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.国際  投稿日:2025/3/31

「米国製兵器は要らない」なぜならば・・・「欧か、米か」の時代の予感  その2


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

 

【まとめ】

・米国は世界最大の兵器輸出国である。

・しかし、現在ヨーロッパ諸国における米国製兵器離れの現象が見られる。

・理由は米国、欧州間に生じている亀裂と安定的支援の不透明性。

 

 今さらながらだが、米国は世界最大の軍事大国であると同時に、最大の兵器輸出国でもある。

 

 もう少し具体的に見ると、世界銀行が発表した2023年の統計によると、米国は総額112億ドル(約1兆6800億円)近くを売り上げ、2位ドイツの32億8700万ドルに大きく水をあけている。

 

 ちなみに、2020年まではロシアが2位であったが、ウクライナ侵攻の結果、西側諸国による制裁のせいで電子部品の調達が困難になった上に、予想外の苦戦で戦車など在庫まで払底し、輸出余力が大きく削がれてしまった。この結果、2023年には、前述のドイツの他、中国、フランス、イタリアの後塵を拝して6位となっている。

 

 ただしこの統計は主要な通常兵器(航空機、装甲戦闘車両、火砲、ミサイル、レーダーシステムなど)が対象で、小火器やトラックなど「兵器のうちに入らない」装備の輸出額、また技術移転などは含まれないため、実際の販売額とは必ずしも一致しない。

 

 たとえば韓国は、ポーランドに対し1000輛ものK2戦車を売ったが、うち約800輛は技術移転によってポーランド国内で生産されるので、1輛80億ウォン(約7億5000万円)×1000輛分の代金が支払われることはない、といった具合だ。もちろん、巨額の売り上げには違いないが。

 

 一方では、日本製のピックアップ・トラックなど、たしかにそれ自体は兵器と見なしがたいが、機銃や無反動砲を搭載したテクニカルと呼ばれる車輌は、世界中の紛争地で姿を見受ける、といった例もある。

 

 いずれにせよ米国の兵器輸出額が突出していることは間違いないが、ここへ来て、ヨーロッパ諸国における米国製兵器離れの現象が見られる。

 

 たとえばNATO加盟国のポルトガルだが、今月に入って、米国製F35戦闘機の調達計画を見直し、ヨーロッパ製に切り替えることも視野に入れていると、防衛大臣自らがコメントした。

 

 理由は言うまでもなく、ウクライナ和平をめぐって米国とヨーロッパ諸国との間に亀裂が生じているからで、将来にわたって安定的な支援が受けられるか否かが不透明である、とされている。

 

 とりわけF35という戦闘機は、空飛ぶコンピューターとも呼ぶべき機体で、世界最高度のアビオニクス(ひらたく言えば、航法・監視・通信などを制御する電子システムのこと)が自慢だが、それだけにメンテナンスに手間がかかり、ソフトウェアの更新も頻繁に行わねばならない。

 

 このため、米国からの支援が滞ったような場合、稼働率がガタ落ちになるリスクがあるというわけだ。

 

 地上兵器にしても然りで、米国製M142高機動ロケット砲システム(通称HIMARS=ハイマース)の導入を決定していたポーランドやオランダの国内からも、見直し論が聞かれる。

 

 これはトラックの荷台に口径227ミリのロケット砲6門(他に様々なバリエーションに換装可能)を搭載したもので、高い機動性と長射程を兼ね備えており、ウクライナでも大活躍した。

 

 つまりポーランドなど、ロシアの「周辺諸国」にとっては、喉から手が出るほど欲しい兵器なのだが、製造元である米国(と言うよりトランプ政権)のウクライナに対する仕打ちは、こうした国々にも衝撃を与えたのである。

 

 本誌でも既報の通り、トランプ大統領は訪米したウクライナのゼレンスキー大統領に対して、わが国にもっと感謝すべき、と迫った末に口論となり、レアアースの利権を米国に引き渡すことをただちに是認しなかったとして、軍事援助や情報提供を取りやめてしまった。

 

その結果、クルクス地区で越境攻撃を続けていたウクライナの精鋭部隊は、パイプラインの中を通ってきたロシア特殊部隊の奇襲によって大打撃を受けたのである(ウクライナ軍当局は、この報道の大部分は事実と異なる、としているが)。

 

 さらには、こうした懸念を裏書きするかのような発言が、トランプ大統領自身の口からも飛び出した。

 

 やはり今月の話だが、同大統領は第5世代ステルス戦闘機であるF22の後継として、ボーイング社が提案した第6世代戦闘機を採用すると発表。呼称は「F47」になるとした。

 

 これまでの命名法からすると、22に近い数字になるべきところだが、突然47まで飛んだのは、自分が47代目の大統領だから、ということであるらしい。

 

 それならば、戦闘機には通称というものもあって、F16はファルコン(隼)、F35はライトニング(稲妻)Ⅱという具合なので、F47は「ドナルド・ダック」とでも呼べば……というのは今思いついた冗談だが、笑い事でないのは同機の輸出に関する発言だ。

 

「現在は同盟国でも、将来は関係が悪化することが懸念される」

 との理由でもって、輸出する機体に関してはスペックを10%ほど落とすことになる、と報道陣を前に明言したのである。

 

 本連載でも以前、中東諸国に輸出された旧ソ連製の兵器について少し触れたが、このようにスペックを落とした「モンキーモデル」を輸出するというのは、兵器ビジネスにおいては割とよくあることだ。

 

 中国も最近、射程1万メートルに達する(ウクライナで勇名をはせた米国製ジャベリンの射程は2000メートル程度)携帯用対戦車ミサイルを開発したが。輸出向けは射程が5000メートル程度に制限されるらしい。

 

賢明な読者は「らしい」という表現からも想像がついたことと思うが、通常このようなことは伝聞にとどまり、国家元首が公言することなど、まずあり得ない。

 

 かねてからトランプ大統領は、ロシアの脅威について「ヨーロッパの問題だ」「我々(米国)には、他に心配すべき事がある」と言ってはばからなかった。

 

 要は「アメリカ・ファースト」の裏を返せば、米国さえ安全ならば世界はどうでもよい、ということではないのか。

 

 日米安保についても一家言あるようだが、次回はこの問題について見る。

(その1はこちら)

 

 

トップ写真)フルアフターナーのF-22 -ウィスコンシン州オシュコシュ2023年7月27日

出典)Kevin Burkholder by Getty Images



 




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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