低い。とても軍用装甲車のレベルではない。

「小型装甲車」を軽装甲機動車同様に7輛で一個小隊を運用するならば、そのすべてに現代の装甲車では必須の無線機、ナビゲーションシステム、バトル・マネジメント・システム、RWSなどを搭載するならばそれらが7セット必要になる。対して分隊が乗車できる大型装甲車ならば3輛で済む。高価なネットワーク関連システムが2.3倍必要となる。

軽装甲機動車の後継は「次期装輪装甲車」に統一すべきだ。そうすれば調達数は850輛程度まで減らせるだろう。その際「次期装輪装甲車」を豪華な8輪装甲車にする必要はない。またそのような予算は陸自にはない。より安価な大型の4~6輪装甲車でいいだろう。

既に陸自で海外展開用に調達しているオーストラリア製のブッシュマスターでもいいだろう。また海外でよく作られているランクルベースの4輪ないし6輪で分隊が搭乗できる軽装甲車ならば2~3千万円程度で調達できる。これらを採用すれば軽装甲機動車の調達コスト以下で調達車両数を大幅に減らすことができる。

筆者には陸幕や装備庁が要求しているサイズや重量などに合致するのは米国のオシュコシュ社が米陸軍向けに生産しているJLTVJoint Light Tactical Vehicleしか存在しないように思える。この調達は初めから本命ありきで、形だけに競争入札、官製談合だと批判されても仕方がない。

▲写真 米オシュコシュ社製JLTV(Joint Light Tactical Vehicle)(2020年1月23日撮影)

出典: flickr; U.S. Embassy London

実際に水陸機動団用の水陸両用装甲車、AAV7はそのようにして導入された。当初はAPC型4両、指揮通信車型、回収車型各1両を試験用に調達して3年間のトライアルの末に導入するか否かを決定するはずだったが、試験期間は僅か半年に削減され、使用さたのもAPC型のみで、発注された指揮通信車型、回収車型は使用されなかった。

しかも南西諸島における実地の試験はなく、形だけの試験で導入した。AAV7は南西諸島に多いサンゴ礁や防潮堤を超えることができない。このため揚陸できるのは宮古島や沖縄本島などの広いビーチでしかできない。尖閣諸島などの南西諸島などの島嶼防衛では殆ど役に立たない。

▲写真 水陸機動団とAAV7

出典:水陸機動団公式ホームページ

米海兵隊からはAAV7を調達するならば、彼らの中古をリファブリッシュして使用した方がいいとアドバイスされたのに、これを無視してわざわざ高い新造品を調達した。調達した52輌のAAV7を輸送できる輸送能力は海自の輸送艦には存在しない。

この件に関して筆者は会見で岩田陸幕長に質問したが、後日陸幕からきた回答は「アメリカから言われたから」というものだった。これが陸幕の公式な回答である。あたかも植民地軍が宗主国の意向をそのまま受けいれているのと同じだ。

この動きの背後にもオスプレイ、グローバルホーク、イージス・アショア同様に首相官邸の和泉洋人首相補佐官が関わっていると言われている。

防衛費を米国政府のご機嫌取りのために使い結果自衛隊を弱体化させるのであれば、それは主権を持った独立国ではないし、その不都合は有事の際に隊員と国民の血で贖うことになるだろう。

▲トップ写真 第1空挺団の軽装甲機動車。4人乗りの小型装甲車を主力APCにする愚を続けていいのか。

出典:筆者撮影

 

 

 

 


この記事を書いた人
清谷信一軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家

日本ペンクラブ会員

日本コスト評価学会会員

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 1962年生。東海大学工学部卒。

軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。

08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。

軍事を主たるフィールドとし、海外取材活動(欧州、中東、南アフリカなど)を活かした国際的な見地に立った著作活動を行う。内外の具体例に基づいた防衛省・自衛隊批評や提言は元防衛庁長官、石破茂氏にも影響を与え、石破氏が長官時代の防衛庁改革ではその指摘の是正が少なからず実現した(三自衛隊の統合運用や特殊部隊、狙撃部隊の創設、陸自の旅団導入、空自の基地警備、海自の地方隊の縮小など)。

自ら起業して、貿易や小売業を手がけており、起業家の視点からの執筆も多い。またサブカルチャーにも造詣が深い。90年代初頭からアニメやマンガなど日本のサブカルチャーの世界進出をいち早く予見、これを国益の観点から論じた。著書「ル・オタク フランスおたく物語」はこの分野の基礎文献となっている。

専門誌はもちろん、右は「正論」から左は「週刊金曜日」まで幅広い媒体にイデオロギーにとらわれず寄稿。また、日経ビジネスオンラインや朝日新聞のWEBRONZA+などのネット媒体にも寄稿。

〔著作〕

  • 国防の死角(PHP)
  • 専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
  • 防衛破綻 「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
  • ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
  • 自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
  • 弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
  • こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
  • 不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
  • Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。

〔共著〕

  • 軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
  • すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
  • アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
  • ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
  • 世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
  • 間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
  • 真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
  • 熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。

〔監訳〕

  • ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
  • SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
  • 太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)

〔ゲーム・シナリオ〕

  • 現代大戦略2001~海外派兵への道~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2002 ~有事法発動の時~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略2003 テロ国家を制圧せよ(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2004 ~日中国境紛争勃発!~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2005 ~護国の盾・イージス艦隊~(システムソフト・アルファー)

 

清谷信一

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