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.国際  投稿日:2022/11/12

金正恩必死の挑発も米韓に通じず


 

 

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

【まとめ】
北朝鮮、米韓合同軍事演習開始後、ミサイル発射、戦闘機出動などを繰り返した。米韓は演習を延長。
・北朝鮮の報道は虚偽であり、公開された写真は偽造の疑いあり。北朝鮮の内部用とみられる。
・第54回米韓定例安保協議(SCM)で、米国の戦略資産を常時配備レベルで朝鮮半島に展開することで合意。


9月25日以降、3週間にわたりほぼ2日に1回弾道ミサイルを発射した北朝鮮は、10月31日から始まった米韓空軍240機による「ビジラントストーム」演習開始後には、4日間で3回のミサイルを発射し、11月2日には南北分断後初めてNLL(北方限界線)を越えた短距離弾道ミサイルを着弾させた。そればかりかこれまでに見られなかった多数の戦闘機を出動させ、NLL付近での砲撃も繰り返した。

北朝鮮の挑発、核実験抜きで終わる

北朝鮮の狂ったような相次ぐ挑発を受け、米韓両軍は「ビジラントストーム」の訓練を11月5日まで延長した。そして戦略爆撃機B1Bランサー2機と核攻撃命令を出すE6Bを出動させた。E6Bは地上の核ミサイル統制センターが攻撃を受けて無力化されても、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射を指揮できるようにした航空機で「終末の日の飛行機(Doomsday Plane)」と呼ばれている。

この訓練に対して朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長の朴正天は、11月1日に談話を発表し「むごたらしい代償をもたらす」などと米韓を脅した。4日夜には「米国と南朝鮮による無責任な決定は、現状を統制不能な局面に追いやっている」「米国と南朝鮮は取り返しのつかない非常に大きな失敗を犯したことを知るようになるだろう」と脅しもかけた。しかし、「むごたらしい代償」と言えるような挑発は行えなかった。

9月25日から11月9日までに北朝鮮が発射した弾道ミサイル、巡航ミサイル、地対空ミサイルは60発以上に達したが、今回行った米国の「先制攻撃型軍事演習」が恐ろしかったのか、挑発効果を最大限に高める7回目の「核実験」は実行しなかった

■ 挑発効果高めるために欺瞞や映像捏造戦術まで動員

北朝鮮は休戦後初めて北方限界線(NLL)を越えて束草(ソクチョ)東側約57キロ海上に短距離ミサイルを着弾させた攻撃的な挑発(11月2日朝)には口を閉じたまま、11月7日になって、11月2日に咸鏡北道(ハムギョンブクド)のある場所から蔚山(ウルサン)東側約80キロの公海上に戦略巡航ミサイル2発を発射したと発表した。しかし韓国軍当局は北朝鮮のこうした主張について「事実でない」と直ちに反論した

韓国の専門家は「北が内部宣伝のために虚偽の主張をした可能性がある」と指摘した。この虚偽と見られる北朝鮮報道と関連して、韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防部長官は11月7日、国会予算決算特別委員会で「北の発表内容が事実なら非常に深刻な状況」としながらも、「わが軍の監視偵察資産を確認・分析した結果を見ると、北の発表内容は事実ではないと確認された」と語った。

また発射後2段目でレーダーから消えて失敗したとみられる11月3日の「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」についても、北朝鮮は「敵の作戦指揮体系をまひさせる特殊機能戦闘部の動作信頼性検証のための重要な弾道ミサイル試験発射を進行した」と電磁波(EMP)攻撃試験であるかのように報道したが、これも欺瞞だと見られている

韓国軍当局消息筋は「当初の意図と関係なくICBMならミサイルの軌道に沿って飛行すべきだが、実際には異常な飛行が確認された」とし、この発射では「実際の発射場面でなく別の写真を出したようだ」と指摘した。

そればかりか、戦闘機180機を出動させたとの写真も公表したが、これも偽造写真であったとドイツの写真専門家が指摘した。その後も北朝鮮は航空機500機を出動させたとする報道も行ったが、これにいたってはコメディの領域だ。今回の一連の欺瞞発表はあまりにも稚拙なので北朝鮮の内部用とみられる。守勢に追い込まれた金正恩の苦悩がにじみ出ている。

■ 米韓は演習を「先制攻撃体制」へと転換

11月3日(日本時間)にペンタゴンで第54回米韓定例安保協議(SCM)が開かれた。この協議で、米国の戦略資産を常時配備レベルで朝鮮半島に展開することにした。また核の傘など米国が提供する拡大抑止に韓国の声を反映できる基盤を用意した。

オースティン米国防長官と李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防部長官は、最近の北朝鮮の弾道ミサイル発射と放射砲・海岸砲発射などの挑発を強く糾弾したうえで、米国・同盟国・友好国に対する北朝鮮の戦術核を含むいかなる核攻撃も容認できないとし、これは金正恩政権の終末を招くとした

写真)B-52 爆撃機を視察する米国国防長官ロイド・オースティン と韓国の国防大臣李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防部長官 2022年11月3日 アンドリュース空軍基地にて
出典)Photo by Mandel Ngan-Pool/Getty Images

「金正恩政権の終末」という表現は、韓米がSCMを通じて発信できるメッセージでは最も強いものだ。これは先月27日に米国防総省が国防戦略書(NDS)で「核兵器を使用する場合、金正恩政権におぞましい結果があるという点を明確にすべき」とした点と軌を一にする。

両長官は必要に応じて米国の戦略資産を適時に調整された方式で朝鮮半島に展開することにも合意した。李鐘燮長官は「韓半島(朝鮮半島)とその周辺への戦略資産展開の頻度と強度を拡大し、米戦略資産を常時配備に準ずる効果があるよう運用する」と述べた。

すでに5月のバイデン米大統領と尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の首脳会談以降、F-35Aステルス戦闘機、原子力空母「ロナルド・レーガン」、原子力潜水艦「アナポリス」「キーウエスト」など戦略資産が韓国を訪れている。

続いて両長官は、韓米拡大抑止連携体制を強化することとした。これまで米国有事の際、自国領土に対する核攻撃を覚悟してまで拡大抑止公約を守るだろうかという疑いの声があったが、今回のSMCではそれを払拭するため、韓国が米国に要求してきた北大西洋条約機構(NATO)非核加盟国間の核共有体系に準ずる制度的装置に米国が同意したものと見られる。

米韓は北朝鮮の核使用状況に対応した確定抑止手段運用演習(DSC TTX)を毎年開くことにも合意した。来年も大規模な連合野外機動訓練(FTX)を実施するために緊密に協力していく方針だ。

両長官は北朝鮮の脅威に対応するうえで韓日米の連携が必要だという認識で一致した。これを受け3カ国間の次官補級政策協議体「韓日米安全保障会議(DTT)」が来年初めに開催される。

■ 2017年とは異なった今回のB1B出撃

こうした米韓の「先制攻撃型演習」は240機の最新鋭各種航空機を動員しただけでなく、A10C飛行隊のグアム配置やB1Bのフル装備出撃で示された

米空軍の中で最も戦闘経験が多く第23戦闘団と命名されている「A10C」1個飛行隊規模が10月末にグアムに配置された。この飛行隊は一般飛行隊とは異なった任務を持つ火力支援戦闘団で、戦闘地域でのパイロット救出と、それに伴う敵戦車や対空攻撃を遮断することを任務としている。これは有事に大規模な空軍打撃部隊が北朝鮮に侵入し作戦を行うことを想定したもので、今回グアムに配置され出撃体制を取ったのは、実戦体制に近い異例なものだった。

またグアムから朝鮮半島に向かったB1B2機もフル装備で出撃した。そのために途中で給油まで受けた。これはこれまでの出撃では見られなかったことだ。

また朝鮮半島の西海(黄海)に侵入したというのも異例だった。中国が嫌がる西海に侵入したということは、北朝鮮首脳部が拠点とする平壌がターゲットであったということだ。BIB編隊はADS(航空機位置信号情報)を消して飛行した。

今回の米韓演習が先制攻撃を見据えた演習であったために、金正恩はまたもや姿を消した。10月18日に党中央幹部学校での演説後姿を隠したが11月10日現在まで金正恩の動向は報道されていない。

 

トップ写真)2 機の米空軍 B-1B ランサー戦略爆撃機、4 機の韓国空軍 F-35 戦闘機、4 機の米空軍 F-16 戦闘機が、米韓合同軍事演習「ビジラントストーム」に参加し、朝鮮半島上空を飛行した。 2022 年 11 月 5 日
出典)Photo by South Korean Defense Ministry via Getty Images




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