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.国際  投稿日:2021/1/29

日米同盟強化したトランプ氏


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ弾劾、上院で否決される公算。

・トランプ政権下、日米同盟と、対中国への軍事抑止が強化された。

・数々の実績を無視しトランプ氏を民主主義の敵などとけなすことはできない。

ドナルド・トランプ大統領とはどんな政治家だったのか。どんな実績、あるいは瑕疵を残したのか。この検証がこれから本格的に始まるだろう。

当面はアメリカの民主党と主要メディアが一体となってのトランプ政治への酷評が続くだろう。その4年間の実績の否定や抹殺もすでに起きてきた。1月6日のトランプ支持者の一部による議会乱入事件をすべてトランプ氏の責任とする攻撃もその一環だといえよう。その結果、民主党側はすでに議会にトランプ大統領弾劾の決議案を送った。

この動きには同じ米国内でも強く広い反対がある。そもそもトランプ大統領が支持者たちに単に議会へ行って、抗議を表明せよと述べたことは民主党の主張のような「内乱の扇動」には値しない、という反論が強い。

トランプ氏はその演説で議会へ行くに際しても、その基本は「平和的に」と明言していたのだ。だから暴力の煽りでも、内乱の扇動でもない、という解釈が当然、生まれるわけだ。ところが民主党と主要メディアはまるで単一の有機体のように連帯し、「トランプ有罪」だと断罪する。

弾劾に関しても、すでに退任した大統領を解任するという措置はあまりにも異様である。上院でのこの弾劾審議を裁判長役として仕切るはずの連邦最高裁判所のジョン・ロバーツ裁判長もすでに関与を拒否した。「弾劾はあくまで現職の大統領の罪状を裁くことが目的だ」として、今回の動きは憲法違反であることを示唆して、関与を断ったのだ。

上院では共和党主導でこの弾劾を憲法違反だとする決議案が出され、100人中45人の議員が賛成した。みな共和党議員で、この議員たちは弾劾訴追そのものにも反対することが明確となった。上院全体100人のうち3分の2、つまり67議員の賛成を得なければ成立しない弾劾訴追はもう否決されることが明確となったのだ。

そもそも弾劾案が上院では通らないことは、あまりに明白だった。だが米国の民主党・主要メディア複合体はそんな現実をもあえて無視して、弾劾があたかも成立するような「予測」を大々的に宣伝する。日本の主要メディアがそれを受けて、「トランプ氏への弾劾」をあたかも現実の展望であるかのように報道する。とんでもない偏向報道である。

こうした民主党・メディア複合体の最大の狙いはトランプ叩きである。トランプ氏のすべてを否定し、悪魔化しようとすることなのだ。その試みはトランプ大統領とトランプ政権がこの4年間に達成した内外での政策の成果をも消し去ろうとする。トランプ政権の全否定である。

トランプ政権の統治にはもちろん光と影があった。成功も失敗もあった。だがすべてを失敗に帰そうというのが民主党側の狙いである。いまのトランプ叩きのうねりのなかではトランプ政権が推進した諸政策もつぎつぎに否定されそうな気配が強まっているのだ。

だが反トランプの最強硬派からも否定されにくいのはトランプ大統領のわが日本への政策だといえよう。民主党や主要メディアのトランプ政策の否定や抹殺の奔流のなかで対日政策や対日関係だけは触れ難い聖域のようなのだ。トランプ大統領の対外政策を担当した後、仲たがいして一気に全面非難へと転じたジョン・ボルトン前補佐官さえ回顧録で政権の対日政策が功を奏したことを認めていた。

日本側でもこの点への正面からの評価が必要だろう。この作業は日本にとってトランプ大統領とはなんだったのかという総括につながっている。

トランプ政権下では日米関係はかつてなく良好だったといえよう。

その根拠の第一は日米同盟の強化だった。

トランプ大統領の日本の防衛負担の増加要請や日米同盟の片務性への不満も同盟自体を強固にする基本目標に沿っていた。政権発足直後から尖閣諸島についても単に日米安保条約の適用対象になるという言明だけでなく、有事には実際に防衛するという意向が政権高官たちから表明された。

日米両国の安保面での絆は安倍・トランプ両首脳が協力を密にして、インド太平洋戦略で歩調を合わせたことでも強まった。

第二は中国への軍事抑止の強化だった。

トランプ政権の中国との対決では日本側の認知の少ない最大要素は中国を圧する軍事力増強だった。この措置が日本への中国の軍事脅威を抑える効果をもたらした。

トランプ政権は毎年7000億ドル超という史上最大の国防費を投じ、重点を中国の抑止においた。基本は「国家防衛戦略」での「中国との戦争を防ぐ最善の方法はその戦争を実際に戦って勝つ能力を堅持すること」だという思考だった。

同政権はとくに西太平洋の防衛を特別な追加予算で強化した。ミサイルや海兵隊の増強での中国抑止だった。すべて日本の安全保障に寄与したといえる。

写真)拉致被害者横田めぐみさんの母親横田幸枝さんらと面会するトランプ前大統領
出典)Kimimasa Mayama – Pool/Getty Images

第三は日本の拉致問題の解決への支援だった。

トランプ大統領は国連総会演説で北朝鮮工作員による日本人男女の拉致を非難した。金正恩委員長との会談でも再三、その解決を求めた。日本人拉致問題は一気に国際課題となった。

同大統領はそのうえ東京でもワシントンでも拉致の「家族会」や「救う会」の人々と会い、文字どおり身を乗り出し、手を握って支援した。被害者の有本恵子さんの母の死ではトランプ氏は夫の明弘氏に何度も慰めの意を伝えた。

以上、三つの動きはいずれも日本の国益や国民多数の希求に寄与していた。そんな実績を積んだ米国前大統領をいまその政敵の言葉に乗って「民主主義の敵」だなどとけなすことは良識ある日本国民にはまずできないだろう。 

トップ写真)トランプ米前大統領  出典)Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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