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.国際  投稿日:2022/4/10

「ウクライナに留まり、情報発信し続けるわけ」ある日本人の決意


Japan In-depth編集部

樊明軒、曹佳穎、藤澤奏太、菅谷瑞希、大林龍平、三國谷レナ、仲野谷咲希

「今、あなたの話が聞きたい」


【まとめ】
・ロシアによるウクライナ侵攻をさまざまな立場の人のインタビューを通して考える。
・戦禍のウクライナに残り、現状を世界に発信し続ける日本人を取材。
・その日本人高垣典哉さん、苦しい現地の人々を助けるためのボランティア活動を開始、クラウドファンディングを立ち上げる。

 

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから一か月以上が経過した。

この期間中、西側諸国を中心に国際社会からは批判の声が高まり、4月7日の国連総会にて人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止する決議がなされた。しかし、これには中国や北朝鮮など24か国が反対、インドをはじめ54か国が棄権している。

また、ロシア国内では情報統制が強化されていることもあり、同国の独立系世論調査機関レバダ・センターによれば、3月31日地点でプーチン大統領の支持率が83%にまで上昇している。このように、国や立場によってこの問題の捉え方はさまざまであり、多くの意見が存在する。

今回Japan In-depth編集部は、現地在住のウクライナ人、ロシア人、現地以外のウクライナ支持派、ロシア支持派ら、様々な立場の人々に意見を聞き、それぞれの考えを報告する企画を立ち上げた。

様々な意見を知ることが、第三者の立場から出来ることを考えるきっかけになるのでは、と思ったからだ。

企画第一弾としてインタビューしたのは、ウクライナにとどまり、戦禍をリアルタイムに世界に発信し続けている日本人だ。

 

■ 「ウクライナ情報局」とは


今回話を聞いたのは、高垣典哉さん。大阪府出身で自営業。ウクライナで起業してから15年間キーウで生活している。普段は日本人男性とウクライナ人女性の国際結婚を仲介するアドバイザーのお仕事をしている。妻との間には7歳と2歳の二人の男の子がいる。現在Twitterや「ウクライナ情報局」というYoutube番組を通じてウクライナ現地の最新情勢を発信している。

 

 

画像)高垣さんのキーウの家から5キロ地点、ミサイル攻撃された高層マンションの前で
提供)高垣典哉氏

 

◼️ 高垣氏インタビュー


樊:高垣さんは今、どこで活動しているのか?

高垣氏:昨日までブチャにいて、今はキーウの自宅にいる。家族はここから離れた実家で避難中だ。

樊:戦争が始まる前と後で生活はどのように変わったか?

高垣氏:日常生活が一変した。外出禁止令が出ているので、毎日が軟禁生活のようで、食料品の店やレストランがほとんど閉まっており、いつものようにコンビニで買い物が出来なくなってしまった。そのため三日四日に一回、買い溜めをし、食べ尽くしたらまた買いに行くという生活に変わった。

樊:そんな大変な状況の中、危険を冒してまで自らブチャなどに取材に行く理由は?

高垣氏:「ウクライナ人を攻撃し殺したのはウクライナ軍だ」というロシアのプロパガンダがあり、「ネオナチ」だと言う人もいる。それが本当かどうか証明するためにブチャに行った。ブチャにいる住民たちに「あなたたちは本当にウクライナ軍に攻撃されたのでしょうか」と聞いたら、「もちろん攻撃したのはロシア軍ですよ」「ネオナチなんてありません」と答えてもらった。

ロシア軍がウクライナのミサイルによるピンポイント攻撃を防ぐために住民たちを一列に並ばせて戦車の前に立たせた現地住民の体験談はあまりにも非道で、本当に衝撃的だった。

画像)インタビューをオンラインでうける高垣さん 2022年4月6日
出典)Japan In-depth編集部

樊:私たち第三者にできるのはプロパガンダを鵜呑みにしないことだろうか。

高垣氏:鵜呑みにしないというよりも、一番良いのは相手にしないことだ。こうしてメディアを通じて情報発信したら人々は分かってくれるだろう。ロシアは役者を使って沢山のウクライナを貶める動画を作っている。こういうサイバー攻撃やプロパガンダなど、ロシアの攻撃の仕方は様々で非常に恐ろしい。あまりにも度を過ぎたものには注意喚起も必要である。

樊:日本のマスメディアが正しいことを報道していることが、現地に行って初めて分かったとYoutubeでおっしゃっていたが。

高垣氏:最初はマスメディアは都合の良いことばかり話すと思っていた。それが、インタビューを受けるとき、どのメディアも「高垣さんが思っていることを言ってください」と言ってくれた。30分のインタビューを端折ることはあっても伝えたいことをその通りに伝えてくれたのでマスメディアを見直した。

樊:ゼレンスキー大統領がウクライナ侵攻を9・11テロ事件に例えていたが、これについてはどう思うか。

高垣氏:ゼレンスキー大統領の例えは確かである。しかし、祖父を戦争で亡くした一日本人として、今回と真珠湾攻撃とを並べるのはちょっと違うかなと思う。真珠湾攻撃は軍事施設しか狙わなかったのに対し、今回、ロシアは軍事施設のみならず、民間人を多く殺した。これは戦争のルールとして絶対にやってはいけないことだ

樊:ブチャで400人以上の民間人が殺されたという報道は本当なのか?

高垣氏:本当だ。殺され方も非常に残酷だ。ぼこぼこに殴ったり、袋を被せ、後ろから頭を「ポン」と撃つ。袋を被せる理由は、脳が飛び散らないようにするためだ。遺体も共同墓地に掘りこまれたと聞いた。

樊:ブチャの住民たちは、今どのような生活を送っているのか?

高垣氏:取材したとき、ほとんどの人がブチャから逃げた。ロシア軍がいた時は一軒ずつ回って、人を見つけたら「金を出せ」と泥棒のように住民の現金や金品を奪っていった。ロシア軍が退いた今、残っている人たちはようやく地下室から外に出られるようになって、家に隠れて生活をしている。

樊:今回のウクライナ侵攻について、どういう形の幕切れが考えられるか?

高垣氏:妻は楽観的で、ウクライナ軍は強いから心配しなくてよいと言うが・・・(笑)。ロシアとの妥協案を見つけて、一刻も早く終戦してほしい。勿論マリウポリやドネツク、ルガンスクを取り戻すのが一番の望みだが、とにかく苦しんでいる人が助かることを願っている

樊:今回のウクライナ紛争に関して、日本や国際社会に期待することは何か?

高垣氏:日本にはウクライナの住民に行き渡るような形で援助をしてもらいたい。募金としてウクライナ政府や大使館に献金したとしてもどこにいったか誰に使われているのかわからないからだ。キーウにいるが、日本から援助をもらっているということを現地で一度も聞いたことがない。

僕自身は身近なボランティアと関わりがあるので、日本人がヘルプしている、ボランティアしているとアピールしながら、ボランティアをしたいと思い、クラウドファンディングを立ち上げることにした。そこで集まったお金をボランティアという形で、戦争により仕事・収入がなくて生きられない人にあげたい。

元々ウクライナの人たちの給料は1ヶ月平均で6万円ほどだが、家賃や食べ物等の価格は日本の物価の三分の一より高いくらいで、生活が苦しい。そのためウクライナの人は貯金がほとんどないことが多い。こんな中で戦争になり、仕事が一旦止まって給料ももらえない。給料がないから、ものも買えない。なので、弁当を作ってみんなに配るボランティアをしている。

樊:私たち第三者に伝えたいことや私たちにできることは何か?

高垣氏:ロシアの侵攻を正当化してしまうと、日本も同じ目に遭う可能性もある。日本人も突然こういった軟禁生活となってしまったり、殺されたりする危険性があることを知ってほしい。準備したり、考えたりすることだけはしてほしい。私も安全だと思っていたらこのような状況に陥った。危機意識をもってもらいたい。

 

◼️ 今後の活動


紛争により居場所がなくなり、生活の最低限が保障されなくなったウクライナ人の生きづらさを痛感した高垣さんは、地下鉄で住民にお弁当を配布したり、軍隊に炊き出しを持って行ったりするボランティア活動を始めた。たった一つのお弁当で一日を過ごしている避難者らの生活を見た高垣さんは、心を痛めていると話した。

今回高垣さんは、有志のボランティアと一緒に避難民に毎日500食ランチボックスを3ヶ月間配り、衣服を500人に分配する支援活動を企画した。しかし、避難者の人数が多く、活動に必要な資金は大きく不足している。計算によれば、ボランティア活動が必要となる金額は1360万円まで上るという。

写真) 攻撃を受けた街の様子
提供)高垣典哉氏


高垣さんは4月11日に、ウェブでクラウドファンディングを開始する予定だ。目標金額は100万円である。今回集めたお金は4月12日から5月11日までのお弁当を配布する活動に使われる。募金の締め切りは5月5日。最終的な会計報告は、SNS上に公開するという。

詳細は、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で4月11日に公開される高垣氏のプロジェクトを参照してもらいたい。


次回はウクライナ大使館に寄付をした在日香港留学生。香港から見たウクライナ紛争を聞く。

(続く)


高垣氏のインタビューは、2022年4月6日に行われた。

トップ写真:ブチャを取材する高垣さん 2022年4月5日 提供:高垣典哉氏




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