F35「買い控え」の真の理由(下)「欧か、米か」の時代の予感 その5

林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・F35は唯一の第5世代戦闘機として実戦配備されているが、コストや性能面での批判が国内外から噴出している。
・有人戦闘機の意義が問われる中、米国や日本などは第6世代戦闘機の開発に取り組んでいる。
・ドローン技術の進化を受け、今後は有人機と無人機の協調運用が現実的な方向と見られる。
ポルトガルやカナダなどにおいて、F35の導入を見直そうという動きがあり、その主因はトランプ政権の外交姿勢、とりわけロシアによるウクライナ侵攻への対応に不信感を募らせているからだと述べた。
また、米国内においてもコスト・パフォーマンスがよろしくないとして、かのイーロン・マスク氏が「有人戦闘機不要論」に基づいて、調達予算削減を主張していることも、併せて紹介した。
その議論を掘り下げる前に、少し用語の説明をさせていただきたい。
F35について、現在のところ実戦配備されている唯一の第5世代戦闘機である、と述べた。軍事用語としては一般的なので、特に説明を加えることもなく用いた次第だが、考えてみればJapan in depthは軍事オタクと称される人たちに向けて発信していないので、これでは読者に対して不親切であろう。
ジェット戦闘機が初めて実戦に投入されたのは、1950年に勃発した朝鮮戦争で、共産軍は旧ソ連製のミグ15,米軍はF86Fを用い、両者が第1世代戦闘機の代表格とされる。
当時はまだミサイルが実用化されておらず、もっぱら機銃を用いた格闘戦で、言うなれば第二次世界大戦のレシプロ戦闘機が、ジェットに切り替わったようなものであったと言える。音速を超えることもなかったが、こちらは時間の問題だと考えられていた。
事実1950年代も後半になると、超音速飛行が可能で、かつレーダーを装備して目視に頼らない索敵が可能な機体が相次いで登場した。これらが第2世代戦闘機である。
代表的な機体として、自衛隊でも採用された米国製F104と、旧ソ連製のミグ21が挙げられるが、後者は世界初の全天候型制空戦闘機でもあり、旧共産圏でのライセンス生産を含めると1万機以上という、類例を見ないベストセラーとなって、現在も改良型が複数の国で現役の座にある。
さらに1960年代になると、ミサイルの進化が顕著になり、レーダー誘導式のミサイルや、空対地ミサイルも実用化されたことから、戦闘機は格闘性能以上に、より多くのミサイルと大型・高性能のレーダーを搭載・運用する能力が求められ、いきおい機体もエンジンも大型化していった。速射ご賢察の通り、これが第3世代である。
やはり自衛隊でも採用され、20世紀を通じて主力の座にあったF4ファントムが代表的な機体だが、この例でも分かるように、この頃から主力戦闘機のライフサイクルはどんどん延びてくる。
その理由は、端的に世界が平和になってきたからだ。ヴェトナム戦争以降、大規模な地上戦も、最新鋭戦闘機同士の空中戦も、数えるほどしか起きていない。
とは言え、やはり寿命はあるので、20世紀の終わり頃から、各国が新型機を開発・配備するようになる。第3世代の機体が、悪く言えば「ミサイル運搬機」と化していた事への反省から、あらためて機動性が向上し、速度や格闘戦能力においては、大体この第4世代戦闘機で頭打ちになった感がある。
このことは、米国のF14,F15,F16、F18,ロシアのスホーイ17,ミグ29,フランスのミラージュ2000など、多様な機体が第4世代と位置づけられていることからも証明されるだろう。
そして、21世紀に入ってから、レーダーに映りにくいステルス性能を備えた戦闘機が考え出され、各国が競って開発に乗り出したが、これが第5世代戦闘機だ。再三述べた通り、今のところ実戦配備に至ったのはF35だけである。
そして、第5世代のステルス性能と、兵器搭載能力の両立を追求した、第6世代戦闘機の開発が早くも始まっている。
実はこの分野では、中国がトップランナーの座をうかがっており、最近も全翼型で3発(エンジン3基を搭載している)という、あまり類例のない試作機の映像がネットで拡散され、軍事ジャーナリストたちを騒がせた。
さらに言えば、日本も英国・イタリアと手を組んで、第6世代戦闘機の開発競争に名乗りを上げようとしているのだが、これについてはいずれ稿を改めよう。
米国も、すでに紹介したF47と呼ばれる第6世代戦闘機の開発計画を公表しているが、イーロン・マスク氏が有人戦闘機不要論をとなえたのを機に、「第6世代戦闘機か、ドローンで代替すべきか」という議論がくすぶりはじめているというわけだ。
ウクライナの戦役で、安価なドローンが大きな戦果をあげているのを見てのこととされているが、実はこうした有人戦闘機不要論は、過去にも耳目を集めていた。
前述した通り、1950年代の終わり頃から戦闘機は音速を超えた一方、空対空、地対空のミサイルが急速に進歩したことから、世に言う「ミサイル万能論」が台頭したのである。
代表的な例として、英国保守党のダンカン・サンズ国防相(ウインストン・チャーチルの娘婿でもある)がこのミサイル万能論を信奉し、有人ジェット戦闘機の開発予算に大ナタを振るったことが挙げられる。
これは第3世代戦闘機の設計・開発にも影響を及ぼし、たとえばF4戦闘機の初期型は、機銃を搭載していなかった。赤外線センサーで敵機のエンジンが発する熱を感知し、どこまでも追いかけて行くサイドワインダー・ミサイルが実用化されていたためだが、これは理論上90%を超す命中率を得られるはずであった。
ところが、ヴェトナム戦争における航空戦で、ミグ21などといざ勝負してみると、敵機が雲の中に逃げ込んだり、逆に太陽を背にして突っ込んできたりすると、意外に命中しないものであることが明らかとなってしまった(そうした可能性は〈理論上〉無視されていたのだろうか?)。
現在のドローンにせよ、AIなどの技術は日進月歩なので、早計には言われないが、兵器搭載量や航続距離などから推察する限り、ただちに有人戦闘機を「過去の遺物」にしてしまうとは考えにくい。
むしろ第6世代戦闘機の主要なコンセプトでもある、1機の有人戦闘機が数機のドローンを管制する形で戦うというのが、最も現実的なのではないだろうか。
かつてF35の導入について、
「自民党が政権を奪回したら見直しもあり得る」と発言したことのある石破首相におかれては、今こそその立脚点に戻られてはいかがだろうか。
まあ、トランプ関税への対応を見る限り、そのような大英断など期待できそうもないが。
次回、そのトランプ関税について考える。
トップ写真:次世代空中優勢(NGDA)プログラム「F-47」を発表するトランプ大統領@ワシントンD.C. — 2025年3月21日
出典:Photo by Anna Moneymaker/Getty Images
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。
