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.国際  投稿日:2021/3/22

仏、セックスは配偶者の義務か




Ulala(ライター・ブロガー)
フランスUlala の視点」



【まとめ】
・離婚裁判で「夫とのセックスを拒否した」女性に非があるとの判決。


・この女性「私生活への侵害」・「身体的インテグリティ」を理由に欧州人権裁判所に上訴。


・「セックスは配偶者の義務か?」欧州人権裁判所の判断が待たれる。

フランスの話としてまことしやかに言われてきたことに、「健康な夫婦間のセックスレス問題は”愛の国”フランスにはない」というものがあるが、それは本当だろうか。セックスをするというのはフランス語では”faire l’amour(愛を行う)”と表現するくらいで、昔から愛を表現するのに大切な行為だとされてきた。

そこで「夫婦ならセックスして当然。拒否するのはその配偶者の方がおかしい」とも言われてきたのは確かだ。しかしそれは大昔の話である。現在ではこういった考え方は古い家父長制度的思想からきているものされており、もはや受け入れられなくなってきているといっていいだろう。

だが、そんな現代社会において、フランスのある離婚裁判では非常に驚くべき判決が下された。フランスニュースサイト『メディアパルト』によれば、なんと離婚を希望していた66歳の女性が起こした裁判で、「女性は夫とのセックスを拒否した」とし、女性の方に非があると判決が下されたのだ。もちろん女性側にとってはそんな判決は不服である。よって女性はフランスの最高裁判所に上告したものの棄却されてしまった。

そこで3月17日、この女性はとうとう欧州人権裁判所に上訴した。このフランスの時代遅れの判決に対し、「私生活への侵害」及び「身体的インテグリティ」を理由に訴えたのだ。

 

写真)欧州人権裁判所
出典)Bjoern Goettlicher/Construction Photography/Avalon/Getty Images

 

■「夫婦の義務」を怠ったことが過失となった女性

この離婚騒動は2015年に始まった。4人の子供を持つ夫婦は30年間生涯をともにしてきたが、口頭と身体的に暴力を受けたため女性が離婚を切り出しところ、男性側が暴力を働いたことに異議を唱えたのだ。暴力行為が認められれば違法行為として有罪判決を受けることになる。男性側も必死だろう。しかし男性側からの反論はそれだけではなかった。なんと、「10年間、夫婦の義務を果たさなかった」とし、反対に女性を非難したのだ。

そこで、女性側がなぜ夫の要求を拒否したのかの議論が始まった。女性は健康上の問題があって上、障害がある娘の世話をするため疲労していたのというのが主な理由とされた。しかし、そういった理由は十分考慮されることはなかった。

そして、ついに2019年にでたベルサイユ裁判所で女性側の過失とされたのだ。裁判官により、「妻の告白によって確立されたこれらの事実は、結婚の義務に対し、重大かつ新たな義務違反であり日常生活の維持を耐え難いものにしている」と判断されたのだ。

この女性をサポートする「女性財団」や「レイプに反対する女性団体(CFCV)もこの判決に対して怒りの声をあげている。「結婚は性的な従属ではなく、またそうあるべきではない。」という声明もだされた。

民法の解釈により生じる夫婦間の性的行為の義務

「これは、古臭い家父長制度的な判決であり、衝撃的なことです」と、CFCVのエマニュエル・パイト博士は抗議する。

現代社会では、結婚していたとしても、性的行為を強要するのはレイプという犯罪に位置づけられるのが一般的になってきている。自分の体に関することは、自分自身が決定する権利(身体的インテグリティ)があり、性的行為を拒否する権利もあるのだ。この判決は、フランスで年間起こる95000件のレイプおよびレイプ未遂の47%の加害者が、被害者の配偶者または元配偶者であることを想起させるという。

実際の話、21世紀になってから、こんな判決が下されたことはほとんどない。女性に出たのは今回が初めてだ。この一つ前の同様の判決は、10年前の2011年までさかのぼらなければ見つけることもできない。しかも、法律には「配偶者の義務」「夫婦の義務」というような言葉は存在しない。フランスの最高裁は1990年9月5日以降、こういった言葉を廃止しているのだ。また1995年9月に欧州人権裁判所でも「配偶者の義務」は否定されている。

それでは、この判決はどこからきたのか。それは民法である。民法212条及び215条の「配偶者は相互に人生を共にする義務を負っている」という条文から来ているという。判決を下した裁判官が、この条文を古い家父長制度的思想をベースに解釈した結果だというのだ。

こういった事実を受け、「このままセックスが配偶者の義務であるとし続けることは、夫婦間において性行為を強制するための脅迫ツールを維持することと同じです」と関係者たちの怒りはおさまらない。

はたしてフランスでは、セックスは配偶者の義務であるという考えをこのまま継続していくのだろうか?今後、欧州人権裁判所がどのような判断を下すのか、結果が待たれるところだ。

参考リンク

Pour la justice, refuser des relations sexuelles à son mari est une faute

Chapitre VI : Des devoirs et des droits respectifs des époux (Articles 212 à 226)

Condamnée pour avoir refusé des relations sexuelles à son mari, elle attaque la France en justice

トップ写真)イメージ
出典)Tom Stoddart Archive/GettyImages




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

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