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.社会  投稿日:2023/2/21

フジテレビ終了説と韓流ブーム(上) オワコン列伝 その3


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・フジテレビは2004年から2010年まで7年連続で「視聴率3冠」を得た。

・2011年を境にフジテレビは民放の覇者の座から転落した。

・上層部がエンターテインメントのトップランナーという自負が昂じ、根拠ない自信にとりつかれていたのでは

 

おごる平家は久しからず

昨今フジテレビの凋落ぶりについて、色々な人が色々なことを語っているが、私としては、結局この言葉が一番ふさわしいのでは、と考えるに至った。

最初にお断りしてくが、オワコン化が取り沙汰されているのはフジテレビだけではなく、業界全体の問題であって、なにしろ最近の大学生はTVを持っていないケースが多いとまで言われている。第一回、週刊誌について述べたが、今やスマホ一台あれば情報(それも、自ら発信することも可能な双方向性)から娯楽まで、幅広く楽しむことができる。

ただ、フジテレビの場合は、2004年から2010年まで7年連続で視聴率3冠を得た過去の栄光とのギャップがあまりにも大きく、その原因が色々と取り沙汰されているというわけだ。順を追ってみていこう。

まず「視聴率3冠」というのも、最近の若い人たちには(なにしろTVを見ないので)なじみの薄い言葉になりつつあるのかも知れない。

簡単に述べると、民放すなわちNHKを除いた放送時間帯を、午前6時から深夜0時までの「全日」、午後7時から10時までの「ゴールデン」、さらに午後7時から11時までの「プライム」に分け、それぞれの時間帯で、どの局の放送が一番見られていたか、という数値を割り出したもの。NHKがこの「競争」に加わっていないのは、経営形態の違いから、視聴率が収益に直結しないからである。

時間帯がダブっているのも、最もよくTVが見られる時間帯を「ゴールデン」「プライム」として重視していることの表れだ。

他に、TVのコンテンツ(番組)は、報道・ドラマ・バラエティの三種類に分けられる。もうひとつスポーツ中継もあるが、これを広義の報道と見なすか、バラエティと同列の娯楽と見なすかは、各局の製作部門と、上層部の考え方次第で微妙に異なると言われている。いずれにせよ、かつてのフジテレビは、上記の三部門それぞれでも覇を唱えていた

とりわけ月曜午後9時からのドラマ枠、通称「月9」は、エポックメイキングな作品を何本も生み出している。

もともと1980年代末のバブル期から90年代にかけて、W浅野(ゆう子・温子)らが出演するコミカルな恋愛ドラマでヒットを連発し、世に「トレンディドラマ」という呼称を定着させたのも、この月9であったし、21世紀に入ってからも、キムタクこと当時SMAPにいた木村拓哉が『HERO』(2001年)で型破りな検事を演じて大人気を博した、嘘か本当か知らないが、このドラマのおかげで、大学法学部から検事を志す若者が増えたのだとか。

2007年には、福山雅治演じる大学教授が、柴崎コウ(第2シリーズでは吉高由里子)演じる刑事に協力して難事件を次々に解決する『ガリレオ』もヒットした。この2本は、劇場映画も公開されている。

個人的に好きなのは2003年に放送された『ビギナー』で、無名の新人をオーディションで登用するという、キー局ドラマの常識を覆した企画の結果、ミムラ(現・美村里江)が世に出た。前述の「トレンディ女優」たちとは一線を画した、おっとりしたキャラクターもよかったが、なにより司法研修所という、一般の社会人には縁遠い世界の青春(元キャリア官僚とか、リストラされた管理職などの、オッサンも混じっていたが笑)群像劇で、とにかく面白い。

『HERO』も検察の物語だが、こちらが「そんなアホな」という面白さであったのに対し、『ビギナー』の方は「ああ、なるほどね」という面白さがあった。

少し話が戻るが1997年には、火曜9時のドラマ枠からも大ヒット作が産み出された。

織田裕二主演の『踊る大捜査線』である。警察という組織の、ある意味で理不尽な権力構造を、時としてコミカルに、時としてシリアスに描いたもので、ドラマは1シーズンのみであったが、多くのスペシャル版から、内田有紀主演の『湾岸署婦警物語』などスピンオフ作品、さらには劇場映画も製作されている。

実際にこの頃、若手俳優やアイドルが、フジの月9に出演が決まったとなると、NHKの大河ドラマに出演するのと同じくらい箔が付く、などと言われていた。

ところが2011年夏、とんでもない騒動が起きる。

7月23日、俳優の高岡蒼輔(当時の芸名)が自身のツイッターに、「正直、お世話になった事も多々あるけど8は今マジで見ない。韓国のTV局かと思う事もしばしば。うちら日本人は日本の伝統番組求めてますけど、取り合えず韓国ネタ出て来たら消してます。ぐっばい」と投稿し、これが大炎上した。

私自身も、データを見て驚かされたのだが、フジテレビは2021年7月、実に39時間も韓流ドラマ等のエンターテインメントを放送している。NHKの4時間(1時間ドラマを週1回か?)、TBSの19時間と比較して、突出して多い。ちなみに日本テレビ、テレビ朝日はゼロであった。

これが一部の視聴者の目には「韓流ごり押し」と映ったのだろうが、さらにその背景を探ると、2002年のワールドカップ日韓大会以降、韓国のエンターテインメントが大挙日本に流入してきた反面、繰り返し「歴史問題」を持ち出す韓国に対する悪感情を隠そうともしない人たちが増えた、という問題に行き着く。

マンガ嫌韓流』(山野車輪・著 普遊社)がAmazon 1位となるなど、大いに売れたのは2005年。そして、なんたる皮肉か、高岡は同年『パッチギ!』という映画で、日本人の高校空手部員らを片っ端からしばき倒す京都朝鮮高校の番長、イ・アンソン(李安成)を演じてスターダムに躍り出ている。

この映画も、嫌韓派の人たちから「出演者の大半が在日」などと叩かれたが、これは、どこに目をつけているのか、という話だ。在日朝鮮人のヒロインを演じたのが日仏ハーフの女優(沢尻エリカ)であったことだけ紹介すれば足りるだろう。

話を戻して、高岡蒼輔のツイートは賛否両論を巻き起こした。芸能界の反応は概して否定的・批判的で、彼は28日付で所属事務所(スターダストプロモーション)を解雇されている。

一方で、高岡がくだんのツイートをした直後から、フジテレビには抗議の電話が殺到し、やがてこれが、スポンサー企業への抗議電話、さらには不買運動にまで発展した。

さらには8月7日以降、フジテレビ本社前に繰り返しデモ活動(道路使用許可が下りず、ゲリラ的な集会にとどまった例もある)が行われ、海外メディアにまで注目された。

当初から、TV番組など「見ない自由」もあるわけだから、デモはいかがなものか、という声も多く、高岡自身、デモや不買運動には否定的なコメントを発信していたのだが、フジテレビ側も、

番組編成は総合的かつ客観的に行われており、適切と考えている」(広報室のコメント)などと、木で鼻をくくったような対応ぶりで、これが火に油を注いだ面もあったようだ。

フジサンケイグループと言えば右寄り(と言って悪ければナショナリスト的)のイメージがあっただけに意外だ、との声も聞かれたが、エンターテインメントの事だから、右とか左とかは、あまり関係ないだろう。

その後、韓流ドラマは主として衛星放送のコンテンツとなっていったが、繰り返しヒット作が出て、第何次のブーム、といったことが言われている。

そもそも論から言うなら、前述のように「嫌なら見なければよい」で済む問題だから、デモを支持する気にはなれないが、フジテレビに責められるべき点がなかったかと言うと、それも少し違うように思う。

さらに言えば、この2011年を境に、フジテレビが民放の覇者の座から転落したことは、まぎれもない事実なのだ。

とどのつまり上層部が、自分たちはエンターテインメントの分野におけるトップランナーだという自負が昂じて、

自分たちが面白いと思うものは、視聴者も必ず歓迎するはず

といった、根拠のない自信にとりつかれていたのではないか。これはTV業界に限らず、ダメになる会社の典型的な姿なのだが。

どうして私がそのように考えるのか、ドラマ以外の番組や、伝えられる社内事情の話も含めて、詳細は次回。

(つづく。その1その2

トップ写真:フジテレビ本社(東京都・港区)出典:Photo by Carl Court/Getty Images




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