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.国際  投稿日:2021/3/2

NY、和食弁当配達プロジェクト


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・NY日本総領事館がコロナ禍最前線で働く人々に和食弁当を配達。

・弁当を受け取った警察官からは歓声があがり大好評。

・飲食店を支援するとともにスシ以外の日本食を広めることも狙い。

 

 

3/1、ニューヨークでは、最初の新型コロナ陽性者が見つかってから1年が過ぎた。

渡航先のイランから戻った旅行者から新型コロナのウイルスが検出され、日本で発生した豪華客船での感染の対応を、文字通り対岸の火事としてしか見ていなかったこの土地に、いきなり赤信号が灯った最初の日であった。

 

このころ、トランプ大統領はアメリカでは感染は限定的で封じ込められてる、として、自らの対応を褒め称えていた。アメリカで全国的にまだ楽観視していた空気感もあってか、ニューヨーク州、市当局の対応は、後手に回ってしまった。
トランプ大統領の責任を追求する声も大きいが、ニューヨーク地域での初動の遅れも被害の拡大に一役買った、との批判もあった。

後手に回った対策に対応するため、その一環として、2020年3月15日、唐突に「本日、午後8時をもって、ニューヨークの全レストラン、バーの営業を禁止するとする」との行政命令が出された。長い長い、ニューヨークのレストラン業界の苦難の日の始まりであった。

 

昨年の始め、ニューヨークには25,000のレストランがあったとされるが、うち、4,500軒はすでに閉店に追い込まれた、との調査がある。何を持って閉店とするかの調査方法が決まっていないため、この数字は正確ではないかもしれないが、5.5軒に1軒閉まった、とすれば感覚的には当たらずとも遠からず、という気がしないでもない。事実、ミッドタウンのブロードウェイ沿いの中間10ブロックを歩いたが、激戦区にあったレストランは、9割が廃業していた。

 

そんな中、ニューヨークでは、最前線で働くエッセンシャルワーカーの支援と同時に、苦境にあえぐ日本人経営のレストランを救済しよう、との試みが行われている。
在ニューヨーク日本国総領事館が中心となり、2月初旬から3月末にかけて、ニューヨーク市内の日本食の店15店で調理された弁当を1,000食、市内の警察、消防署、病院、鉄道などの最前線の現場(エッセンシャル・ワーカー)に順次、届けるというものだ。お店は名乗りを上げた日本食レストランの中から選ばれた。
弁当の費用は総領事館の支援によるもので、現地の日系人会が、配達先の選定と配達にあたる。

 

その現場を取材した。この日、お弁当づくりに当たったのは市内ミッドタウンの寿司店。創作寿司が大評判となり、市内で数店舗を展開するお店だ。

 

ニューヨーク市内のレストランは昨年3月から9月まで、屋内での営業が禁止され、その後、一旦、25%の定員での営業が認められたものの年末にかけての感染の急増を受けて、再び、屋内での営業が不可に。
その後、2/14から再び屋内での営業が認められ、現在は定員の35%までお客を入れることができるが、この1年の間に、営業を継続できずにやむを得ず廃業となったお店も多い。

 

そんな中、この店は「大事なお客さん、従業員を守る。コロナを絶対店内に入れない」(武井泰副社長)と州政府から店内営業の許可が出た今も屋内での営業を再開していない。営業はテイクアウトのみ。傍から見ても、営業の継続は決して楽ではないではないことは明らかだ。

 

配達されるお弁当は領事館が用意した8角形の弁当箱に詰められる。このお店は寿司屋で、普段弁当の販売などはやっていない。テイクアウトも寿司が中心だが、忙しい現場の人に配るお弁当ということで、生ものを避けた内容が考えられた。

写真)お弁当を今回用意したマンハッタンの寿司店。まだ店内に客を入れての営業は始められていない。
撮影)中村英雄

 

 

「お弁当は配達される先で、どういうみなさんが食べられるかを想像して内容や、詰め方、彩りを考えるんです」(料理長・小山栄さん)という。この日は配達先が警察署、ということで内容はパワーランチになるよう心がけたという。配達先が病院だったときは、女性も多いかな?と考え、盛り付けに女性を意識した内容にもした、という。今回は特に「和」を意識してもらうために、人参で桜をかたどった飾り細工を苦労して盛り付けた。

写真)配達される車に積み込まれるお弁当
撮影)中村英雄

 

この日、出来上がったお弁当50食は市内の北、ハーレム地区にある、ニューヨーク市警23分署に届けられた。

 

もろ手を上げて喜んでもらえた、というのはこういうことをいうのであろうか。われわれがお弁当を持って入ると、休憩室にいた十数人の警官に待ってましたとばかりに、拍手で迎えられた。私がお弁当を作ったわけでもないのに、妙に嬉しく、歯がゆい。

写真)お弁当を受け取って喜ぶ警察官たち
撮影)中村英雄

 

 

お弁当が広げられた。日本食、ということでスシを期待していた警官もいたのか特に歓声が上がるわけでもなかったが、「グレート」「ビューティフル」の声が聞こえる。

 

だが、外での勤務が中心の彼らには、署内に自分のデスクやイスがない。せっかく、弁当を待っていた彼らだが、休憩室にしても全員が座わったり食事をするスペースがない。それでもお弁当を受け取った警察官たちは、待ちきれないとばかりに喜々として、立ったまま、お弁当を頬張り始めた。1/3が立ったままだ。

 

お店の努力の甲斐があってか、普段食べたことのない食材も、誰もが抵抗なく口に運ぶ。偏見かもしれないが、普段、絶対笑わなさそうな警察官の顔にも笑顔が浮かぶ。

写真)日本食のお弁当に舌鼓を打つ警官たち
撮影)中村英雄

 

カメラを向けると口々に皆から「Thank you ! 」と言われるが、繰り返すが自分が作ったものでないのですこし恥ずかしくなる。誰もが笑顔で頬張っておるのを見ると、日本食のお弁当をおいしく食べてもらってるのは日本人としてやはり嬉しい。
料理長が苦労した、という、桜をかたどった人参の飾り細工も女性の警察官が「このお星さまがすてき」とよろこんだ。解釈は違ってしまったが、まさに狙い通りだ。

写真)前線で働く人達を笑顔にするのも今回の大事な目的だ
撮影)中村英雄

 

写真)おいしいお弁当に思わず笑みが
撮影)中村英雄

 

 

窓口になってくれた23分署のギボンズ巡査は言う。
「本当に心が暖かくなります。この街でパンデミックの被害にあった日本の企業を支援するために(われわれがお弁当配達の)受け手になることは素晴らしいことです。みなさんからの応援に感謝します」

写真)取材窓口になってくれたニューヨーク市警23分署ギボンズ巡査と筆者
撮影)中村英雄

 

 

今回のプロジェクトは、経営困難に陥っている日本のお店を支援する、ニューヨークの最前線で働く人達に感謝の気持ちを伝える、ということの他に、スシだけでない、日本食をニューヨークの人にもっと知ってもらう、というのも狙いのひとつだ。
最前線で働く警察官の笑顔を見ていると、おいしいものは皆を無条件で笑顔にする。お弁当を提供したレストランもさぞかし、やりがいを感じることだと思う。

 

お弁当はこの先、市内の消防署、鉄道、病院などにも届けられる。
この企画が「前線で働く人に喜んでもらい、レストランは前線の人のために喜んでもらうお弁当をつくるためのやりがいを感じる、ということで、双方から好評なことから、また、来年度、どこかのタイミングでこういう取り組みができたら、と思っています」(仲村祥・在ニューヨーク日本国総領事館領事)という。

▲動画「NY、和食弁当配達プロジェクト」(Japan In-depth Youtubeより)

トップ写真)前線で働く警官のために考えられた「NYPDスペシャルパワー弁当」もりつけや素材に細かな心遣いが。
撮影)中村英雄




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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