F35「買い控え」の真の理由(中)「欧か、米か」の時代の予感 その4

林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・F35戦闘機はステルス性能が売りだが、速度や武装面で課題が多く指摘されている。
・開発当初から多機能を求めすぎた結果、技術的・コスト面で問題が噴出している。
・イーロン・マスク氏はF35に批判的で、有人戦闘機不要論を唱えて注目を集めている。
兵器に限らず工業製品には、初期欠陥というものがまま見受けられる。
設計段階では予見できずに、実際に使ってみて初めて分かる不具合のことで、家電や自動車など、時としてこのために、発売中止やリコールの沙汰となることはご存じだろう。
前回、F35の製造・販売元である米国においてすら、この機体は失敗作ではなかったか、との声が聞かれると述べた。
そうしたアンチの急先鋒とも呼べるのが、トランプ政権でDOGE(政府効率化局)の実質的な責任者に任じられているイーロン・マスク氏で、F35について、「大金を食らうカバ」などと、酷評どころかもはや悪口雑言を並べている。
そもそも論から述べるなら、氏の主張は「有人戦闘不要論」であるのだが、これについては次回あらためて考察する。
今回は氏が主張している、F35の欠点について、是々非々の立場で考察しよう。
この機体の最大のセールスポイントはステルス性能で、レーダー波に対して反射面積を最小限に抑えている。このため、ミサイルなども機内収納式(ウェポン・ベイと呼ばれる)で、主翼の下などに吊り下げる方式(こちらはパイロンと呼ばれる)は採用していない。
着脱式の燃料タンクもなく、機内に大容量のタンクを納めていて、この結果、米軍のF16や日本のF2、あるいはロシアのミグ35といった現役モデルとの比較で言うと、結構ずんぐりしたシルエットに仕上がっている(それにしてもカバはひどいが笑)。
ステルス性能はじめ具体的なスペックは、軍事機密ゆえ公表されてなどいないが、空中警戒管制機のレーダーでさえ「小鳥くらいにしか映らない」とのことだ。逆に言えば、まったく映らない、というわけではない。
とは言え戦闘機に搭載されているレーダーなどでは、発見が極めて困難なことは事実で、一方では世界最高性能と称されるレーダーやディスプレイを備えている。これにより、「ファースト・ルック、ファースト・キル」すなわち先に敵機を発見して先制攻撃を仕掛ける、というコンセプトを実現した。
だが、その「ファースト・キル」がうまく行かず、格闘戦にもちこまれたら、どうなるか。
まず、ずんぐりした機体にエンジンも単発とあって、速力にいささか問題がある。具体的に述べると、空自のF15JやF2がともに最高速度マッハ2以上を誇るのに対し、F35はマッハ1.6にとどまる。
もっともこれについては、F15Jなどの最高速度のデータは、ミサイルや増槽(着脱式の増加燃料タンク)を装備しない「クリーン」な状態でのもので、F35と単純な比較はできない、と見る向きもある。
ただF35の場合、ステルス性を極限まで追求したため、エンジン排気を極小化する設計になった。このため、最高速度で飛べる時間がかなり短く、それ以上エンジンを吹かし続けると機内が過熱する危険があると聞く。
旋回性能の点では、たしかにクリーンなF35に分があると見られているが、飛来するミサイルを次々にかわせるかは疑問で、その場合、搭載弾数の少なさがネックになりかねない。
こうしたことから、同じ番号を冠していても前述のミグ35以上に高速・高機動・重武装を誇るロシアのスホーイ35とやり合ったら不利なのでは、などと危惧する声は、開発当初から聞かれていた。
前回、野党時代の石破首相がF35は「専守防衛の理念に沿う制空戦闘機ではない」と述べたことを紹介したが、政界きっての軍事オタクだけに、このような情報にいち早く着目していたのかも知れない。
他にも色々な問題点が指摘されているが、総じて言えることは、設計段階で期待されていただけの性能を未だ実現できていないということだ。これは冒頭で述べた、工業製品にありがちな初期欠陥として片付けられる問題ではなくて、最初から性能面で欲張りすぎた結果、技術的なハードルが上がってしまったのだと言える。
前述のマスク氏が述べたところの、「(F35は)なんでもできるが、なにひとつ突出した性能が見られない」という批判的な評価は、表現の問題はあるにせよ、以外と正鵠を射ているのだ。
もともとこの機体のコンセプトは、米国防省が立案したJSF(Joint Strike Fighter 統合打撃戦闘機)計画に基づいていた。
既存の戦闘機、戦闘爆撃機、地上攻撃機などを一挙に世代交代させよう、というもので、ロッキード・マーチン社とボーイング社が開発競争に乗り出し、最終的にロッキード・マーチン社のプランが採用されたという経緯がある。
開発費が巨額である一方、大量の発注が見込めるとして、英国やオランダ、イタリアなどが開発パートナーとなり、日本の名古屋近郊にも、最終組立及び検査を請け負う工場が設置された。
ただ、あまりにも高度なアビオニクスを搭載したこともあって、次々と不具合が露呈し、開発コストのみならず維持管理コストも天井知らずの観を呈しており、納期も遅れがちになっていることは、すでに見た通りである。稼働率も「低い状態で安定」してしまっている。
このような事例が数多く報告されたことを受けて、政府の効率化を至上命題とするマスク氏は、F35の開発及び調達予算に大ナタを振るおうとしたが、これもこれで、そう簡単な話ではなかった。
と言うのは、銀地予算の改変だけは大統領の一存ではできず、必ず議会の承認が必要だからで、最近は、マスクし自身もその強権ぶりが政権・与党内でもヒンシュクを買い、トランプ大統領自身、同氏が近いうちに政権を離れる可能性があると示唆したほどだ。
そうではあるのだけれど、マスク氏が論陣を張ったところの「有人戦闘機不要論」が、一顧だにする価値もない、ということにはならないと思う。
次回は、その話を。
トップ写真:米空軍F-35ジョイントストライク戦闘機(ライトニングII)ジェット機@ペンサコーラ、フロリダ州、米国 – 2016年11月11日
出典:Photo by Michael Fitzsimmons/Getty Images
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。
