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.社会  投稿日:2021/1/21

「へずまを探せ」は単なるイジメ 「引き際」について その2


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・「へずまりゅうを探せ」ゲームが流行。一体誰の利益になるのか。

・彼の迷惑行為を面白がっていたネット民が今度は彼をさらしものに。

・承認欲求で治安乱す彼の末路は教訓。頭の悪い小悪党は放置でよい。

昨年末から正月明けにかけて、スマホでYouTubeを見る時間が長くなった。主たる原因は米国の大統領選挙だが、新聞雑誌はもとよりTVニュースと比べても速報性では断然勝る。主たるニュースサイトは大体チャンネル登録してあるが、見たいニュースだけ「つまみ食い」できるという点でも、TVより便利だ。

ただ、そういうコンテンツを視聴し続けていると、しまいにはトランプ支持派が流す了見の知れない動画ばかり、オススメに出てくるようになってしまった。やはり双方の主張について知っておかねば、と思うので時間の許す限り見るようにはしていたが、呆れるやら疲れるやら腹が立つやら……。

幾度もそれをネタにしてただろうが、と言われると辛いのだが、見た直後はやはり「口直し」が必要なので、お笑いやアイドルの画像をちょっと眺める、ということになり、視聴時間がさらに伸びてしまったのである。

最近、見終えると同時に「お気に入り登録」したのは、早見優(好きだったなあ)、松本伊代、松本明子、森口博子といった、往年のアイドルたちがNiziUのプレデビュー曲(なんじゃ、それは)であるMake you happyをコピーした動画で、なんと言うか「ニジュー」どころか今や「ゴジュー(50)」の彼女たちが、ダンスはキレッキレだし、キーの高い楽曲なのに普通に歌ってしまうしで、

「見たかガキども!これが昭和アイドルの実力ってもんだ!」

などと快哉を叫んでしまった(もちろん心の中で笑)。

いや、真面目な話、新型コロナ禍をはじめとして、とかく世の中が殺伐としている昨今だからこそ、こういった動画をもっと見たいと思う。おそらくTV番組を録画したものと思われるので、権利の問題が気にはなるが。

ニュースサイト以外では、某若手女優のチャンネルが登録者数100万人超えを達成することに貢献した(0.0001%だけ)のだが、半年ほどでマンネリに我慢ならなくなり、先日ついに登録解除してしまった。いにしえの哲人が「美人はなにをしても許される」という金言を遺しているそうだが、面白いか面白くないかは別問題だろう。

これまた今さらだが、YouTubeには動画の配信によって収入を得ている、ユーチューバーと呼ばれる人がいるのだが、私には、彼らのなにが面白いのかさっぱり分からない。ということは、見た経験があると認める形になるが、やたらオススメに出てくるので、いきおい何本かは見た。で、もう一度言わせていただくが、面白くもなんともなかった。

もうひとつ理由があって、私はユーチューバーに偏見を抱いている。もう数年前の話だが、なんらかのトラブルで宅配便の配送所にチェーンソーを持って乗り込み、

「ユーチューバーをなめるなよ!」

などとわめき散らしていた映像に、唖然とさせられたのだ。もちろんこれは、一部のバカのせいで全体が迷惑するという話に過ぎないのだが、悪いイメージというものは簡単には消し去れないものである。

昨今こうした「迷惑系ユーチューバー」も湧いて出ているらしいが、その方面で有名だった「へずまりゅう」と名乗る男に至っては、窃盗や威力業務妨害などの4つの罪で逮捕・起訴されている。窃盗と言っても、スーパーで商品の刺身を会計前に食べてしまい、

「すみません、食べちゃいました」

などと自己申告している様子を動画投稿した、というもの。威力業務妨害は、どこかの商店街で服を購入し、ほつれがある、とかなんとか因縁をつけて返品を申し出、店主が渋ると今度は大声で騒ぎ立て、その様子をやはり動画投稿したもの。そもそも動画の中で、

「今から突撃します」

みたいなことを言っていたので、明らかに動画撮影を目的とした確信犯である。チンピラヤクザでも、さすがにここまでは恥ずかしくてできないのではあるまいか。

当然ながら動画は削除、アカウントは停止、さらには前述のように逮捕・起訴された。そして警察で絞られたのがよほどこたえたのか、本人の弁によると「メンタルがズタボロ」になってしまったとか。SNSを含むネットの世界から「自分を抹消します」と先日意思表示をした。

地元・山口県に戻って、これからは真面目に生活します、ということらしいのだが、世の中はそう甘くない。山口県の高校生の間で「へずまを探せ」というゲームが流行しているそうだ。彼の姿を撮影し、投稿することに成功したらタピオカをおごってもらえるのだとか。

実際、飲食店にいる姿や、スーパーで働いている姿などが撮影・投稿されたそうで、ついに本人が、交流のあったユーチューバーを通じて、

「更生の邪魔はしないでください」

などと訴えたが、読者ご賢察の通り、これも逆効果になった。今まで幾度も人に迷惑をかけておきながら、自分が迷惑行為を受けたら文句を言うのか、というように受け止めた人が多かったのだ。

無理もない話だ、と言いたいところなのだが、冷静に考えてみると、これは少し違うだろうと思えてくる。違法行為は違法行為として、法の裁きを待つ身なのであるし、そもそも彼にも人権というものがある。

こういうことを書くと、すぐに「他人の人権を踏みにじった奴の人権を擁護するとは……」といった反論を受けがちなのだが、ならば逆に問いたい。山口の高校生たちの行為が、一体誰の利益になるのだろうか。

 もともとこの男が「迷惑系」などと威張っておられたのは、そういう動画に需要があったからだろう。イジメ行為を「ゲーム感覚でふざけていただけ」と言い張ったり、誰かがイジメに遭っているのを面白がって見物するような風潮があるから、繰り返し問題が起きるというのと同じで、ごく一部であれ、彼の迷惑行為を面白がっていたネット民が、今度は「水に落ちた犬は打て」とばかりに、彼の姿をさらしものにして喜んでいるに過ぎないのだとしか、私には思えない。

もちろん逆もまた真なりで、彼の「更生の意思」が本物かどうかは分からない。実刑を逃れたい一心で「今は真面目に働いてますアピール」をしているだけ、ということも十分に考えられる。

ただしそれは、時間が経てば明らかになることなので、第三者が勝手に裁定を下してよいことにはならないだろう。承認欲求に取り憑かれて治安を乱すような手合いには、彼の末路が十分な教訓となったはず。そうであるなら、こんな頭の悪い小悪党など、あとは放置でよろしい。

その1はこちら)

トップ写真:イメージ 出典: Getty Images; Koukichi Takahashi / EyeEm




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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