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.国際  投稿日:2025/1/29

知られざるフリーメイソン(下)   陰謀論とデマは双子の兄弟 その3


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

フリーメイソンは人類史上の大動乱期に多くの人材を輩出したことから、一種の陰謀論が広まる土壌がつくられたと考えられる。

会員同士だけの握手作法もある「秘密のある結社」は、世界中に点在していると言っても過言ではない。

現在フリーメイソンは、政治状況に照らしたならば、人畜無害の集団だと評して差し支えない。

 

 中世の英国で、石工の職能組合として誕生したフリーメイソンが、やがて友愛団体へと換骨奪胎し、フランスはじめヨーロッパ大陸に浸透したことと、フランス革命に際しては、多くのメンバーが革命派に加担したことは、前回までに述べた。

 

その後18世紀になると、当時のオスマン帝国にも浸透し、遅くとも1720年までには、イスタンブールにロッジが置かれたとされる。

 

さらには、1798年のナポレオンによるエジプト侵攻に際して、高級参謀の一人がフリーメイソンであったことから、かの地にも伝播した。

 

 しかしその後、具体的には第一次世界大戦の結果、オスマン帝国が崩壊してアラブ諸国が相次いで独立し、さらにはパレスチナの領有権をめぐって、ユダヤ人国家建設を目指す勢力(世に言うシオニスト)との間で軋轢が表面化してくると、フリーメイソンはシオニズムと結びつけて語られるようになり、今では活動禁止の沙汰となった国も多い。

 

 しかしながら組織は命脈を保っており、たとえばヨルダンなど、公式にはフリーメイソンの活動を禁じているが、先代の国王は会員だった、という話まである。

 

 

 北米の植民地における活動も、1730年代以降、次第に活発になっていった。

各国にひとつ「総ロッジ」が置かれ、その下に各ロッジが集い、国境を越えて緩やかに連帯するという、現在のような組織形態に近づいていったのは、19世紀になって間もなくのことであるらしい。

 

1801年以降、フリーメイソンとは31階級から成るピラミッド型の組織で、全ての会員はどこかに位置に組み込まれるという話が、人口に膾炙するようになってきた。

 

平行して、得体の知れない一種のカルトだ、といった偏見も広まっていったが、これについては、フランス革命で指導的な役割を果たした若いインテリたちにフリーメイソンの会員が多く、旧体制からは革命派と見なされていたということは、すでに述べた。

 

アラブ圏で禁止されるに至ったのも、どちらかと言うと、彼らはコスモポリタンで、アラブの伝統である部族社会の価値観を共有し得ない、と見られたようだ。

 

さらに言えば、フランス革命に思想面で影響を与えたアメリカ独立戦争においても、フリーメイソンと結びつけて語る向きが少なくない。

 

なにしろ、独立運動の中心人物の一人で、後にアメリカ合衆国初代大統領となるジョージ・ワシントンはフリーメイソンであった。アメリカ独立宣言の起草者の一人で、政治家・外交官であると同時に、避雷針を発明するなど科学者としても高名なベンジャミン・フランクリンも同様。

 

当時は人類史上でも稀に見る政治的な大動乱期で、その動乱の渦中に多くの人材を輩出したことから、フリーメイソンについて、

「世界征服を目論む秘密結社である」

などという、一種の陰謀論が広まる土壌となってしまったのだと考えられる。

 

 

 ところで、そのフリーメイソンの会員になるためには、どうすればよいか。(上)で少しだけ紹介したように、わが国では高名な整形外科医が会員であることを公言しているので、その内容を信じて紹介させていただこう。ネット配信されたインタビュー記事の孫引きなので、あえてお名前は伏せさせていただく。

 

入会するには、まず会員2人の推薦を受け、その後、数名の幹部と面接しなければならない。この人が入会を認められたのは2012年の夏で、今ではロッジの責任者となり、入会希望者を面接する立場なのだとか。ちなみに入会資格は男性に限られている。

世界征服については、この人もそうした話を昔から聞かされていたので、好奇心に駆られて門を叩いたそうだ。

 

 現実には、ロッジで行われているのはもっぱら会議や儀式で、その儀式の内容については他言無用、メモを取ることさえ許されない。もしも慷慨すると、除名などの厳しい処分があり得るらしい。

 

さらには「ライオンの握手」と称される、会員同士だけの握手の作法もあるそうで、「秘密結社ではなく秘密のある結社」ということになるようだ。こうした「秘密のある結社」であれば、世界中に点在していると言って過言ではない。

 

たとえば華僑社会に根付いている「幇(ばん)」がそうだ。

これも厳密には「根付いているとされる」存在で、内情はフリーメイソン以上に謎が多い。

 

 

 司馬遼太郎が知人から聞かされた話として、こんなことを述べている。

その知人が在日の華僑と親しく、たまたま仕事でシンガポールを訪ねることになった際、その華僑から、「それなら(同じ華僑の)XXさんを訪ねるとよいですよ」と言われた。気まぐれで訪ねたところが、思いがけず歓待されたそうで、その華僑同士は同じ幇に属しているに違いない、と。

 

要するに幇とは地縁・血縁に基づく相互扶助団体のようなものだが、前述のように(全ての幇がそうだというわけではないが)秘密結社的な側面も備えていて、メンバーと部外者を見分けるための合図もあると聞く。

 

 フリーメイソンの話題に戻して、ロッジの外では、もっぱら奉仕活動を行う。会員たちが清掃活動をしている写真も前述のインタビュー記事に掲載されていた。

 

 それならばロータリー・クラブやライオンズ・クラブと変わらないではないか、と考えた読者もおられるだろうか。

 

まさにその通り……というより、実はここがミソで、上記ふたつの組織は、いずれも創設時の中心メンバーがフリーメイソンの会員だったのである。

 

過去にはその事実をあまり公言してこなかったようだが、最近、とりわけロータリー・クラブの内部においては、創立メンバーの素性について公然と話せるようになったと聞く。

 

くだんの整形外科医氏も、若い頃にロータリー・クラブに加入し、会員からその話を聞かされたことで、本格的にフリーメイソンに興味を持つようになった、と語っている。

 

多忙ゆえに、なかなか踏ん切りがつかなかったが、最終的には「老後のスリルとサスペンスを求めて」入会を決意したそうだ。

日本全国では2000人近い会員がいるが、過半数は在日の外国人であるそうだ。

 

 以上を要するに、現在のフリーメイソンは「秘密のある組織」にとどまり、歴史的には色々なことがあったことは事実だが、現在の政治状況に照らしたならば、人畜無害の集団だと評して差し支えないのである。

にも関わらず、今も陰謀論と結びつけて語られることが多いのは、要するに一定数の「信者」がいるから、ということではないだろうか。

 

最近はとみに、なんでも陰謀論で語ろうとする傾向が顕著なように見受けられるが、これはやはり、健全な言論とは見なしがたい。

 

次回は、この問題をもう少し掘り下げてみよう。(その1その2

 

 

【付記】

本稿の執筆に際しては、中東情勢やイスラムの問題などで、幾度もお世話になった若林啓史博士が朝日カルチャーセンター新宿校での講義向けに作成された資料を参照し、また、示唆に富むお話しを聞かせていただきました。記して感謝の意を表させていただきます。

 

 

トップ写真)プロビデンスの目 – メイソンとイルミナティの有名なシンボル。

出典)Ruslan Danyliuk / Getty Images

 




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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