F35「買い控え」の真の理由(上)「欧か、米か」の時代の予感 その3

林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・航空自衛隊もF35を保有、将来的に147機まで増やす計画だが、納入遅延が発生。
・FMS(有償軍事援助)のため、日本側は価格や納期に文句を言えず、調達価格も高騰。
・米国でもF35は失敗作との議論があり、調達計画の問題点が指摘。
前回、トランプ政権に対する不信の念から、ポルトガルなどが米国製F35戦闘機の導入を再検討しようとしている、と報告させていただいた。
実はこの機体、航空自衛隊も38機保有している。
これは2023年度の数字で、将来的には通常型のF35Aと短距離離着陸型のF35Bを合わせて147機にまで増やす計画が公表されている。
昨年度までは青森県の三沢基地にのみ配備されていたが、今年4月からは、日本海側では唯一の戦闘機基地である石川県の小松基にも、まず3機が配備された。今年中には7機に増やし、今後3年程度で20機にまで増やして、F35Aの一個飛行体を新たに編成する計画であると、やはり公表されている。
F35は現時点で、西側では唯一実戦配備されている第5世代ステルス戦闘機でもあり、日本政府は今のところ計画を見直す気配すら感じられない。
ただ、着々と配備が進んでいるかと言われれば、現状はむしろ逆なのだ。
たとえば、2024年度にはF35A(以下A)3機と、F35B(以下B)6機が納入される予定であったのだが、ソフトウェアの不具合を修正する作業が間に合わず、25年度(=今年)にずれ込むことになってしまった。しかも2月16日付『しんぶん赤旗』が暴露したところによれば、ハードウェア=機体そのものにも欠陥が見つかったため、26年以降にずれ込むことになったという。代金の支払いはすでに進められているにもかかわらず。
民間の感覚では、代金を受け取っていながら商品の納期を守らないような業者は、契約をキャンセルされても文句は言えないだろう。
しかし、わが国が米国製兵器を買う場合、それは通常の商取引(=貿易)ではなく、価格も納期も米国が一方的に策定できる「FMS=有償軍事援助」なので、文句を言えないのは日本の側なのだ。
もともとこの機体の導入が決まったのは2011年。当時は民主党政権であった。
この時、製造元であるロッキード・マーチン社が公表した価格は、1機あたり6500万ドルで、当時のレートでは約52億円であった。
そう。今となっては隔世の感があるが、1ドル=80円前後という超円高だったのである。
戦闘機が1機52億円と言われても、高いのか安いのか、にわかには判断しかねると言う読者もおられようが、この頃、航空自衛隊の主力と位置づけられていたF15J,F2はいずれも1機120億円程度であった。
とは言え前述の、ロッキード・マーチン社が公表した価格というのは、米軍の調達価格を大まかに割り出したに過ぎず(正確な調達数が分からないうちは、価格も確定できない)、
「現有主力戦闘機の半額で、最新型が調達できる」
などとは考えない方がよろしい、という議論は、マスメディアでも見受けられた。
さらには、なんの因果か当時は野党であった自民党の石破茂・元防衛大臣が、F35の調達計画について、
「自民党が政権を奪回したら、見直すことになるだろう」
とまで述べていたのである。
理由は、この機体は専守防衛というわが国の国是に適した制空戦闘機ではないから、ということであったが、これはどちらかというと、民主党政権の防衛政策にケチを付けたに過ぎないと見なされて、軍事ジャーナリストらは、まともに取り合っていなかった。
2011年当時、ロシアや中国も第5世代戦闘機の開発に着手してはいたが、実用化のめどは立っておらず、F35の導入によって、わが国の防空能力が格段に強化されると、本気で期待する向きが多かったのだ。
そして、2012年に自民党は政権の差に返り咲き、第2次次安倍内閣が発足したわけだが、F35の調達は見直されるどころか、2020年には105機もの追加購入を決定した。
トランプ大統領(当時・第1次政権)は、わが国に対して防衛予算の増額と、米国製兵器の大量購入を求めており、その要求に応えたものだが、その後の経緯は前述の通りで、日本側は、物価高騰と増税に苦しむ国民を尻目に、営々と代金お支払いを進めているのに、技術的な問題で納期は遅れに遅れている。
その代金もまた、技術的な問題とアベノミクスが招いた円安ドル高(いわゆるトランプ関税のおかげもあって、多少は「是正」されつつあるが)、通常型のAは1機当たり173億円、短距離離着陸型のBは222億円にまで膨れ上がっている。
しかもこれは調達価格=自動車に例えれば車両本体価格で、メンテナンス・コストは別となる。
さらに問題なのは、製造・販売元である米国においてすら、F35は失敗作ではなかったか、という議論があることだ。
これについては、次回。