無料会員募集中
.国際  投稿日:2021/2/2

ミャンマークーデター、米制裁も


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#5」

2021年2月1-7日

【まとめ】

ミャンマーでスーチー国家顧問ら政権要人が国軍により拘束。

・各国それぞれの立場から国軍への言及・態度は様々。

・ミャンマーでは国軍もスーチー顧問もビルマ・ナショナリズムの弊害という点
 では同じかもしれない。

「11月の選挙には不正があり無効だ」、聞き慣れた言葉だが、トランプ氏が言っているのではない。民主化プロセスが続く東南アジアの一角での出来事だ。月曜日早朝、ミャンマーでスーチー国家顧問ら現政権要人が国軍によって拘束された。事実上のクーデターで国軍は全権を掌握し、一年以内に「自由で公正な選挙」を実施するという。

これまでもクーデターの噂はあったが、かくも堂々とやるとは専門家も予想していなかったのではないか。昨年11月の総選挙で、スーチー顧問率いる与党・国民民主連盟NLDは勝ち過ぎたのだろうか。現行憲法は軍に圧倒的に有利に出来ている。それにも関わらず、新議会開催初日に実力行使に出た理由は国軍の焦りなのだろう。

日本は早速、ミャンマーで「緊急事態が宣言され、民主化プロセスが損なわれる事態が生じていることに対し、重大な懸念を有して」おり、「関係者の解放を求め」、「民主化プロセスに逆行する動きに反対」し、「民主的な政治体制が早期に回復されることを、改めて国軍に対し強く求める」とする外務大臣談話を発表した。

米国務省が出した各種声明はより厳しい。米国はビルマ情勢についてgrave concern and alarmを表明し、ビルマ国軍に対し関係者の即時解放と各種措置の撤回を求め、それがない場合には The United States will take action against those responsibleとしている。バイデン大統領自身も制裁の可能性に言及している。

写真)クーデターについても言及するホワイトハウス報道官 ジェン・サキ氏
出典) Chip Somodevilla/Getty Images

これに対し、中国の動きは暗示的だ。中国外交部副報道局長はミャンマー情勢について、「憲法に基づいて意見の違いを適切に処理し、政治と社会の安定を守るように希望する」と述べ、クーデターを非難しなかった。国軍と中国の「出来レース」とまでは言わないが、1月には中国外交部長が訪問しており、中国の思惑通りなのだろう。

今後注目すべきは以下の諸点である。

●国連の動き 中国が反対するだろうから実質的動きはないだろう

●ASEANの動き 議長国ブルネイが何らかの議長声明を発出できるのか

●米国の動き 中国が利益を受けないようミャンマーにどこまで厳しい制裁を課すか

●日本の対応 立場上、現時点では詳細なコメントは差し控えたい

どうやらスーチー顧問は再び自宅軟禁されているらしい。ということは、何のことはない、時は10年以上前に戻るということなのか?国軍の発想はそれほど貧困なのか?それとも中国が香港で行った弾圧に勇気付けられたのか?しかし、時代は最早20世紀ではない。ミャンマー国軍には発想の転換が必要ではなかろうか。

一方、スーチー顧問の側にも問題がない訳ではない。もしかしたら、ミャンマーでは、国軍もスーチー顧問も、ビルマ・ナショナリズムの弊害という点では「同じ穴の狢」なのかもしれない。この点を理解せず、スーチー顧問を必要以上に美化しても、ミャンマーという偉大な国家の将来にとっては逆効果かもしれない。

〇アジア

中国がWHO国際調査団武漢訪問を報じるNHK海外放送ニュース番組の一部を「電波異常」で放映中断にしたそうだ。中国国内ではこの種の外国番組は30秒遅らせて流れる。問題があればその部分だけ巧妙に中断できると聞いたことがある。今回はコロナ禍の遺族たちのグループチャットが使えなくなったという内容。変わらないね。

〇欧州・ロシア

先週もロシア全土で反体制派指導者の釈放を求める抗議集会が続いた。31日には90都市で治安部隊が動員され、参加者5000人以上が拘束されたという。さてさて、プーチン氏はどうするのか。まさか、ナワリヌイ氏を刑務所内で抹殺などしないだろうな。これもロシア国内でコロナが蔓延し若者の生活が苦しくなっているからなのか?

〇中東

イスラエルでロックダウンを無視した数千人のユダヤ教超正統派がラビの葬儀に参列したそうだ。映像で見る限り「超密」だが、ウルトラオーソドックスの連中には関係ない。イスラエル政府も超正統派だけは特別扱い。これではパンデミックが止まらないのも当然だろう。これはイスラエル国内政治の本質にかかわる問題なのだが。

〇南北アメリカ

2回目の弾劾裁判に直面するトランプ前米大統領が1月31日夜、新たに2人の法廷弁護士を雇用した。以前の弁護チームから主要メンバーが週末に離脱したが、その理由は、トランプ氏が大統領選での大規模不正を主張するよう求めたからだそうだ。まだそんなことを言っているのか。それでも結果は「愛国無罪」となるだろうが・・・。

〇インド亜大陸

インド政府の農業新法に農民が反対している。農業市場自由化を目指す政府に対し、中小農家は新法の下で企業から搾取されるとして大反発、昨年11月に始まった農民による反対デモは全土に拡大し、インド最高裁は最近、新法を一時停止したそうだ。どこの国でも農業改革は難しい。特にインドは複雑な社会構成だから大変だろう。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)バンコク・ミャンマー大使館での抗議

出典) Lauren DeCicca/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."