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.経済  投稿日:2021/2/17

EV商戦、新たなステージへ


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

出光興産タジマモーターコーポレーションと超⼩型EV を開発。

・今後、EV事業には異業種の参入が増え、価格破壊も起きる。

・日本の大手自動車メーカーは内外で市場を失う恐れも。

 

 

出光興産株式会社」は、「株式会社タジマモーターコーポレーション」と、超⼩型EV などの次世代モビリティおよびサービ スの開発を⾏う「株式会社出光タジマEV」を2021 年 4⽉に設⽴すると、2月16日に発表した。

出光興産の SS (サービスステーション)ネットワークおよび素材開発技術と、タジマモーターの⾞両設計技術を融合し、移動に関する潜在的ニーズに応える、超⼩型 EV を核とした全く新しいカテゴリーのモビリティを提供していく、としている。新型⾞両は、2021年10⽉発表、2022年発売を予定、 年間 100 万台相当の新たな需要を創出することを⽬指すというから驚きだ。

自動車メーカー以外、しかも出光興産という、石油精製、石油化学、電子材料の製造・販売をコア事業としている企業が本格的にEV事業に進出すること自体がニュースである。同社の創業者出光佐三氏は映画「海賊と呼ばれた男」のモデルにもなった。チャレンジングスピリットのDNAが今でも同社に脈々と引き継がれているのか、と思わずにはいられない。

■ MaaS事業としての位置づけ

新しく開発する車両は全長2.5m、幅1.3mの4人乗りで最高速度は時速60km。充電時間は8時間でフル充電航続距離は120km、販売価格は100万~150万円程度を目指す。

小回りが利き、スピードを抑えられる特長を生かし、運転が苦手な人や公共交通機関が不便な地域に住む高齢者らの新たな移動手段としての需要を掘り起こす。近距離でのちょっとした買い物や、デリバリーでの活用も見込む。

出光興産は2020年4月から千葉県館山市でタジマモーターコーポレーションの超小型EVを活用したカーシェアリング事業「オートシェア」の実証実験を行ってきた。地元企業や舘山駅の駐車場3ヵ所をステーションとし、地元住民や観光客などに、買い物や観光スポット間の近距離移動の足としてカーシェアリングサービスを提供している。同様なサービスは2019年8月から岐阜県の飛騨高山でも行われている。

こうした実証実験を経て今回のサービスは誕生した。単なるカーシェアリングやサブスクリプションモデルに止まらず、MaaS(Mobility as a Service)事業として位置づけているところが新しい。MaaSとは、すべての交通手段によるモビリティを 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念である。

出光興産は全国 6,400ヵ所もの系列 SSネッ トワークを持つのが強みだ。系列 SS で展開している電⼒販売と超⼩型EVを組み合わせた新たなサー ビスの開発、⾼齢者の運転状況を⾒守る仕組み、EVを蓄電池として活用した分散型エネルギーシステムの構築、⾞両・バッテリーのリサイクルシステムなど、新たなサービスを開発するとしている。EVは災害時の非常用電源としても活躍が期待されており、超小型EVの普及は自然災害に対する地域のリジリエンス強化にも貢献するだろう。

写真)二人乗り超小型EV「ジャイアン」
出典)出光興産オートシェア

このような超小型EVは今後自動車メーカー以外の参入が加速するものと思われる。EVは、ガソリンエンジン車製造のノウハウが要らないからだ。大手自動車メーカーは当面ガソリン車も作り続けなければならず、EVに開発資源をフル投入しにくいという事情がある。かつ、量産を前提に設計するのでどうしても原価が高くなる。普段の生活の足として利用する超小型EVはどう考えても150万円以下だろう。

写真)日産自動車 超小型EVコンセプトモデル
出典)日産自動車

実は他にも自動車メーカーではないのに超小型EVを開発製造している会社がある。

四国は愛媛県今治市のBEMAC株式会社だ。事業は、船舶およびビル、工場、陸上プラント施設等の制御・配電・通信機器の製造、販売、工事などだが、1946年、漁船を対象とする蓄電池の販売充電を目的として設立された渦潮電機商会から始まった。

EV事業には8年前から取り組んでいる。アジアの乗合いタクシー市場においてもエコカー導入のニーズが存在すると考え、2012年から低速電動車両(E-Trikes)の開発に取り組み、2013年プロトタイプ(α1車両)を完成させ、フィリピンで日系企業として初めて電動3輪車両の車両ナンバーを取得した。同国において、生産と販路開拓を進めている。

写真)低速電動車両(E-Trikes)
出典)BEMAC株式会社

 

■ 世界のEV価格破壊

EV大国である中国では、既にEVの価格破壊が起きている。

GMのGMの中国合弁会社「上汽GM五菱汽車」が2020年7月に小型EV「宏光MINI EV」を発売している。40万円台という低価格(下位モデル)で人気を博し、同年9月から12月まで4カ月連続でNEV(新エネルギー車)の中で販売台数トップとなった。

写真)宏光MINI EV
出典)上汽GM五菱汽車

日本ではめったに見かけないEVだが、海外ではシティコミューターとしての役割を果たしつつある。フランスではシトロエンが2020年に2人乗りの超小型EV「AMI(アミ)」を発表した。走行距離は約70キロ。価格は約70万円だという。フランスではこの車、14歳以上なら運転免許証無しでも運転できる。

写真)シトロエン「Ami」
出典)Abdulmonam Eassa / Getty Images

EV(電気自動車)の価格は最終的に30万円になる」。日本電産株式会社代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)の永守重信氏は、2021年1月25日の決算会見で驚愕の予測を披露した。

EVの低価格化で新興国の市場は一気に拡大しよう。また都市や中山間地域のコミューターとして、先進国でも需要は増えていくはずだ。

日本の自動車メーカーが手をこまねいているうちに、海外ライバル自動車メーカーのみならず、新規参入する異業種たちに海外市場を一気に奪われかねない状況になってきた。

トップ写真)出光タジマEVが開発中の車両
出典)株式会社タジマモーターコーポレーション





この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト、産業能率大学客員教授。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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