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.政治  投稿日:2021/9/28

岸田候補の「安定」「安心」「安全」政策 自民党総裁選その2


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】
・自民党総裁選、岸田候補、「新しい資本主義」掲げる。

・人権問題担当官ポスト(総理補佐官)の新設など人権問題への対応強化を明確にした。

・鍵は「官邸官僚」を変えられるか。

 

自民党総裁選に出馬した岸田文雄氏。彼は「安定」「安心」「安全」をモットーに経済や外交の問題に切り込んでいく。彼の政策を、3つの問題点を含め多角的に評価する。

力強く熱のこもったプレゼンテーションを示す岸田さん。「戦う政治家に豹変」「確変した」「一皮むけた」という評判が出ている。

自民党総裁選、出そろった政策の比較は大手新聞社がやっているので、独自の視点で見てみようと思う。岸田文雄政策集と質疑応答などを中心にしたい。

それにしても、質疑応答が隔世の感がある。記者の質問に対して、回答文棒読みの安倍さん、「ごはん論法」とまで批判された菅さん・・・。岸田さんの質疑応答に、「総理たるものこうではないといけない」と思ったほどだ。期待が持てる。

素晴らしい理念と目線

まず掲げたのは「新しい資本主義」という理念である。「分配なくして次の成長なしも大いなる真実です」と語り、理念の必要性を説く。特に、「大企業に対し、長期的な視点から、株主だけでなく、従業員も、取引先も恩恵が受けられる「3方良し」の経営を強く要請」など、明確にした。ここまで大企業に対して物申すという政策は久々に見た。

さらに、下請けいじめをゼロにすると主張した。「45歳定年制」を本音としてもってそうで、収益への厳しい環境にある大企業をどうやって説得できるか。協力してもらえるかは別として、企業間の配分についても言及するところは、さすがである。

また、デジタル分野のインフラ整備を進めて都市部と地方の距離を縮め、東京一極集中を是正する点も明らかにしている。こうした新しい理念による新政権が構想できる。デジタル田園構想は新たな令和のくにづくりの指針となりうるものだ。

さすが「安定」「安全」の岸田さんである。


【出典】岸田氏HP

対中国

外交でも理念が貫かれている。「民主主義を守り抜く覚悟」として「権威主義的体制が拡大する中で、台湾海峡の安定・香港の民主主義・ウィグルの人権問題などに毅然と対応。日米同盟を基軸に民主主義、法の支配、人権等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定に貢献していく」という基本認識である。中国に対してもウイグルの人権問題についてはかなり厳しい。「人権問題担当官ポスト(総理補佐官)の新設など人権問題への対応強化」を明確にしている。民主主義と権威主義との対立を踏まえた時代認識での日米同盟重視の姿勢など、外交姿勢は明確である。

韓国との慰安婦問題交渉など、アピールには欠けるが実績を残したことも事実なのに、そのことをアピールしないのが岸田さんへの「安心」を生む。

□3つの課題

しかし、3つの課題がある。第一に、安倍政権路線を「新自由主義」路線と批判したことだ。安倍政権はまったくもって「新自由主義」とはいいがたい。実質のところ「縁故資本主義」を体現している政権である。結果として格差が拡大したが、規制緩和は中途半端で、財政再建とは逆コースの政権運営、産業構造は変えるような大胆の経済政策はほぼない、世論を見ながら「やっている感」の創出をする政策推進は、新自由主義とは真逆である。あれだけの財政出動を見ると「新自由主義」と言えるはずもないのに、そこを見誤っている。

規制は増えた。事業創造大学院大学国際公共政策研究所の渡瀬裕哉上席研究員によると「2002年3月に10,621個であった許認可等の根拠条項等数は、2017年4月1日段階で15,475個にまで増加」(SAKISIRUより)している。あの国家戦略特区として成果を上げた養父市の農地の株式会社による取得の全国展開が先送りされたことは、柳ケ瀬裕文参議院議員による質問で明らかとなった。

話を戻して、恩恵を受けたのは、加計学園、アベ応援団のJR東海などの企業、そして、アベノミクスの円安誘導で優遇された大企業、株価高値誘導で株を持って儲かった人たちというところだ。規制緩和も、民営化も中途半端であった。

第二に、既存の既得権益、簡単に言えば支援団体との関係が従来どおりであること。改革姿勢が見えないことだ。

医師会との関係がコロナ政策にどう影響されたか?全く見えない。厚労省や医師会の利害関係者を説得して、コロナ病床を増やしていれば、こんなに長く緊急事態宣言も必要なかったし、国民の「経済的・心理的損害」がここまでなったことへの反省が見られない。

特にびっくりしたのは「地域を支える商工会・自治会や地域の祭りへの支援」ということをまだ言っている。

これ以上、支援が必要か?商工会への補助が本当に適切なのだろうかというチェックをしたことがあるのだろうか?事業補助の成果達成率を見たことがあるのだろうか?運営補助までして経営指導員の人件費を補助しているところをどう思う?

最近では、商工関係の補助金不祥事が目立っている。兵庫県神戸市の岡本商店街(「関西の代官山」ともいわれる素敵な商店街)の不祥事では、商店街の理事長が県の補助金を不正受給、神戸地裁は懲役4年を言い渡した。

また、筆者の故郷、杉並区西荻窪でも同様に補助金不正があった。松本みつひろ杉並区議が明らかにしてくれたが「お祭りの実施主体であった商店会が、2つのお祭りに関する補助金を不正に受給していたのだ。

厳しい言い方をしよう。以下の経済産業省「令和2年度実施施策に係る政策評価の事前分析表」によると、年度ごとの目標達成度は目を覆うばかりの惨状だ。結果が悲惨なので、下図を確認してほしい。


【出典】経済産業省「令和2年度実施施策に係る政策評価の事前分析表」より

そして、この目標達成手段の主要な事業が「小規模事業対策推進事業」。

・予算:58億円4200万円
・内容:
>商工会・商工会議所が、「経営発達支援計画(小規模事業者支援法)」に基づき実施する小規模事業者への伴走型支援を推進する。
>全国商工会連合会、日本商工会議所が商工会・商工会議所等と連携して実施する、地域の産業の活性化、観光開発など、地域の経済活性化に向けた取組を支援する。
>働き方改革等、制度改正による諸課題に円滑に対応できるよう、全国団体を通じ商工会・商工会議所等が、窓口相談や専門家・・・・(画像が判読不能)。

目標達成手段として妥当かどうか、総合的な議論が見えない。事業仕分けのような「行政事業レビュー」はあるにはあるが、評価する単位が細かい事業で行われすぎているためか、見当がつかない。コロナ被害については、補助金は必要だが、コロナ前からある補助金については見直しが必要だろう。

自治会も同様だ。権威主義的な自治会が存在しており、「村八分」で裁判沙汰になったり、ゴミ出しさえ許されないなど「地方創生」のムードを現実に引き戻すような事例も報告されている。

第三に、目標を達成するための具体的手法である。特に経済政策。「どうやって所得をあげるのか?」ということだ。分配を強化するだけでは所得は上がらない。「経済成長はどのように?」という疑問への回答が不十分であることだ。

日本の平均年収、OECDの「Average wages」とは、労働者の賃金年収をフルタイム換算の労働者数で割ったものである。為替や物価の影響を考慮した購買力平価を用いたドル換算したもの(OECD定義)。


【出典】OECDデータより筆者作成

日本の推移を見てみると、この20年近くほぼ伸びていない。アメリカは4割、韓国は9割近く上昇しているのにもかかわらず、だ。しまいには韓国に抜かれてしまった。その意味で、所得配分の見直しは正しい。しかし、所得配分を是正することも大事だが、グローバル競争で日本企業が勝ってもらわないと話にならないのだ。つまり、日本企業がいい商品・サービスを世界に買ってもらうようにしないといけないのである。

日本経済の現状は

・日本産業はスカスカに:部品産業に転落したこと:液晶、半導体、アンテナ周りの製造業は強いが最終製品は過去の世界市場を席巻したレベルから転落

・緩い環境規制を求めて企業が海外進出、国の雇用が減少してしまう

・顧客ニーズよりも、機能やモノづくりにこだわってしまい、GAFAなどの企業の伸長を許す

という経済状況。この状況を変える問題解決策、処方箋が見えない。

「官邸官僚」政治を変えられるかにかかっている

筆者の敬愛する今井尚哉さん(元安倍首相補佐官、秘書官)が岸田陣営で戦略担当をしているそうだが、そこからあがってくるキャッチーな政策も垣間見れる。しかし、安倍政権の問題の1つは今井さんをはじめとする「官邸官僚」の政策推進と言われている。そのリーダーシップの検証が必要だろう。そうしないと安倍政権の「後継政権」「傀儡政権」とみられかねない。自民党のガバナンス改革を掲げたのは素晴らしいが、首相になったらそこに切り込んで欲しいものだ。なぜなら、総決算をしないと岸田政権は来る総選挙や参議院選挙で痛い敗北をしかねないからだ。

総合すると、      

【評価】
問題解決力: △

信頼できる政府・民主主義:

実績から想定される実行可能性: △

という評価である。先輩に厳しい評価となったが、過去何年も要職にあったことを考えるとこうした結果になる。ただし、そのビジョンや考え方は素晴らしいし、心から賛同する。岸田さんに期待したい。

トップ写真)韓国との閣僚会議に参加する岸田文雄氏  2015年12月28 日 ソウルにて
出典)Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、ターンアラウンド研究所共同代表・人財育成コンサルタント、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員・ディレクターなど。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、組織改革、人材育成コンサルティング、政策分析、メディア企画、ソーシャル・イノベーション活動を進めている。


専門は、公共政策と社会心理。近年は、中国の先端技術、世界のスマートシティ、人工知能などテクノロジーと社会への影響、個人情報保護と民主主義の在り方、企業の利益相反、健康医療・福祉政策などをテーマに研究や執筆を進めている。

西村健

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