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.国際  投稿日:2021/2/25

バイデン氏「頭にフィルター欠如」オバマ回想録




島田洋一
(福井県立大学教授)

「島田洋一の国際政治力」

 

【まとめ】

・オバマ元大統領が回顧録を出版。当時副大統領だったバイデンを評した。

・バイデンは、「変化」のオバマとは正反対の「既存エリート層」であった。

・回顧録を読む限り、バイデンはリーダーの資質に欠ける。

 政策実行者としてのバイデンの力(あるいは力のなさ)を最もよく知るのは、彼を副大統領に起用し8年を共に過ごしたオバマ元大統領だろう。そのオバマはバイデンをどう評しているか。昨年11月に出版された回顧録を見てみよう。

写真)”A Promised Land” Barack Obama
出典)Penguin Random House

 2008年、上院議員1期目だった47才のオバマが、大本命のヒラリー・クリントンを倒して民主党の大統領候補となり、本選挙でも共和党の大ベテラン、ジョン・マケインを破った。

その時期、民主党の候補者討論会で司会者から「就任1年目に、イランのアフマディネジャド(大統領)や北朝鮮の金正日らと会う用意はあるか」と聞かれたオバマは、即座に「イエス。それがアメリカの国益にかなうなら」と答えた。

 トランプが外交常識に囚われず金正恩と三度も会談した今となっては隔世の感のある質問だが、直ちにバイデンを含む他の候補や評論家群から「オバマはナイーブだ。外交を知らない」と一斉批判を浴びた。

 数日後、オバマは演説の中で、「もし私がパキスタン領内でオサマ・ビンラディンに行き会い、パキスタン政府が彼を拘束あるいは殺害しようとしない、あるいは出来ないと分かったら、私は自ら引き金を引く」と述べた。

 これも直ちにバイデンらから、いきがった幼稚な発言で、「大統領になる準備ができていない」と嘲笑された。

 これらに対し、オバマは回顧録でこう反論している。

当時アメリカ政府は「二重のフィクション」に固執していた。一つは、テロとの戦争でパキスタンが信頼できるパートナーだというフィクション、もう一つは、テロリストを追撃しても決して無断でパキスタン領内まで入ってはならないという自ら科した縛りである。

「これらは、ワシントンの外交エスタブリッシュメント(既存エリート層)がいかに本末転倒した発想に立っていたかを示している。外交オプションを試みもせず軍事行動に出る一方、まさに行動が必要なときに、上品な外交慣例を維持すべく腐心する」

大統領就任後、オバマは実際、パキスタン領内における(パキスタン政府に知らせない形での)オサマ・ビンラディン殺害作戦にゴーサインを出したが、副大統領のバイデンは、失敗した場合の政治的マイナスが大きいと最後まで渋り続けた。その姿勢の違いが、すでにここに現れている。

写真)米国に対する聖戦を宣言した理由をCNNのインタビューで答えるオサマ・ビンラーディン。アフガニスタン内の隠れ家から(1998年8月20日) 
出典)CNN via Getty Images

ではなぜオバマは、そのように軽蔑する既存エリートの代表というべきバイデンを副大統領に選んだのか。

心情的には、若いバージニア州知事のティム・ケイン(1958年生)が第一候補だったという。ケインは各州知事のうち真っ先にオバマ支持を打ち出し、選挙応援にも汗をかいていた。互いに馬が合い、政治姿勢もオバマ政権に「まさにぴったり」の人材だった(ちなみにケインは、2016年の大統領選でヒラリーの副大統領候補に選ばれた。現上院議員)。

しかし、ともに人権派弁護士出身の若い二人のコンビとなれば、有権者にとって受け入れ可能な「希望と変化」の範囲を超えかねない。そこで政治的バランスの観点から次善の候補として白羽の矢が立ったのが、オバマより19歳年長でワシントンの水にどっぷり浸かったバイデン(当時、上院外交委員長)だった。「変化」とは正反対の人選であることを承知の上で、選挙をにらんだ戦術的判断だった。

オバマはバイデンを「心の温かい人間」と褒めつつ、「欠点」についても率直に記している。まず話が長い。与えられた時間の少なくとも2倍はしゃべる。「フィルターが欠落」していて、脳裏に浮かんだことは何でもそのまま口にし、「マイクの前で自制心を欠く」ため「不必要な論議を招く」。すなわち、失言が多い。

また「スタイルが旧式で、スポットライトを浴びたがり、自己認識を欠く場面が少なくない。しかるべく遇されていないと思うと立腹するきらいがある」とも書いている。

大いに頷ける話である。オバマの非常に的確なバイデン評を総合すると、そこに新時代を切り開いていくリーダーの姿を見ることは難しい。

トップ写真:2012年9月6日ノースカロライナ州シャーロットで開催された民主党全国大会にて手を振るバラク・オバマとジョー・バイデン
出典:Tom Pennington/Getty Images




この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授

福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。

島田洋一

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