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.国際  投稿日:2022/1/14

汚職で有罪の元マレーシア首相を招く中国


大塚智彦(フリージャーナリスト)

【まとめ】
・巨額汚職事件で有罪判決を受けたナジブ・ラザク元マレーシア首相を中国の団体が基調講演者として招待。

・招待したフォーラムの共催者である中国の団体への反発がマレーシア国民の間で広がっている。

・現政権は中国関連案件の復活を試みる動き。中国側は新たな期待を寄せている。

 

マレーシアの元首相で在職中の巨額汚職事件で有罪判決を受けたナジブ・ラザク氏を中国の団体が現地で開催したフォーラムの基調講演者として招待した。これに対し、マレーシア国内で「汚職被告人を基調講演に招待するなどマレーシアに対する侮辱だ」とフォーラムを主催した中国の団体への反発の声が強くなっている。

地元メディアなどによると、中国の団体だけにナジブ元首脳の招待には中国政府の承認があったのは間違いなく、中国政府のマレーシアに対する非友好的姿勢の表れ、あるいは別の思惑に基づくものではないかとの見方も出ている。

マレーシアはナジブ首相時代(2009年から2018年)に巨額の経済支援やインフラ整備などで中国と密接な関係を構築、中国が一方的に進める経済圏「一帯一路」構想の重要な一角をマレーシアが占めるようになった。

しかし2018年にナジブ首相に代わって政権を担当した野党のマハティール首相は中国が関連する巨額プロジェクトの見直しなどに乗り出し、中国との蜜月関係は後退した。

■ 中国とナジブ元首相の蜜月関係

地元メディアなどの報道によると2021年12月27日に首都クアラルンプールの衛星都市であるペタリンジャヤで開催された「世界中国経済フォーラム」の基調講演者としてナジブ元首相が招待され、講演した。同フォーラムは「中国国際貿易促進評議会(CCPIT)」とマレーシアのシンクタンク「国際戦略研究所」と提携している「中国国際商工会議所(CCOIC)」が共同で開催したもので、いずれもマレーシアにおける中国の経済団体としてマレーシア経済に深く関わっているとされる。

ナジブ元首相は在任中の巨額汚職事件で有罪判決を受け現在控訴中の被告の身であり、社会活動で制限を受ける立場であるにも関わらず、フォーラムの基調講演者として招待されたことに対し、招待を受けたナジブ元首相自身よりも招待したフォーラムの共催者である中国の団体への反発が国民の間で広がっているのだ。

 ナジブ元首相は2009年の首相就任2カ月後に中国を訪問して「戦略的協力の為の共同行動」に調印し、経済面での関係強化を図った。2013年には習近平国家主席がマレーシアを訪問して両国関係を「包括的戦略パートナー」に格上げしてマレーシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)で最初の「一帯一路」構想に組み込まれて中国との関係が戦略的そして本格的に展開する国となった。

 その後ナジブ政権下での「一帯一路」関連のプロジェクトは主なもので「東海岸鉄道計画」「クアンタン港湾拡張」「マラッカ・ゲートウェイ計画(マラッカ沖の人口島の総合開発)」「ペナン第2大橋建設」など約30件に上った。

写真)1MDBプロジェクトの1つであるTunRazakExchangeタワー マレーシア・クアラルンプール 2018年7月30日
出典)Photo by Ore Huiying/Getty Images


 巨額汚職事件で失脚、蜜月関係瓦解

 しかし2008年に設立された国有投資会社「1MDB」から約7億ドルがナジブ元首相の個人口座に振り込まれていることが2015年に報道で明らかになり、汚職疑惑が浮上した。この影響から2018年の総選挙では野党に敗れ史上初の政権交代が実現、ナジブ政権批判の筆頭に立ったマハティール元首相が政権に返り咲いた。

写真)中国習近平国家主席とマレーシアのマハティール首相(当時) 第2回「一帯一路」サミットにて 2019年4月25日 中国・北京
出典)Photo by Andrea Verdelli – Pool/Getty Images

 

 そして政権交代から間もなくナジブ元首相は汚職容疑で逮捕され、進めていた多くの中国とのプロジェクトもマハティール政権によって精査され、財政負担が多いもの、経済効果が乏しいものは次々と中止あるいは見直しとなったのだった。

 中国にしてみればマレーシアとの蜜月関係が一気に瓦解する事態に追い込まれたのだった。

 関係強化を狙う中国

 こうした経緯を背景に今回のナジブ元首相の中国団体共済のフォーラムでの基調講演は中国政府の意向を反映して、ナジブ元首相の「過去の功績への恩返し」あるいは「将来の復権への布石」などの思惑が込められているのではないか、との見方が地元メディアや評論家などの間では有力視されている。

 マレーシアでは2018年に政権交代が実現したもののその後与野党による複雑な政治的駆け引きで首相が2回も交代し、2021年8月からはナジブ元首相の母体だった「統一マレー国民組織(UMNO)」のイスマイル・サブリ・ヤアコブ氏が首相を務めている。

 現政権はマハティール元首相が見直しした中国関連案件の復活を試みる動きを見せており、こうした姿勢に中国側は新たな期待を寄せている。それがナジブ元首相の招待につながったともみられている。

 いずれにしろ中国はマレーシアに再び熱い視線を注いでおり、マレーシア在住の中国系国民や進出している中国企業、中国政府と関係の深い団体や組織は期待を抱いている一方でマレー系住民や野党などは警戒感を強めている。

 

トップ写真)ナジブ・ラザク元マレーシア首相 2018年10月4日 マレーシアのクアラルンプール クアラルンプール高等裁判所にて
出典)Photo by Ore Huiying/Getty Images

 




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