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IT/メディア  投稿日:2014/7/12

[安倍宏行]<NHKの女性記者15人が7月に大量退職>女性が子育てをしながら仕事を続けることが厳しい就労環境


安倍宏行(ジャーナリスト)

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NHKの女性記者15人が一辺に7月に退職、とイギリス在住のジャーナリストがブログに書き、関心を集めている。

正確な人数はともかくとして、NHKの女性記者に話を聞いてみた。すると、子育てをしている女性記者にとって継続して働くにはかなり厳しい実態が明らかになった。

まず、民放と違い、全国に支局があるNHKは当然の事ながら地方回りが多い。地方局から拠点局(名古屋、大阪、福岡など)、それから東京、というのが王道で、入局10年前後に一度は首都圏に戻そうという不文律のようなものはあるようだが、全員がこのルートに乗れる保証はない。つまり、地方局から地方局と、地方周りが続くことは普通だ。(勿論、地方に留まることを希望する人もいるので地方周り自体が悪いわけではないが。)

つまり、女性記者にとって、地方局での下積み期、つまりキャリア形成期が出産適齢期と重なることになる。記者は毎日24時間対応が基本であり、30歳手前で子供を持つと記者としてフルに働くことはまず不可能だ。長時間勤務が出来ず、キャリアパスに不利に働くとなれば、出産に二の足を踏むことになろう。

具体的に見てみよう。

NHKの育休制度は他の企業と大きな違いはない。子供が1歳半になると育休が終わり、復職することになるが、勤務地に親がいるなどのケース以外は、子供は保育園に預けて勤務することになる。夫が同じ支局内にいるケースはまだしも(注1)、他の支局だったり、他の企業に勤めていて勤務地が別だったりすると、一人で子育てをしなければならない。当然、時短勤務となり、記者としてフルに仕事を続けることはほぼ不可能だ。

ママさん記者は民放にいないことはない。しかし、民放は基本その地域からの転勤はないので、比較的子育てがし易い。しかし、NHKの場合はそうはいかないのである。

またNHKでは職務別採用のため、記者が全く違う局に異動するのは極めてまれだという。仮に異動出来たとしても、一旦異動すると元の部署に簡単には戻れない。又、記者が報道局内の業務系部署に異動というケースも余りないという。

つまり子育て期に記者職よりは勤務時間がフレキシブルな「内勤」を選ぶことがほとんど不可能なのだ。

基本、記者職は24時間毎日、夜討ち朝駆けが基本。とはいうものの、これだけ女性記者が増えている時代に、女性が働きやすい柔軟な制度運用があってもいいのではないか。

今、日本は官民挙げて女性が生き生きと出産・子育てができるような社会にしようとしている最中だ。報道機関からまずは女性記者が働きやすい、柔軟な勤務体制を構築することが出来ないものか?

例えば:

  • 子育て中の女性記者には、希望があれば、局間異動も含め、一時的に内勤に異動できるようにする。
  • 希望があればまた、報道に戻ることが出来るようにする。
  • 単身で地方局勤務の場合、家族のいる都市への転勤希望を考慮する。

などが考えられる。要は子育てしやすい環境を整える、ということだ。

無論、全員の希望を叶えることは不可能かもしれないが、人を規則に無理やり合わせるのではなく、規則に人を合わせて行くことが大事だと思う。

記者を育てるには10年はかかるという。女性記者の大量退職を放置することは、メディアとしての力を落とすことに他ならない。NHKはまず中から改革をしなければならないのではないか。

(注1)夫が記者の場合、基本24時間対応なので、育児の分担はかなり困難であろう。

 

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