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.国際  投稿日:2014/5/31

[朴斗鎮]<効果を上げ始めた北朝鮮への制裁>「制裁は効かない」を主張して日朝国交正常化を急がせた識者は反省を


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)|執筆記事

日朝両政府は、5月26~28日にスウェーデン・ストックホルムで日朝外務省局長級協議を実施。日本外務省の伊原純一アジア大洋州局長と北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使がそれぞれ本国に合意案を報告し、両政府が正式に合意した。

今回の「合意」に対しては、北朝鮮が「拉致は解決済み」とした従来の主張を変えたようなので前進だとも言えるが、内容は2008年の「再調査合意」と大きな違いはない。 今回の「合意」を、柔道の試合に例えれば、組み手争いをしていた両者(日本・北朝鮮)が、制限時間が迫り、焦り始めた状況(北朝鮮は体力不足、日本は応援団のブーイング)で、北朝鮮側が日本に組み手を譲り試合を動かしたと言うところだろう。

組み手争いで優位に立った日本は、技を仕掛けて日朝交渉を進めたが、現在のところ「焦り」を利用され、「返し技」を仕掛けられている状況といえる。早くも出てきた朝鮮総連中央会館の取り扱い問題での見解の相違がそれを示している。今後どちらが勝るかは、知恵と体力にかかっている。

ただ、今回の結果で明らかとなったのは、「制裁は効果を上げていない」との主張が誤りだったということだ。制裁は確実に効いている。国連はいま経済制裁だけでなく人権問題でも北朝鮮に強い制裁姿勢を見せ始めた。

こうした国際的制裁が効いているからこそ日本の制裁がより効果を上げ北朝鮮側が動き始めたといえる。制裁が効いていないと主張し続けてきた識者は大いに反省すべきだ。また制裁が効いていないとして日朝国交正常化を急がせた人たちも反省する必要がある。

今後注意して見なければならないのは、北朝鮮が対日外交だけではなく、対米、対中、対韓国に対する政策を包括するグランドデザインの下で動いているという点だ。 外貨不足の解決のために北朝鮮は、日本からの支援獲得や国際的制裁の緩和を狙っていることは言うまでもなく、外交的閉塞から抜け出すためにも、日本カードで、対米接近、対中牽制、韓国と日本の離間などを狙ってくるだろう。

しかし、核とミサイル問題が解決しなければ、平壌宣言の最終到達点である日朝国交正常化までは進めない。金正恩政権が、労働党規約と憲法にまで明記した「経済建設と核武力建設の並進路線」を維持したままでは「国際社会への進出」は不可能なのである。

今後、日本が心しなければならないのは、独自行動と国際協調のバランスをとることであろう。前のめりにならず、きちっとした検証で一歩一歩前進することが肝要だ。

 

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【プロフィール】

朴_写真朴斗鎮(パク・トゥジン)コリア国際研究所所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。主な著書に、「北朝鮮 その世襲的個人崇拝思想−キム・イルソンチュチェ思想の歴史と真実」「朝鮮総連 その虚像と実像」など。その他論考多数。

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