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.国際  投稿日:2020/9/18

又トランプ叩きフェイクニュース


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米民主党のトランプ叩きに日本メディアも同調。

・トランプ政権はアトランティック誌の記事を全面的に否定

・アトランティック誌の社主長年の民主党支持者。

アメリカ大統領選挙が近づくにつれ、民主党側のトランプ叩きが勢いをさらに増してきた。民主党側が主要メディアを味方につけてのトランプ大統領への非難や糾弾にはどうみても事実とは思えない実例が絶えない。選挙戦略の色濃い虚構の情報までが飛び交うこととなる。日本の主要メディアもそのトランプ叩きの虚報を伝えてしまう結果ともなる。

朝日新聞など日本の主要メディアが最近、伝えた「トランプ大統領が米軍戦死将兵を『負け犬』とののしった」という報道もどうやらそんな実例のようである。

朝日新聞の9月6日付朝刊に以下のような記事が掲載された。
トランプ大統領、戦死兵に「負け犬、間抜け」 米誌報道 ワシントン=園田耕司

 

米誌アトランティックは9月3日、トランプ米大統領が2018年11月にパリ近郊にある米軍兵士の墓地を訪れる当日の朝、「なぜ私が墓地に行かないといけないのか? 大勢の負け犬が埋まっている場所だ」と述べ、訪問中止を決めていたと報じた。トランプ氏はこれまで愛国心の重要さを訴え、米軍を最も愛する大統領として振る舞ってきただけに、大統領選直前の今回の報道は大きな痛手だ。

 

同誌が複数の関係者の話として伝えた。墓地は第1次世界大戦で戦死した米海兵隊員のもの。トランプ氏は戦死した1800人超の海兵隊員を「間抜けども」とも呼んだという。トランプ氏は訪問中止を「雨でヘリコプターが飛行できなかった」と説明していたが、実際は雨で髪形が乱れるのを嫌がったためという》

 

以上が朝日新聞の記事の本体だった。一読すればわかるように、アメリカの雑誌「アトランティック」の記事の情報の転載だった。そしてその記事の別項として以下の記述をつけていた。

 

《トランプ氏は同誌の報道を「完全にウソだ」と全面的に否定。大統領選の民主党候補のバイデン前副大統領は4日の記者会見で「もし(トランプ氏の)言葉が本当ならば、彼はすべての米軍兵士に心から謝罪しなければいけない」と強い口調で批判した》

 

トランプ大統領は第一次世界大戦が終結した1918年11月11日を記念する式典のために2018年11月にヨーロッパを訪れ、パリ郊外のアメリカ海兵隊将兵の墓地で弔意を表する予定だった。同将兵は当時、ドイツ軍と戦い、戦死した。ところがトランプ大統領はその将兵をののしる言葉を口にして、墓参も自分の頭髪の乱れを気にして中止したというのがアトランティック誌の「報道」だった。

 

この記事は同誌の編集主幹のジェフリー・ゴールドバーグ記者によって書かれていた。その根拠についてはトランプ大統領のそうした言葉を聞いたという政府関係者4人から得た情報だと記していた。

写真)ジェフリー・ゴールドバーグ記者

出典)Jeffrey Goldberg Twitter

トランプ政権は公式にこの報道を否定した。その根拠としてトランプ大統領はパリでの滞在でアトランティック誌が報じるような米軍将兵に対する軽蔑の言葉は一切、口にしておらず、同墓地への訪問を止めたのは悪天候のために過ぎなかったと証言する証人合計25人の名前とその証言内容を発表した。

 

同発表によると、この25人のうち10人は当時の大統領報道官のサラ・サンダーズ氏や国家安全保障担当補佐官のジョン・ボルトン氏などパリ地域でトランプ大統領に実際に同行していた人物たちだった。とくにボルトン氏はその後、トランプ大統領とは衝突して解任され、回想録で正面からのトランプ批判を述べている。しかし今回は「トランプ大統領はアトランティック誌の報じたような言動は一切、とっていない」と言明したのだ。

 

ホワイトハウスはゴールドバーグ記者に同記事の情報源とされた人物の具体的な名前を明かすことを求めたが、同記者は「それはできない」と言明した。このやりとりはニューズウィークやワシントン・ポストなど他の大手メディアでも詳しく報じられた。

 

ホワイトハウス側は「アトランティック誌が情報源を明かせない以上、その記事の信憑性もない」として勝利宣言をする一方、同誌が2年ほども前の出来事をいまあえて取り上げ、トランプ大統領に不利となる情報を流したことに対して「明らかに選挙戦でトランプ大統領に打撃を与えることを意図している」とも論評した。

 

その背景にはアトランティック誌の社主のローレンス・ジョブス氏は長年の民主党支持者で、ここ数ヵ月間だけでも民主党のジョセフ・バイデン陣営に60万ドルもの選挙献金を提供した記録があるという。

 

実際にトランプ氏は前回の選挙戦以来、アメリカの軍人には感謝や礼賛の言葉を頻繁に述べて、軍人一般からの政治支援を得てきたことでも知られている。それが政権内部だったとしてもあえて戦死者たちをののしるというのは考えられないという反応も多い。

 

このようにおそらくは虚報、あるいはフェイクニュースの確率が高い、少なくとも根拠の薄弱なアメリカの民主党支持メディアの報道が日本の大手メディアの朝日新聞などでは事実であるかのように掲載されることは日本のジャーナリズムにとっての問題をも提起している。

 

そのうえに前記の朝日新聞記事がトランプ大統領自身の言葉として報じた「負け犬」とか「間抜け」という語も原文の英語をあえて曲げた印象が強い。アトランティック誌の記事に出た言葉はlosers とsuckersだった。普通の日本語ではそれぞれ「敗者」と「だまされやすい人」という意味となる。それをわざわざ「負け犬」「間抜け」とするのは、トランプ大統領がいかに悪い言葉を口にするかという点を強調する意図の歪曲誇張だといえそうだ。だがアメリカでの論議では、トランプ大統領がそんな言葉を口にしたという情報も当事者たちによって否定されてしまったのである。

 

日本のメディアでのトランプ報道のゆがみを知る有益な実例だともいえよう。

トップ写真)トランプ大統領   出典)Pixabay; Gerd Altmann

 


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