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.政治  投稿日:2021/2/24

「蔑視」は森氏だけの問題か(中)スポーツとモラル その2


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・東京五輪組織委員長に就任した橋本聖子氏、過去にセクハラ問題起こしていた。

・彼女もまた、森氏の息がかかった人物である。

・日本型組織の弊害が表面化した問題であり、政界もスポーツ界も時代の変化について行けていない。

 

 新たに東京五輪の組織委員長になった人の略歴を調べようと検索してみたところ、

橋本聖子 セクハラ

 が検索ワードの上位に来ていて驚いたと、前回の最後で述べた。驚いたというのは、有名な話なのにみんな初耳だったのだろうか、といった意味である。

 

 2014年2月24日、深夜2時頃と伝えられるが、ソチ冬季五輪の閉会式が無事に終わり、スケート競技の日本選手団が宿舎で打ち上げパーティーを開いていた。その席上、選手団長を務めていた女性が、男子フィギュアスケートで6位入賞を果たした選手にキスを強要した、というのである。この女性アスリートの名は橋本聖子。キスの現場写真は週刊誌等にすっぱ抜かれ、今次、彼女が東京五輪の組織委員長になったというニュースが流れると同時に、世界中に拡散することとなった。

 

  7年前の「事件」当時も当然ながら問題になったが、両者が「セクハラではない」と明言したことから、JOCは不問に付している。

 

 当人も就任記者会見でこの問題について、7年前も今も深く反省している、と繰り返していたし、マスコミが今食らいつくべきは、東北新社に勤務している菅首相の息子が、監督官庁である総務省の官僚を接待していた事案の方ではないのか。

 ……というのが本音ではあるのだが、今次のテーマは東京五輪なので、とりあえずはその問題にこだわって書かせていただく。

 まず、どうして橋本新委員長なのか、という点だが、彼女は前々から「五輪の申し子」と呼ばれていた。なにしろ、1964年の東京五輪の開幕直前に生まれ、聖火にちなんで聖子と名づけられたそうだ。北海道出身で、1972年の札幌冬季五輪を見て、自分も幼い時から好きだったスケートで、いつか五輪に出てみたいと願いようになったという。そして、夢を実現させた。ちなみに駒大苫小牧高校の卒業生で、今季から東北楽天に復帰することになった田中将大投手の先輩ということになる。

 

 検索して初めて知ったのだが、彼女は2000年に最初の出産をして以来、3人の子供をもうけているが、いずれも五輪開催年に生まれたこともあり、五輪にちなんだ名前をつけているという。
まあ、キラキラネームの問題も含めて、命名は個人の自由だが、冒頭で紹介した「事件」の時点では、すでに思春期になった子供を持つ母親でもあったわけだ(1998年に警察官と結婚し、戸籍上は石崎姓)。セクハラか否かを問う前に、大人としていかがなものか、と考えるのは私だけだろうか。

 

 いずれにせよ、五輪にそこまで思い入れがあったからこそ担当大臣、そして組織委員長に……という道を歩んだわけではない。

 

 1995年、参議院比例区に自民党から立候補し初当選を果たすが、これは森喜朗氏の働きかけによるものと言われている。翌96年には自転車競技でアトランタ五輪出場を果たすが、現職国会議員と五輪出場選手の「二足のわらじ」は、なぜか快挙と称えられるどころか、政界とスポーツ界の双方から批判の声が上がったとか。この結果、当人に言わせれば体力・気力にはまだ自信があったものの、選手生活にピリオドを打つこととなった。

 

 早い話が、森氏のおかげで政治家になれた人なので、失言の後始末と言うか、火中の栗を拾う役目を押しつけられたというのが、政界消息筋の見方なのである。

 もちろん表向きの説明はまったく違う。森氏の失言によって「日本は女性蔑視の国」というイメージが広まるのを防ぐべく、新たに女性をトップに起用したのだとか。

 本当にそうなら、小池百合子・東京都知事こそ、もっともふさわしかったのではないか。

(写真)東京2020パラリンピックカウントダウンセレモニーに出席する小池氏
(出典)Takashi Aoyama/Getty Images

 

 組織のスジ論から言っても、開催都市の首長が組織委員長を兼任するのは不自然でもなんでもない。2016年に前回開催地のリオデジャネイロで五輪旗を受け取り、得意満面だった人が、今さら重責を担うつもりはありませんなどと、まさか言い出さないであろう。

 

 しかし、彼女の名前は候補にすらあがらなかった。言うまでもなく、菅首相はじめ自公政権の中に根強くある「小池アレルギー」のせいだ。彼女と同じくキャスター出身で、ライバル関係にあると目されていた丸川珠代女史が新たに五輪担当大臣の座についたのも、小池都知事への当てつけだと見る向きが多い。

 

 都知事も都知事で、やはり政界消息筋の見るところによれば、もしも東京五輪が中止となったような場合は、都政から遁走して国政に復帰する動きを、早くも見せているという。具体的には、維新や、かつての希望の党の「残党」である国民民主党と水面下で連携を模索しているのだとか。

 

 お分かりだろうか。

 

 森氏の舌禍事件も、引責辞任から後継者に関わるゴタゴタも、単に起きるべくして起きた問題であったのだ。能力や経験でなく、政界における論功行賞や、派閥力学に基づいて名誉職が割り振られてきた、日本型組織の弊害が表面化したに過ぎない。前回述べたように、あまりと言えばあまりなタイミングで。

 

 話を橋本新委員長に戻して、自民党の竹下亘・元総務会長が冒頭の「疑惑」に言及した。「(彼女は)男みたいな性格なので、ハグなんて当たり前だ。セクハラと言うのはかわいそうだ」
 後日、事務所を通じて「男勝りと言いたかった」などと発言を一部修正したが、これが通用すると思っているところが恐ろしい。

 目上の立場を利用してハグやキスを迫るのは「男らしい」と言い放ったに等しいのだが、当人にはその自覚すらないらしい。

 この人はまた「同時進行」で舌禍事件を起こしている。

 島根県(彼の選挙区である)の丸山知事が、政府のコロナ対策が不十分ではないかと懸念を表明し、聖火リレーについて
「島根県内では中止を検討する」と発言したのを受けて、
「知事の発言は不用意だ。注意したいと思う」などと述べ、たちまち炎上した。何様のつもりだ、というわけである。

 

 よく知られるように、この人は竹下登・元首相の異母弟で、NHK記者から元首相の秘書に転じ、2000年の総選挙で、引退した元首相の地盤を譲り受けて初当選した。兄弟の実家は島根県ではよく知られる名家で、父も県会議員を務めたことがある。

 

 これもこれで、当人の資質や能力よりも「生まれ、育ち」が出世の度合いに関係してくるという、日本社会にありがちな問題だと言える。

 

 さらに今次の問題を受けて、地元後援会の一部からは、「いっそのこと、もう一度代替わりしてDAIGO(元首相の孫。美人女優・北川景子の配偶者)を担ぎ出してはどうか」などという声も聞かはじめたとの報道に接しては、笑うしかない。

 

 要は政界もスポーツ界も、時代の変化について行けていないのだ。次回、この問題をもう少し掘り下げてみたい。

 

(上はこちら。全3回)

トップ写真)東京2020オリンピック組織委員会の橋本聖子会長 2月18日記者会見
出典)Yuichi Yamazaki/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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