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.社会  投稿日:2021/2/24

Go Toトラベル、再開是か非か


上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)

「上昌広と福島県浜通り便り」

【まとめ】

・南・北半球の主要国の多くが同じような時期に感染のピーク。

・冬に大流行、夏も小流行。コロナは一年中存在する可能性高い。

・今夏流行再燃へ。PCR検査体制強化とGoTo再開是非の議論を。

 

「Go To トラベルキャンペーンの再開をどのようにお考えですか」

最近、このような質問を受けることが増えた。新型コロナの第3波が収束しつつある現在、経済回復を促進するため、菅政権がGo To トラベルキャンペーンに期待する気持ちはよくわかる。2020年度第3次補正予算には1兆円以上の予算が確保されているという。

 

冒頭のような質問を受けたとき、私は「正確な情報を国民に提供し、最終的には政治判断となる」と回答することにしている。特に重要な情報は、新型コロナの流行の季節性変動だ。ちなみに、現時点でも私個人の意見は再開に反対だ。

 

多くのウイルスの流行は、季節変化の影響を受ける。インフルエンザは毎年11月くらいから感染者が増加し、1月半ばから2月初旬に流行のピークを迎える。新型コロナについて、季節性変化の実態が明らかになれば、今後の流行が予想できる。新型コロナの流行が始まって一年が経過した。その季節性変動の実態が明らかになりつつある。本稿でご紹介したい。

 

まずは図1をご覧頂きたい。当研究所の山下えりかとインターン中の遠藤通意君(帝京大学医学部5年生)が作成した。昨年3月以降、世界各国での感染者数がピークになった日と、その時の人口10万人あたりの感染者数を示している。注目すべきは、昨年末から今年の1月にかけて、イタリア・フランス・アルゼンチンを除き、主要国の多くが同じような時期に感染のピークを迎えていたことだ。


▲図1 第二波・第三波における各国のピーク日と人口10万人あたりの感染者数

作成:医療ガバナンス研究所 山下えりか・遠藤通意

 

真冬の北半球で新規感染者数がピークに達したのは日本1月14日、独12月21日、米国1月8日、英国1月9日、カナダ1月10日である。ロックダウンなどの介入をしてからの日数は、それぞれ7日、49日、57日(ニューヨークの場合)、65日、48日目とバラバラだ。以上の事実は、新型コロナの流行の収束には、公衆衛生学的介入の効果以上に季節性変動の影響が大きいことを示唆している。

 

興味深いのは、真夏の南半球も同じような時期に感染のピークを迎えていたことだ。南アフリカは1月11日、ブラジルは1月12日、チリは1月25日だ。新型コロナは風邪ウイルスだ。季節が真逆の北半球と南半球で同時期に流行が収束するのは興味深い。

 

なぜ、このようなことが起こるのだろうか。このことを考える上で重要なのは、コロナウイルス属の特性を理解することだ。コロナウイルスが発見されたのは1949年で、ヒト以外にブタ、イヌ、ネコ、ニワトリ、マウスなどに感染する種類が存在する。特にマウスに感染し、肝炎を起こすタイプ(マウス肝炎ウイルス)を用いた研究が進み、上気道感染以外にも肝炎、脳炎、自己免疫疾患などを生じることが報告されている。このあたり、新型コロナの合併症とそっくりだ。

 

ヒトに関しては、4種類のコロナが流行を繰り返してきた(季節性コロナ)。これ以外に2002年に中国南部から世界に拡がった重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス、2012年、サウジアラビアで初めて患者が報告され、中東を中心に感染が拡大した中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスがヒトに感染する。

 

SARS、MERSウイルスは感染が終息し、それ以外の季節性コロナは感染しても、自然に治るため、臨床的に重要視されなかった。また、季節性コロナは試験管内で増殖させることが難しく、このウイルスを専門に研究する人は少なかった。このため、ヒトにおける季節性コロナ感染症の実態は十分にわかっておらず、新型コロナの特性を考える上で大きな問題となっていた。

 

新型コロナが発生すると、世界中の研究者が季節性コロナを研究するようになった。まず、研究者が取り組んだのは流行の季節性変動だ。昨年、英国、フランス、韓国などから、この点についての論文が発表された。いずれの論文でも共通するのは冬場と比べて規模は小さいが、夏場にも流行することだ。

 

これは国立感染症研究所(感染研)の調査結果とも一致する。どうやら、ヒトに感染するコロナウイルスは、冬の大流行に加えて、夏も小流行するらしい。以上の事実は、コロナは一年を通じて国内に存在する可能性が高いことを示唆する。これはコロナ対策を難しくする。

 

対照的なのはインフルエンザだ。このウイルスは世界中を循環する事が知られている。水際対策を強化することが、感染対策として有効だ。2006年に米ハーバード大学の研究者たちが、1996~2005年までの9シーズンの米国でのインフルエンザの流行を分析し、911米国同時多発テロ事件後の航空機による移動制限が、インフルエンザの感染拡大の抑制に貢献したと報告している。

 

日本でも同様の報告はある。2008~09年にかけてH1N1型タミフル耐性株が流行した。感染研によると、その頻度は99.6%に達した。ところが、タミフル耐性はその後問題となっていない。2009-10年には新型インフルエンザが流行し、耐性ウイルスは消えてしまった。水際対策などもあり、翌年は耐性ウイルスが入ってこなかったのだろう。

 

では、新型コロナは、夏場に流行するという季節性コロナの性質を有しているのだろうか。どうやら、答えは「イエス」だ。図1を見れば一目瞭然である。新型コロナは、5~8月、11~1月に世界中で流行している。もし、季節性変動の影響がなければ、世界中で同時に流行したりしない。

 

国内で新型コロナが蔓延したあとに、再流行を許していない国は中国だけだ。検査体制とロックダウンなどの公衆衛生学的介入が徹底している。日本のような緩い対策では、今夏には流行が再燃すると考えていいだろう。

 

その際の不安要素は変異株の存在だ。注目すべきは、真夏である1月に南アフリカとブラジルで大流行が起こったことだ。感染者数は、前年の冬(7~8月)並みで、北半球の日本はもちろん、メキシコやカナダより多い。この2国では南アフリカ型、ブラジル型の変異株が出現し、その感染力は従来型より強い。

 

南アフリカ型、ブラジル型以外にも英国型の変異株の存在が知られているが、今年1月の英国での感染者数はドイツやイタリアなどを遙かに上回る。

 

現在、日本にも変異株が入ってきている。今年の夏に変異株が中心となって流行が再燃する可能性は否定出来ない。PCR検査やゲノムシークエンス体制の強化と同時に、Go To トラベルキャンペーンの再開の是非を社会全体で議論すべきである。

トップ画像: Go To トラベルキャンペーン(イメージ)
出典:Getty Images





この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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